| last scene ![]() day-84 :似た者同士の騙し合い ハリーは息を呑むほど蒼に染まった空を見上げながら、心此処に在らず、の面持ちでホグズミードを歩いていた。 今頃とロンは一体何を話しているのだろう、若しかして、自分以上に打ち解けてやしないだろうか。この時既にハリーの脳裏に「一年分の不運を一気に背負いこんだ様に見事スネイプとのペアを引き当てたハーマイオニーは如何しているだろうか」と一瞬でも考えるどころか、其の事実さえも消えかかっている。 ドラコとの数歩を離れた距離を保ちながら、宝探しの成果を左手にぶら下げ、宝探しペアの片割れの事など一ミリも考えては居ないだろうドラコの背中を追う。 空を見上げるハリーの視界の隅、同じ高さで街路樹の葉枝が不機嫌に揺れる。 今日も良い天気だなぁ、と安穏な感情の侭に目尻をうすらと和らげた、丁度其の時。 「……見たんだ。の母親と僕の父親がホグワーツで話をしているの、を」 内の感情を出さぬよう、呼びかける訳でも無く、鼓膜が勝手に捕える音を拾えとでも言うように投げかけられた静かな、その声。ハリーは、声をかけられて正直驚いた。 「あ………」 突然振られた話題、聞き逃しても良いような独り言には到底聞こえないそれに薄い口唇が応じようとすれど、どうしたものかと思案しているうちに口籠もる。 そんなハリーに気にする事も無く、ドラコはさっさと先に歩いていきながら、後方でハリーが聞いている事を想定しながら勝手に話を進めた。 「スネイプ教授が嘗ての母上…桔梗を想っていた、って話が有っただろ」 忘れもしない、初めて桔梗の姿を見た時の事だ。 黄泉の世界を彷徨うの真横でスネイプとダンブルドアの話を聞きながら、全てを聞き終わらないうちに彼の父、ルシウスが配下の人間を引き連れてホグワーツに注意喚起するために遣って来た。 あの時はスネイプが桔梗を想っていて、慕情を引き摺りながらと出会い、に桔梗の面影を見出していたのだとばかり思っていた。今はスネイプは、桔梗よりもを愛しているだろうが、本人に聞いた訳でも無いため確証は無い。 ……毛頭、聞けぬから曖昧な侭で敢えておいてあるという説もあるのだが。 「あ、うん」 取り敢えず、胸中では時折自己推論も交えそんな一連の出来事思い出しながら、ハリーはドラコの背に言葉を述べた。 「僕が思うに………本当は誰より桔梗を愛していたのは、父上じゃないのか―――――?」 「…は、?………えぇっ!!?」 予想通り振り向く事無くドラコは返したのだが、考え込むように立止まった為、必然的にドラコとハリーが横並びになる形と為った。 予想を遥かに上回る返答を返されたハリーは、相手があのドラコである事などすっかり脳裏から飛び去って、素っ頓狂な声が咽喉からあがる。すると即座に、厳格な蒼天の瞳が、翡翠を射抜く。 言葉と声がドラコの機嫌を損ねたのだ、と一瞬で悟ったハリーは、もう少し考えて返答すれば良かったと後悔する。 断罪でもするかのような痛烈な圧力を前に、ハリーは成す術が無かった。開き掛けた唇を閉じることで精一杯。 理不尽にすら感じる程の圧倒的な牽制だが、普段なら激昂するだろう渦巻く憤りと激情をただ無表情に嚥下する。 自分にそうする事で、ドラコ本来の冷えた怒りが凝縮される前に発散されているような気がしたからだ。 「が目覚る直前、僕は独りで閲覧禁止の棚を漁ろうと、図書館へ向かっていたんだ。動く階段を下りて角を曲り掛けた時、父上の声が聞こえたような気がして耳を凝らしながら影から覗いたら、そこに、桔梗と父上が居た」 「……知り合い、だったみたいだけどそれが何か…、」 「……ダンブルドア校長が言ってただろ、桔梗が二つ残っているうちの一つの納言草を持ち出し、実を付けた、って。」 「魔法省から持ち出したってやつ?」 「―――――――魔法省から納言草を盗み出す手伝いをしたのは父上だ。そして、あの惨事のあと、桔梗をRevalueから逃がしたのも、父上だ」 「―――――――っ!」 沈鬱な表情で、ドラコは言い切った。 さも自分が見聞きしたように雄弁に語る口調とは裏腹、その表情と声音は、重く堅い。 気後れと戸惑いを抱いたままハリーはドラコに言葉すら掛けられず、驚愕の事実に眼を見開くことしか出来ない。 「如何考えても可笑しいだろう、厳戒態勢が敷かれた魔法省内部の、厳重警備が施された部屋に立ち入るなんて。 其れも証拠や痕跡すら残さずに侵入するなんて所作、誰か内部の者が手助けしない限り不可能だ。あの場所は甘く無い。 それに、ホグワーツで父上と桔梗の話を盗み聞きした時から、胸に痞えるものがあったんだ」 淡々と胸の内を吐瀉するドラコの話を、やはり数歩分間隔を後ろに空けたハリーが聞いている。 濃密され最早自己の中で抱え切れなくなった疑問や疑念から芽生えた自己結論を、他者に話すことにより、自分の中で膨れ上がったそれらを共有すると共に他者の意見も推論の中へ織り交ぜようとするドラコの思考に、一瞬ハリーは驚愕した。 相手は何よりあの、ドラコ・マルフォイだ。 己以外のに関わる異性に対して敵意剥き出しだったあの頃とは余りに差異ある態度。 原因はがあのスネイプと恋仲にある、そんな事実から生み出された、云わば「傷ついた者同士」といった仲間意識があるからなのだろう。 勿論兼ねてよりの険悪関係が右肩上がりに良好になるとは到底思えないが、の事となると例外が発生するらしい。 こうして現に、マルフォイの話を聞いている自分とて、例外では無い。 そんな事を再び沸々と思いながら、ハリーは一応ドラコに返答する。 「痞えるもの?」 「あぁ。妙だと思わないか?父上は僕に『と、Revalueの人間と関わるな』と忠告したんだ。 …なのに、あれは何だ?何処から如何見ても、人目を阻んだ密会だ」 「……学生時代、君のお父さんと桔梗は知り合いだったんだろう?何で態々密会なんて」 実際に桔梗とルシウスがホグワーツで会話している様を目撃していないハリーはドラコの話を聞きながら脳裏で情景を再現させて見るものの、いまいち納得がいかない。 魔法薬学研究室でルシウスと対峙した際、確かにルシウスがスネイプ・ルシウス・桔梗の関係を物語る様な風体で話はしていた。其れに関して、特にスネイプも否定しなかった為、彼らが何らかの関係に在ったと云うのは事実なのだろう。 加えて、スネイプ自身の口から「桔梗と会話したのは、桔梗の消えた日が最初で最後」だと言って居るのを記憶している。 つまり、…スネイプと桔梗の関係は親しい間柄ではなく、スネイプの言うとおり片恋だったとすると、残る桔梗とルシウスの関係は如何なのだろう。 魔法省への闖入を黙認するどころか手助けすらしたと匂わせるようなドラコの予測を聞き、ハリーも幾つか脳裏で自己推論を立て始めた。 だが残念な事に、ハリーの思考回路が推論を叩き出すよりも早く、ドラコが自己推論の結果を機械的に話し始める。 「僕が思うに…、父上が僕に『関わるな』と言ったのは、僕が深入りすることで自分と桔梗の関係が露見する事を恐れた所為じゃないのか?」 自問自答するようなドラコの言葉の後、視線さえ向けようとしなかったハリーは考えてみれば…と言い掛ける。 その、とき。 ハリーは嘗て一度だけ感じた、あの例えようも無い冷えた感覚が地面に付いている足を伝って身体中を一気に駆け抜ける様な振動を感じた。 柔らかい太陽の光りに照らされ虚ろに真後ろに伸びる影に、冷え切った空気と静寂が破裂するようにして一気に拡散する。 まるで蒼い闇に満たされた現世の世界に独り放り出された様に、ホグズミードから人の気配が消え去っていた。 ( ………? ) 人は、動いている。歓談しながら仲良く手を繋いでいるホグワーツ生も珍しく無い。 だが、彼らにはまるで見えておらず、ハリーとドラコの居る場所だけ切り取られた様な静寂の世界の中、ハリーとドラコは二人だけで立っていた。 突然空虚な世界に放り投げられ呆然と立ち尽くすしか術の無い二人はどちらからとも無く、顔を見合わせ訝しげに双眸を眇める、その、刹那。 「………流石ルシウスの息子。間違って無いわよ?その推論」 周囲が暗くなるような冷たい感覚と共に、に酷く似ているが、何処か陶酔しきった様な冷たい気配を抱いた玲瓏な声色が真後ろから投げつけられる。 弾かれる様に二人同時に顧みれば、真相を知らぬ者が見れば魅入られそうな程に清純無垢な、愛らしい微笑みを貼り付けた麗容な女性が立っていた。 「其方の【生き残った男の子】とは初めまして、かしら?」 投げられた科白自体は大した内容では無い筈だのに、ぞわ、と背筋を撫で上げられる様な声がハリーの耳に流れ込んだ。 透明で綺麗な声に、とてつもない悪意と狂気と冷徹を含ませた声。 ハリーとドラコを包む世界、何処から流れ込んできて、何処へ向かうのか判らぬ冷えた空気と虚無な空間が作り上げられた理由を唐突に理解した。 「――――――の、、」 「初めまして、かしらね。私は桔梗、知っているかしら?あの子どもの母親よ。」 綺麗な微笑みを浮かべながら、うっすらと邪を含み暗く暗い世にも楽しそうな声が、空気から染み出すようにして鼓膜を震わせる。 皮膚に触れる空気の温度が一気に下がり、周囲の明度までもが突然に翳る。 まるで冷えた冷凍庫の中に居るような感覚に、ドラコは自然とローブを手繰り寄せる。そもそも未だ時刻は昼前、季節は夏も翳ろうとしてはいるが、太陽の熱で気温は充分に温かい筈だ。 なのに、何故。 疑問と同時、ハリーは思い出しても居た。 この場に満ちる空気が、と共に閲覧禁止の棚でフィルチに遭遇した際にに抱き締められたあの瞬間に一瞬だけ満ちた空気に、恐ろしく似ている事に。 [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-7 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2007/1/12 |