last scene

day-8 : もう独りのグリフィンドール生
「 とても素敵な子だったわよ?ハリー。 の事は…何も詮索する必要ないと思うけど? 」
「 …は、? 」
昨夜とは打って変わって素晴らしい朝焼けが空一面に広がった時分、普段よりも早めに自室を出て談話室のソファーでホットミルクを飲んでいたハリーは、降っ
て来た言葉に思わず飲み掛けたホットミルクを噴出しかけた。
一限目から行われるマグル学はグリフィンドール寮から距離が有る為に、朝食を終えた其の足で寮には戻らず直接教室に向かうのだろうか。其の腕にはマグル学
の教科書と羊皮紙が有った。
疑問系で聞き返したに近いハリーの言葉が耳に届いていないのか、はたまた聞く気など更々無いのか、ハーマイオニーは重たげな音を立ててテーブルの上に置い
た教科書の上に杖を置くと、ハリーの隣に腰を落とす。
幸いにも、ポットに残っているホットミルクは未だ充分過ぎるほどの温度を保っていて、ポットと揃いのカップに注いでハーマイオニーに渡してやれば、彼女は
屈託無い微笑みでそれを受け取った。
「 それにしても最低よね、あの男。 幾らなんでも可哀想過ぎるわ。 」
「 あの男…? 」
「 スネイプよ、スネイプ! ほら此処見て、アイツの性格の悪さが手に取るように判るわよ!! 」
一口含んだだけのカップがテーブルに置かれるのと引き換えにして、ハーマイオニーは積み上げた教科書の一番下部にある草臥れた羊皮紙に包み込まれた分厚い
辞書を開いて見せた。
咄嗟に目を覆いたくなる様な難解な単語がツラツラと並んでいる羊皮紙、活字を恐る恐る掬い上げて見れば、如何やら魔法薬学に関する文献の一つだと、内容は
判らずとも推測は出来る。
次講義は魔法薬学ではなく、マグル学だった筈。明らかにマグル学に関係の無い魔法薬学の文献をハーマイオニーは持ち歩いているのだろうかと首を傾げてみれ
ば、栞代わりに挟んであっただろう草臥れた羊皮紙には酷く似つかわしい真新しげな羊皮紙が目を目を引いた。
「 …誰の字? 凄く綺麗な字…ハーマイオニー、君の筆跡とは違うみたいだけど? 」
「 の字よ、多分ね。 」
「 ? 如何しての書いた羊皮紙が挟んである本を君が持っているのさ? 」
「 毎回質問が多いけど…の事に為ると其の量が膨れ上がるのね、ハリー。 」
「 そんな事如何でも良いから早く教えてよ、ハーマイオニー!! 」
首根っこを摑み上げて無理矢理供述を取ろうとするかの様な物言いに呆れつつも、ハーマイオニーは昨夜図書館で起きた出来事をハリーに話した。
返却予定の本を借りる為に図書館に行ったら、其の本を誰より先に読んでいたのはで、其ればかりか夥しい量の魔法薬学関連の本を必死に羊皮紙に書き留め
ていたこと。
敢えて言われはしなかったが、スネイプから課題でも出されたのだろう…開かれていたページの本はどれも難解を極める文献ばかりで、夕食を取る事も忘れて没
頭していたこと。
存在を認知されぬ生徒故に図書を借りて帰ることが出来ないに勝手なる世話を焼き、今手にしているこの本を一日だけ貸す交換条件として、が見ていた
全ての本を借りてあげたこと。
そうして、昨夜部屋に帰って来て本を開いたら栞代わりのこの羊皮紙を見付け、如何やらがスネイプに課題を出され其れをこなす為にありとあらゆる魔法薬
学の図書を調べ上げているのだと知った。
羊皮紙に走り書きされていたのは内容を推測するには酷く情報の足りて居ない単語の羅列だったが、内容を想像させるには充分過ぎた。
明晰な頭脳を持ち合わせるハーマイオニーに取って、三年もの間見てきた客観的なスネイプの捻くれた性格から事を推測するのは、締切が週末までのレポートに
比べれば造作も無いことだった。
「 …で、協力してあげるの? 」
「 そうしたのは山々なんだけど…私も知らないのよ、納言草。 」
「 勉強が趣味みたいな君でも知らない事があるんだなんて、奥が深いね、魔法薬学は。 」
「 感心してる場合じゃないわよ。 私たちに何か出来る事、無いかしら… 」
「 無理じゃない? 魔法薬学に長ける君でも無理な事を僕に出来る訳が… 」
「 貴方はどっちの見方なのよ、ハリー! なの?其れともあの最低男なの!? 」
然して興味も無さそうに言い切ったハリーの言葉に、聞き捨て為らぬとハーマイオニーは声を荒げた。
昨日の朝食での会話がまるで嘘か夢幻かのようなハーマイオニーの態度に、図書館での出来事以外にも彼女の心を揺り動かす様な何かが合ったのだろうかと、詮
索してしまうのは人の常。
元々情に左右されやすい人間だと言う事はこの三年の付き合いで知っていた。しかし、たった一日…其れも一時間にも満たない間に感化されてしまう程単純な人
間だったとは記憶していない。
何気なく彼女の顔を見れば、深遠の熟れた穂先の輝きを見せていたその眼が一瞬、深い蜂蜜色にも見えた。
何かを深く思い詰めている時の瞳の色。
「 何を朝から言い合ってるんだよ?二人とも。 朝食の時間に遅れる。 」
「 ハリー、この話は朝食後にまたしましょう? 今は食堂に向うのが先決だわ。 」
不毛に見える言い争いに終止符を打ったのは、眠たげな瞳を携えて寝癖も其の侭に片欠伸をしながらローブを引き摺ってきたロンの言葉。
誰よりも先に言葉に反応を示したのは規律に煩く従うハーマイオニーで、ハリーと会話していた事等然して重要でも無いとばかりにテーブルの上の教科書を小脇
に抱えて扉に向った。
「 朝から何の言い争いさ? 」
「 の事だよ。 」
「 ハリー…また例の転校生? いい加減関わるのはよそう。 寮も違うし、昨日のマルフォイを見ただろう?
あれに立ち向かうなんてどうかしてるよ。 」
「 …その台詞、そっくり其の侭ハーマイオニーに伝えて説得してよ。 」
其の言葉に呆けた様な表情を隠す事無く、ハーマイオニーが消えた扉とハリーの瞳を交互に見詰め、一体何がどうなっているのかと言わんばかり。
ちゃんと説明しろよ、と言ったロンに対し、ハリーは面倒そうに小さく溜息を一つ吐いて見せると立ち尽したままのロンを引き摺る様にして談話室を出た。
扉の外には普段行動を共にするハーマイオニーの姿は既に無く、食堂へと急ぐグリフィンドール生の波に溶け込む様にハリー達も足早に歩く。
ハーマイオニーのこと、大方早めに朝食を済ませてに文献を渡しに行くのだろう。そうでなければ、態々重たい教科書を何冊も抱えて朝食には向わないだろ
うに。
「 …で?君はハーマイオニーの言う様に協力するって? 」
「 う…ん。 マルフォイが絡んで来るのは腹立たしいけど…でも、本当に良い子だったんだ、は。 」
一時間に満たない時間で側に回ったハーマイオニーの事等言える筈も無い位にハリー自身も、自身が関知せぬうちに絆されていると、ロンはあからさまな溜
息を零した。
こう云う状況、ハリーかハーマイオニーか、切り出す相手はこの際誰でも良かった。こう云った状況に陥った際、此れから起こりうる事が、原則規則さえ無い
なぁなぁの世界に叩き落される事を三年の月日の間で知っている。
まるで腐った運命の糸為るものが引寄せ手手繰っているかの様に狂った歯車は動き出したら最後、終焉を見届けるまで壊れる事は無く、其の轍に乗ったら最後…
意志とは関係なく巻き込まれる。
しかし実際のところ、ヴォルデモートやらリドルやらディメンターやらが絡んで来たホグワーツでの三年間、平穏無事に過して腑抜けた学生気分を謳歌している
のに比べれば何倍もマシだろう。
身の危険に晒されること以前に命の危険に晒された事等、其れこそ数えただけでキリが無い位に膨れ上がる。
其れでも…、
其れでも【生まれ出でた事を望まれる】側と【生まれ出でた事を疎まれる】側の両極端に人間が分かれる運命を背負ったHarry
Potterに出会え、交友関係を持てた事を後悔こそすれ誇りに思う。
乗り掛かった船、そんなものが世界に本当に存在するならば生まれた時からだろう。生まれた時既にロンの乗り掛かった船の船道標は決まっていたのだ。
何時如何なる時もハリーを護り命さえも惜しいとは思わなくなっていた。怯えも、悔恨も、胸の内に沈めたかの様に競り上がらなくなり、寧ろ彼を失う事の方が
精神異常を来たす程。
「 …と言ってもなぁ…単なる色恋沙汰に協力って、如何なのよ。 」
駆け出していったであろうハーマイオニーの後を追う様に足早に石畳を蹴るハリーの数歩後ろを歩きながらぼそりと呟けば、如何したの?と浮き足立った様なハ
リーの声が背を押す。
惹かれている原因…色恋は相手への興味から始まるんだっつー事を知らないんだろうな、ハリーもマルフォイも。
そんな事を思いながら行き着いた食堂で知った顔を見付け、ハリーが一目散に彼女の元へと足を速めた。
幸いな事に、未だマルフォイの姿は食堂には見当たらない。
「 お早う、。 迷わず図書館へは行けた? 」
「 おはよう、ハリー。 図書館で…貴方の友達に逢ったわ。 ふわふわの髪の可愛い女の子。 」
「 ハーマイオニーだね。 あ…、そう云えば君を探して談話室を駆け出していったけど…ハーマイオニーには逢った? 」
「 ううん、逢ってないけど…行き違いになっちゃったのかな? 」
心配そうに食堂の入り口を見回すだけれど、其処に求めた人の姿は無く、慌しく駆け込んでくる生徒の姿しか見えない。
其の最中、ハリーの丁度真横に息を切らせて走り寄って来る赤毛の青年。見た事の無い人だと、が視線を投げれば、交わった其の先で同じ様に微笑まれた。
ハリーの友人なのだろう。ハリーの元に駆け寄った瞬間、ハリーにハーマイオニーが居ない旨を問うていた。
案の定、此処には居ない事を知れば、思い出した様にに向き直って手を差し出し自己紹介をする。
其の、矢先。
「 、向こうでマルフォイのヤツが君を呼んでる。 」
「 有難う、ロン。 折角お話できたのに…また、今度ね。 」
「 じゃあ、放課後なんて如何? ハーマイオニーとロンと一緒に図書室で待ってるよ! 」
去り際、の腕を摑んでそう言えば、柔らかな微笑と共に肯定の返事が返って来た。
それに気を良くしたハリーがハーマイオニーの姿を探そうと後を振り返った瞬間、ロンは、見た。
無感情な蒼瞳に隠された感情の澱み。
劣等感に似た怒り、己のモノに手を触れられ憤慨する苛立ち、最も侮蔑する対象に己の近しい者を傷つけられた様な憤怒。
其れ等全ての感情を破滅的な密度で煮詰め、一気に視線だけでぶちまけている様な凍った殺意に似た視線に、ロンとハリーは曝されていた。
アイスブルーの凍て付く瞳色に似た、人を蔑む様に睨みつける鋭利なドラコの瞳に。
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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/9/11