| last scene ![]() day-65 :堕ちる星と群がる闇、最果てと星座が消えた空 2 大聖堂から真直ぐに自室に戻ってみれば、当たり前の存在がスネイプの帰りを待ち侘びていた。 スリザリン、グリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフ、4つの寮の5年生〜6年生全員分の未採点の課題の山積みだ。無造作に積み上げられた羊皮紙 は紙一重のバランスで山を保っている様で、均衡が崩れれば一気に崩落するだろう。時計を見れば既に20時を回ろうとしている。今直ぐにでも手を付け一日が かりで採点しなければ、到底週明けに生徒に返せる事態には為らないだろう。 仕方なく、真新しい茶葉に湯を注ぎカップへ注ぐと、インク壷に浸した侭の羽ペンを手に取る。此の侭思考回路を羊皮紙の採点だけに費やせるのならば明日の夜 には終わることだろう。だが、部屋に掛け置いた柱時計から荘厳な鐘の音が聞こえた瞬間、全てを壊してくれる人間の声が飛び込んできた。 「申し訳ありません、スネイプ教授…!遅れてしまって…」 ノックも無しに開けられた扉から現れたのは、肩で息をする少女。 廊下を走ると何点減点出来るとか、ノックも無しに教師の部屋を訪れれば何点減点出来るとか、そんな野暮な事は脳裏からすっ飛んでいた。勿論、握り始めたば かりの羽ペンももう既にインク壷に打ち込まれそうな雰囲気を匂わせている。 其処まで慌てて駆けて来ずとも良いだろうに。大方ダンブルドアに何か吹き込まれたのだろう。不安げに此方を見上げてくる瞳と目が合う。----------------遅 れて来た事を悔やんでいるのだろうか。 「----------------別に遅れてなど、居ないだろう。」 「あ、その、ですが…」 「報告書は机に置いてある。日付と寮、学年と名前を記入した後は用紙に書いてある通りに書き給え。 そうだな、22時過ぎには終われるように。」 「え、あ、はい」 淡々とした口調で用件だけ述べると、スネイプは手にした羽ペンをインク壷に返す事無く、空いた手で羊皮紙を手手繰って採点を始めた。此処で余計な話を始め るほど彼は世間話が好きな方では無いし、自ら人に話し掛け場を和ませる様な器量良しでも無い。 流れ落ちた沈黙の帳。は一先ず、スネイプが指示した机に添えられた椅子に腰を落して、冊子状に形成された羊皮紙を一枚捲った。 「…………………………………………」 たった一日の外出の為だけに、此れだけの量の文章が必要なのか。捲った先には、思わず素で嘆息する程羊皮紙の上から下までびっしりと古文書の様に文字が羅 列されていた。 確かに此れを全部書き上げるには相当の時間を要してしまうかもしれない。其れも、羊皮紙はざっと見ただけで眩暈がしそうな程の厚みを持っている。きゅっ、 と口を噤んだは携帯してきた羽ペンをインク壷に突っ込み、速記試験の様な勢いで羊皮紙に文字を埋めていく。洒落に為らない程の質問の山に、自然と眉間 に皺が 寄る。 瘡突いた羊皮紙を捲くる音とさらさらと流れるような羽ペンの音だけが旋律に乗って室内に静かに響く。 まるで単音を奏でるオルゴールの様に鼓膜に忍ぶ音の連なりがふ、と途切れたのは其れから約二時間後の事だった。 「書き終わったかね」 静寂を破り言葉を投げたのはスネイプだ。 が視線を上げれば、片方へ山積みされていた羊皮紙が既に1/5程度逆側へと移動している。遠目から見ても、伽羅色の上に鮮明な赤の塗料は目立つ。この 短時間で気が遠くなる様な量の羊皮紙の採点をこなすスネイプにも感服ものだが、疲れの色一つ見せない表情に驚かされるばかり。 「あとは引率者の名前を書けば終わりです。」 「宜しい、では報告書は其処へ置き給え。其れから-------------、少しばかり我輩に付き合って頂けるかね。」 羽ペンを置き、採点途中の羊皮紙を丸めて文鎮を置くと、小脇に掛け置いた外套を引っ手繰る。 少々強引に引っ張った為、椅子の背がぐらりと揺れるがそんな事はお構い無しに片腕に掛け落としたスネイプに、は首を傾げた。もうじき本格的に夏を迎え ようと云う頃合。魔法で温度調整がされていると云うだけに、外套を羽織らなければ為らないような場所がホグワーツに在っただろうか。広大なホグワーツの一 角しか知りえないが如何頭を捻っても答えは見出せない。と、為ると方法は一つ、問うしかない。 「あ…、の…どちらへ?」 菫色の双眸を包み隠している眼瞼に癖のない長めの前髪が流れている。 まるで迷い子の様に瞳を大きく見開いて尋ねるの小さな身体に、問答無用でスネイプは外套を投げ掛けた。 上質な生地を用いている為か、見掛けによらず重量を為さない外套はの華奢な身体をすっぽりと包み込んだ。呆気に取られ放心状態のに間髪入れず、腰 を折ったスネイプが膝裏に腕を差し入れ無理 矢理に抱き上げた。途端に近付くスネイプの端麗な顔に、白磁の頬に紅が走る。 「ス…スネイプ教授…!?」 「---------------上空1000メートル、空の彼方、だ。」 「…………………は、?」 言うが遅く、スネイプはを横抱きに抱えた侭悠然と自室の窓まで歩き、片手で回転錠外して開け放つと箒を呼び寄せ、躊躇する事無く窓枠に足を引っ掛け窓 から身を投げる。刹那、頃合を見計らっ た様にスネイプの逞しい腕が速度を上げて飛び込んできた箒の柄を掴み、身を翻す様に半回転した後、の身体を抱いた侭の体勢で上空へ舞い上がるように箒 を操った。 速度を増す毎に遠ざかるホグワーツ、人の形どころかホグワーツの城でさえも小さな白い点になり、あっと云う間に暗闇に抱かれた。 見下ろしても見上げても、 暗闇の水鏡を見ている様に深黒の天蓋が天空を覆う光景に、は心奪われる。 「すご……星が掴めそうな位近くにありますよ、スネイプ教授!」 「はしゃぐのも結構だが、落ちて知らんぞ。」 尤も、落ちたところで拾いになど行かぬがな、と付け足しのように添えられ、瞳をきらきらと輝かせ身を乗り出しかけていたの行動が静止する。落ちないか ら大丈夫です、それに落ちてもスネイプ教授は「生徒を殺せない」とか妙な正義感で助けてくれる筈です、そう言い返すに、スネイプはその答えを予想して いた かのような風情で 苦く微笑した。 其の、瞬間。 漆黒の夜空と云う聖流に落つる天の雫を掬い集めたかの様な筋を幾つも描いて、星座から星が零れ落ちた。 幾つもいくつも、数え切れないほどの星が、思考回路を止めてしまうほど数瞬の間に地上に降り注ぐ。 情緒が在るとか無いとか、そう云った無粋のレベルでは無い。地球の引力に引寄せられるかの様、真直ぐに此方へ向かって流れ落ちてくる幾数多の星が空から舞 い散る流星群の様に群れをなし、色味を欠いたpageantの様に霧散した。 なよやかに天から流れ落ちる河が其処に在るかの様に絶え間無く止め処無く終わり無く続く流星群に、紫玉の双眸が煌く。 「本当に…誰かが魔法を掛けたみたいに空から星が落ちて来るんですね…」 「我輩も初めて眼にするが------------エクステンデット流星群、其の字なの通りだな。」 「あざな、ですか?」 「エクステンデット流星群。又の名を1000年に一度、空から全ての星座が消える日。」 文献を朗読する様に無感情に告げたスネイプは腕に抱えたを落さぬ様に抱えなおすと、更に急上昇した。 此処が高度何千メートルなのか、既に理解の範疇を超えていた。だが判った所で如何にも為らない事も知っていた。唯判る事、手を伸ばせば流れ落ちてくる星に 指先が触れるのではないかと本気で錯覚する程、視線の先直ぐ向こうで星が最後の光りを放ちながら落ちてゆく。 漆黒の夜空に無彩の星が消滅し掛ける刹那に焦がす身の丈、儚く哀しいかな、と思いつつも見蕩れ感嘆してしまう幼いはスネイプの腕に抱かれながら、唯一 つの願いを、想う。 -------------------------ずっとずっと…此の侭で居られたら良いのに。 口に出せば藻屑と消えよう浅はかで愚かな、叶うことの無い願いを、秘めやかに星芒へと放った。 「-------------、」 不意に、名を呼ばれ、煌いた星から視線を引き剥がして顧みた矢先、の視界に暗い影が落ちた。 唐突に周囲の鬱葱とした闇に溶け込むような錯覚に襲われ、微かな光りが折り重なって対を成し、星が放つ最後の優しい光すら、漆黒の濡れ髪に妨げられたから なのだと、数瞬後に柔らかな香草の香りに包まれてからようやく気付かされた。 さらり、と流れ落ちてきたスネイプの髪がの頬に降掛る間際、至近距離から注がれた秀麗な容貌に、感情を奪われた。 包み込むよう、唇に柔らかく触れた感 触、其れが何かを理解する前に、初めての熱を残して其れは離れた。 「HappyBirthday.....and, I have been happiness enough to have met you on two weeks ago and you have changed my life. So special my love--------------- precious to me beyond words」 ありがとうございます、そう告げた筈の言葉は音に為らず、幼く無垢な瞳から透明の粒がまるで空を翔る星の様に幾つも零れ落ちた。 神に願って無駄ならば、空落つる星に、其れも駄目なら何に願おう。 運命と呼ばれる存在に太刀打ち出来るものが在っただろうか、所詮は決して違えられる事の無い歯車の一つだ、如何足掻こうが、無駄なことだろう。 だが、忘れる事も出来ず、手離す勇気さえも出来ない。 柔らかく幼さを含む声、菫色の凛とした眼差しの強さ、穏やかに微笑む其の綺麗な横顔、彼女を形成する全ての要素一つでさえも脳裏から消し去って仕舞える 等、最早叶う筈もない。 だから後二週間足らず、せめてその間だけは君が幸せで在るように、唯一つの願いを秘めやかに、切なる祈りに代えて星芒へと放った。 (クサイ科白は英語で言わせるに限ります) [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/7/1 |