| last scene ![]() day-79 :貴方に捧ぐすべての冤枉、其れは最後の希 「…あの、スネイプ教授。」 「何かね、グレンジャー」 す、と息を吸込む。 妙な心地だが、スネイプと三時のお茶を過していると言う非現実的な感覚がそう言い聞かせているのか、元来備わった気質がそうさせるのか、今の自分なら、スネイプに罵詈雑言でさえ吐き出せるような気がした。 其れ位の覚悟抱いて、ハーマイオニーは薄く唇を開く。 「…私が今から言うことが、どれだけ公私混同していて身に余る下世話なのかと言うことは存じております。 …更にこれから公言する事への懲罰及は受けるつもりで居りますし、謝罪もするつもりです、ですが、話の腰を折らずに如何か最後まで聞いて…」 意を決したように小さな掌を握り締め、俯き気味になりながらも無表情のスネイプを見据えながら淡々と言葉吐けば、途中言った傍からスネイプがハーマイオニーの話の腰を折る様に手で言葉を制する。 あぁやはり聞く耳すら持ってくれないのだ、と落胆し掛けたハーマイオニーの小さな貌が知らず知らずのうちに悔しさに歪み、固い意志で見据えていたスネイプの相貌から視線を逸らす。 だが如何しても伝えたい、と再度視線を交わした矢先、スネイプとハーマイオニーの居るテーブルの脇に例の店員が立っているのが見えた。 「済まないが、上の部屋は使わせて頂けるかね」 「勿論で御座います。此方の品を先に運ばせて頂きますね」 「あぁ、頼む」 言葉にふわりと柔らかく微笑むと、店員は手早くテーブルの上の品をトレーに移し変えて、店奥にひっそりと付けられた螺旋階段を登ってゆく。 僅かな違和感を感じたのもつかの間、カタリと鳴る椅子の音を合図に、スネイプが「付いて来い」とハーマイオニーを促し返答を聞くまでも無く一人颯爽と歩き始める。 一体何処へ連れて行くつもりなのだろう、と訝しみながらも、大人しくスネイプを追えば、辿り着いた先は何の変哲も無い10畳ほどの小さな部屋だった。 ガーデンテーブルに対になった椅子が二客、備え付けられた窓二つは天窓で、太陽の光りを燦々と招き入れている。 薄い緑色に染められた起毛の絨毯の端には3人掛けのソファーが一つ。生活感が無いわけではないが、人が住んでいるとも思い辛い簡素なレイアウトの部屋に、ハーマイオニーは僅かな動揺を覚えた。 (スネイプと二人きりで如何だった?ってに聞かれたら私は、一体なんて言えば良いのかしら。喫茶店の上にある部屋に連れ込まれた、とでも?) スネイプが此処にハーマイオニーを招きいれ何を企んでいるのかは解らないが、このままで良いわけもなく、ハーマイオニーから口を開こうとするが案の定、スネイプの言葉の方が先に下りて来る。 「座りたまえ」 「…あの、スネイプ教授、」 「あの店客の中にはヴォルデモート卿の息が掛かった人間も少なくない。此処は特別な魔法が掛けられた魔法空間だ。此処で何を言おうが起ころうが、外部に漏れる事は一切無い」 「そんな部屋が如何して喫茶店の上に?其れに、如何してスネイプ教授が入れるのですか?」 先ほどの店員への口調と言い、すぐさまこの部屋へと通した店員の態度と言い、一般常連客でしかないスネイプが如何して其処まで知っているのだろう。そして、何故この秘密といえる部屋の存在をスネイプに打ち明けるのだろう。 瞳を厳しく眇め、なおも言い募ろうと詰め寄るが、向けられた鋭い眼光に圧せられ、そのまま言葉を飲み込んでしまう。 「あの男はこの店のオーナーでな、ルーピンと同じなのだよ」 「…ルーピン先生と?という事は、人狼、という事でしょうか」 「そうだ。あれの為に我輩は学生時代から人狼薬を作り続けている。この部屋は人狼薬の受け渡しと、咄嗟の発作を凌ぐ為の部屋だ」 「……スネイプ教授とオーナーは学生時代から?」 不可解そうな表情でそう問うたハーマイオニーに、スネイプはあからさまに不機嫌な表情を作り上げた。 「………其れが何か問題でもあるのかね」 「い、いえ…(友達いらっしゃったんですね、とは口が裂けても言えない…)」 うろたえ、何か他の言葉を捜そうにも適切だと思われる言葉が如何にも浮かばない。 引き攣った様な声色にスネイプは微かに眉根を寄せたものの、店員が淹れ直したシトラスアールグレーを咽喉奥に落とし、先ほどの談笑とは言えぬ重圧な話の続きを再開させた。 「…で、何かね、君の公言とは」 「はい、スネイプ教授の仰った『神を引き摺り下ろす』と言う揶揄、初めはヴォルデモート卿(例のあの人)を引きずり出すことだと思っていたのですが…別に思い当たる節を見つけました」 「ほぉ、思い当たる節?」 「………実は私も、閲覧禁止の棚で、あの書物を読んだのです」 カップの淵に付けた唇其の侭に、スネイプは眼を見張る。 透明マントも持たず況してフィルチを初めとした厳重な管轄下にある閲覧禁止の棚へ、この娘一人で侵入したというのか、証拠も残さずに、と信じられない面持ちで凝視した。 「あの書物に、何か気になる点でも見付けたのかね」 もう十五年以上も前に見た、「The fall of the Revalue and perish, die out... (Revalue王国の滅亡とその民族の絶滅)」と銘打たれた書物に、謎掛けでもする様な記述が書いてあっただろうか。 謎掛けまでとは行かずとも、僅かでも気掛かりな事があれば記録に残している筈。一言一句見落とさぬよう、何日も通い詰め隅から隅まで読みつくした書物だ。誰より内容を熟知している、と自負さえする。 だが其のスネイプですらも見つけられぬ『気掛かり』な事とは一体何か、一体何をハーマイオニーは見つけたと言うのか。 『神を引き摺り下ろす』ような、決定的な証拠となるものを、この短期間で見出したとでも? スネイプの広大な脳は、色々な記憶の断片と思考が絡まっては千切れて離れ、混乱していた。 「ハリーたちが見付けた本には、ひなげしに似た色のブックカバーが付いていた事をご存知ですか?」 「あぁ、十五年前から誰の手にも触れてなければ、我輩が見たときも確かに付けられていたが?」 「………其のブックカバー、裏返してみたりとかしましたか?」 声量を極力押さえたハーマイオニーの問い掛けに、スネイプは怪訝な面持ちで視線だけで答えた。 如何云うことだ、と。 嘗てスネイプがあの書物を見付けた際、確かにひなげし色に似たブックカバーの下に書物本来のタイトルが銘打たれた古めかしい表紙は見た記憶がある。 だが、其の表紙を包み隠す様に柔らかくけれども頑丈に張り付けられていたブックカバーは如何だ? ハリーやドラコ達と同様、一字一句逃さぬ様にと、正に貪るように読み耽った。ローブを床に敷き、ひなげしに似た色のブックカバーを脇に置いて、一枚一枚捲り読み終わればまたブックカバーを掛けて何事も無かったかのように元の位置へと戻す。 本が開かれ再び閉じられるまで、ブックカバーは其れこそ当たり前の様に書物から外され、床に鎮座する。 ブックカバーの用途など、純粋に書物を防腐する為だけのものだと思っていた我輩が迂闊だった、とスネイプの双眸が、苛立ちできつく眇められる。 ………ブックカバーの裏側など返してみるどころか、興味すらも沸かなかった。 後悔の念に駆られ、胸に痛烈な圧迫感が押し寄せる。 「あ、あの、私の場合は『何かあるんじゃないか』と思って引っ繰り返した訳ではなくて、…、凄く言い辛いのですが、ブックカバーが滑り落ちて床に落ちてしまって、本当に偶然見えたんです」 「見えた?」 「はい、多分……のお母様が書かれたんだと思いますが、」 The nameless two flower which I was robbed of by a Ministry of Magic is just a replica, (魔法省に奪われた二本の納言草は唯の偽物) Will whereabouts of a true treasure, you understand it? (本物が何処に隠されているか、貴方なら判るでしょう?) If I pray, and wish does not come true, I drag God, and take it down rather? (祈って願って其れでも叶わぬならいっそ、カミサマを引き摺り下ろしてみれば?) ハーマイオニーの言葉に、この時になって、スネイプもようやく冷静になり理解した。 スネイプの脳裏に明確に浮かび上がってくる、ゾッとするような凄艶な笑みが刻まれた桔梗の秀麗な美貌。 この世の全てを憎み透明な悪意と狂気に心を狂わせて仕舞った桔梗の、告げる言葉の残酷さを露も感じさせない殊更綺麗な笑い声が脳裏に亡霊の声の様に響く。 カミサマを、引き摺り下ろしてみれば? あぁ、そうか、と桔梗の意図にスネイプが気が付いた。 「確かに、『神』を引き摺り下ろせそうな置き土産だな」 重ねる禁忌の背徳など、怖くは無い。 罪の重さに怯むほど、歩んできた途はまともじゃない。 選ぶ途すら既に無いというのなら、我輩の最初で最後の願いを叶えうる方法が此れしか無いというなら、せめて、この身一つで足るようにと。 其処に最早、揺らぎなど、在りはしなかった。 (英語は自信がありません。間違っていましたらご一報を。) [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/11/5 |