| last scene ![]() day-69 :ずっと友達で居ようね、言葉に出せない約束を交わした最後の夏 1 ダンブルドア校長の自室から一旦自室に戻り、部屋に運ばれていたハニートーストとコンソメスープを有り難く頂いたは、先週借りた魔法薬学の辞典と羊皮 紙を二枚持って再びホグワーツの廊下を歩いていた。 目指す場所は図書館、別に誰と待ち合わせした訳でも無かったけれど、図書館に行けば誰かに逢える気がした。 逸る気持ちを抑えながら動く階段を登り、外からの雑音を拒む様にキツク閉ざされた扉を開いて閲覧禁止の棚まで足を進めればの予想通り、緩やかな金色の髪を風に靡せ静かに読書をしていたハーマイオニーを見付けた。 「こんにちわ、ハーマイオニー。昨日は行けなくてごめんなさい」 静まり返った静謐な図書館。読書に勤しむ生徒の邪魔に為らぬ様に小声で囁く様に言えば、本から視線を引き剥がした蜂蜜色の双眸に見詰められふわりと微笑まれる。 律儀にも読んでいた本に栞を挟み閉じて、ハーマイオニーは促す様に隣の椅子を引いてくれた。座ったら、と言わないさり気無い心遣いが何だかハリーに似てい て微笑ましい。は素直に「有難う」と告げて腰を落とした。 「気にしないで良いのよ……って思ったけど、がそう言うなら、私の質問に答えてくれたら許してあげるわ?」 14歳の少女らしからぬ艶を含んだ唇が、詩を諳んじるように言葉を紡ぐ。 良からぬ悪巧みでも思い付いたような口振りで穏やかに微笑むハーマイオニーに、は普段は無い違和感を覚えて軽く眉を顰める。こう云う時の『質問』は大 概が良から ぬ方向へと手足を伸ばす事を知っている。 とは言え、ハーマイオニーが自分にする質問の種類など疑ってかかる様なものでも無いだろう、と無意識に鷹を括る。 「勿論、質問に答える位で良いなら、全然」 ふわりと微笑みながら返せば柔らかい陽光に照らされていたハーマイオニーに、薄紫の双眸に映る何かを見詰めながら稚い表情で微笑まれる。 その余りに穏やかな表情に、告げられる質問の内容など、他愛無い事だろうと自然と予想出来る。 「私…ずっと思ってた事があるの。仲の良い女の子の友達が出来たら、色々な話をしたいな、って」 「それは私も同じだけど…如何したの、ハーマイオニー」 だが、此れが過ちだと気付いたのは、ハーマイオニーの金色の双眸に見竦められて、密やかな声で齎された質問の内容を聞いてから。その瞬間の、形容に尽くせ ない情動で一つ大きく跳ねた鼓動を、ハーマイオニーは知らない。 「だからね、先ずは私の知らない間に出来ていた……の『恋人』の話が聞きたいわ。」 何の厭味無くふわりと告げられた言葉に、は具に呼吸を飲む。 予想に反して鼓動を早める心臓を意識し無い様に平静を努めて見れど、余り成功したとは言えないだろう。ドキリと高鳴った心臓の音さえハーマイオニーに聞こ えて居ないかと案じている時点で、何よりも隠さなければ為らない顔色が隠しきれて居ない。今更何事も無かった様に逃げ切れる程、ハーマイオニーは優しくは 無 かった。何も無い表情をしてみたところで、既に嘘の上塗りだとバレて仕舞う。 如何しようかと思慮すれば、自然と其の場繋ぎの言葉が口を吐いて出る。 「えーと…」 だが、途端に言葉に詰った。 至近距離にハーマイオニーの顔が在る為、の僅かな表情の変化でさえハーマイオニーは敏感に感じ取っている筈だ。だから、此処で「恋人って、一体何のこと?」と言うのは余り得策ではない。聡明なハーマイオニーの事だ、既に何らかの確証を得てに話を振って居る事だろう。 (困ったなぁ…) とは言え、あっけらかんと「スネイプ教授と付き合っています」と言うのも気が引ける。否、そもそも、スネイプとが付き合っている等と公然と公言出来るものなのだろうか。スネイプに直接聞いたところで…いや、聞ける訳等無い。あの怪訝な一瞥を喰らって話を流されでもれば、もう二度と話は振れない。もしかす ると、話をする事すらも叶わなくなるかもしれない。そう連綿と考えれば考えるほど、漠然とした不安と切り抜けられない状況への緊迫感が胸を締め上げる。 あぁ、如何しよう、如何 すれば良い。 ぐるぐると螺旋の様に回っては、結局最初と最後が同じ場所に到達してしまう知能指数の低い思考回路に絶望的になり、頭を抱えて蹲りたい衝動が走る。 「その…」 そう紡いだ言葉も咽喉奥が震え、知らず知らずに掌で拳を作り上げて握り締める。別に何かに耐えなければならない様な状況下に置かれている訳でも無いと云う に、そうせざるを得ないかのように行動にしてしまうのは最早人間の本能だろう。 次に吐き出す言葉が何一つとして見付らぬ侭、曖昧な言葉だけを並べれば、ハーマイオニーはの胸中読み取った様に、太陽の光りに似た金髪を揺らして微笑んだ。 「別に相手の名前を聞き出そうとか、そう云う事じゃないのよ?名前なんて聞かなくても判っているもの。 ただ…ね、純粋にと『彼』の話が聞きたいだけ。 ほら、女の子同士の話で最大に花が咲くのは『恋愛話』でしょう?」 静かに囁いたハーマイオニーの言葉に、薄紫白淡の双眸が思いの外大きく瞬かれた。 相手の名前を聞かなくても判っている、其の言葉に「勘違いしていたら如何しよう」なんて些細な疑問は浮かんでこなかった。勿論ハーマイオニーがの 『彼』であるスネイプを形容する様な言葉を言った訳では無いが、女の勘と云うヤツだろう。ハーマイオニーは知っている。が焦がれ想いを燻らせている相 手の存在、かの名を、…セブルス・スネイプと云う人間であることを。 はハーマイオニーに出逢って既に三週間が経とうとしている。その間に、ハーマイオニーだけではない、スリザリン寮生を除く生徒の多くがスネイプを快く思って いない事は知っていた。 だからこそ、は自分の口からスネイプの事を話す事を躊躇ったが、ハーマイオニーがの 感情を助長し打ち消す様な柔らかい微笑みを寄越すから、軽快な口はスネイプとの事を少しずつ話し始めていた。 ハーマイオニーなら、スネイプの話をしても許される気がした。 ハーマイオニーなら、若しかしたら理解までは行かずとも、スネイプへの中傷を横へ置いて唯黙 した侭話を聞いてくれる気がしたのだ。 長い間暗く狭い塔の中で生きて来たにとって、友達と呼べるような存在は居た験しが無い。だから友達が如何云うものかは判らないけれど、きっと、こう云 う関係を言うのだろう。少なくとも、この時のはそう思っていた。 だから、はゆっくりと馳せる。スネイプと今日まで過ごした、日々を。 腕を組んで、漆黒のローブを纏い、軽く片足を引いた立ち姿。不機嫌そうな表情を一面に貼り付け、冷厳に似た一瞥を投げるスネイプが蜃気楼の様に視界に浮かび上がる。 「どうした、お前には口があるだろう、言いたい事が有るなら言葉で言いたまえ」 今にも聞こえてきそうな、心地良い深い響きを持つ低く甘い声を脳裏に侍らせながら、一つ一つ思い出話をする様にスネイプとの繋がりを紡ぐ。 先ず初めに話したのは、ハーマイオニーに初めて出逢った日、広大なホグワーツで前後不覚に為った際にスネイプに助けられた時の、意外な優しさ。 の第一印象を覆した程の出来事、今でも忘れる事の出来ない、全ての始まりの音が零れた日。 「--------------え、あのスネ……彼が…を黙って寮まで送ってくれたって?」 「そう、意外でしょう?私も減点されるかと思ったんだけど、其れも無くて。ほら、一回ハーマイオニーに聞いた事があるじゃない?覚えてる?」 「あの、深夜偶然にホグワーツ内で出遭ったとしたら…って話?もしかして、あれって実話なの?」 「実話。しかも、私が転校してきた初日…丁度、ハーマイオニー、貴女に出逢った日よ。」 言い掛かりにが苦笑を浮かべると、蜂蜜色の瞳が驚愕で見開く。 「………………信じられない、私、夢でも見てるのかしら…」 心底驚き、搾り出した様な言葉の後で、ハーマイオニーは柔らかい頬を抓る。「痛いから夢じゃない」と云う言葉に、は堪えていた笑いを押し殺しきれず に、噴出した。 そんなに笑う事無いじゃない、と即座に切り替えしてきたハーマイオニーに謝りながらも、が抱えた愉楽はそう簡単にはおさまらないらしい。目尻に僅かに 涙を溜めるに、攣られる様、終いにハーマイオニーも笑う。 他愛無い恋愛話、そんなものが出来る様に為るとは思っていなかったにとって、今の状況は予想外のものだった。 いつまでも何も知らぬ子どもの様に無邪気に笑っていられる訳ではない。けれど今は、この些細な幸せに浸って居たくて、口元に微笑を湛えながら眼を伏せる。 そんなの気持ちを知る由名も無いハーマイオニーは、小さく息を吐いて肩を落としたように目を細めた。 「私…やっぱり今でも苦手よ、引見だし、直ぐに減点するし、何かにつけてスリザリン贔屓するし。」 いつだって冷徹な眼差しで、地上を這う愚者を見下ろすような高慢な態度と息も凍る様な冷瞥を投げるスネイプ。 スリザリンを贔屓しグリフィンドールを眼の敵にするさまは今に始まった事ではないし、此れから減少する傾向にあるとも思えない。何せハーマイオニーの記憶 回路には、3年間分のスネイプの 姿や声、況して行動や性格が根強く印象付けられているのだ。今更二週間やそこ等で綺麗に塗り替えられ良い思い出に為るとは思えない。 だから仮に、にスネイプの印象チェンジを頼まれたのなら、前途は多難だ、何せ180度違う人物像へ記憶を入れ替えろと言われているも同然なのだから。 「でも…、意外と良いところもあるって判っているわよ?ハリーを何度か助けてくれたのは事実だし。」 其れがスネイプにとって、気紛れか興味半分か意図が在っての事かは定かでは無いけれど…唯一つだけ言えるのは、昨日ダンブルドアが言ったように、セブル ス・スネイプと云う人物は酷く不器用で不器用故に人に誤解される点が多くあるのではないか、と言うこと。 己の感情を直接的に表現せず、況して、表現出来ぬ感情を他者理解して貰おうと云う心意気も無い。だから人はみな、スネイプのような人間を見ると第一印象や 慣れ親しんだ素行だけが印象付けられてしまい、他の部分に眼が行かなくなるのだ。 勿論、そう思索しているハーマイオニーもそんな人間の独りだ。事実、との母である桔梗の事が無ければ、こんな風にスネイプについて彼是思慮し、客観的他 視として見ることも無かったのだから。 「それにね------------、が眠っている時に見せた表情と感情、あれを見れば誰だって納得するわよ。」 「え…、私が眠っているときに何が有ったかは聞いたけど…なに、表情と感情って」 「本人に聞いてみたら良いんじゃない?勿論、あの性格だもの、流されて終わるでしょうけれど。」 健康そうな色合いをしたハーマイオニーの唇がふわりと笑みの形に綻んでいく様は、とても愛らしいのに何処か厳かな印象で画集の中の人物のようですらあり、 とろりと蜜を絡ませた瞳の色で、を見詰めて微笑むさまは、酷く絵に為った。 [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/8/23 |