| last scene ![]() day-64 :堕ちる星と群がる闇、最果てと星座が消えた空 1 がスネイプと共にロンドンへと赴き、息をしているのかも定かでは無い程滾々と眠りに堕ちたまま帰還した事を知る人間は案外少なかった。 天候が激しい雨だった事もあったし、セブルス・スネイプと云う人間が生徒たちに友好的な教師でなかった事が幸いしていたらしい。夕食時に明朗闊達に笑った 姿で大聖堂 に現れたを見、一瞬驚いた様な顔をして、其れからゆっくりと柔らかく微笑んだのはダンブルドア校長とマクゴナガル教授だけだった。 「……では、諸君に今宵も素敵な夜が訪れる事を------------------」 ダンブルドアの掛け声と共に掲げたゴブレットを克ち鳴らす不規則な音が四方八方から聞こえる最中、スネイプは相も変わらず無表情を貫きながら柔らかく焼き 上げられたブレッドを無造作に引き千切っては、面倒そうに口に運んでいた。 隣では、フリットウィック教授とマクゴナガル教授が意気揚々と躍起だった様に歓談している。 何がそんなに彼らの興味を惹き付けるのやら。思えど、スネイプは話題に入ることもしないまま、早々に食事を済ませると、誰よりも先 に席を立った。ガタリと小さく鳴った椅子に視線を向けたダンブルドアが、翻るローブを掴むようにスネイプに声を投げる。 「セブルス、ちょっと…良いかの、」 「何でしょう、我輩は生憎と250人分の羊皮紙の採点が残ってまして。 夕食後の誘いでしたら、丁重にお断り申し上げますが…」 「大丈夫じゃ、ティータイムの誘いはハーマイオニーとに言うてある。 夕食後ではなく、明日のセブルスに用事があるのじゃ。明日------------の誕生日なのじゃよ。」 柔らかく人の良さそうな笑みを携えてそう言葉投げてくるダンブルドアの声に、スネイプは逸らせて居た視線をダンブルドアに向ける様に伏せていた顔を上げ た。心持ち、期待に胸を膨らませた様な表情のダンブルドアが恨めしい。 ダンブルドアが敢えてスネイプに話を持ち掛けた意図は、本人…つまりはスネイプにすれば痛い程身に染み入る事だった。あの日から、何かが確実に崩壊し始め ているのだ。 スネイプがの同行を務めると決めた日、共にロンドンへと出掛けた日、眼を覚ます気配無いの小さな身体を壊れ物の様に抱き締めながら帰った日、 が黄泉 と呼ばれる国から再び帰還した日。 思い出してみても、経った一日の間に此れだけの出来事が押し寄せて来ると、流石に疲れが生じてくる。 普段は見慣れぬ格好をしたを隣へ置いて出掛けた事も、加味しているらしい。 あの日は見慣れぬ服を着ている所為か、本当に何処かの皇女の様な気品を感じた。普段はローブか、スリザリンの制服と云う 身なりなのに、服装が違うだけで世界が変わった様に見違えるものなのかと人知れず考えたりもした。 見慣れぬ姿は、新鮮味と共に違和感を抱かせるばかりだったが、今は見慣れた格好でスリザリン席に座っている。 その、子どもの誕生日など、スネイプが知る筈も無いだろう。大方、本人でさえ知らぬ可能性が高いのだ。何処からダンブルドアが仕入れてきたのかは知らぬ が、告げたところで、如何なると云うのだ。 教師と云う身で在りながら、我輩に祝えと、でも言うのか。我ながら己の陳腐な考えに失笑すら覚えた。 「…の誕生日と我輩に、何か関係があると仰りたいのですかな。」 興味無さ気に吐き棄て、忙しいのだとばかりローブを翻そうとすれば、厭味な程に作られた柔らかい微笑みに気圧される。普段から無表情無愛想を得意とするス ネイプが思わず引き笑いを起こしてしまいそうな程なのだ。穏やかな微笑みに隠された無言の重圧に、スネイプは本能的にダンブルドアに向き合う羽目に為って しまった。 「関係は無いじゃろうが、関係を作って見ては如何か、と思ってのぉ」 「……………仰る意味が判りかねますが?」 「意味など後から考えれば良いんでは無いかの? ともかく…ワシはお前にだけ、 伝えたからの、セブルス。」 「ですから、其れは如何云う--------------------- 」 話を有耶無耶にしたいのか、単にスネイプを捕まえての暇潰しをしたかっただけなのか、ダンブルドアは置き土産の様に言い放って食事の途中を再開する様席へ と戻っていった。 スネイプが振り返ろうとも問い掛けようとも我関せずとブレッドを齧りスープを咽喉奥に落としこむ情景を見遣って、スネイプは緩く息を吐いた。一体何だとい うのだ、全く。無駄な時間を費やしてしまった、微かな苛立ちを咽喉奥の舌打ちに乗せ、スネイプは外套を翻して大聖堂を歩く。 一度ちらりとスリザリン寮へ視線を投げたが、此方側に背を向けた侭のの表情は伺うことは出来ず、隣には変わらずにドラコが張り付いている為闇雲に呼び 出す事も侭為らない。 まぁ、良いか、今日は我輩とて遣らねば為らぬ事が有るのだ。別に明日でも構うまい。 カツカツカツ、と靴が勝手に鳴らす音を鼓膜が捕えるのを感じながら、レイブンクロー寮の脇を過ぎる。 レイブンクロー寮の生徒は他の寮の生徒に比べると比較的、その話し方や物腰は貴族の令嬢子息のように丁寧でしっかりしているもので、教師陣から見ても模範 的な態度を取る者が多い。 其の所為か、食事中に食べ物を口へ含んだまま何かを大勢で語り合ったりすることが無いものだと思っていたが、スネイプが小脇を通り過ぎる刹那に彼らの興奮 立った言葉が靴音と共に聞こえて来た。 『今日、エクステンデット流星群がホグワーツの上空を通過するらしいぜ?』 『エクステンデット流星群って、あの1000年に一回しか流れないとか云う、あれ?』 『そうそう、次を逃すと1000年後。ホグワーツの中庭からでも見れるらしいけど、出来れば間近で見たいよなぁ』 『馬鹿ね、無理に決まっているじゃない、誰があんな上層気流より上まで飛べるのよ。 クィディッチ・ナショナルカップのシーカーだって無理だって聞くわ。』 『あーぁ、ホグワーツの中庭か…せめて天文学の塔だよなー』 エクステンデット流星群。又の名を1000年に一度、空から全ての星座が消える日。 そして、夏の夜の夢が、星河に導かれる伝承の日。 文字通り、宇宙の全ての星座から星を切り取って降り落した様に、幾千幾万もの星が輝く事を忘れ一気に空を航海する日だ。 1000年に一度と云われるほどだ、今生在る者誰独りとして間近で見た人間が居る訳など無く、天文学系の文献には引っ切り無しに取り上げられ、何処かの偉大 な魔法使いが死の間 際に掛けた最後の呪文の所為であんなにも沢山の星が降るのだと云う妙な逸話さえも生まれる程、謎めいた流星群と噂されている。 今年の明日が丁度其の1000年目にあたると云う話を、そう云えばフリットウィック教授がしていた様な気もする。スネイプは脳裏に先程のフリットウィック 教授とマクゴナガル教授の嬉々とした会話を思い出し、更にダンブルドアの言葉の真意に漸く気付かされて溜息を吐いた。 誕生日に空から星が降ってくる、か。馬鹿馬鹿しい。運命や奇跡や偶然と云うものに本当に好かれているのだな、あの子どもは。 スネイプは踵を返すと数メートル後方に座っているの真後ろに仁王立ち状態で立つと問答無用で、言葉を吐く其の瞬間で さえ、何故踵を返したのかは判らぬ侭吐き棄てた。 「、今日の外出届に対する報告書の提出が未だのようだが…期限が今日と云う事は判っているのかね。 知らぬと公言するならば減点だけは免じてやろう。だが、提出期限は今日中だ。 夕食後…、20時過ぎに羊皮紙と羽ペンを持って魔法薬学研究室に来たまえ」 スネイプの突然の顕現に一瞬無言の静寂が走ったスリザリン寮のテーブルでは、八つ当たりが飛んで来ぬ様に、と他の生徒は視線を逸らせる様に俯いた侭食事を していた。 報告書なんて書かなければ為らないのだろうか、だとすれば一行も書いては居ない、と慌てた形相を貼り付けたが謝りながら「必ず20時に向かいます」と告げた ところで、スネイプは返答を返す事も無い侭に、す、と目を細めて来た道を戻っていった。 それからはドラコと共に夕食を過ごし、ハーマイオニーと共にダンブルドアの部屋で暫くのティータイムを過ごした。 其の間にがハリーやロンと逢える事は無かった。代わり、ダンブルドアの部屋で「ハリーが今日の流星群を見に行かない?って誘いたがってたわよ?」と ハーマイオニー に言われてしまった。 そう云えば、夕食時、ドラコも「興味は無いけど」と付け足しながらも、1000年に一度流れると云う星の話をしてくれた事を思い出し た。 「いいじゃない、。今夜中庭まで出てみんなで星を見ましょうよ!」 ダージリンを口に含み掛けたハーマイオニーはダンブルドアが聞いていることもお構い無しに、名案を思い付いたとばかり、両の掌をぱちんと鳴らすと飛び上が る様に跳ねた。其の音にコークスが一瞬瞬きをし たものの、何事も無い部屋に安堵したのか、再び瞼を落して眠り始める。 一瞬悩んだにハーマイオニーは、「マルフォイが付いて来るのは不本意だけれども、が望むなら構わないわ」、と柔らかく笑む。 スネイプの用事が早く終わってしまえば、天体観測する時間も作れるかもしれない。折角1000年に一度しか流れない流星群を見られる機会を与えられたの だ、見てみたいと思うのは人の本能だろう。勿論、の興味関心を引いた事も事実だ。 「そうだね、じゃあ外出届の報告書が早く書き上がったら行こうかな。」 微笑んで告げたを他所に、脇からダンブルドアの横槍が入った。 「…、今日ばかりは慌てて予定を入れぬことじゃ。」 「…今日ばかり、は…?」 「そうじゃ、今日一日では色々な出来事に遭遇したんじゃ…今日以降、無いとも限らん。 況して、あのセブルスが報告書を書く為だけに直々に君を呼んだのじゃ、安易に書ける報告書だと思うかね?」 「……あ…言われてみれば、確かに…」 「為らば早く魔法薬学研究室に向かうことじゃ。人一倍、時間に厳しい男じゃからの。」 ダンブルドアの言葉にが真横の柱時計に目を遣れば、もうじき20時を回ろうとしている時刻を指示していた。 ヤバイ、そう思った瞬間に、ごぉ-------ん、と空気を震わせて荘厳な鐘の音が室内に響き渡る。此処から魔法薬学研究 室までは息を切らせて走っても5分は掛かる。は慌ててカップを机の上に置くと、ダンブルドアに「ご馳走様でした」と告げ、ガーゴイルの入り口を潜って 廊下へと飛び出した。 「、今夜の流星群は------------- 」 「見に行けたら行く…!戻らなかったらハリー達と三人で見て、ごめんね、ハーマイオニー!」 言葉には一瞬だけ振り返り、申し訳無さそうに破願させた顔で告げ、姿を消してしまった。 星が落ちる夜とあって、大理石の柱が天空を覆う深黒の天蓋が見え、幾数多の煌く星河の岸辺が伺える。 其れを視界の端に止めながら、ダンブルドアは現実のものになるであろう今宵の出来事を如何にハーマイオニーに説明するかを思案していた。 後二時間後--------- がこの世に生を受けた瞬間に、天の雫を掻き集めた様な星の屑が舞い降りる。 [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/6/25 |