いつか帰るところ
黄昏に染まる街を一人見下ろして
沈みかけた真っ赤な円に背を向けて
崩れ逝く廃墟をただ見つめる
炎上するかの如く真っ赤に染め上げられた外壁が
バラバラと音をたてて砕けて逝った
その下に咲き誇る真っ白な薔薇
幼い頃の記憶を辿って戻ってきたこの場所に
帰ってくる居場所なんて
初めからなかったのかもしれない
「 此処で何をしている 」
後ろから掛けられた声は、既に私の心には届いては居なかった。
ギシギシと軋みながら骨を砕かれて行くように壊れ逝く私の心には、今となっては何の文字も意味を成すことは無い。
ただ、背にあたる夕陽の暖かさと背筋を抜ける風の冷たさに少しばかり肌が震えるだけ。
目の前の男に対する恐怖などでは無い。
「 もう一度聞く。
此処で何をしている。 」
何かが風を切るような音が耳を掠め、目の前で銀色の何かがきらりと光る。
金で装飾された厭味で鋭利なナイフが私の喉元に冷たく当たった。
ぐっと力を込めれば皮膚など軽く切れてしまいそうに手入れされたナイフは、誰かを切ったばかりだろうか、少しばかり鉄臭い。
逆光に瞳を掠めた男の表情が、少しだけ揺らめいたような気がして、顔を上げてみる。
流れるような銀糸の奥に秘められた蒼青の瞳が、太陽と同じ色に満ちていた。
「 壊れた思い出を見てるだけ…
戻ってなんて…来なければ良かった… 」
無意識に伝ったのは涙。
燃え上がる廃墟に漂うのは灰色の埃と思い出だけで。
笑顔が溢れていたこの場所は、もう何年も前に滅ぼされてしまったのだと聞かされた。
幼い記憶の片隅に「帰る場所がある」そう信じて生きて来た自分が馬鹿馬鹿しく思えて。
もしかしたら自分が帰ってくる事を待っていてくれる人が居るのではないかと少しでも考えた事に嘲られて。
「 生き残りとはな。
強ち、噂は紛い物では無かったという訳か 」
あぁ、これで終わるのだ…と思い知らされる。
見つかれば命は無い自身の存在等、消すことは見つけることよりも簡単で。
心に引っかかっていた愛郷も目の前で崩れ去って行き、それが自分の所為だと思えば思うほどにこの世界に絶望する。
崩れ落ちるのを見送る前に、いっそ自分で命を絶てば良かったのかも知れない。
魔法省にひっぱり込まれるよりは幾らかマシな選択だったろうにも思う。
「 引き渡されるくらいなら、此処で死にたい 」
嘆願の様にそう言って男を見上げれば、喉元に存在を見せ付けていたナイフがすっと懐にしまわれた。
少しばかり切られたのか、風が喉元を過ぎるとキリリと痛みを覚える。
最後の願いも叶う事の無いままで。
それでは一体何の為に死ぬ思いで此処まで来たのかが判らない。
薄れ逝く記憶を手繰り寄せて此処まで来たのに、結果が廃墟と拘束。
笑えすぎる結末に涙する者は最早自分独りで。
「 名は何と言う? 」
「 …
・ 」
「 着いて来い、 」
ばさりと翻るローブが、風に揺れた。
背を照らす太陽が燃えている。
背を向け続けた太陽に向かって歩き出すその男の後を、私は黙って歩いた。
迎える最後がせめて「マシ」なものであるように、と今まで一度も祈ったことも無いような神に祈りを捧げて。
「 ルシウス様、この女… 」
「 黙れ、私の女だ。 」
数名の部下を従えて歩くその男。
ルシウス・マルフォイは、私の腕を掴み抱きかかえると、小さく何かを詠唱した。
私を抱き上げても変わることの無い速いスピードで歩くルシウス。
薄れ逝く意識の中で、私は、聞いた。
− いつか 戻って来られる日が来るまで −
手放した意識の先にあるものは、決して叶う事の無い約束。
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「 ねぇ、ルシウス、今日は何の日か知ってる? 」
「 さぁな。
生憎だが私は忙しくて一々記念日など覚えて要られん 」
そう言いながらも帰宅したルシウスの手には、無数の花に彩られた花束が抱えられていた。
その中心に一つだけ、存在を誇張した綺麗な真っ白い薔薇が在る。
走り寄る私を抱き上げて、ルシウスは長い廊下を歩いて行く。
「 今日は、私とルシウスが結婚した日だよ、ちゃんと覚えてね 」
「 本当はもう一つ記念日があるのだがな 」
「 え?何々? 」
「 お前は知らなくてもいい話しだ 」
優しくキスを落とされて、花束を渡されれば、私の頭の中にはそんな疑問などたちまち消え去ってゆく。
私は何か大切なことを忘れているのかもしれない。
忘れてはいけない、何か大切なことを。
けれど、今が出来過ぎる位に幸せだから、思い出す必要も無いのかもしれない。
何かを思い出して残酷な結末を迎えるしかないのならば
偽造で彩られた記憶を抱えて生きるほうがいいのかもしれない。
少なくとも、がルシウスと生きた時間だけは、本物で。
例えその前に何が起きていようとも。
が帰るべき場所は
今はルシウスの腕の中だけである。
□ あとがき □
すっごい判りにくいですが、死喰い人だったヒロイン(笑)
甘々を掲げたサイトだけに…最後は甘ったるいラストになってしまいましたが。
ヒロインは、ルシウスによって記憶を書き換えられてます。
死喰い人設定での夢は初めてですが…かなりの難しさに撃沈(苦笑)
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