*この話は 「 44 あの日から… 」の続編になっています。
  一読されてから読むことをお勧め致します。





結婚式








碧藍の空は、色彩絵具を零し落した様に透明な弧を描いていた。
見渡す程に晴れ渡った五月の空は、新緑の香りを一身に受け止めて、風に流して空気を洗う。
雲一つ浮遊しないその情景に相応しいような、素晴らしい程の出来事がこれから幕を上げ様としていた。









魔法界の名家として名の通る、マルフォイ家の息子、ルシウスが妻を迎えると言う噂は、一夜にして怒涛の如く広がった。
狡猾で冷淡なルシウスに憧れる者は、性別問わずに、それこそ、数が多い。
その性格も然ることながら、高貴な出で立ち、名高い名家の御曹司であり、完璧なまでに美しい容姿に、明晰な頭脳。
憧れを抱くものはそれこそ星の数ほど居ると噂され、浮き足立った噂など、耳にしない日は無いと言っても過言ではない位に、ルシウスは有名であった。
妻を迎えても良いのではないか、と口々に言われるような年齢になってもルシウスが婚約しなかったのは、この為であるか、と誰もが皆、頷いた。
魔法界の女達は、自分に巡って来るやも知れなかったルシウスとの婚姻が果たせないと知ると、悲嘆に暮れ、生気を失い掛ける者まで続出で。
隣から隣、人から人へと噂されるルシウスの婚姻話は、留まる所を知らずに、アチラ此方で振りまかれる。
様々な意見や悲嘆の声、喜びの声や溜息が聞かれる中で、皆、口を揃えて呟く事がある。
− ルシウス・マルフォイの妻と成るべき人は、一体誰なのか −
と。












の支度は出来たのか。 」












開け放たれた大広間の一角に据え付けてある扉は、ぴたりと閉じられたまま、隙間さえ開いてはいなかった。
金で装飾を施された淡い色調のその扉の奥には、ルシウスが生涯で最も愛した女が居る。
純白のドレスに身を包み、白で基調されたブーケをその手に寄せて。
記憶を消し去ったという面から、ルシウスは、挙式は自宅で、身内だけを呼んで挙げたいと申し出た。
それに反対した者は、親類の極少数の人間だけで、後は皆、ルシウスの言葉に小さく頷いただけであった。
家で式を挙げるといっても、マルフォイの邸宅は、それこそ測り知れない程の広さを誇り、城壁のような美しい壁に囲まれた庭で式を挙げることは、何の障害にも成りはしない。
年頃の娘らしく、教会での挙式を夢見て居たであろうと予想されたの返事は意外にあっけないもので、唯ひとつ、自分の望みを叶えてくれるならば別に構わないと微笑んだ。












扉の外でを待つルシウスは、淡い色のタキシードを身に纏っていた。
さらりと風に靡く銀糸が良く生える綺麗な絹の上質な布から作られたそのタキシードは、ルシウスをより一層引き立てた。
絵画から誘い出た人物のように優雅な井出たちで立ち尽くすルシウスが、ふと扉から視線を逸らした時、カチャリ…と微かな音を立てて扉が開かれる。












「 …どう…?やっぱり私には未だ早いかな…? 」












待たされたと言う事が、ルシウスの表情に苛立ちとなって現れ様としていた矢先、聞こえた声に顔を上げてみれば、その瞬間で息を呑む。
扉が開かれて、中から現れたは、酷く綺麗だった。
シースルーをふんだんにあしらえた純白のドレスに身を包まれ、長い髪を綺麗に纏めて結わえられている。
銀糸で細緻に施された刺繍が、光に輝いてきらりと光る。
ウエストの部分から下が、緩やかな弧を描きながらふわりと膨らみ、上半身は、肩出すような形のデザインからドレスに負けぬ位の真っ白な細い腕が垣間見られた。
照れたように微笑むは、その手に決して大きくはないけれど、それでも美しいブーケを抱えていた。
それは、唯一が望んだもので。












「 本当は、真っ白な薔薇が良かったんだけど… 」












が手にしているブーケは、真っ白なカスミソウと真紅の薔薇で創られたもの。
結婚の決まった前夜から、が一人篭って創り続けた代物で、桃色のリボンが掛けられている。
何故かブーケだけは自分で作りたいと言い出したに、ルシウスはただ了承してやるしか無かった。
敷き詰められた赤い絨毯の上を拙い仕草で歩くに苦笑して、ルシウスは軽く会釈した。
”さぁ、お手をどうぞ”
と何処ぞの紳士の様な口ぶりで、の手を取ると、バージンロードを庭に向かって歩き出す。












− 見違えた、凄く、綺麗だ… −












そう耳元で囁いてやると、愛しいの頬に、チークではない確かな紅が走る。
レースのトップベールに包まれた小さな顔は、少しだけ俯いた様に下を見ると、ドレスの裾を踏まないようにと気を付ける。
そんなの様子に気づかない訳も無いルシウスは、喉の奥で低く笑うと、そのままを抱き上げた。
ふわりと広がるドレスの裾を器用にその腕の中に閉じ込めて、何事も無かったようにバージンロードを踏みしめる。












「 ルシウス…バージンロードは二人で歩かなくっちゃ。 」









「 裾を踏んで、お前が転びでもしたらどうする。
 黙って大人しくしていろ 」












何時もと変わらないその口調に、は微笑む。
自分を強く抱きしめてくれるこの腕の中が、の一番落ち着ける場所だった。
門を抜けて、緑一色に染め上げられる草の絨毯に敷かれた石畳を歩きながら、神父の元へとゆっくりと歩く。
聞こえる歓声は、ルシウス、、両方に投げ掛けられるモノで。
澄み切った空に舞う薔薇の花びらが、とルシウスを祝福する。
ひらりひらりと風に舞う花びらのカーテンを越えて、バージンロードの最果てに到達したとき、ルシウスはようやくその腕から愛しい女を解放した。












流れるような神父の英語を上の空気味でルシウスは聞いていた。
神が如何なる存在でも、何処で自分を見ていようと、見ていまいと彼には関係なかった。
信じられる者等所詮は自分一人だけだと思い続けてきたルシウスにとって、神や仏の存在等、皆無に等しい事。
自らの杖から出される魔法や、自分が紡いだ詠唱魔法しか信じてきてはいない。
自分の身は、いつだって自分の力だけで守ってきた。
誰かに頼ろうとも、助けられようとも、助けようとも思わなかった。
力の無いものは、力有る者に屈服するのは昔からの慣わしで。
足手纏いに成る様なか弱いものをこの手で守る事など馬鹿馬鹿しいと嘲笑っていた位で。
女等、その日その日楽しめればいい。
妻帯者等、一番煩わしい者だと思っていた。
生涯を唯一人の女に捧げる等、無意味にも程があると。
そう何時も思い、自分に言い聞かせてきた。












に出逢う、一年前までは。












「 ルシウス・マルフォイ。
 神の名に於いて、この者を妻として生涯愛することを誓いますか? 」









「 …Swear。 」










 貴女はこの者を夫として生涯愛することを、誓いますか? 」









「 はい、誓います。 」












− では、誓いのKissを… −












柔らかい笑みを浮かべた神父は、促すようにルシウスに目配せをした。
ふわりと靡く白のベールをそっと持ち上げると、が頬に紅を添えたままで何時もの様に微笑んだ。
鮮麗された美しさに、更に色を添えたように端麗な顔を見つめて、柔らかく唇を落とす。
遠くで聞こえる鐘の音が、低い旋律を奏でて耳に届いた。












自分を求めようとするこの幼い手を決して離したりはしない。
例えこの先、如何なる苦難難罪が己を待ちわびていようとも、紫苑だけは守り抜く。
情火の如きこの想いを絶やす事は無いと。
この腕に抱く女が、夢幻だとしても、関係は無い。
神でも、神父でも、参列者でも、誰にでもない。
銀の指輪と腕に抱きしめたに誓う。












私は生涯、如何なる罪業を被ろうと、お前を守り抜き、愛し抜くと。












私はこの時気づいては居なかった。
の投げた真っ白いブーケを手にした少女が、紅蓮の如き瞳をしていた事に。
ブーケを胸に抱いた幼いその少女の微笑んだ顔が…
酷くに似ていた事に。

















□ あとがき □

結婚式…だったんですが、やっぱり足りないですよね(苦笑)
個人的にはもっと色んな描写を入れたかったんですが…「60のお題」&「100のお題」は簡潔気味に!!をモットーにしていまして(汗)
私が長く書くと本当に長くなってしまうので、このくらいで止めてしまいました(苦笑)
なんだか、連載で「初夜」について書きそうな予感…(笑)
勿論、何時もの裏では味わえない様な裏にしようと思っています。
…単にヘタレなだけに成ってしまいそうですが(爆)





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