last scene




day-66 :彼女の微笑みを見ていたいと、彼女が幸せで居るならばと、願った星空の夜






エクステンデット流星群到来で活気だった生徒達が大広間を駆け抜けて行く様を横目で見据えながら、ハーマイオニーは磨きぬかれた大理石の階段を昇ってゆ く。
一段一段踏締めるように登って行く彼女の足取りは想像以上に重たかった。心此処に在らず、文字通りハーマイオニーの心は先ほどのダンブルドアから告げられ た言葉に侵食され、会話の内容が頭から離れない。


「のぉ、ハーマイオニー。お前さんが好きに為った相手と共に居る時間が限られているのだと知れば…
お前さんは如何するかね。」
「如何…、と云うのは?」
「余計な世話だと思われるかもしれんが、の…相手はお前さんも知っている通り、非常に素直とは真逆の位置に存在する男なんじゃ。背中くらい押してやらん と…如何にもならんじゃろう?」
「は、はぁ…」


最初のうちこそ、ハーマイオニーはダンブルドアが一体何の話をしているのかさえも判らない状況下に居た。
だが、人の良さそうな微笑み浮かべた侭の去った扉を見詰め、申し訳無さそうに謝罪の言葉を述べるダンブルドアに、ハーマイオニーは僅かに気が付く。ダ ンブル ドアがに敢えて告げた勧告の意図は、もしかしたら其処に在るのではないか、と。
1000年に一度流れると云う伝説の流星群。其れをハーマイオニー達とではなく、スネイプと見せたい意図があるのかもしれなかった。だが、あのセブルス・ スネイプだ。易々と天体観測などする筈も無い。ダンブルドアが告げたかったのは、そう云うことではないのだろうか。そう思いながら言葉を選んでいれば、


「実は…のぉ、明日はの誕生日なんじゃ。」


言葉の後、全てを悟った。自分が独り心の中でもがき苦しみながら思惟していた事は事実だったのだ。
はスネイプを好いていて、スネイプもまたその好意を厚かましいと思う事無く、暗黙の内に受け入れているのではないのだろうか、と。
だからこそがロンドン郊外で意識を飛ばしスネイプの手によってホグワーツに連れて来られた際も、まるで冷静さを欠いていた様にに触れる事を頑なに 拒むように、近付けさせ無かったのではないか。

ダンブルドアとの会話の中で、ほんの数時間前までの魔法薬学研究室での情景が頭の中で散らついては意識の表層を掠めていく。






仮にそうだとして、ハーマイオニーは、純粋に其れでも良いと思った。脳裏では殊更に繰り返す、がスネイプと恋仲に為ろうが付き合おうが、が スネイプと共に在る時間が増える事によって今の自分達の関係が変わったっていい。

寮はスリザリンとグリフィンドールとで異なるけれど、お互いが望めば触れられる距離に在る。
梟に言伝を頼んだり、合同授業の際にはいつでも、言葉を交わすことが出来る。が帰ってしまう其の日まで、きっとこれからも、何かが変わってしまって も、と自分が友達であることは揺らぐことがない。
絶対的な確信がハーマイオニーには在った。 だが、ハーマイオニーが危惧したのは自身の事ではなく---------



「駄目だった、って…言えば良いのかしら。其れとも、ここは友人として真実を伝えるべき?」


天文学の塔へと続く開け放たれた扉を抜け、吹き抜けになっている空間に出た。
季節柄肌を刺す様な冷えた空気に包まれるとは思っていなかったが、ホグワーツの天辺を凌ぐほどの高さを誇る塔に吹き付ける風は、思ったより冷たかった。
ホグワーツ塔と天文学塔を繋ぐ空中廊下を歩けば、張られている筈の窓硝子から 淡い星光が、床に影を落とし、コントラストを作り出している。
ふと立止まって見上げれば静かに其処に広がっているのは、嘘のような光景。空から無数の星が尾を引いて地上へと吸い込まれるように落ちてゆく。幾重にも連 なり煌く星 の下、手を伸ばせば星が掴み取れそうで、自分が何処にいるのか、忘れかけるような、情景。 それを払うように、ハーマイオニーは歩を進める。


「遅かったじゃないか、ハーマイオニー!は一緒じゃないの?」


凍て付いた扉を開け真っ先に飛び込んできた孔雀緑の瞳に、後退りそうになる。
四畳程の小さな楕円の形をした空間に、沢山のお菓子を広げたロンと、今か今かとの到着を待ち侘びていただろうハリーの落胆した顔が見える。
決して広くない扉。だが、風に揺らぎ仄かに揺れる金色の髪の合間に見えるのはホグワーツ塔だけである事を認めれば、ハリーは半ば詰め寄る形でハーマイオ ニーに問うて来た。


「……若しかして、未だスネイプへの報告書が終わってなかったの?」
「い、いえ…その、終わったと言うか終わらないと言うか…」
「若しかして君、置き去りにして来たって言うのかい?」


は天文学の塔の存在すら知らないのかもしれないし、この場所でさえ知りえないかもしれないのに。


ポツリと零したハリーの言葉に、如何答えを返して良いかが判らなかった。
自然と俯きがちに為るハーマイオニーを気遣う様にロンが扉を閉める為に態々立ち上がり、取り敢えず座るように促した。
「きっとにも何か事情があるのかもしれないよ」と穏やかに微笑んでロンがハリーに告げるが、いまいち説得力がない。其の事情が判らぬ限り……そう、若 しかしたら単に報告書の作成が遅くなって消灯時間ギリギリに為らなければ終らない、そんな事情だったりしたら其れこそ迎えに行くのが得策だろう。
折角1000年に一度だけ星が降る日を迎えることが出来たのだ。思えば益々以って諦める気には到底なれなかった。此の侭ロンとハーマイオニーと星空を見る 事になったとしても、頭について離れないだろう。

今からを探しに行く、そう公言しようとした瞬間、言葉に詰ったハーマイオニーの声がハリーの耳に届けられた。


「ごめんなさい、その…はスネイプ教授と星空を見た方が良いんじゃないかしら、と 思って…」
「なっ-------------、スネイプだって…!?」


ヒキガエルチョコの足を口から出してポリポリと歯で刻みながら星空を見詰めていたロンが、驚いた様に眼を見張ってハーマイオニーを見遣った。声を出した弾 みで歯が足を噛み切り、無残にも地面にヒキガエルチョコが落ちるが、ロンは眼もくれない。
勿論、ロンと同じ様にハリーもハーマイオニーの言葉に目を見開いた。だが、決定的に違うのは、科白を聞いて何を思うか、だ。ロンは大方、普段の魔法薬学講 義中の厭味タラタラなスネイプを思い浮かべたのだろう。だが、ハリーは違う。


見開いた瞳、唯浮かんでくるのは、の穏やかで幸せそうな微笑みだった。


ハーマイオニーが「マルフォイと一緒に…」と言うのならば未だロンと同じ様な光景を浮かべただろう。だが、ハリーが脳裏に描いたのは、間近に瞬いたの 瞳、酷く嬉しそうに笑った表情。
昔は自分以外の異性とが接するたびに心が軋んだ音を立て、理不尽に浮き上がってきた感情に呆然とし、怒りに目が眩むほどだった。

けれど其れが、ある日突然自分の知らぬ心の深い何処かで微少に変化し、大切な友人が幸せであるなら、それは喜ぶべきことのはずだと、無理に心が響いてい た。結果、やるせなく胸に去来した想いを振り払ってくれたのは、当のだった。


酷く嬉しそうに、酷く幸せそうに、酷く優しい眼差しをスネイプに向ける。


其れを見た瞬間、ハリーはひとりでに心に誓っていた。
友人としては必要であるかもしれない、其れは確かな事だ。だが心の拠り所-----つまりは恋人や異性として、にとっては、自分は必要でないのかもしれない。
憤りでも哀しみからでもなく、思い込みや内面の葛藤、況して自暴自棄からでもない、唯静かにハリーは納得したのだ。事実を、受け入れる。けれど、それでもを想い慕い乞う心に変わりはない。だからこの感情を消すことは到底できない。だからこそ、願い、唯祈る、君が幸せで居る事を。


「そう…、なら良いんだ。ハーマイオニーも早く座って見ようよ、本当に星が零れ落ちて来るみたいなんだ。」


頭で一つ納得したように、ハリーは少し表情をゆるめ、孔雀緑の瞳を真直ぐに空へ向けた。
ロンは空いた口をパクパクと魚の様に動かしながら、訳が判らない、と云うようにハリーとハーマイオニーを見た。
ハーマイオニーも一瞬ハリーの言う事が理解出来ず疑問符を浮かべたのだが、数瞬後にはハリーの意図が伝わり、柔らかく微笑んだ。
彼は、自分の想いの帰結を認め、そうして彼女の幸せを心から願ったのだ。
ダンブルドアの言葉を聞いた瞬間脳裏に過ったのは紛れない、遥かな彼方を見据えて切ない表情を零すだろうハリーの瞳。
だが、現実はハーマイオニーの想像通りには為らず、ハリーの心が痛み傷付くのだろうと勝手に思慮したことこそが傲慢だったのだと、思い知らされるように感 じていた。


-------------私、そう云うハリーって素敵だと思うわ。」


その言葉の最後に見せた、優しげな表情。だがハリーはハーマイオニーの方へ視線を向ける事無く、唯空を仰いだ。
ハーマイオニーも返答していた訳ではないのか、ハリーの隣に腰を落とし、ロンが持参したお菓子に手を伸ばしながら、上を見上げる。
気まずくは無いか何処か可笑しい空気流れる中、ロンも二人に習って上空を見据える。
其処には、同じ景色があった。何処から見ても、誰と見ても、変わらぬ唯一つの景色が。

ふっ、と息を吹き掛け、足元を照らしていた燭台の灯りが落とされる。
余計な灯りなど、必要無かった。落ちた灯りよりも密やかにに、暗闇に光を燈すもの。漆黒に覆われた空の彼方、其処だけ切り取って貼った様な不釣合いの月が あった。
月の間際には、数え切れないほどの、美しい、仄かな光を燈し落ちる星が煌く。


(君も見ているだろう?この素敵な星空を。僕も見てるよ、ロンとハーマイオニーと一緒に)































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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/7/12