*この話は 「
59 結婚式
」の続編になっています。
一読されてから読むことをお勧め致します。
月夜の出来事
先ほどまでの騒がしい宴が嘘の様に辺り一面はひっそりと静まり返っていた。
凍りつく様な静けさの中、部屋着に着替えたは、腕の中で既に深い眠りについている。
宴の最中、引っ切り無しに笑い、話をし、その中心に居た幼い我妻は、傍目で見ている以上に疲労に包まれていたことだろう。
私が傍に居たからとはいえ、親類からは好奇の眼差しで見られ、女達からは妬みの対象となり、知らぬ者の端から端まで挨拶に回らなければ成らないその苦労と苦悩は想像を絶するに値する。
それでも、はいつもの笑みを絶やさぬままで、一人一人の話に耳を傾け、丁寧に挨拶回りをこなしていた。
マルフォイ家に嫁ぐ者の宿命とはいえ、家の中から出ることが無く、知り合いばかりの中で一年暮らしてきたにとって、それは苦痛以上の何ものでもなかったであろう。
何かあれば、手助けしてやらねばならないと傍を離れることの無かった私は、想像以上のの行動に、眼を見張るばかりで。
本来ならば、式が終わったらそのまま部屋に連れて行く筈だったのだが…はそれを承諾しなかった。
故に…は多忙すぎる一日の終わり、子供の様に安らかで深い眠りについている。
「 お前に初夜は…未だ早すぎるか。 」
少しだけ心に留めていた”初夜”という響きを隣に眠ったを前にして出てしまうとは自分でも思ってもみなかった。
出会って一年、身体をこの腕に抱きしめることは合っても、抱くという行為は無かったことに、我ながら苦笑する。
欲求が無かった訳でもなければ、期待していなかった訳でもない。
幼いこの少女に対する気持ちは生半可なモノではなく、恥じたる言葉を平気で吐出せるほどに、私はこの少女に溺れていた。
この腕に抱きしめ、自分だけのモノにし、生涯変わらぬ愛を誓ってみるのも悪くは無いと感じ始めた頃。
欲したものは即座に手に入れてきたこの私が、一年と言う長い間、少女を待った。
少女が大人への階段を登り始めるまで。
それまでは、耐え抜こうと。
少女が大人へと変わった瞬間、眠りに付いた少女をこの腕に抱きしめて、私は自分の不甲斐無さに笑いがこみ上げる。
私は此処まで少女中心に生きている等…甚だ可笑しいこと。
「 何れ…その日が来るか。 」
寝ているの額にキスを一つ落とし、燭台の灯りを消す。
潰された様に消え逝く光を見つめながら、寝息の聞こえそうなの寝顔に見入っていると、もぞもぞと微かな音を立ててが揺れ動いたのが判る。
目覚めたと思い、抱き起こそうとした瞬間。
それは起きた。
「 いや…、やめて…これ以上っ…おねがい…っ!! 」
叫びとも取れるその寝言は、酷く悲壮を帯びた声色で。
空に手を伸ばし、何かに縋る様に指を開いては閉じる仕草を繰り返す。
その発作ともいえる悪夢の魘は、一ヶ月に1.2回程度起こるもので、の記憶を抹消した現在でも変わることは無い。
何かに怯え、何かから逃れるように空に手を伸ばし、悲痛に叫び声をあげる様は見ているだけでも胸を深く刃物で抉られる様な感覚に苛まれる。
うわ言の様に言葉を苦しそうに吐き、許しを乞う。
完全に夢に覚醒しているのか、はたまた何者かがの心に深い傷を植えつけたのかは定かではないが、の心の奥底に深く根付くものらしく、起きたときににその記憶は一切無い。
時には涙を瞳に溜め、胸を掴むように苦しむその様を見ることは、
幾ら夢の中の出来事とは言え、愛しい妻のその痛切な仕草に、流石の私もキリキリと心が病む。
逃れられない呪縛を抱えているかのようなその仕草に、私はどうしてやる事も出来ない。
「 、大丈夫だ…私は此処にいる。 」
無意識に「助けて、ルシウス」と叫ぶをこの腕に抱きしめて。
空を彷徨う小さな手を握り締めて。
の心が少しでも落ち着くのならば、と。
が少しでも気が楽になるのならば、と。
が少しでも…私を求め続ける限りは、を抱き続けた。
例え、それが意味を成さない行為だったとしても、私にはそうしてやることしか出来ない。
代わりに背負ってやれるのならば、背負ってやりたいと。
少しでもの苦しみが癒されるのならば、己が傷つくことなど容易い物だと。
思っても願っても乞うても、私には何もしてはやれぬ。
己の無力さが弱小な自分自身を極々と締め上げる。
守り抜くと誓った愛しい者を苦しみの淵から救ってやることすら出来ぬ己は酷く滑稽で。
誓った愛の証など何で証明したら良いのかさえ、既に無になりつつある。
「 …私はお前を… 」
得体の知れぬモノに苦しむを抱きしめて言う言葉ではないと理性が叫ぶ。
脳から発せられるそのシグナルより先に、勝手に口から言葉が吐出される。
鼻を付くの甘い薫りに顔を埋めながら、私はを更にきつく腕に抱いた。
まるで私自身が悪夢から解き放たれないかの様に、抗えば抗うほどに食い込む楔の様に突き刺さる悲観に身を委ねながら。
何度告げても足りぬ位だと嘲るのに、に直接は言ってやれないその言葉。
愛している、と。
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「 見て、パパ。綺麗なお花を貰ったの。 」
漆黒に彩られたその階段を、幼い少女が歩き出す。
言葉と共に、嬉しそうに微笑む少女の手にしているのは、綺麗に彩られたブーケ。
時間が経過して萎れつつあるけれど、それでも本来の美しさは消え失せては居ずに、柔らかく咲き誇る。
闇に彩られたその空間の中でも色を失わないそのブーケを少女は大切そうに抱えた。
ブーケから、寿命の尽きた花弁がひらりと舞い降りる。
漆黒の階段を、真紅に染め上げるかのように。
「 良かったね。さぁ、もう行こうか。 」
少女が抱いたブーケを一瞥した男は、少女にふわりと微笑を投げ掛けて、ゆっくりと少女を抱き上げた。
すっぽりと腕の中に収まる様に抱かれた少女は、その男の腕の中で、幸せそうに笑った。
少女の微笑む顔を見て、彼も柔らかく笑う。
「 ねぇ、パパ。誰の結婚式だったの?? 」
「 とても…、とても大切な人の結婚式だよ。 」
懐かしむ様に吐いた彼の言葉に、少女は頷くだけだった。
幼い少女らしく腕の中で暴れ始める少女をもう一度抱えなおして、彼は窓から見える空を見つめる。
漆黒の闇の中に、ぼんやりと姿が浮かび上がって。
少女を抱いた男は、空と同じ漆黒に包まれ、はっきりとは写らない。
彼方を見つめるように外を眺める男の色宿しては居ないその瞳は、少女と同じ、紅蓮に染まりきっていた。
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「 やめて…もうやめてっ…!! 」
抱きしめ続けていた私の腕から、力が抜け落ちるかの様な感覚が走る。
背筋に冷たい物が流れ落ち、を抱いた手が、微かに震えた。
判りきっていた事とは言え、それが現実のものとなると、やはり、身を通じて味わった恐怖に心が萎縮する。
出来れば…誤解であって欲しいと切に願ったこと。
蠢く思考の片隅で、言葉は何も浮かばなかった。
カタカタと震える己の腕に檄を飛ばしながら、それでもを離すことは無いとそれだけは呪縛の様に心に縛り付ける。
そうでもしなければ…恐怖に支配された心があげる悲鳴を聞かねば成らなかったから。
それ以上に、最悪の事態へと事が走り出す汽笛の音を、私は確かに聞いた気がした。
− お願い、リドル、…もうやめて!! −
後に知ることとなる。
腕に抱いた愛しい少女はVoldmortが愛した女だった、と。
□ あとがき □
なんとか肝心なところまでこぢつけました(笑)
妙に急いで突っ走りすぎましたけれど、話が通じ始めてきたのでは無いかと。
今回のルシウス…ヘタレ気味ですよね(苦笑)
でも、今回のヘタレっぷりも、次回には挽回しようと思っていますのでご安心を。
ルシウスでも恐れるものがある…と私は思うのですが、如何でしょうか。
ルシウス…挽回してくださいねvv(他人事。)
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