*この話は 「
29 許されざる者
」の続編になっています。
一読されてから読むことをお勧め致します。
忘れられぬ面影
「 リドル…お願い、私をルシウスのところに帰して… 」
は搾り出した消え入りそうな声でそう言った。
ヴォルデモートの邸宅に連れて来られたは、レイラという名の幽霊少女と懐かしい面影を残すリドルに再会する。
それが決して望んだ再会ではない事は、震えるの身体と拒絶する心が物語っていた。
耳を塞ぎたくなる様な主を賛美する声を浴びるヴォルデモートに、懐かしい声色で愛を囁いてくれた嘗ての恋人。
その双方を兼ね備えた人物が、くつくつと笑いながら強張ったの頬をそっと撫でた。
「 そんなにあの男が大事なのかい? 」
狡猾なで侮辱を含んだ笑みを満面に出し、朧気な瞳で、リドルはそう問う。
ビクリと身体が竦み、触れたリドルの指の余りの冷たさに驚愕する。
狭い地下室から一瞬で連れ去られたその場所には、先程の幽霊少女の存在は無い。
変わりに、昔が使っていた部屋そのままの状態が残された思い出詰まる部屋に通される。
大きな吹き抜けのフープを潜ると、空の星を眺められる展望室。
リドルにどうしても作って欲しいと懇願したその部屋から二人、いつも星を見ながら語り合って。
逃げ出す際にキチリと閉めた筈の天窓が僅かに開き、の好きなサザンクロスが顔を覗かせている。
リドルも一人、この部屋で…星を眺めたのだろうか。
寄せては返す様々な思い出。
それは決して楽しい時のモノばかりではないけれど、決して悲しいモノだけでもない。
リドルと過ごしたその日々は、確かに本物の素晴らしい時間で。
幸せだと感じ、一生この人を愛していくのだと、そう思っていた。
あの、忌まわしい出来事が起こるまでは。
脳裏をフラッシュバックする優しかったリドルとの思い出。
それらを一つ一つ思い出してゆく度に、の胸は擦り切れそうになる。
裏切ったのは紛れも無い自分。
リドルを愛していたのに、他の男性に心を奪われ、天津さえそれが幸せだと信じていた日々。
戻れるのならば、もう一度ルシウスの元へ帰りたい、と。
目の前の嘗ての恋人を目の前にして、自分は何て愚かなのだろうとは涙を零す。
嗚咽が止まらないその声で言葉を発することは非常に難しく、は唯々その頭を小さく縦に振る。
「 だったら此処に居ればいいよ。
そうしたら君の大好きな彼は僕に殺されずに済むんだから 」
くつくつと笑うリドルが、恐怖で瞳を見開くの頬をもう一度撫でる。
瞳に涙を溜め、許しを乞う様なその瞳は次第に蔑んだ様な怒りの眼差しに変わろうとしていた。
けれども胸を過ぎるリドルとの思い出が、優しかった頃のリドルの微笑が、の心に楔となって植えつけられたまま。
人間、昔の過去というものは、厭な事よりも嬉しかった事、幸せだった頃の事をよく覚えているというのは聊か嘘ではないらしい。
事実、の胸の中にも今も生き続けるのは憎きヴォルデモートではなく、優しかった頃のリドル。
話し方と表情はリドルの皮を被ったヴォルデモート、だから否定しなさいと頭では理解していても心が拒絶する。
コレはヴォルデモートの皮を被ったリドル、だと。
「 僕はを…愛しているんだ… 」
酷く悲しそうに微笑んで、リドルはそう告げた。
微笑み掛けるその表情は崩さぬまま、リドルは絶え間ぬ涙を落としたままのの瞳から、雫をそっと指で拭い去る。
脅えたままの瞳に苦笑して、引き腰のにリドルは柔らかく口付ける。
それは触れただけの軽いキス。
の柔らかな唇の温もりが、冷たいリドルの唇に移る。
唇が静かに離れた刹那、小さく呪文の様なものを詠唱したリドルは表情を歪めながら”ごめんね”とそう言った。
何事かとが言葉を発しようとした瞬間、声帯が焼き付いたような感覚が身体中を駆け抜け、苦しさに咳き込む。
…声が、出ない。
そう思った瞬間に、パチンと指を鳴らしたリドルの合図で、を囲うように鉄の折が四方に出現する。
それは思った以上に頑丈なだけでなく、生活する分にはさして支障の無い程度の物に変形し、まるで蛇の様に自在に変化した。
「 …これもみんな、の為だよ 」
の大好きな彼の、ね。
そう言って嘲ったリドルの表面には、明らかにヴォルデモートの影が滲んでいた。
いっそ、憎んでしまえたら楽になれるのに。
リドルを殺したヴォルデモートを嫌いになれれば楽だというのに。
リドルの中にヴォルデモートが居るのではなく、ヴォルデモートの中にリドルが居る。
そう思えたら、一体どれだけ楽なのだろうかとは思う。
自分の中に生き続けるリドルを消せたら、ヴォルデモートをだけでなくリドルをも憎むことが出来るのならば…どれだけ幸せなのだろうか、と。
せめて嫌いになれたら…
そんな小さな願いは結局受け入れられることは無い。
「 レイラ、僕は此処だよ 」
の耳には届かない声が、リドルには聞こえた。
空を劈くような泣き叫ぶ声の様な木霊が、凛と耳を掠める。
泣き叫ぶ妖精の様な声が空から降ってきたと思えば、瞳に涙を溜めた幽霊少女が其処に居た。
急に居なくなったリドルを探していたのかは定かではないけれど、の方をちらりとも見ずに、少女は腕を広げたリドルに抱きついた。
リドルの姿を確認して、嬉しそうに笑ったその顔は天使の様に可愛らしい。
抱きついてきた少女を、リドルはふんわりと優しく抱き締める。
"大丈夫"、そう言い宥める様に絹の如き美しいその髪を柔らかく撫で、腕に抱き上げる。
ふわりと舞った少女を抱えながら、の方に向き直ったリドルには絶句する。
ねぇ、どうして?リドル…
そう呟いた声は、虚空に消えて誰の耳にも届かない。
少女を抱き上げたリドルは、酷く柔らかな微笑を浮かべていた。
心の底から笑っている様なそんな微笑。
まるで、昔懐かしいヴォルデモート等と言う存在すら無かった頃の、闇に身を沈める前、が心を奪われたTom Marvoro Riddleその人だった。
□ あとがき □
忘れられぬ面影。
それがリドルなのかルシウスなのか…それは各個々人でお考え下されば幸いです。
ちなみに、今回一回の登場シーンも無かったルシウスですが、次回からしっかりと出てきますのでご安心を。
この60のお題連載夢も残すところあと数回で終わりです。
はっきりとはいえませんが、片手で余る事は確かですね。
連載が無事完結したら、当サイト初の「圧縮形式でダウンロード」をやろうと思っていますv
…無事に出来るのだろうか…
それどころか、貰ってくれる人はいるのだろうか…(笑)
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