last scene




day-80 :共謀、全ては廻り出した歯車を壊す為に






「……神、を引き摺り下ろすとは一体」


スネイプが切り出した科白に、困惑しきった色を浮かべたハーマイオニーが硬い声色で疑問を切り出してきた。
閲覧禁止の棚で見付けたRevalueに関する文献に書かれていた、多分最初で最後の桔梗からのメッセージ。
復唱したハーマイオニー自身にすれば今更魔法省に奪われた納言草が偽物であったところで、其れが如何した位のレベルでしかなく、本物の納言草が何処かに埋没しているにしても、其れを探して一体何の得に為るのか判らない。

以前ルシウスに話していたように、『本物の納言草を見つけ出しの血を培養して実を付けさせる』ことが仮に出来たとしよう。問題は其処から先に在る。出来たとして、一体実を付けさせる行為のどこが如何神を引き摺り下ろす事に繋がるのだろう。
直結しないにしても、何かしらの策が在り………結果、意図が報われるような形になるのだろうか。
では何処から、如何遣って?


優秀な頭脳を駆使し幾ら考えても明瞭な答えの見えぬ桔梗からのメッセージに、ハーマイオニーは何を示唆されたのか解らなかった。
そんなハーマイオニーに、スネイプは薄く唇を開く。



「Revalueが殲滅された日、魔法省は二株の納言草だけを『資料』として保管し、残りを全て燃やした。苗木や種だけではない、Revalueと云う国と人、つまりは血族ごと纏めて焼き払ったのだ。
此処まで言えば判るか、Revalueはあの文献どおり、を除いて全ての土地と国民が歴史に殲滅されたのだよ」
「はい、其れは理解しています…ですが教授、」

「……魔法省に奪われた二つの納言草。
一つは桔梗がヴォルデモートの為に魔法省から盗み出し実を付けさせたものだとして、もう一つが予言新聞にも載っていた『最後の納言草』だ。
…だがこの二つの納言草がもしもレプリカだったとし、本物の納言草が他に在ったとした場合、困るのは誰かね」
「……レプリカを見抜けなかった魔法省、でしょうか」
「其れも然りだがもう一つ在る。魔法省に在るのがレプリカだったとしたら、最後の『本物の納言草』が、世界の何処かに在るという事だ」

「世界の何処かに…、本物の納言草が?」


考えに応えるように言葉を向ける。
言葉が呟きに変われば、両者の間に僅かに沈黙が落ちる。


「本当に在るとすれば、事は寛大穏便に、とは行かぬだろう。
魔法省は大々的に『忌まわしきRevalueの罪業』を払拭した、と予言新聞で伝えたのだ。ヴォルデモート卿が欲した不死の妙薬を作る材料は、Revalueの血脈と共に此れで世界から全て滅せられた、と。
だが此処で『ある筈の無い本物の納言草』が出現したら如何なる?醜聞どころの騒ぎではない。
…………先ず間違いなく、魔法省にヴォルデモート卿配下の人間が居り加担している事が露見するだろう。
上手くいけば、とRevalueを縛り付けている魔法省と云う名の『神』を引き摺り下ろす事が出来るかもしれぬな」


言い放つ荘厳な声音に、その場が刹那、静寂に包まれる。
僅か6歳にも満たなかった幼いの命が桔梗に奪われ魂だけの亡骸と成った後、は魔法省の手によりRevalueに在る塔の中へ幽閉された。
其の後、魔法省は情け容赦の無い手段に打って出た。
を幽閉した塔を除いたRevalue全土に防護魔法を施しRevalueの血を引く人間が外へ出られぬ様に仕組んだあとで、街どころか人までも殲滅させたのだ。
衝撃のニュースが魔法界を駆け巡る。戦慄さえ走ったあの日の事を、脳裏に刻み込まれ、スネイプは昨日の事のようにありありと今すぐにも思い出す事ができた。


Revalueの血を引く人間をスネイプが知る事は無く、況して桔梗がRevalueの国へ嫁いだ事すら知らなかった身だが、あの事件はおぞまし過ぎた。
ヴォルデモート卿の制裁を酷く罵倒する魔法省の人間が、乞う人々の声すら届かぬ安穏とした場所から『決して消えぬ焔』を放った。忌まわしき血を世界から滅する役目を負わされた神の代弁者だとでも言うように。


『決して消えぬ焔』が鎮火した後はもう、見る影も無い。
領土は決して広大ではなかったが、美しかった筈の王宮に街並み、深遠の森に似た樹木の多い庭園、なだらかな葡萄畑に紛争など起きそうにも無いほど満ち足りた笑顔を湛えていた人々。
それらは全てあの日、歴史に埋没するように殲滅させられた。残ったのは焼き切れて乾き風化した風土と、嘗て人だっただろうもの。其れだけだ。足を踏み入れる事もおぞましい、もう二度と太陽の光りさえ降注がないと聞く。


「……若しかして、のお母様は、スネイプ教授が文献を見付けられた時ではなくこの間、つまりがホグワーツに来た時にホグワーツに忍び込んであの記述を書き加えたのではないでしょうか」
「書き加えた、だと?」
「はい。最後の一株、本物の納言草をスネイプ教授、貴方に見つけてもらうために。其れを見つけられれば…」


真摯なハーマイオニーの言葉に、スネイプは眉根を寄せた。
納言草を見つけ出すことは、禁忌の大罪。明らかに道を踏み外すだろう愚かで悲痛な選択であり、背徳的な行為である事は十二分に知っている。
今更其の大罪を犯す勇気と覚悟が無い訳ではない。だが、


「グレンジャー、君に忘却魔法を施しても構わないかね」


この娘を巻き込むわけには行かなかった。
生徒を護らなければ為らず身を危険に晒しては為らない、と云う教師たる立場からの発言では無い。況して、一介の生徒を巻き込む事は出来ぬとか、この娘の身に何かあれば、という焦燥から来るものでもない。
唯、全てが露見した際仮に『上手くいかなかった場合』、グレンジャーが関わっていたと云う証拠を隠滅し罪科を一人背負っても構わない。何の感情も感慨も見せずに、そうするであろう未来の自分にスネイプ自身が驚きを隠せなかったが、出来れば其の事態は避けたい。


唯、其の時にの悲しむ顔を見なければ為らない役目は、我輩独りで充分だと、何の戸惑い無くそう思ったのだ。




「厭です、と言えばどうなりますか」

スネイプの心にのみ存在する真意を正確に受け止めたようなハーマイオニーは、どこか淋しそうな苦笑を浮かべて静かな動作でストロベリーカモミールを口へ運ぶ。

「……スネイプ教授、私が冒頭に述べた科白をお忘れでしょうか」

科白だと、と問おうとした漆黒の双眸は、瞑目したまま静かに俯き怒りを堪える様なハーマイオニーの姿を捉える。
直感的に、スネイプはその言葉を追求してはいけないような危惧を覚えた。
追求すれば足元を見事に巣食われる様な気がしたからだ。とは言え、この娘が口を噤んだ侭で居るとは到底思えず、スネイプが疑問を投げずとも自然に話は転がるような展開に、スネイプは困惑して言葉を失くす。


が誰よりも大切に思っているのは貴方です、スネイプ教授。其の貴方が自分の所為で魔法省に捕えられアズカバン行き…況して死よりも辛い立場に置かれる様な事に為れば……きっとは毀れます。」
「………だが、君が関わったと為れば、」
「だから、私が関わるんです、スネイプ教授。
最後の納言草が何処に隠されているのかは判りませんが、もし仮にスネイプ教授に心当たりが無い…もしくは、有ったとしても違っていた場合、捜索するには一人よりも二人のほうが効率も良いですし、時間も短縮できます。
私が関わっていた事実をに知られたくないのでしたら、其の後で記憶を消して頂いて一向に構いません。
一人前にも成れていない不出来な魔法しか使えませんし、どれ程身に余る事をスネイプ教授に公言しているかも重々理解しているつもりで居ります。
懲罰でしたら後ほど幾らでも受ける覚悟は出来ております。ですからどうか……」


そう告げて、目尻に薄い膜すら浮かべ懇願するようなハーマイオニーの悲痛な表情には、まるで事の顛末を予知しているかのような色さえ滲む。そうして静かに俯いた。
その横顔は、とても静かで寂寥に満ちた憂いが差し、スネイプはそんな儚くも見える姿に何故か、胸が締め付けられるような切なさを感じた。遠い昔に何処かに置き忘れてきた筈の『何か』を感じさせるようなハーマイオニーの気配に、苛立ちとも呆れともつかない溜息を吐く。

だが其れはスネイプにとって、完全に予想していた展開だった。
これからの出来事にハーマイオニーを含めた面々を巻き込ませぬようにする為には、全員に忘却魔法を施さねば為らないだろう。でなければ、必然的に全ての人間を巻き込む事に為る。


痛みをともなう静寂の中で、スネイプは諦め覚悟したよう言葉を紡ぐ。


「……ミスグレンジャー」
「………はい」
「君は我輩を初めとしたホグワーツの人間に悟られぬように閲覧禁止の棚へ入った。今も其れは露見していない。」
「………はい、其の通りです」
「……為らば、魔法省へ忍び込む勇気があるかなど、聞くまでも無かろうな」
「勿論です、魔法省どころかアズカバンでも………………………………



…………………………………………………魔法省に、忍び込む、?」


行き成り突きつけられた現実は厳しい。
一瞬何を言われているのか判らず呆けた様な表情を零したが、スネイプの口から発せられた言葉の信憑性と虚偽ではないだろう全く微動だにしない無表情な漆黒の双眸から其の意思を感じ取って、感情を抑えた声音で低く呟く。


「魔法省でもアズカバンでも、例え行き先が地獄であっても」


行きます、とハーマイオニーは残酷な言葉を真摯にきっぱりとスネイプに言った。
スネイプがそうであったように、ハーマイオニーとて、出逢ったその時に、初めて世界の意味を知った。
きっと此れから先、共に生きる事は不可能だろう、何せ命が宿っていないのだから。
だががまたあの塔へ幽閉されずに済むのなら、望む未来の価値すらも、少しは見出せるのかもしれない。






















































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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/11/10