*この話は 「
32 とけた魔法と心
」の続編になっています。
一読されてから読むことをお勧め致します。
許されざる者
私はあの日迄、確かにリドルを愛してた。
それは紛れも無い事実であり、真実でもあった。
全ての想いを断ち切るために、全ての過去を抹消する為に、全てを白紙に戻す為に私はリドルの元を逃げ出した。
迫る追っ手を振り切って、泣き叫ぶ心を叱咤して、風に啼く彼の声を無視して。
記憶の中に存在する約束の場所へと辿りつく為に。
忘れられぬ者の元へと、還る為に。
”愛する”事を教えてくれた、ルシウスの元へと還る為に。
そう、あの日。
ルシウスに初めて出会ったあの日は、私が人生に終止符を打つ日だった。
リドルに愛され、ヴォルデモートに名を変えてしまったあの人を止めることが出来ずに、独り死のうとした私を助けてくれた銀糸の殿方。
妖艶さを醸し出すほどに美しい彼は、夕陽に酷く扇情的に映り。
記憶を無くした私に彼は、気付いていた。
ヴォルデモートが昔愛し、己が愛した女だと。
ルシウスに記憶を消された私は、その直前にヴォルデモートによって記憶を消されていた。
リドルを裏切り、ルシウスを愛してしまった私の記憶を彼は綺麗に摩り替えた。
消された記憶の中に存在する微かなルシウスの記憶と、ルシウスと過ごした思い出の場所。
初めて出逢ったその場所の微かな記憶を辿ってリドルの元から逃げ出した。
辿りついたその場所で、私は再びルシウスと巡り合う。
螺旋を描いた過去を、もう一度辿るように、私は再びリドルによって呼び戻される。
昔一度経験したことが脳内をフラッシュバックし、心が泣き叫ぶ。
また、リドルによって「ルシウスを愛している」事を消されてしまうのだ、と。
「 …やっぱりこうなってしまう… 」
自然と流れる涙は頬を伝って冷たい床に落ちた。
気付いた時、紅蓮の炎に身を包まれたは一瞬にしてマルフォイの邸宅から闇の世界に身を置くヴォルデモートの邸宅へと引きずり込まれていた。
悪寒が走る程に冷たいその屋敷で、記憶の中のリドルが言う。
お帰り、、と。
その微笑は痛烈に怒涛を伴った悪魔の微笑と化し、蹲うの脳内へと直下に響き渡る。
愛しかった人の面影は、今は何処にも存在しない。
「 お姉さん、大丈夫? 」
腰を落としたままの冷たい床で、少女の声がした。
気配など微塵も感じなかった背後に、いつの間にか真っ白な衣装を身に纏った幼い少女が微笑を湛えて其処に居た。
透けるような白い肌に真紅の瞳。
淡色の髪が綺麗に腰まで落ちて、少女の妖気が無言に漂う。
ふわりと微笑んだままの少女に、は心当たりが無い。
自分が居た頃に、この様な少女が存在したという記憶は一切無かった。
「 お姉さん、あの時の花嫁さん?
凄く凄く綺麗で、偶然拾った白薔薇のブーケを持って帰ったの。 」
微笑んだ少女が杖を一振りすれば、の結婚式の情景が眼下に映し出された。
純白のドレスに身を包んで、幸せそうにルシウスの隣に並ぶ自分の姿。
それが余りにも刹那的で、虚像だというのに涙を誘う。
走馬灯の如く心を過ぎるあの幸せだった日々が、脆くも崩れ去っていく。
真っ白なブーケが空に投げられて、それを手にした少女は確かに目前に居る少女。
が気付くことは無かったけれど、その少女をルシウスが真っ直ぐに観ていた。
「 お姉さんは、パパの最愛の人? 」
少女は視線を外す事無く虚像を見つめるに再び問う。
無邪気に笑いながら残酷な台詞を告げる。
少女が告げた言葉は紛れも無い事実。
ルシウスを愛する前に、「彼以上を愛することは無い」と言える位に愛したリドル。
それはもう、過去の話になってしまってはいるけれど。
「 ちが… 」
違う、そう否定しようと虚像から少女に向き直った瞬間、は見た。
少女の身体が空に浮いている事を。
透き通る程に白かった少女は、本当に透けていた。
ホグワーツであの日見た、ゴースト達と同じ様に蒼白気味な表情を湛えて、少女は其処に浮遊していた。
絶え間無い微笑を揺るがす事無く、真っ直ぐにを見つめて。
幼い子供の無邪気な微笑が、何故だか酷く恐ろしいものに映る。
震える身体を宥めながら、は浮遊する少女に問うた。
「 パパって、誰? 」
「 パパは、パパ。
レイラのパパは今お仕事中なの。 」
レイラと名乗った少女は笑ったままの頬に流れる涙をそっと指で拭った。
屈み込むように顔を横に曲げた少女は、が泣いている事を不思議がる。
暗闇に包まれたその室内に気持ちばかりの装飾品の紡ぐ光が唯一の灯火。
お仕事中、それは紛れも無い殺戮。
止め様としても止める事が出来なかった結果の政。
の愛したリドルは、ヴォルデモートによって殺された。
残ったのは、リドルを愛し、ヴォルデモートを憎むだけ。
全てに絶望しきったはその時既に、彼を愛しては居なかった。
「 出口は何処?
どうやったら此処から出られるの? 」
「 教えてあげない。
もうじきパパが帰ってくるの。
私は貴女を此処から出さないように言われているから、教えてあげない。 」
クスクスと細く可愛らしい声で少女は残酷な台詞を吐く。
見た限り、密閉された室内のような井出たちのこの部屋に、扉はおろか窓すら無い。
必要最小限の生活家具に古びた時計。
何処から流れてくるのか、澄んだ空気に花の薫り。
昔と変わらないその部屋は、嘗てが宛がわれた部屋の一つにしか過ぎず、厭でもその当時の情景が垣間見られる。
肌寒いような気候は、地下である事の証明にすら繋がる。
「 お願い、私は帰りたいの 」
そう少女に告げた瞬間、空気の流れが確かに変わった。
淡々と流れていただけの気流が、一気に涼味を増して突き刺さるように肌を刺す。
冷徹としていただけの空気が荘厳さを極め、主の帰りを喜び勇むかのように全てのモノが歓喜の叫びを上げる。
ざわざわと澱めく草木は風の音すら聞こえないのに、凛とした音となって部屋中に響き渡った。
けれど、その合間を縫って凌駕の如く感じるのは、紛れも無い彼の気配。
背筋に一気に冷気が走り、気温が数度下がるような気さえする。
「 パパが帰ってきたv 」
嬉しそうにそう言った少女はすっと消え。
一瞬にして静まり返った室内に、聞こえるはずの無い足音が木霊する。
ガタガタと震えるのは最早心だけではない。
主を裏切った者の迎える末路を、は誰よりも深く知っていた。
彼が裏切られた苦しみも、裏切られることを最も嫌悪することも。
それを知ってて全て裏切った。
彼を、拒絶した。
彼を、愛せなくなってしまった。
彼を、愛していないと思い込んで、他の人を愛した。
それが、許されることの無い事だと知りながら。
「 、お帰り。 」
響いた声は、懐かしいリドルの声だった。
流麗な音程は低く空気に溶け込んで、開かない筈の扉が開いた様に彼の気配が辺りに立ちこめる。
過剰なほどに心臓が早鐘を打ち、背後に感じる確実な気配に冷や汗が伝う。
恐る恐る声のした方に振り向けば、其処に彼が居た。
鋭利な真紅の瞳を引き下げ、不気味なほどの優しげな微笑をし。
ぴたりと寄り添う幼い少女の頭を優しげに撫でながら、彼は其処に静かに立っていた。
「 …リド…ル… 」
その台詞に、彼は再び柔らかく笑う。
昔の面影を残したままの如きヴォルデモートに、の瞳から幾筋かの涙が流れ落ちた。
愛していた筈のリドル。
裏切った筈のヴォルデモート。
そしてに「お帰り」と言った彼は、紛れも無いリドルの頃のヴォルデモートだった。
思い出してはいけない嘗ての愛情が、リドルの言葉によって確実に戻りつつある。
それは許されない事だと、
思い出してはいけないことだと知りながら。
「 お止め下さい、旦那様!!
あのお方に刃向かったらどうなるかご存知なのは旦那様ではありませんか!! 」
「 今更どうするおつもりです?!
いずれこうなる日が来ることは判っていた筈では有りませんか! 」
マルフォイ宅では、ルシウスの直属側近が例の部屋でルシウスの説得に当たっていた。
身支度を整え、独りでヴォルデモートの屋敷に向かう時面で、数人掛りで押さえつけられる。
ルシウスのその瞳に既に光は宿っては居ず、虚空を見つめるのはその先に愛しい者が居るからであろうか。
恐怖と言うものを恐れることの無い様な形相を作り上げるルシウスに変わって、側近たちはこの世の物とは思えないものに遭遇した民の如き恐怖を全面に押し現していた。
「 厭ならお前達は其処に居ればいい。
私はを迎えに行く。
例え生きて帰れる事等無いと知っていようともな 」
ばさり、と音を立てて翻るローブ。
揺らめく銀糸に翳る瞳には、意思の強さが現れているばかりで。
叱責する様に吐き捨てたルシウスは、机の上に静かに置かれたままのの髪飾りを胸にしまい込んだ。
惨憺とした表情を浮かべ主を見る側近達にルシウスは最後の言葉を残す。
「 初めからこうなる事は予想出来た 」
その言葉を最後に、自嘲気味に嘲ったルシウスは、邸宅から完全に姿を消した。
□ あとがき □
自分で書いていてイマイチよく判らない展開になってしまっていますが…
稀城の文章力では巧く伝わらないとおもうので、皆様想像力を働かせてやってください(汗)
リドル…未だに難しくて書けません。
そしてヴォル卿はもっと書けません(汗)
練習しなくてはなりませんね…確実に出番が増えますから(笑)
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