Lonigng...
case1 Severus Snapeの場合
時は魔法薬学の講義真っ只中。
厳正静粛な雰囲気の中、私語をしようと目論む命知らずな輩は誰一人として居なかった。
誰しもが分厚い魔法薬学の教科書片手に蚯蚓が這い蹲っただけに見える古文書宛らの文章を読みながら、グツグツと煮え滾る大鍋に薬草を落し。
中央の黒板の眼前、何時に無く不機嫌そうな表情を浮かべながら逐一行動を監視する様に立つスネイプにチラリと視線を向ける事さえ恐ろしくて出来ない生徒達。
グリフィンドールの生徒達も然る事ながら、スリザリンの生徒でさえも顔面蒼白気味で只管に作業を繰り返す。
昨日行ったばかりの復習を兼ねた実験を、しくじろうモノならこっ酷く減点された挙句に尾鰭背鰭が付いて何倍にも課題を上乗せさせられる事は誰の脳裏にも容易に想像が出来た。
何を犠牲にしても、失敗する事だけは許されないと、皆肩肘を張って実験に全神経を集中させていた。
そんな折、突然何の前触れも無く静まり返った空間に、試験管が綺麗に破裂する乾いた鈴音が響き渡る。
ハッと息を呑んだのは、当の試験管を割った本人以外の全ての生徒であり、試験管を割った本人は唯呆然と欠けた硝子筒を見詰めるしかなかった。
「 ミス 。よもや君が失敗するとは世も末であるな。スリザリンから5点減点。 」
「 で、ですが…スネイプ教授、私は… 」
「 この期に及んで言い訳する気かね?
ミス は罰としてこの部屋の片づけを命じる。他の者は後始末をした者から解散とする。 」
冷たく響く湿った声色は、恐ろしい程の冷徹さをもって生徒の耳に響き渡った。
息を呑む隙も与えない程の速さで生徒達は一斉に片づけを始め、試験管を割った少女に対して心の中で小さな黙祷を捧げ我先にと部屋を後にして行った。
独りまた一人と生徒の影が消えて行く魔法薬学の教室内、破裂した試験管の名残を見詰めた侭立ち尽くす少女が居た。
その表情から推測するに、如何して自分の試験管が何の前触れも無く破裂したのだろうかと思い悩んでいる事が伺えて。
失敗を侵した・は、スリザリンの優等生と云われる程学力に関しては一目置かれている存在であり、昨日の実験も誰よりも先に完成させ、あのスネイプを唸らせる程の出来だった。
昨日と同じ作業を同じ様にしていただけなのに、何故?
問うても問うても一向に浮かばない問題の解答を見出す様に、割れた試験管を机に置いて視線を上げれば、腕を組み机に凭れたスネイプと視線が克ち合う。
何処か勝ち誇った様な鋭い瞳で、薄い唇を開けば零れ落ちる言葉が予想出来てしまい、謀られたと思った瞬間に言葉を押し殺す様に下唇を噛む。
「 此処にはもう、我輩とお前しか居ない。ゆっくりと聞こうではないか?言い訳とやらを。 」
「 …セブルス…貴方、謀ったでしょう? 」
「 謀った?我輩が、一体何時何を謀ったというのかね? 」
「 私の試験管が破裂する様に陰で魔法を掛けたでしょう?! 」
思い返してみれば、不自然な事等山ほど有った。
薬剤を入れる前の蒸留水を入れただけで弾け飛んだ試験管の下部は、含んでいた水も硝子もの身体とは真逆の方向に向かって壊れた。
其ればかりか、水で汚れても可笑しくない筈のローブには水滴一つ掛からず、硝子の破片も細粒ではなく形状を保った侭透明な水面に浮んで。
如何考えても誰かが裏で工作したとしか思えない辻褄の合わない事態を目の前に、こんな事を仕出かす人間は一人しか居ない。
況してや、魔法薬学講義中…誰が如何考えても其処までガッツと根性のある生徒が居る筈も無い。
そうなれば、必然的に魔法を掛けても誰にも怪しまれずに居られる人物等独りしか思い当らない。
ご丁寧な事にその人物は、苛める事とからかう事が趣味で大好物の様子で、口元歪ませて清冽な表情を浮かべている。
内面の腐り切った性根を浮き彫りにする様な表情等一切見せずに、策でも有るのか勝ち誇った様な面構えで。
「 …では、仮に我輩が試験管に魔法を掛けたとして…其の証拠は何処に有ると言うのだね? 」
「 …証拠…? 」
「 論より証拠、人を疑うなら其れ相当の証拠が出揃っているのだろう? 」
完璧に遣られた。
例え証拠が残っていたとしても、先程魔法で片付けてしまった試験管も破片も最早何処にも残っては居ない。
初めから疑わせ、この台詞を吐くのを予想して一斉に片付けろと命じたのだ。
何の疑問も持たず莫迦正直に片づけをしてしまった己の性格の良さに、我ながら溜息を吐きたくなった。
態々こんな猿も見ない猿芝居をするからには、其の背後には何かの意図が有るのだろう。
誰が其の手に乗ってやるかと決意新たにキッと視線を投げてやれば、不敵な笑みを浮べた侭のスネイプは重い腰を起こす様に立ち上がると其の侭の元へと歩み寄って。
ふわりと薫る薬草の香りが鼻を付いたと思えば、低く掠れた独特の甘い声が耳の直ぐ傍で響いた。
「 さて…お前に罰を与えようか。 」
「 ………… 」
警戒心剥き出しで下から見上げる様に端麗な顔を見詰めれば、意地の悪さ滲み出る表情に摩り替えて、漆黒のローブの中に細身の身体を抱き込んだ。
こんなの、卑怯だとは抱すくめられながら声に出せない苦虫を踏み潰した。
謀られた上に無実の罪で減点まで喰らった悔しさで頬を張って遣りたくも為るけれど、薄く微笑み掛けて低い声を耳元で響かせれば抗えないと自覚する。
恋に堕ちた時点で敗者は自分だと握り締めた拳を軽くスネイプの胸板に押し付けて。
次の一手を決める前に細い手首を掴み上げて腰に腕を回し、白い首筋にさり気無く口付けを落して。
擽ったそうに身を捩れば、其れさえも今ではスネイプを喜ばせているにしか過ぎない。
「 今日は寮に戻れないと思い給え。 」
「 …そう云うの、職権濫用って言うんですよ。 」
「 如何とでも言い給え。何を言った所、状況が変る事は無い。 」
自信に満ち溢れた言葉を吐かれ、悪いのは明らかにスネイプである筈だというのにこの仏頂面から滾々と湧き出る表現出来ない厭な予感は何だろうか。
結局、如何足掻いても子供は大人に敵わないと言う事なのだろうか。
詰る所、何も言い返す言葉すら浮かばず、此の侭流されてもいいかも知れない、減点された事はチャラにしてくれるだろうから…と思う時点で負けているのはの方だろう。
Severus Snape…目的の為なら手段を選ばぬ狡猾な蛇其のモノである事は間違い無い。
case2 Lucius Malfoyの場合
case3 Load Voldmortの場合
case4 Tom Marvolo Riddleの場合
case5 Remos J Lupinの場合
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