| last scene ![]() day-87 :the momentum for misfortune 切り開かれた世界と一切の情報から隔絶し、意識を根底から氷徹させた様な色彩の瞳を引き下げるを真っ向から見据え。 瞳の奥に隠された何かを探し当てようと躍起になっていたロンは、やがて諦めたように視線を逸らし、の手首を掴んで無理やりに歩き出した。 壊れてしまった玩具の様に母親への悔恨と懇願を繰返すを見て、自分で如何にか出来ると思うな、とロンの中に芽生える自我は告げた。 …この後に及んで、唯の友人でしかない自分に一体何が出来るのか。いや、出来る事があるだろうか。 何の考えもなしに、思い浮かぶ限りの無意味な気休めを言って逃れれば済むような、安穏とした状況だとは到底思えない。 だからこそ、即座に脳裏を過ったは苦しくも、ロンが苦手とする魔法薬学教授その人の潔白な漆黒色の双眸。 他の誰でもない、今のが求めているのは、スネイプだけだとそう思った。 今のを支えて遣れるのも、自分でもなければハリーでもマルフォイでもない、スネイプだけだと痛感する。 だからロンは掴んでいたの腕を一旦放し、手首を掴み上げると周囲の視線も気に留めず、只管に待ち合わせ場所へと急ぐ。 仮にもスネイプはホグワーツの教師だ。ホグズミードを熟知しておらずとも、買物ならば短時間で済ませられるだろう。きっともう待ち合わせ場所に来ている、そう信じながら、待ち合わせの喫茶店に向かえば。 だが、ロンの焦燥と画策は藻屑と消える。 待ち侘びた先、其処に居たのは、小さく笑んで乾いた天の蒼穹を仰ぐダンブルドアと怪訝な表情で瞠目したマクゴナガルだけだ。 「ダン…ブルドア校長…っ、ス、ネイプ教授は―――――――、」 急いできた事が暗黙の了解事項で判る。途切れた息の合間に紡いだように吐き出された言葉に、ダンブルドアとマクゴナガルは声がする方向へ視線を向けてきた。 もう一番手が来よったか、そう言いたげな眼差し一変、柔らかい双眸が痛惜に眇められ、ロンの隣へと向けられる。 其処に見たのは、畏怖の震撼。刹那に二人の背を駆けずり昇る二度目の戦慄。 カランと乾いた音を立てて蕩けたばかりの氷が、カシャンと破裂音を伴って床へとグラスごと滑り落ち、硝子が飛散する。 紛れもなく、ダンブルドアが桔梗と再会した際に感じ見た、想像を絶する真意を知り得心を壊した無慈悲な陰影。 傲慢な簒奪者のみが持ち得る猟奇的な何か、に似た、絶望を宿したの姿だった。 一方、魔法省に居るルシウスから文を受け取ったスネイプとハーマイオニーはホグズミードを足早で抜け、ノクターン横丁を通り過ぎ、ひと気疎らなロンドンの外れに居た。 昼でも薄暗く、時には闇で包み込まれる其の場所は、ロンドン郊外を抜けた先にひっそりと佇む古城の脇の洞窟を抜けた先に在った。 ルシウスが寄越した文に書かれて居た道順に従って歩を進めれば、スネイプは途中から如何も良からぬ胸騒ぎに苛まれた。 勘違いであれ、と彷徨わせた視界に見慣れた色が映り込み、スネイプはゆっくりとそれを辿った。 この道を知っている、この先に何が在るか、どんな景色が広がっているかさえも手に取るように想像する事が出来る。 細い小道を抜ければ、其処は一面の暗闇。辺りは湿度が無く、完全に乾ききっている。だのに、雨でも降った様にしっとりと露に濡れた、名も知らぬ純白の花が潤いを忘れた大地に一面に咲き誇っていた。 「まさか、此処がRevalueへの入り口とは…」 冷静沈着が売りの魔法薬学教授もさすがに動揺を隠せなかった。 勿論、眼の前にデス・イーターが降って来ようとも叫び声一つ挙げぬ肝の据わったグリフィンドールの優等生も然りだ。 「こ、此処ってスネイプ教授が見せてくれた記憶の中での母親が居た…」 思考の帰結へ染み入るように、通り抜けてゆく風は心地がいい。 だが裏腹に、二人の顔は驚愕に引き攣る。何故なら此処は、、 忘れもしない、スネイプがと共に桔梗に出遭い、スネイプがRevalueと桔梗、ヴォルデモート卿との間に何があったかを知り得てしまった場所。 その場所をゆっくりと見渡して、後方振り返り、スネイプは諦めたようにゆっくりと一つ息を吐いた。 「如何やら、この空間ごと魔法が掛かっているみたいだな。」 「空間ごと、ですか?」 ハーマイオニーの問いに、スネイプが厳しい視線で答える。 「我輩たちが文を見ながらこの場所へ歩いてきた時に、他に人が居たかね?」 そう言ってスネイプが冷えた双眸で周りを睨む中、ハーマイオニーが困惑した眼差しで、戸惑い気味に言葉を返す。 「……いえ、皆…興味無さそうに、……他の景色を見ていたかと思いますが…」 「其れが、確固たる証拠だろう。此処は認められた者しか入れぬ場所だ。」 時折吹き過ぎる風に、頬にかかる髪は吹かれて撓み、煽られる。手に持つ草臥れた羊皮紙も同様に。 閉塞的な空間の様に感じられるこの場所の、何処から風が流れ込んでくるのかは判らない。流れ込む風が、自然のものでも、或いはそうでなくてもさして問題ではなかった。 重要なのはこの場所が、Revalueへと唯一繋がっている場所である、ということだけ。 ガサガサと音立てて翻る羊皮紙に視線を戻したスネイプは、す、と視線を左手方向に流す。 「如何やら、あれが入り口らしいな」 其処には人目を避けるように薄い紅と純白の雪の様な白い花々を咲かせた一本の樹木があった。 名は知らぬ。魔法薬学の無駄に分厚い辞書にさえ絵図の載らない樹木だ。この世界のものではないのだろう。 ひら、と、朝露にでも濡れたように水滴纏う葉が目前を落ちた。誘われるよう、ゆるゆると、緩慢な足取りで数歩を進めれば、またひとつ。 辺りを見回せばやはり他には人影もなく、スネイプはその傍らに張り付く様にして立つハーマイオニーを連れ立って、ひそやかに足を進めた。 樹木の袂まで来れば、やわらかな風が吹き抜けて、掠め取られる様にルシウスからの文が空を舞う。 あっ、と二人同時に空を見上げスネイプが手を伸ばしたとき、空を自由に翔ける様に翻った文は空中で焔に包まれた。 チリチリと音を立てて灰と化す文はやがて朝陽のような色の光りを放ちながら弧を描いて、ゆっくりとゆっくりと地面へ降下する。今思えば、其れが何かの、合図だったように思える。 ごうと、強く風が吹き抜けて続く、羽ばたきのような音が走る。光りを嫌うよう、射し込んで来た強烈な光りに反射に目蓋を引き下ろし、一瞬眼を瞑った二人が再び瞼を開けば―――――――、 「――――――――!!」 ぽつん、とただ二人、ハーマイオニーとスネイプは冷え切った空気と静寂の中に居た。 かの場所は、地獄への入り口かと見紛うほどに荒れ果てた廃墟だけが広がる世界。 「こ、此処が…Revalueですか?」 息を詰らせたハーマイオニーが引き攣った声色で問う。無理も無い、素直にスネイプは思う。 隣にハーマイオニーが居なければスネイプとて、同じ感想を漏らしていただろうから。其れほどまでに眼下に広がる景色は、見知りえていない情景。見える全てを一言で表すならば、凄惨、だった。 嘗て桔梗がルシウスに話していただろう、色彩に溢れなだらかな葡萄畑と針葉樹林、垂直に伸びた形状のRevalue城は不動の象徴でもあったと云う。 しかし、今は葡萄畑も針葉樹林も見る影は無い。 唯一残るのは、中心から真っ二つに引き裂かれ崩壊寸前のRevalue城と、が住んでいたであろう、天にまで届こうかと云う高い塔。後は鈍い色合い…全て灰色がかった暗い世界だけが広がっている。 地面は茶色の葉と潅木で覆われ、所々見える地面は剥き出しの侭長期間手入れされていない土壌。 周囲は荒れ果てた大地と荒んだ樹木のなれの果て。 下の方の枝が打ち払われて整然とした感覚で並んでいる針葉樹は、どれも全て雷でも落ちたかのように幹が割れている。 奇妙な方向に枝を曲げた樹木もあれば、地面から根が毟り取られている樹木もあり、その光景は延々と続いて、建物はおろか道すら覆い隠して居た。 まるで人の気配の感じられない世界。其処に唯二人だけ取り残されたような心地がして、吐き気がする。 だが、何時までもこうしては居られない、と立ち尽くしたハーマイオニーにスネイプが告げる。 「時間は無限ではない、行くぞ」 「え?あ、はい…」 遠くに見えるRevalue城を目指し震えかかる足を差し出し歩けば、靴底でミシリと小枝のようなものが鳴る音がする。 どうかこれが誰かの骨で無いように、とハーマイオニーは願いながら只管に進めど、勿論人影どころか何の気配も無い。獣も、飛ぶ鳥の声すら無かった。小さな冷たい空気が空間を包む。 「この広いRevalueの何処に…、あるんでしょうか。検討は付いていらっしゃいますか?」 少しだけ零れる息が白い。同時に感じるのは強烈な悪寒。此処は北半球ではないのか?季節は夏だった筈。 だが存在する季節は極寒だとでも云うように、 ポートキーに似た何かでRevalueへと飛ばされた瞬間、得体の知れない冷気が一気に背を駆けずりあがった。そして、唐突に知る。悪寒の正体は冬の息吹などではない。 墓所を開いたような強烈な死の気配と明らかに今まで居た世界とは異なる【気配】。 凍ったように周囲が張り詰めていく。周囲の明度が急激に下がっていくような、異様で冷たい空気が満ちる。 「………そんなもの、直接本人に聞いたら良い」 「え?本人って―――――、」 さ…っと、単調な風音に違う音が混じったのは、スネイプの口からそんな科白が漏れ、枯れ草を踏んでいた足が止まった時だった。 刹那、時間の感覚と季節感の感じられない空間に生じたのは、複数の足音と死んだような凍えた気配。 吹き込んで来た強風に晒され針葉樹林が身体ごと揺れる。 その一瞬の所作後、Revalue城を背後に据えた三つの影が姿を見せた。 濡れそぼった様にしっとりとした艶のある長い黒髪が頬や首筋に張りついていたが、その凍てついた冬の月光に煌く氷柱の如き美貌を損なう事など無かった。 弾かれる様に面をあげたハーマイオニーの限界まで見開かれた眼が、と同じ相貌の、彼女の顔を映す。 自然とぽかんと開いた唇が戦慄くように小刻みに震え、白い息と共に呆然とした声が言葉として垂れ流される。 「桔梗……、………っ、ハリー!?…マルフォイ!?如何して、如何してここに――――!」 ハーマイオニーの声に彼女は軽く頭を振り髪を流すと、アメジストの双眸で真っ直ぐに見据え、ローズレッドの唇を笑みの形にした。 「こんにちは、可愛いマグルのお嬢さん。まさかセブルスが連れてくる子が貴女だとは思わなかったわ」 身も凍えるような冷気の中彼女は、白い息すら吐かずに囁いた。 見えない境界線でも引かれているかのように、スネイプとハーマイオニー、ハリーとドラコと桔梗と云う奇妙な組み合わせの「選ばれし者」が、廃墟と化したRevalueで初めて出逢った。 [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-7 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2007/2/8 |