*この話は 「
05 その扉の向こうに
」の続編になっています。
一読されてから読むことをお勧め致します。
裏切り者の烙印
「 初めから…お前の手中に収まる筈等無いのだよ、ルシウス 」
冷たく嘲ったヴォルデモートが、言葉を紡ぐ。
凛と響いたその言葉の後に、大理石にモノが当たる音が木霊した。
ルシウスの手からゆっくりと離れた杖は、スローモーションの様に半弧を描いて眼下に転がる。
この状況で杖を手離す等愚者の行為だと、ヴォルデモートは失笑しながらルシウスを直視た。
表情を濁したルシウスがその淡蒼の瞳に映し出すのは、ヴォルデモートではなく、愛しい少女。
己が愛した少女は唯、光りを宿さぬその瞳でヴォルデモートに抱かれて。
少女がルシウスをその視界に認めるも、心に映しては居ない。
「 …… 」
消え入りそうな声が、空に呼ぶ。
それでも、視線を合わせた少女はルシウスをちらりと見るだけでさして興味も無さそうにまたその瞳にヴォルデモートを映す。
哀を宿したルシウスの瞳から、完全に色が堕ちた。
パリンッ…と硝子の粉砕する音が聞こえるが如く、何かが壊れ去る音をルシウスは自分の心の中に認めた。
階下から硝子を落とす様な音が脳裏に響き、その奥で追憶の記憶が甦る。
と過ごした「幸せ」と呼ぶには余りに刹那過ぎる日々が、
その日々がこれからも続いて行くであろうと信じきっていた自分自身が、
未来等、己の手で変えて見せると豪語したあの日の出来事が、
一気にフラッシュバックする。
もう二度と、少女は己の為には微笑ってはくれない。
「 ルシウスよ。
私があの日、態との心にお前を愛すると云う感情を植えた、と言ったら如何する?
お前が本気で愛したは、お前を愛しては居なかった、と…
お前を愛していたは、私に「ルシウスを愛する」ように洗脳されていただけだとしたら
それこそ、愉快な話だろう? 」
本当に厭味な男だ、とルシウスは腹の底から軽蔑の眼差しを向けた。
例えそれが事実であっても、この男の口からだけは聞きたく無かった。
贋物の愛情を向けられていただけだとしても、と過ごしたあの日々は「幸せ」だった。
幸せだと己が認識し、愛情を注いだ事だけは紛れも無い事実。
それが紛い物でしかなかったとしても…ルシウスは幸せだった。
だから、それだけで良かった。
「 物事に名前を付け、それを「幸せ」と呼ぶのだとしたら、私は幸せだっただろう。
嘘で彩られたその愛情に埋れていただけであったとしても、
空想を侍らせただけの日常に酔い痴れていただけであったとしても、
それでもと過ごした一年は、幸せであった 」
色を宿さぬその瞳で、ルシウスがヴォルデモートを直視する。
ルシウスが一度だけ、笑った。
「笑う」という分類に入れていいのかすらも頭を悩ませる程に、稚拙なものでは有れど、ヴォルデモートが記憶している過去にその様な笑みをルシウスが見せた事等唯の一度も無い。
強いて言えば、と過ごしていたその一年という長くも短い間。
に投げ掛けていたその笑みで有ると。
無論、微笑の対象は今やその瞳にルシウスを映さぬであるけれど。
ルシウスが吐き出した科白の対象はである事は明白であれど、その鋭い視線の矛先はヴォルデモートに向かっている。
意を秘めたその凄然とした表情を、ヴォルデモートは優美に鑑賞する。
「 戯言を。
自己陶酔の果てに見出した結果が「幸せ」だと? 甚だ愉快極まりない。
お前はもう少し利巧だと思っていたのだがな。
私の買被りだったようだ 」
声を上げてヴォルデモートが嘲う。
酷く、酷く楽しそうな表情で。
くつくつと零し気味に嘲うその様は、既にルシウスを侮蔑の対象としか見てはいない。
己を悉く裏切った嘗ての同胞を、一人一人時間を掛けて蹂躙する如き楽しい時間を過ごしている様な錯覚さえ引き起こし。
己が最も信頼した愛すべき友人に裏切られたその屈辱よりも、己が最も嫌悪する友人を侮蔑に塗れさせる事に喜びを覚えて。
この数年間、己を欺き続けたルシウスを微塵に砕いてやりたいと願った己が此処に居る。
唯一心を許したをルシウスから奪う事は、同時にルシウスから光りを奪う事。
光りを奪われた人間が闇に身を沈める事よりも簡単である事は身を持って経験しており。
の傍に居られるのならば、それだけで幸せであると言ったルシウスを、もう一度この世界に引き釣り込める。
そうして延々、手に入る事の無い愛を乞わせるのも面白い。
閃いた様に脳裏に浮かぶその考えが口を吐いて出る数刻前。
ルシウスが重い口を開く。
「 己を裏切った私が憎いであろうな、嘗ての主よ。
この身体に刻まれるこの烙印が、私を”裏切り者”だとそう叫ぶ。
どれだけ呪縛から逃れ様ともがいても、所詮は主を裏切ったのだと 」
「 今頃罪を悔いても遅いのだよ、ルシウス。
私の顔に泥を平気で塗ったお前を私が許すとでも思ったか。
軽率過ぎる己が行動を償うべきは当たり前だとは思わないか? 」
口角を吊り上げて、ヴォルデモートが言う。
瞬間、差し伸ばした左手での首元を手繰り寄せる。
さらりと指の間を擦り抜けた髪がはらりと空に舞い、視線を擡げたが一瞬ルシウスを見た。
哀しげな表情を湛えたに言葉を失ったルシウスは、一歩歩み出ようとする。
その矢先。
不敵に笑ったヴォルデモートがそのままの細い顎を指先で掴み上げ、上を向かせる。
ルシウスを映したその瞳がヴォルデモートを捉えた瞬間、桜色の唇は冷たい唇によって塞がれていた。
飲み込んだ息を吐き出す事さえ苦痛なほどに、それはルシウスの瞳に痛嘆となって焼き付いて。
「 …上等な余興であろう?ルシウスよ。 」
厭味な程に笑みを湛えたその表情が、歪む。
眼下に居る嘗ては主と仰ぎ尊敬の対象として見た男を殺してやりたいと思ったのは、紛れも無い事実。
それ以上に腹立たしいのは何も出来ない己。
ヴォルデモートに唇を塞がれたは、まるで自分とそうする様にそのか細い腕をヴォルデモートの首に回した。
その情景を懐かしむ様にルシウスが自嘲気味に笑う。
これ以上、追憶を汚される位ならば、己を捨て去った方が未だ救われると。
「 宿願を…願えば少しはその耳に留めてくれるだろうか。
何時か来るべき結末が、こうであったなら…私の選択肢は一つしかない。 」
「 私にモノを公言できる立場か、貴様は。 口を慎み身の程を知れ。
宿願を聞いてやる義務も無ければ義理も無い。 」
「 …では、主…裏切り者の戯言だと思って下されば事幸い…
憎き裏切り者を排除する事も、我が主の望みでは? 」
皮肉めいたその言葉に、ヴォルデモートが怪訝そうに眉を歪める。
ヴォルデモートが不可思議な瞳で此方を直視するのを腹で笑ったルシウス。
忠誠を誓っていたあの頃の口調のままにヴォルデモートを呼び、敬う様に話すその様はまるで従順な下僕同然。
自ら望んで捨て去った科白を吐くルシウスは、そのままもう一度だけを呼んだ。
「 …、すまない 」
「 ……? 」
言葉が理解できない幼子の様に大きな瞳を揺らしたは幾つかの疑問符を浮かべてルシウスを見た。
それでもすぐ様ヴォルデモートの胸に擦り寄る様に身を委ねる。
幸せそうにその身体を預けるに、ルシウスはもう一度だけ、微かに笑った。
「 …私の命を贖罪の代わりに捧げます、我が君。
どうぞその腕で、裏切り者への惨禍を 」
願わくば…
惨禍は全て己一人だけに降りかかる様にと。
が存在しないこの世界に生きて、何の意味が有る?
二度も失うのならば三度目は期待せぬ。
思い出の中だけで生きれるほど、私は強くは無い。
…を失って生きれるほど、私は命が惜しい訳ではない。
忘れる位なら、胸中に追憶を抱いたまま、生涯を終えたいと切に願う。
□ あとがき □
後、二回(か、三回)で60のお題連載も終わりでございます。
ルシウスの過去とか、卿の口調とか最早原作ぶち壊し上等になってますが…
一興、という事でどうぞお許しを…!!
苦情などはかなりの勢いで受け付けますので、どうぞ指摘してやって下さいませ(汗)
それでは、後二話(または三話)…お付き合い下されば幸いです。
[
Back
] [
Next
]
Copy Right (C) Saika Kijyo All Rights Reserved.