| last scene ![]() day-67 :何でもいいから証を下さい、確かに此処にいた、唯一の証を 黒衣を纏った無愛想な男と、白い顎鬚を携え穏やかに微笑む壮年の男、漆黒のローブを身に纏った幼い少女が大理石で作られた部屋の一室である男と対峙してい た。 音も無く揺らぐ見事なまでの白銀の髪、切れ長の瞳から垣間見える鋭利な薄蒼の双眸。氷の如き冷ややかさと、他を圧倒する優雅な美貌。 申し合わせた様な装飾過多とも言える正装、人など眼中に無い様に何処か遠くを見詰める仕草、 薄く開いた唇からは今にも嘲 笑が聞こえて来そうだ。 彼、ルシウス・マルフォイはダンブルドアの報告により、聊か予定よりも早く従者を引き連れてホグワーツを訪れていた。 コーネリアス・ファッジ、現魔法省大臣が下した勅命は絶対だ。誰人たりとも違える事は出来ない。 以前ルシウスがダンブルドアの元へ訪れた際に告げた命、が三日以内 に眼を覚ませば帰る其の日までホグワーツに居れる、唯それだけの命令を遂行する為だけに、彼は後ろに控えた従者達と共に遠路遥々此処まで来ている。 「先ずは--------------初めまして、ミス …いえ、失礼致しました、Revalue王国第14代皇女殿。」 慇懃無礼に一礼したルシウスは跪く様に腰を折り、両脇に垂れていたの手首をそっと持ち上げ、恭しく甲に口付けた。Revalueと云う一国が事実上滅 んだとはいえ、Revalueは魔法界で上位を争う純血一族のみで築き上られた王国。 歴代からの純血一族マルフォイ家と云えど、Revalue王国…其れも王族と為れば立場は逆転する。 例え相手が14歳の子どもだろうが乳飲み稚児であろうが、ルシウスに年齢や性別と言った概念は無かった。純然な魔法一族の血がどれ程流れ、どちらが魔法界 に於いて絶対的な立場に居るか、興味も関心も服従すべきも軽蔑すべきも全ては其処にありき。 が呆然とルシウスを見詰める最中、ルシウスは言葉を続ける。 「本日私が此処へ来た用件は聞いていると思いますが、勘違いされないで頂きたい。 我々魔法省は魔法界から畏怖すべきものが消滅し喜悦しているのではありません。寧ろ、逆。 かのヴォルデモート卿が完全に復活し、其の傍に嘗ての友人が居るという事実を危惧しているのです。」 貴女のお母様ですよ、とルシウスは微かに口元に薄く笑みを浮かべる。 薄く笑みを浮かべていると云うに、研ぎ澄まされた刃物を思わせる冷ややかさと怜悧さをルシウスは纏っていた。子どもに向ける視線ではないと、ダンブルドア もスネイプでさえも思う。 だが眉を潜め、目を眇め怯む事なく、真っ直ぐに見つめ返してくる薄紫の視線。嘗て学び舎で見た彼女と同じ気高く鋭く切る様な眼差しに、ルシウスの胸中に懐 かしさが込上げる。 瞼閉じた姿もそれはそれは"宵闇の白百合"と称された彼女----------桔梗に似ては居たが、眼を開いた姿見れば嘗 ての桔梗の姿と紛う事無く重なった。納得する。通りで、あのスネイプが固執するわけだ。 唐突にルシウスの脳裏に過る。最後の、日。桔梗がホグワーツから消えたあの日、花が鏤められた庭先で桔梗が姿を消す間際の、凛とした笑顔。思い浮かび、ル シウスは心に暗い膜が落ちてくるような錯覚に囚われた。次いで意識を眼前の子どもに戻せば、あの日の桔梗と同じ薄紫の眼が止まる。 瞬間、浮かんだ想いをすぐに打ち消した。 「…ですが魔法省としては、貴女に一滴の責任も無いと黙認しております。 つまり、どの様な形で魂だけの貴女が現世に存在出来るかと云った現実的概念を排除した場合、貴女は魔法省から存在を認められるべく価値のある存在なので す。 アルバス・ダンブルドア殿は判っていらっしゃらない様子ですが、貴女はRevalue王国第14代皇女。今は無きRevalueの血を継ぐ最後の末裔。 魔法省…いえ、魔法界は貴女を保護し庇護する責務があるのです。」 感情籠もらぬ冷厳な声で淡々と紡がれる話を、は半分他人事の様に聞いていた。 この男性、ルシウス・マルフォイも自分の母親を熟知しているらしい。スネイプに初めて逢った時もそうだ。皆自分の顔を見詰ては懐かしい思い出が心中巡る事 を拒絶するように眼を背け心を閉ざした様に瞠目する。 そうして向けられる。影を纏った秀麗な美貌に映える、優しさとは程遠い、冷徹な薄蒼の光。はスネイプと嘗て対峙した様に、射抜くような鋭い眼差しで見 詰めた。絡まる両者の視線、透通った宝玉に似たアメジストを思わせる薄紫の瞳がルシウスの心を激しく揺さぶった。 「折角綺麗な貌をしていらっしゃるのにその様な表情をされてはいけません、私は貴女に危害を加える為に此処へ馳せ参った訳では在りませぬ。」 微笑んだとは程遠い苦笑を交えながら、の思考を具に読み取ったルシウスは、益々強張る繊細な容貌を愛でるように眺めて告げ、左手を軽く挙げる。 刹那に後方に控えた従者が一巻きの羊皮紙と羽ペンを携えルシウスに手渡す。彼は其の侭「失礼、」とダンブルドアに侘びを入れてから羊皮紙に施しているので あろう服従の魔法を解除し、羊皮紙の両端を両手で持ち広げた。 Revalue王国第14代目皇女 ・ 魔法界に於いて1994.7.31終日までの存在を許可し、寄宿先を ホグワーツ魔法魔術学校とし、後見人を現ホグワーツ魔法魔術学校校長アルバス・ダンブ ルドアである事を此処に認可する。 魔法省大臣:コーネリアス・ファッジ 「異存が無いようでしたら、此処に、署名を頂きたい。」 余りに無機質なルシウスの声に、ダンブルドアが一抹の不安をおび、隣に置いたを見詰めた。 簡素な造りの机上に静かに鎮座する宝石が鏤められた羽ペンをへと手渡し、先ずは君から、と促した。羽ペンを受け取ったは暫く羊皮紙を見詰め、含み 笑い浮かべる。 の淋しげな表情には、羊皮紙にサインした後事の顛末を予知しているかのような色さえ滲む。 その横顔は、とても静かで寂寥に満ちた憂いが差し、ダンブルドアとスネイプはそんな儚くも見える孤独な子どもの姿に、胸が締め付けられるような切なさを感 じた。 「……署名をすれば…、1994年7月31日まで私は此処に居る事を認められるのですか?」 「左様で御座います。 本来ですと貴女がホグワーツに転校してきた日に署名すべきだった書類ですが、其方にいらっしゃるアルバス・ダンブルドア氏が魔法省への報告を暫し怠った 為、日が経ってしまいました。」 痛み伴う静寂の中、喪失に繋がる残酷な予言に似た羊皮紙を、覚悟を秘めながら諦観する。 そうしてゆっくりとスネイプを見上げる。其処には全く微動だにしない無表情な漆黒の双眸があった。 視線をダンブルドアに移したは、やがて全てを諦めたように羽ペンにインクを付け、自身の名を書き記した。羊皮紙が乾かぬ内に羽ペンをダンブルドアに渡 し、彼も署名した事を確認すると、ルシウスが羊皮紙に再び服従の魔法を施す。するすると独りでに端から巻かれ始めた羊皮紙は元在った様に一巻きされた状態 に還ると、従者が厳重に魔法が掛かった鞄へと仕舞いこむ。 其処までを見届け、は艶然と微笑んでみせた。 「1994年8月1日が来れば、書類は如何なるのですか」 「消滅します。 この種類の書類は有効期限が定められていて、期日満了と共に自然に消却されるため、情報が漏洩する事は有り得ません。」 ルシウスの言葉に、は思考する。 望む未来の価値すら見出せず、何も無い空虚な世界で生きる虚無こそが当然だった。けれど、スネイプやダンブルドア、ロン、ハリー、ハーマイオニー、ドラ コ、彼等と出逢ったその時に、初めて世界の意味を知った。 知れば、ひとは欲する。望んでも得られぬ未来だと知っていた、だから未来を渇望する事は在っても欲する事は無い。 だけど一つだけ、欲しいモノがある。幸せは長くは続かない、期間限定の命だと云う事も厭と云うほど判り切っている。 だからこそ、数日後には跡形無く消えてしまう存在だからこそ--------------- 「私が"生きて"いた証は…何一つとして残らないのですか」 の言葉に眉根を寄せ、侮蔑を含んだ視線を浴びせながら口を開いたのは、ルシウスが後に置く従者の一人。 「残りません、記憶だけは抹消せずに残しておきますが、其れだけです。 元来、貴殿は存在してはいけないひと、今此処に居れる事だけでも幸せだと思わなければ。 貴殿一人のためにどれだけの人間が犠牲に為り、どれだけの人が迷惑蒙ったかお解りですか。 Revalue臣民は全て貴殿の母親の所為で死んだ。元々貴殿が世界に存在しなければこの様な惨劇は生まれなかった。たかが一人の子どものために、何千と 居た人間が何の罪無く滅ぼされたのです。 其れだけではない、貴殿を護る為に、コーネリアス・ファッジも、我の上官ルシウス・マルフォイも、ダンブルドア氏もスネイプ氏も、みんな貴殿一人の…」 痛烈な、断罪。 叩きつけるように吐き捨てられた真実は、の思考を全て奪い取った。 紫紺の瞳を零れるほどに瞠ったまま、息をすることも忘れて蒼白になっていくを横目に、ルシウスは不躾な従者の首に杖を突き付けた。 従者に、滾る様な薄蒼の眼光が突き刺さる。 「-------------貴様誰に口を利いているか理解して言ってるのか。」 ルシウスの言葉にはっと我に返った従者は手元のローブを強く握り締めて、搾り出すように声を震わせる。 「も、申し訳ありません、マルフォイ様、出過ぎた真似を、、、」 「私の嘗ての友人を愚弄しているのだぞ、理解出来たら黙れ、二度と許可無く口を開くな。」 従者は理解した様、慇懃に一礼し口を噤んだ。ルシウスは眼も暮れず、に向き直り、同じ様に慇懃に一礼する。 ルシウスの胸中あるのは憤りでも恐怖でもなく、唯救いようがないほどの、憐憫にも似た重く深い哀しみだった。憎む事が出来るのならば幾許か楽だろう。だが 桔梗の想いを、その心を、知っているからこそ、単純に憎むことすら出来ないのだ。 「貴女が生きた証は、皆の心中に永遠とも言える時間、残ります。」 ルシウスの口から吐き出された言葉、己の耳にさえ届くか届かないかのかそけしい音が口唇を掠めた。何時だって大人は、綺麗な言葉で、優しい嘘を吐く。 (何でもいいから証を下さい、確かに此処にいた、唯一 の証を) はルシウスと従者の会話を聞きながら、音に出さず言葉にも表さない侭唯、胸中静かに呟いた。 [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/7/24 |