| 「なぁ、トム、お前あのスリザリン寮二年生の子、大して興味無いって言ってたよな?」 魔法薬学の講義終了後、ハッフルパフとレイブンクローのクィディッチの試合を観戦しに行きましょう、と意気揚々と走ってきた女子生徒の間を掻い潜り、同寮の友人と二人で渡り廊下を歩いていた矢先の事だった。 特に決まった話題も無ければ急を要する用事も無かっ為、闇雲に近しい形でだらだらと話を進めていたのだが、突如思い出した様に口を開いた同胞は、リドルが日頃気を置いている少女の話を降って来た。 「…興味無いとは言ってないよ、別に。」 必要以上に自分の気に入りへの干渉を嫌う傾向に在るリドルは、同胞の一言で胸奥に憤怒を燻らせた。 幸いな事に焔は点されては居ないものの、他者の視線から見ても明らかに刹那の間にリドルの機嫌が氷点下まで急降下した事が伺える。 「そう?じゃあさ、俺に紹介してくれない?」 「…何、言ってるの?」 「お前に興味が無いなら別に問題ないだろう?俺、前々から気になってたんだよね、ちゃん」 馴れ馴れしくの名を紡いだ同胞に、リドルが冷えた一瞥を投げた事を、隣に置いた同胞は気が付いていないらしい。 其れは其れで目出度い事この上ない物であるが、リドルにして見れば自分が気を置いている、、寄りにも寄って自分でさえも心落ちそうなあのを紹介して欲しいだ等と冗談として笑い飛ばせもしない様な事を。 「……僕はね、」 僕でさえも心許して貰った間柄ではないと言うに、何故にお前の様な輩にを紹介しなければ為らないのか。冗談も休み休み言って欲しい、此処は一つ穏便に且つ相手に悟られない様に丁重に断るしか無いだろう。 適当な言い訳の言葉一つ二つを思いはぜながら、ゆっくりと渡り廊下を歩いていれば、何とも最悪なタイミングで渦中の人物の影を二人が捕らえた。 「--------------------あ、ちゃん!」 意気揚々と普段は女に聞かせもしない様な甘い低音響かせ同胞が名を紡げば、律儀にも少女が振り返り、名も知らぬ男に名を呼ばれた不快感を表情に貼り付けるも、リドルの紅蓮の相貌と眼が合えば優麗な微笑を以ってして返される。 僕はこの子どもを、誰にも渡したくは無かったと云うに。 増して、心奪われたあの微笑みを僕以外の誰かに向けられる事を赦せる筈等無かったと云うに。 初花の春 1
![]() 「今日も清々しい朝だね、トム」 「……其れは君が清々しい朝陽浴びてから夕方まで講義をサボりながら爆睡していたからじゃない?」 「嫌だなぁ、眠りの神様が如何しても私に光臨したいって言うから」 「……さっき薬草学の教授が君を探していたよ、余りに講義をサボるから追加レポート書かせるって」 「えぇぇぇぇぇぇっ!!?………再試レポート、去年の先輩のを半分くすねながら書いてやっと合格したのに…」 心底項垂れるの肩から柔らかい髪が滑り落ちて空に舞う。 相も変わらず見事なまでの黒髪だ、と感嘆しながらに眼を向ければ、薄紫の瞳に困惑を貼り付けた侭この受難を如何乗り切ろうかと必死で悩み抜いているらしい。 両手に抱えた侭の無駄に重量の有る魔法史の教科書を放り投げて駆け出さん勢いのに、リドルがクスクスと小さく笑いを零せば、漸くからかわれている事に気が付いたのだろう。 可愛らしい幼い美貌に憤慨の色を幾つも浮かべてリドルに詰め寄る。 「鬼、悪魔、人でなし!だからトムはクィディッチであんなに嫌味に敵方のシーカーを潰しに掛かるんだ!」 「人聞きの悪い、僕はあくまでフェアーな試合をしているつもりだよ?」 「じゃあ如何して一昨日の試合で、スニッチ取り掛けたシーカーの箒に雷が落ちるの?」 「…………あぁ、あれは彼が僕のローブを焦がしたから、其の御礼をほんの少しばかり利子付けて返しただけだよ」 「…………スニッチ追い掛けてシーカーと空に舞い上がり過ぎて勝手にローブ焦がしただけの癖に…。そう云うのを八つ当たりって…」 「…そんな事を云うのはどの口かな、この口かなー?」 柔らかな笑みを貼り付け、だが瞳に鋭さだけは残した侭、リドルがの柔らかな頬を指で摘み上げると面白い様に横に間延びする。 餅の様に張りの有る滑らかな肌の感触に気を良くしたリドルは、頬を掴んだ侭離そうとせずに上下左右に揺らしては、百面相の様に変化するの表情を見ては楽しそうに微笑った。 一方のは勿論抗戦しようとリドルの胸倉を掴みに掛かるが、如何せんリーチの長さが足らずに空を掻くだけに終わる。 がキィキィと発狂しそうな表情でリドルを睨み上げるも、当のリドルは威嚇に動じる所か、空いた左手での右頬も掴むと両サイドに引っ張る。 「ほ〜ら、、御免なさいは?」 誰が言うか、と引っ張られている頬に空気を溜め込んで膨らませると、がリドルの手から逃れようと身を捩る。 だが可哀想なことに、其の度に柔らかい頬が左右真逆に伸びるだけに終わり、の薔薇色の頬が赤く腫れ上がっていく。 あぁ、幼い頃のは素直に僕に謝ったのに。 興味本位でタイムターナーを使って過去に遡った際に垣間見た幼い頃のの可愛らしい姿を思い浮かべると、リドルはあの素直で小さな子どもがこうなってしまうのか、と半ば親心に似た切ない感情に胸を抉られる。 「トム、ちゃんの顔が伸びるから止めろよ。」 小さな溜息と共に脇から伸びて来た手が無理やりリドルの指先からの頬を掠め取ると、を庇う様に左手を伸ばす。 此れ以上に手を出すな、そう云う意思表示なのだろうが、気分良かったリドルの機嫌は一気に急降下を辿る。 そう言えば今日は邪魔な存在が居た事を忘れていた、早くにこの場を去って貰おうと思っていた矢先に、自分から足止めしてしまうとは。 小さく舌打ちしたくなる衝動を握り締めた拳に篭めた力の加減で押さえ、この男が余計な事を話はしないだろうかと思案しながら視線を投げれば、男の視線は決まり事の様にの菫色の瞳に張り付いていた。 「……助けて頂いて…?有難うございます。」 律儀にも丁寧に一つ足らない頭を下げたに、男は恭しく慇懃に一礼して返すと、リドル顔負けの甘い瞳で真直ぐにを見詰めると柔らかく微笑む。 「気にしなくて良いよ、あれはトムが悪いんだから。其れより…僕はアンドリュー。トムと同じスリザリン寮6年生。宜しくね、ちゃん」 秀麗な顔が柔らかな微笑みを貼り付けた侭綺麗に歪められ、勝手に自己紹介を完結させる。 引き合わせる予定は無かった、と溜息混じりに告げる前にも律儀にアンドリューに自己紹介をし、渡り廊下の真っ只中で恋の仲介人の様な役目を負わされたリドルは表情から笑みを欠いていく。 如何して僕がに男を紹介しなければ為らないんだ、増して、自分の最も近くに居る他人に。 苦虫を踏み潰す様な思いでとアンドリューを交互に見遣ったリドルは、もうじき鐘の音が鳴る時刻だろうと其の場を後にする為の画策を脳内で組上げていた。 如何も人と云うものは、肝心な時にこそ得策と言える様な策は生まれてこないらしい。 そうしている間にも、アンドリューは出逢えたとの交流を更に深め様と自ら話し掛ける。 「ねぇ、ちゃん。良かったら、明日の講義終了後デートしない?」 「でっ、デート!?」 「そう、デート。若しかして、僕とのデートは厭だったかな…?」 突然のデートの誘いに狼狽し掛けたに対し、リドル顔負けの柔らかい微笑みと甘い響きで更に言葉を紡いだアンドリューに、流石のも首を横に振れず如何すれば良いのだろうかと視線を燻らせる。 一方、横槍所か無差別に槍をブン投げても可笑しくない状況に叩き込まれたリドルは、何とかからアンドリューを引き剥がそうと画策するも、此処で下手な真似をすれば少なからずに多少なりともの気がある事実が露見してしまう。 プライドと意地に賭けてもそんな事態は許されぬとばかり他人事の様に意識漫ろに聞いて聞かぬ振りを貫くリドルが、に助け舟を出せる筈も無い。 巧く切り抜けろ、とばかり視線を投げれば既にアンドリューがの視線を真っ向から奪い去ってリドルの入る余地さえない。 「あ、あのですね、明日の講義終了後は魔法史のレポートを書かなくては為らなくて、」 「あぁ、大丈夫。そうしたら、僕が教えるよ。図書館で魔法史のレポート遣りながらデート。これなら問題ない?」 「い、いえ、問題が有ると言うか無いと言うか…」 がチラリとリドルを一瞥しながら反応を覗き見ても、リドルは一向興味無さそうに明後日の方向を向いてしきりに何かを考え込んでいる様子だった。 其の様子がには、興味の無い事象に自分の時間を割かれた事に対する苛立ちにしか感じられず、リドルが"自分には関係の無いこと"として捕らえている様にしか見えず何とも言えない腹立たしい感情に苛まれる。 「別に問題ないよな、トム。」 問答無用とばかり、リドルに合意を求めたアンドリューに、リドルが拒否の声を上げる訳にも行かず心の中は憎悪で煮え滾らせ表面面はさも聞分けの良い優等生の顔を貼り付け、 「アンドリューは魔法史はトップクラスなんだ。前代未聞の成績を収められるかもよ?」 言いたい事はそんな言葉ではない。だが精神と脳髄は裏腹、思考するより先に言葉が付いて出た。 リドルの言葉を肯定と受け取ったは、アンドリューに小さく一つ頭を下げると明日の講義終了後に魔法史のレポートの面倒を見て貰う事を約束して其の場を後にした。 最後に一度だけ、悲愴な表情を浮かべたがリドルを顧みた事を、リドルが知る事は終ぞ無かった。 [ Back ] [ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/5/5 |