| last scene ![]() day-74 :さあさあ画策を繋いで終わりのない旅の始まりへ 其れはある日の放課後。 何時ものように、図書室を放課後の集合場所か何かと勘違いしたか其れとも予め申し合わせた様に、 とハーマイオニーが仲良く二人で天窓の下で読書に勤しんでいた。 普段は共に在るロンもハリーもドラコも、ここ数日先延ばしに延ばされたクィディッチの『スリザリン寮対グリフィンドール寮』の試合で勝利の一戦あげる為に、講義終了後は教科書を抱えたまま我先にとクィディッチ競技場へと駆け出して行く。 勿論ハリーとドラコは互いに敵対心剥き出し状態で、 に勝利の言葉を告げる為だけに普段の倍以上に精を出し、ロンは他にする事も無いからハリーに付き合っているという、最近は良く見るようになった放課後の日常。 (……何よ、動物園のパンダじゃあるまいし) 静謐な空気に包まれた図書館を視線だけで見回して、ハーマイオニーは内心溜息と悪態を吐いた。 最近になって良く見かける光景のうちの一つが、此れだ。 が転校してきた当初は矢張りあのスネイプに疎まれている少女、と云う不吉なレッテルが貼られた所為か、 の傍に近寄る生徒の姿など見掛ける事はなかった。 スリザリン生で に話し掛けるのはマルフォイかパンジー位のもので、グリフィンドールに至っては、ハリーとハーマイオニーとロンの三人だけ。 ハッフルパフとレイブンクローの生徒は、 を視界に入れようともせずに、脇を通る時でも我関せずの精神だ。 マグルでも無いというのに、同じ寮であるスリザリンの人間からも疎まれている様な に心痛していたものの、この頃は如何も様子が可笑しい。 最近は、ハーマイオニーでさえも名も知らぬハッフルパフの上級生やスリザリン生までもが、態々 を見る為に時折図書室を訪れる様になった。 勿論、【スネイプに疎まれた少女】、を面白がって見に来るなら未だ救い様があるものだが、見に来る人物の実に9割が男で、色とりどりに咲き綻ぶ艶やかな花でも愛でるかのように を見詰めては、感嘆の溜息を漏らし恍惚とした表情を零す。 女は恋をすると美しくなる、と揶揄されるが、淡い薄紫色の瞳が草臥れた羊皮紙を一瞥するだけの動作にも周囲の男の心持ちが揺れるのは、もはや其れに該当すると呼んでも良いだろう。 (馬鹿ね、あのスネイプに太刀打ちできる人間なんて居る訳無いじゃない) そんな下らない事を考えながら、文献の最後の一枚を捲り文末まで視線を走らせ、ある一文で、偶然手を止めた一瞬のこと。視界の端では、窓の外では飴色の塊が空を焼き一杯に広がりながら溶けている。 夕闇に近い空を見詰めながらふと、如何でも良いのだろうが妙な疑問がハーマイオニーの胸を競り上がった。 「ねぇ、 …」 「ん―?」 空気が動く。 如何かしたのか、と視線だけで問い掛けた に対し、物言いたげに形の良い眉が上がる。 ふわりと厭味無く微笑まれ、 が、「そう言えば数日前にもこの微笑みを見た気がする」と思いあぐねいた瞬間。 困ったような笑いを浮かべたハーマイオニーが、艶めいた色に濡れた唇から、物凄い科白を吐き出した。 「ねぇ、私のことなら気にしなくて良いのよ?一日位なら、貴女と一緒に朝食に向わなくても夕方こうして会えれば寂しくないもの」 「……一日?大広間?私、朝から出掛ける用事なんて無いけど?」 ハーマイオニーは一体何を言っているのだろう、思わず口から困惑が漏れた。 頭に数個の疑問符を乗せ上げた の手から、乾いた音をたて新しい紙の束が置かれ、其の上を走っていた羽ペンの音が途切れる。 「一体、如何したの」と言おうとした唇は、言葉を告げる前に放たれたハーマイオニーの言葉に潰される羽目に為った。 難解な魔法史の勉強に費やされ低迷し始めた思考回路の次の仕事は奇しくもあの時と同じ様、ハーマイオニーが告げた言葉に対する返答を考えることへと変貌せざるを得なくなった。 「違うわ、何時……彼と"夜明けの珈琲"を飲むのかしら、と」 「え?よあ…………夜明けの珈琲?」 「そうよ、だって恋人同士だもの、同じベットで寝るくら――――――――」 ぽかんと空いた口を塞ぐ事も忘れ、ハーマイオニーの言った意図と意味を理解するまでに数瞬掛かったが、次第にハーマイオニーが言いたい意図の十分の一程度理解出来た瞬間に、慌てて掌で覆い被せる様に言葉を遮らせる。 何も図書館でそんな事を言わなくても良いだろうに、いや、そもそも自分とスネイプは恋人同士であり放課後と就寝時間までを共に過ごすが、『夜明けの珈琲』を飲む様な間柄とは程遠い。 ハーマイオニーが云う所の『夜明けの珈琲を飲む間柄』と云うのは、単純に二人仲良くベットに入って、はいおやすみなさい、という子どもだましにも為らない行為をさしている訳では無いだろう。 そうなれば、自分とスネイプの間柄など、『夜明けの珈琲』には程遠い、寧ろ一緒に居ると気恥ずかしくてまともに顔すら見れない事が多いと、そう言って納得させようと見れば、その瞬間、可笑しそうに蜜眸が弧を描いた。 「相手は………だものね、聞いた私が馬鹿だったわ」 「あの、その別に…」 「あら、夜明けの珈琲までは飲んで無いけど、一緒には寝ている、見たいな風体ね」 「いやだから、えっと………………………ハーマイオニー、若しかして、楽しんでる?」 あら、そんな事無いわよ、と笑うハーマイオニーの態度の柔和さに、 が心中で抱いていた密やかな自分への呵責は滅し始め、ハーマイオニーのペースに上手く乗せられているのだと知ってしまえば、反射的にその動揺を押し隠すために顔の表情は硬くなってしまう。 「もう、怒れなく為っちゃったじゃん」 「あら、如何して私が に怒られなければ為らないのかしら?」 にっこりとしたハーマイオニーの微笑みに、 は酷く弱かった。 ぽんぽんと投げられる自分への話題に否定する事が出来るうちは未だ の方が有利だが、時折こうして僅かでも的から外れる事をハーマイオニーが言い出し、其れを訂正すれば、其処から一気にハーマイオニーのペースに引き摺り込まれて行く。 ハーマイオニーの思考を訂正する事で、話に区切りをつけようとするのだが、話に区切りをつけるどころか逆に加熱し始める。 つまり、ハーマイオニーの話を訂正し始める事、其れが全ての逆効果になってしまうことは既に過去に経験済みだ。 にこにこと屈託無い柔らかで綺麗な笑顔を見詰めていれば、緊張の糸が途切れたように安らぐ自分がいた。 昔は人に依存するとかしないとか、誰かに縋るとか縋られるとか、誰かに必要とされるとかされないとか、どこかで自分以外の人に依存しようとしている弱さが、忌々しかったりもしたが、今ではそんなものは夏の風と共に彼方へと飛び去った。 胸の内を曝け出しても、良いのではないかと思い始めたばかりだと言うのに、今度はハーマイオニーに友人として依存しても良いのではないかと思う情け無い自分が居るのだ。 だがそんな の小さな悩みを余所に、ハーマイオニーは急に話を変えてきた。 まるで、此れが本題だとでも言う様に、眼から星が幾つか散っていたのは、 の気のせいだけでは無い。 「ねぇ、 。私ちょっと思い付いたんだけど」 「ん?何、効率の良い魔法史の覚え方?」 「違う違う、ほら、明後日休みじゃない?だから……………………」 「みんなで、ホグズミードに行かない?」 にっこりと微笑むハーマイオニーに速攻否定の言葉を述べる事ができず、丁度良いタイミングで鳴った夕食を告げる鐘の音を合図に、話は其処で無理矢理に終止符を打たれた。勿論、ハーマイオニーの都合の良い場所を最後として。 は独り図書館から借りた本を二冊胸に抱いて、何時もは夕食後に歩くだろう魔法薬学研究室へと向う廊下を歩いていた。 高い夏の太陽が傾き、漆黒が空を翔る時分。 昔は恐ろしくて堪らなかった図書館から魔法薬学研究室…基い、スリザリン寮までの道筋は、既に別物に成り代わっていた。 翳る太陽に照らされ、虚ろに後方へと伸びる影と其れよりも遥かに長くひかれた薄暗い廊下は、冷え切った空気と静寂に満ち溢れ。古代の遺跡か何かの様にぴたりと閉じられた大理石に左右を囲まれた廊下は、空の蒼と太陽の紅が飽和した薄暗い色に満たされ、しん、と静まり返る。 普段なら早足で駆け抜けるこの廊下も、考え事をしている真っ最中となれば逆に心を平静に保ってくれる効果があるようで、人の気配が消える世界を唯足を前に進めながら は歩いていた。 (そうね、ハリーやロン、…まぁ、マルフォイも加えても構わないわ、ダンブルドア校長にマクゴナガル教授、あとはハグリッドに…スネイプ教授と 、みんなで一緒にホグズミードに行きましょうよ!) まるで予想もしなかった科白に、 は一瞬言葉を失った。 其の後にハーマイオニーが告げた、 「ハリーとロンとマクゴナガル教授とハグリッドは私から話をするから…あとは 、宜しくね。…特に、スネイプ教授を説得するのが大変だと思うけれど」 と去り際に手短く の持つべく役割を述べたハーマイオニーは、夕食を告げる鐘の音と共に図書室を後にした。 勿論 も食事の為に大広間へと向おうとしたのだが、ハーマイオニーから有無も言わさずに提案された明後日のプランについて、なるべく早めにスネイプの耳に入れておかなければならない、と妙な予知に似た確信が心を鷲掴みにしている。 少なからず、 とてハーマイオニーが提案したように、みんなでホグズミードに行けたとしたら、(確かに多くの問題を抱えていくことになりそうだが、)それでも凄く楽しいだろう。 …となると、如何ドラコやダンブルドア校長、スネイプ教授を説得させ、みんなでホグズミードへ行ける様に誘おうか。 名案といえるべく策は浮かんでこない。 ただ、浮かんでは消えていく綿雲みたいな画策が、次第に の頭の中をせしめていき、ドラコやダンブルドア校長は何とか出来ても、スネイプが素直に「行く」と云う訳は無いと悶々と悩む。 何しろ、あの性格だ。強請れば若しかしたら聞いてくれるのかもしれないけれど、「そんなに行きたければ独りで行きなさい」と一蹴されて終わりかねない。 日頃のスネイプの素行を考えれば、ありえない話ではない、益々以って前途は多難だ。 連綿と考えては、明確に見えすぎる暗鬱とした未来に落胆しつつ、 は折れ階段になる踊り場手前で思考回路の殆どを占めていた人物と鉢合わせをし、思わず立ち止まった。 「………スネイプ教授?如何して…」 掛ける声が小さく惑ってしまったのは、大広間に居るだろう筈のスネイプが外套も纏わずに魔法薬学研究室へと通じる道に居るという違和感から。 に言葉を投げられ、「お前こそ如何して此処に居る」、と視線だけで問うたスネイプ。 暫くの沈黙の後、 もスネイプも目指していた場所が魔法薬学研究室なのだという事に気が付いたスネイプが、「付いて来たまえ」、と言う様に先陣切って魔法薬学研究室へと繋がる石階段を下りて行った。 さて、なんと切り出そう。 黒衣の裾を棚引かせ、何処までも深い漆黒の影の様なスネイプの後姿を追い掛けながら、険しい表情で先行き重たい未来を如何塗り替えようかとあぐねいた。 [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/10/13 |