*この話は 「
60 いつか帰るところ
」の続編になっています。
一読されてから読むことをお勧め致します。
あの日から…
自らの手で記憶を消し去った少女を連れて帰るということに、周囲は酷く反対し、非難の声を上げて抗議した。
まぁ、気持ちは判らなくも無い。
記憶を抹消したとはいえ、死喰い人をこの手で匿う等、魔法省の連中がそんな制裁を下すか等。
考えるよりも脳裏に自然と浮かび上がってくるというものだ。
築き上げてきたこの地位や名誉や名声など、虫を捻り潰すよりも簡単に剥奪されるやもしれん。
私だけでなく、一族の命まで奪われかねない。
それ以上の事態さえ起きるかもしれぬという事も、重々承知していた。
けれど…私にはどうしても少女を「見て見ぬ振りをしてその場に置き去る」事など出来なかった。
振り返る少女に一瞬で心を奪われて、瞳が離せなくなった自分。
腕に抱き上げた少女に忘却術を掛けた瞬間。
私は意図も容易く魂を悪魔に投げ売った。
それが、少女にとって望むべき未来では無かったとしても、私には関係は無かった。
少女が顔を上げた瞬間。
全てに絶望しきった漆黒の瞳に、洗練され研ぎ澄まされた美しさ。
全てを失ってでも、手に入れたいとさえ思わせるその有り余る存在感に、私は瞳が離せなくなっていた。
この少女が…世界で如何なる存在かを知るまでは、少なくとも私は彼女を一生涯かけて守り抜こうと固く誓った。
「 ルシウス様、正気ですか?!
あんな女と婚姻など…!! 」
私がを妻に迎えると言った瞬間、反対した者はこの事実を知る極僅かの側近だけであった。
命と交換に売り渡した秘密を分かち合う信頼の置ける者は、片手に余る程の少人数で。
幼い頃より私に仕えてきた者達が、私と一緒に秘密を心に刻んだまま、を守り続ける。
それは、想像以上に難しい物ではなく、意外に知られては居ないのか、二年経った今日でも、彼女の本当の正体に気づく者は誰一人として居なかった。
実際、個人的にも「本当の」について魔法省で色々調べては見たけれど、該当するような人物のファイルは一冊として見つかっては居ない。
そう、まるで…
初めから存在などしていないかのように、魔法省にもマグルの世界にも彼女は存在しては居なかった。
「 貴様は私の愛した女を「あんな女」呼ばわりすると言うのか? 」
苛立ちが脳に直接響いて、言葉となって部下に掛けられる。
その台詞に部下は肩を竦ませる様にビクつくと、頻りに許しを乞う。
その姿はまるで、処刑されるマグルの様で、何とも見場が悪い。
が寝ているからいいようなものの…彼女の居る前でその様な不躾な様を見せようものなら翌日には命は無いと思ったほうがいい。
「 ルシウス様…随分と変わりましたね、あの頃から。 」
瞳の見えなくなった執事がそう柔らかく横から口を出してきた。
私の幼い頃より良く面倒を見てくれた執事の発言に、私自身も心の中で素直に頷く。
を引き取って、「自分の婚約者」という偽の記憶を植え付けて以来、私は何かと変わったと思う。
自分中心だったこの世界で、
自分の生き易いように造り替えて来たこの世界で、
私はの為に生きている。
それはに必要とされているからそうしている訳ではなく、恐らくは、私自身がを必要としているからで。
自分自身でも可笑しくて自嘲してしまいそうなほど、の存在は希少価値の高いものへと変わって行った。
「 ルシウス様、先ほど傷だらけの梟がこれを… 」
締め切られたこの部屋に入室できるものは極僅かの人数しか居ない。
厳重の警備体制を敷いているこの屋敷内で一番厳重に管理されているこの最下層は、私達秘密を共有する者しか入ることは許されない。
その扉から慌しく入ってきた一人の男は、傷に塗れて手当てを受けた梟をその腕に抱きながら、魔法の掛けられた羊皮紙を持ってやって来た。
傍目で見ても、何かの魔力が混濁している様な混沌とした模様が刻まれている。
片手にそれを受け取ると、刹那に魔力が放出され、文字がくっきりと浮かび上がった。
出来るならば、見たくは無かった文字が、其処に並べられる。
− Voldmortが 一人の女と子を成した その娘の行方は 未だ知れず −
浮かび上がる文字を見た者たちは、息を呑む。
誰もが頭の中で思うことを、口に出していう者は誰一人として居ない。
罪状の真実は、此処に刻まれているのだと、心が叫ぶ。
狭霧が辺りに蔓延し、その不吉な文字は瞬時に消えうせる。
けれど、その場にいた全ての者の心の中には一生消える事無く、流離の民の如く焼き付く。
息も凍るような沈黙の中、パタパタと聞きなれた足音が聞こえ、呼ぶ声が聞こえる。
「 ルシウス、何処に居るの?? 」
それは間違いなく、愛しい者が自分を捜し求める声で。
察するところ、昼寝から目覚めて、一緒に寝ていた筈の私が消ていて、探しに来たのであろう。
その声は何処か悲痛な面持ちで、迷子の子供の様にも聞こえる。
瞳で合図を送り、私達は部屋から階下へと歩き出す。
遠くに私の姿を見つけたが嬉しそうに走り寄って来るのを見つめながら、先程の密文書が人違いであったらば、と切に願わずには居られない。
「 ルシウス様、式は何時になさいますか? 」
瞳を和らげた老人が、そう促す。
走り寄って来た未来の妻をその腕に抱き上げて軽くキスを落とすと、私は歩き出す。
優に腕に抱えられるほどの幼い少女は、大きな瞳を大きくして嬉しそうに夢の話を話し始めた。
ぱたぱたと手持ち無沙汰のように両足を揺ら揺らと揺らしながら、は嬉しそうに笑う。
その微笑に、私が苦笑してやると、それ以上に嬉しそうに幸せそうには笑った。
「 無論、明日だ 」
そう吐き捨てるように言った私の台詞に、その場に居た者達が『御意』とだけ述べる。
この笑顔を守るためならば、私は喜んで悪魔に魂を売り渡そう。
例え相手がこの世で最も恐れられている人物だとしても、
一度は忠誠を誓った相手だったとしても、
心が戦々恐々と震え上がろうとも、
その先に待つ末路が「永遠の闇」であろうとも、
私は喜んで刃を向けることだろう。
願わくば…
惨禍は全て己一人だけに降りかかる様にと。
□ あとがき □
ついにやってしまいました、「60のお題続き物」(笑)
どうしても続きが浮かんでしまって、お題で消化し切れそうなので、やってみたいと思いますvv
稀城の新しい思いつきに付き合ってやろうという暖かい心の持ち主な貴女vv
是非ともご一緒にvv
それにしても…当分続くかもしれませんね、これ(笑)
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