Lonigng...
case3 Load Voldmortの場合
「 如何して私を此処に連れてきたの? 」
籠の中の一羽の鳥は、可愛らしさの欠片も見せない侭ぎゅっと噛み締めた唇と先鋭な瞳を私に向けた。
湿り気のある空気と言うよりは、肌寒く不快な程に冷え切った空気が唯ゆっくりと流れ落ちるこの空間には、籠の中の鳥と主である私しか居ない。
自由を奪われた鳥は如何して自分なのかと散々言葉を浴びせたが、其れ等に返事を返さぬ侭無言を貫けば、流石は年端も行かぬ生娘。
拉致されたと言う不安感からか、表面からは血の気が失せ始め、握り締めた服の袂は幾重にも皺を作っていた。
其れでも尚、体格差の異なる鷲に挑む子雀の様に可愛らしい表情を見せた侭睨みつける事だけは止めようとはしなかった。
沿う、この瞳。
漆黒に少しだけ白を混ぜた様な水墨白淡の瞳に出逢った瞬間、魅入られて仕舞った様に瞳どころか心さえも奪われていた。
黒い髪、昏い両眼、幼いけれど端麗なその容姿。
無邪気に笑うと言う事を知らない子供かと思えば、実際は酷く柔らかく幸せそうに微笑む術を知っている意図も不思議な少女。
喪われた心の隙間を埋める為に連れてきたと正直に白状すれば…君はあの日の侭に笑ってくれると言うのだろうか?
「 …気紛れだ。それ以上でも、それ以下でもない。 」
口から出たのは偽りに塗り固めた汚い逃げの台詞。
きっとお前は哀しみの色を表面に浮き彫りにして、水膜を張った瞳で私を真っ直ぐに見てくるのだろう。
いっそ、其れでも構わないと思った故に、刹那に言葉を口にしていた。
この醜く報われもしないだろう慕情を気付かれずに済むのなら、どれだけ言葉で傷つけようと此処に居させてみせる。
言葉一つマトモに告げてやる事が出来ぬ私は、他に渡せるものもくれてやる物、出来る事等何一つ無い。
それどころか、この抑制出来ぬ程に膨れ上がった慕情を告げる資格すら、何処にも無い。
嘘偽りだと捉えられようと、好きだの愛してるだの告げた方がお前は傍に居てくれるのだろうか。
其れならいっそ、一生信用される事の無い愛の言霊を告げて見ようかと考えすらしなかった思考が過る。
言葉を交わせば交わすほど、近づけば近付くほど、如何しようも出来ない位の慕情に苛まれていると知られれば気持ちまでも悟られてしまうと、そればかりが怖かった。
知られてしまえば確実に、離れていってしまうと知っているから。
「 …ヴォルデモート… 」
「 何だ。用事が有るなら簡潔に話せ。 」
「 …”気安く呼ぶな”とは言わないんだね。 」
哀しそうな表情を浮かべた侭だったが、其の表情を掻き崩して酷く嬉しそうに笑った。
唯其れだけで、瞳を奪われると言えば、もう一度笑ってくれるだろうか?其れとも、其の表情を苦痛に歪めるのだろうか。
額や目元に散らばった漆黒の細い絹糸髪、長めの睫がそっと落された水墨白淡の両眼。清冽端麗な整った顔立ちを余す所無く映し出して。
籠の中に閉じ込めて置くには酷く勿体無い高貴で気高い鳥は自由を望む様に、其の美しい瞳に空を映して鳴くのだろうか。
餌を与え其れ相当の愛情を与えてやれば、動物が人間に齎す愛情に似た信頼を置いてはくれないだろうかと嘘みたいな望みすぎた幻を観て。
抱えたくなる頭を擡げれば、簡単に手折れる細い指先で額に触れてきた。
骨ばった指先で払い除け様と思えど、冷え切った体温が指先から浸透すればどの様な反応を示すのかと興味本位で其の侭に。
熱を張った手が、凍い額に触れればの体温で飽和される様で酷く心地良い。
「 …冷たい、とでも感想を述べるか? 」
「 私の指は温かいですか? 」
「 何だと? 」
この娘は何を言っているのか、と咄嗟に指先を捕えようとして腕を伸ばせば空回る。
距離を過ったと思った瞬間に、強く腕を引かれ其の侭倒れ込む様に前方に体勢を崩した。
傍から見れば、押し倒すに近いこの体勢。
冷たい床と暗闇を背負った私、其の間では唯細く笑った。
「 私が弱いと思ったら大間違いですよ? 」
「 …戯けた事を。私が生かしてやっているという事を忘れたか? 」
「 だからせめて…貴方の手の内でなら戯れも許されるのでしょう? 」
掠れた酷い声が咽喉から現れ普段通りに取って付けた様な言葉を並べれば、クツクツとは愉しそうに笑い。
深い闇に囚われた心の中、漸く深い息を吐く。
己が誰よりも自分を欲し、言葉に表せない慕情をひた隠しにして相反する態度を示している事に気付いているのか、気づかぬ振りをしてくれているのか。
最早如何でも良くなったと諦めに似た溜息を心から吐き出せば、もう何も言えなくなってしまった。
唯一言、お前が欲しかったと告げれば済む事を、如何して回り難い態度と行動でしか示せないのかと何度と無く問うた自分が此処に居て。
其れでも【欲しい】と言えばその返答が決別でしかない事は誰よりも痛く知っているからこそ、言い出せずに居る。
受け入れられる其の日まで、心の底から嫌われる其の日まで、もう少しだけ待って欲しい。
全てを手に入れたら、一番最初にお前の願いを叶えてやるから。
例え其れが永遠の離別を意味していようと、其処まで割り切る覚悟が今は未だ出来ていないのだから。
だからもう少しだけ、私の戯れに付き合ってはくれぬだろうか。
囲われた腕の中、身じろいだは唯小さく為すが侭に身体を預けていた。
籠の中の鳥は、差し伸ばされた両手に縋る様に其の身体を投げ出して、触れても許されるのだろうかとぎこちない素振りで腕を首に回した。
もうじき月が酷く厭味に耀く夜が訪れる。
夜が来れば、ヴォルデモートは配下の死喰い人と共にこの屋敷を後にする。
は唯促される様にベットに運ばれて、起きている内に逃げ出すことが無いようにと帰宅の路に着くまで魔法で深い眠りへと覚醒させられて行く。
彼が戻ってくるまでは決して醒める事が無い魔法。
もし仮に、永遠に彼が戻って来ないとすれば、も永遠に目覚める事が無い。
暗黙の内に其れを悟る鳥は、朝が来て主の瞳を一番最初に見る為に深い眠りに堕ちるだけ。
其処に恐怖と言う感情は微塵も無い。
主を失った鳥の末路は、誰もが想像出来る残酷なモノでしかないから。
籠の中の囚われた鳥の全てが、青空を望むと誰が決めたのだろう。
「 直に朝が来る。其れまで…夢の中でではお前は自由だ。 」
言葉とは裏腹の砕けた感情を表面に浮き彫りにして、ヴォルデモートは自嘲気味に哂った。
眠りに堕ちて再び眼を覚ますのは明け方己が魔法を解いた瞬間、其れまでは決して目覚める事の無い籠の中の鳥に短く一つの口付けを。
好かれる事さえ生涯無いとしても、其れ位なら許されるだろうと、何度言い聞かせたか知れない言葉と想いを胸の内に押し殺して。
此れが最後に為るかもしれない愛しい人の姿を眼に焼き付ける様にして、ゆっくりと踵を返した。
ふわりと翻るローブが、重い音を立てて床を這った。
次に戻るまでは、決して後ろは振り返らない、残すのは未練抱えるのは慕情だけで充分だった。
籠の中の鳥が望んだのは、主の腕の中で生涯を終える事。
主が望んだのは、籠の中の鳥の腕の中で生涯を終える事。
決して交わらない二つの道だからこそ、均衡を保っていられるのやも知れなかった。
Load Voldmort…吐き棄てる嘘も偽りの感情も、欲したモノは如何なる存在で在れ悉皆すら手放す事は無い。
case1 Severus Snapeの場合
case2 Lucius Malfoyの場合
case4 Tom Marvolo Riddleの場合
case5 Remos J Lupinの場合
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