| こんな事になる筈じゃ無かった、君を危険に晒すつもりは無かったんだ。 呟いた声は音に為る事無くリドルの胸中に蟠りの残滓の様に吸い付いた侭、塞がらぬ瘡蓋の様に何時までも在り続けた。 小さなその手を僕に差し出してくれるのならば、もう、 他に何も望んだりはしないから。 此れが、浅はかで愚かで独り善がりだった僕への罰だとしたら、僕は何度罪を償えば君に赦されるのだろう。 初花の春 4
![]() グリフィンドール寮の応援席からは引っ切り無しに男とも女とも言い難い様々 な種類の声が飛び交い、相反するスリザリン寮応援席の寮生はそんな彼等を威嚇する様に睨み付け、試合開始前から既に生徒間同士で寮対抗の暗黙の攻防が繰広 げられていた。 蒼穹の晴天、雨が懸念される心配も無く、今期最後の開催となるクィディッチは、予想通りスリザリンとグリフィンドールの一騎打ちと為った。 使い馴染んだ箒を手に持ちスリザリンチームを率いて先頭で入場した僕が見上げた空は薄青く晴れ渡って、塵の様に漂う雲は一つもない。思わず心を取られてし まいそうな錯覚に駆られる程、澄みきっている。 こんな晴れ渡った日に君と共に空を翔けようとは、誰が想像し様か。今も昨晩怒鳴り込んできた友人の顔を思い浮かべる事が出来る、僕の彼女に何て真似をさせ るんだ!、そう言い放った灰色の瞳を真直ぐに見据え、吐き棄てれば良かったか。誰がお前のものだ、は僕の、僕だけのものだ。 言えていれば、こんな事態には為らなかったかもしれない。 君に拒絶されることに脅え心を偽るしか無かった僕が手に入れられたもの、一際濃い紫色を宿した瞳に映る彼、アンドリューと共に在る、嘗てのの抜け殻 だった。 「(過ぎる執着だ、君は僕…トム・マールヴォロ・リドルではなく、彼を選んだのだから)」 打ち消すよう、遠くを見詰めては心の中で一つ溜息を吐いて、また手元に視線を落とし、見上げる。 頭上には、円形を形取る様に鈍い銀色に光るポールが等間隔で並び、グリフィンドールとスリザリンの寮旗が風に嬲られ翻っている。 鳴り響くホイッスル、クィディッチ開催の合図と共に空へと放たれたスニッチ目掛けて、僕は唯箒に飛び乗り空を翔けた。 遥か前方を自由気儘に縦横無尽するスニッチを、グリフィンドールのシーカーと競り合いながら追い掛け、合間に壮麗な人の波を見た。グリフィンドールもスリ ザリンも一切関係無い様に黄色い歓声を上げる女子生徒に軽く手を上げ応えながら、視界の端でを探していた。 我ながら、器用な方だと思う。試合の結果なんて、スリザリンが負けようがグリフィンドールが屈服しようが、僕には露の先にも興味無き事態だ。気掛かりな事 と言えば唯一つ、無理強いを敷く形でビーターと云うポジションを即席で与えてしまった少女の事だけ。 唯でさえも危険と隣り合わせで誰も候補したがらないビーターと云う位置に、若干2年生の少女がクィディッチ初体験にも関わらずに参戦する。華奢な身体で箒 を巧みに操りながら、重量も凄みも在るクラブを片手で振り回しブラッジャーを打ち飛ばす姿は、良くも悪くも、多くの目を引いた。 スニッチを追い掛け、厭味な程に輝く金のポールをユーターンして舞い戻って来る際、在ろう事かスニッチはブラッジャーを追い退けて暴君を打ち返さんと待つ の肩脇をすり抜けて行った。 勇敢にもブラッジャーを迎え撃つ気で居るに、放った言葉は、せめてもの警告。この程度の距離、一言会話するだけならば誰も何も言わないだろう。 「------------------ 気を付けた方が良い、彼女の放つブラッジャーで、うちのビーターが意識を飛ばしたんだ。」 「…通りで、彼女が放ったブラッジャーをクラブで打ち返したら両手が痺れる訳だ。」 何かに驚いたかのように全てを凍らせ、愛しさも憎しみも、何もかもを内包して向けられた何時ものの声に僕は少なからず安堵した。 他の人間が護る、と公言したとは言え、此処はクィディッチ競技場。普段見ている景色とは180度異なる世界を映し出してくれる円形の競技場から、一刻も早 く彼女を連れ出したかったのは本音だ。 類稀なる運動神経に抜群のコントロール力、確かに「クィディッチに誰を入れたいか」と議論に為った際に彼女の名を出しては見たものの、誰も納得するだなん て思いも寄らなかったから、が此処に在るだろう想像図なんて1ミリも描けずに勝手に名を挙げ推薦したのだ。 クィディッチに参戦する生徒はルール上杖を携帯する事は赦されるものの、使用は限られる。観戦者がの箒に在らぬ魔法を掛けるとも知れない。何せは 名実共に知れ渡っている、僕が唯一特別だ、と認めた子どもなのだ。 だから今此処で、必要以上の関わるさまを見せれば、仇となるかもしれない。今は関わりを見せない方が良いだろう、僕の為にも、の為にも。 早々にもスニッチを掴んで試合を終了させる事が、僕の為にもの為にも、スリザリンの為にも良い。だからこそこうして追い掛けているのだが、一向に掴み 取れる兆しは無い。如何してか、僕の心を嘲笑うかのように指の脇をすり抜けていく。 まるで… 触れる事も出来ず、声を聞く事も出来なく為ってしまった、僕との遠い、距離を揶揄しているようにも思えた。 「トム!3時の方向、クアッフルが飛んでくるぞ!」 チェイサーの言葉に振り見詰めたスリザリンゴールを示す金のポールの先、此方へ一直線にクアッフルが落ちてくる。 進路を妨害せぬ様に身を翻しスリザリン応援席の木枠へ足を掛けて体勢を整えた矢先、偶然に眼に留まった真横に位置するもう一つのスリザリン観客先に異様な ものを見た。 -------------------------- なに、 スニッチを追う僕等を追い掛ける訳でもなく、果敢にブラッジャーを跳ね返すビーターに釘付けになる訳でもなく、況してチェイサーやシーカーに瞳を奪われた 訳でも無い。 薄い笑み混じりだが、確実に射抜く様に凍て付いた眼差しを真直ぐに何処かへ向け、口元が何やら小さく蠢く。凝視するよう見入れば、ローブの袖に隠した杖先 が見える。 一体何処に--------------、追う様に目線だけで視線を辿れば、行き着いた先は予想付いた場所だった。 「除けろ、…!」 気付いた時には既に遅かったのだ。 優麗に箒を操りブラッジャーを跳ね飛ばしていたの身体が何かに操られた様に一瞬の間だけ制止した。合間を縫って怒号の勢いで殴りこんできたブラッ ジャーがの跨る箒の柄に触れ、粉砕する様に真っ二つに折れる。 上空250メートルの高さから垂直落下する折れた箒との杖、刹那の間の後に自由を取り戻した華奢な身体は浮力を持たずに、引寄せられる重力に逆らう事 が出来ずまっさ かさまに地面目掛けて文字通り落下した。 「きゃぁぁぁぁぁっ」とのものでは無い悲鳴があちらこちらからあがる中、僕は目の前を通過したスニッチに構う事無く苛立ちを覚えずには居られない感情 を殺したまま、速度を上げて落ちるの元へと箒を飛ばした。 地面に叩き付けられる事を恐れた様子も無く唯静かに落ちてゆくのか細い右手首を掴み上げたのは、上空150メートル。急激にガクリと落下速度が落ちた 為に驚いたように見開いた菫色の瞳が真直ぐに僕を見上げる。 「あ、トム。」 「…………この状況下で良くもそんなに平然としていられるね」 「いやーだって箒は折れたし杖も落ちたし…この状況で神に祈っても地面とキスして終わるだけだなーって」 「……如何して、僕を呼ばなかった、。」 低い声、冴えた響き。そこに潜む感情が何なのかは発した僕にさえ皆目検討が付かないものだった。 は表情を繕う事を忘れた様に大きな目を更に大きく見開き、驚きを顕わにした侭。 そんな顔をすれば、年齢よりも更に幼く見えてしまう あどけない表情に、僕は一瞥をくれる。 だが其れに怯む事すらせずに、 「トムの名前…もう呼んじゃいけない、気がしたんだ。」 痛恨に満ち全てを諦め全てを放棄したようなそんな悲しい声、出逢ってから今まで一度も聞いた事がない事に気づいて。 その瞬間、腕一つで繋がっているの存在が急にとても遠く感じ、何もかも全てが遠くなった。 アンドリューと付き合うことを決めた其の日でさえ、こんなにも疎外感は感じなかったと云うに、如何して急に。 如何しようもない喪失の予感に胸が、打ち震えた。 如何して、如何してこんなにも僕は君に惹かれているのだろう。 考えても考えても答えは見出せぬ侭、僕以外の誰かと君が恋仲に為って距離が離れれば忘れられるのかとさえ思ったが、結果として僕がどれだけ君を必要とし ているかを痛感させられた。今更悔いても遅すぎる。 ------------------------ トム、あなた、大事にしている娘が居るんですってね。赦せると思う?そんな状況。 そんな醜聞など慣れたものだった。僕がに近付けば近付くほど、僕との距離が縮まれば縮まるほど。 判っていながら、今のような状況を招く原因を作ったのは、間違い無く僕だ、そんな愚かな振る舞いをしたのは。 其の僕が招いた結果が此れか。自業自得。そんな言葉が、静かに脳裏を過った。 [ top ] [ back ] [ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/6/15 |