last scene

day-6 : 図書室での出逢い
「 私、借りてくるわ。 取り敢えず…此処に在る本で良いかしら? 」
疑問系で聞いておきながら、再び顔を上げたと視線を交わす其の前にハーマイオニーは羊皮紙に本のタイトルを書き連ねると、柔らかなウェーブの掛かった
髪を揺らしながら駆けて行った。
此れといった言葉も浮ばない侭…否、浮んだとしても告げる暇さえ与えない程の速さで行動を示したハーマイオニーの後姿を見送って、は窓外を見上げ
た。
もうそろそろ帰らなくては為らない、そう思いながらも引き込まれてしまった魔法薬学の世界から抜け出せずに、何時間が経過しただろうか。
湿った空にぽっかりと浮かぶのは黄昏を纏った様な濃い黄金に近しい半月で、傍らに寄添う様に漂う灰色の雲がいやがおうでも土砂降りの今朝を思い出させた。
「 最悪、だったな… 」
組み分け帽子の儀式の折、起こってしまった最悪の結果には溜息を吐いた。
あれから慌しい時間を過して思い返す事なんて忘れてしまっていて、此の侭忘れていればシアワセだっただろうに、其れでもあの蔑んだ瞳を思い出せば自然と心
が病んだ。
嫌われる様な事を彼…スネイプに対して行った記憶は無い。勿論、組み分け帽子の儀式の際憤慨に満ちた表情で此方を睨みつけて来た存在がスネイプだったとい
う事も、後からドラコに聞いて知った事実。
だと言うに、スネイプは以前から自分の事を知っていて、其れで疎み退け様としている感じがする。何故だろう。自身に問うてみたところで心当たりが無いだけ
に判る筈も無かった。
途端、窓が鳴った。
強い風の音が耳を叩いて、見上げ続けていた空の風景が一気に変化を遂げる。
途切れぬ風の中でも空を覆い月を蝕む大量の雲は相変わらず灰色を帯びていて、吹き散らかされる様子も無く絶えず表面を渦巻かせながらゆっくりと進路を取っ
ていた。
見上げるの視線の先が朧気な雲を纏った月から外れた矢先、透明な窓硝子に柔らかな金色が映り込んでいた。
「 迷惑…じゃなかったかしら? 冷静に考えてみれば、30を越える本を借りても運ぶのが大変だわ。 」
視線が交わった瞬間、少し困った様に微笑まれ、多数の本のタイトルが書き記された羊皮紙を広げて見せた。
言われてよくよく見てみれば、足元に転がっている本を数え上げたら其れこそ30は優に超えているであろう。無数に存在する魔法薬学関連の本を此処まで絞り
込むのにも相当苦労はしたが、瞬間的に本のタイトルを書き写した少女の能力も流石と云える。
に図書を借りる権利が無いのだから、此処に在る本の事実上の借用者は眼の前に居る彼女に為ろう。
初めて逢ったと云うに、此処まで親切にしてくれるのは余程人当たりが良いか世話好きか、何か意図が有ってか。
知らず知らずの内に心の中で推測を張り巡らせて居れば、暗がりの中でやんわりと視界に入ってきた雄々しき獅子。
グリフィンドールの知性溢れる少女、何処かで一度聞いた事が有ると、は記憶の糸を手繰った。
「 迷惑だなんて…良くしてくれて有難う。 これで時間を有効的に使える。 本は魔法で運んじゃえば平気よ。 」
「 そうね、魔法がある事をすっかり忘れて居たわ。
それで…あの、本当に申し訳ないのだけれど…直ぐに返却するからこの本だけ、一日貸してくれないかしら? 」
指し示されたのは、他の古書と比べてみてもたいそうな年月を感じさせる草臥れた羊皮紙のカバーに括られた分厚い辞書に似た文献。
其れを見て、思い出した。
膨大な本が犇き合っている図書室で、今日ホグワーツに入学したばかりのが魔法薬学の文献だけを探し当てる事は略不可能に近しいことだった。
仕方無しに、この膨大な量の本を一括管理する司書を勤め上げる教師に問えば、快く応じて様々な魔法薬学関連の図書があるブースを教えてくれた。
其の際、どの本も閲覧禁止の棚以外の閲覧は自由だけれど、この本だけは予約者が居るからその子が本を借りに来たら貸して上げて欲しいと。酷く知的で魔法薬学に富む彼女は本を返
却される日を心待ちにし、何度も図書館に足を運んでは本の返却を問うてきた位だから、きっと今日も本の様子を伺いに来る筈だ、と。
柔らかい金色の髪をしたグリフィンドールの生徒だと柔らかく微笑んで司書は教えてくれた。
「 貴方が、ハーマイオニー…。 この本を予約していた人ね。
ごめんなさい、私がずっと持っていたから…探したでしょ? 」
「 いえ、本がある場所は大体見当が付いていたから、真っ直ぐ此処へ来たわ。 そしたら貴女が居たのよ。 」
積み上げられた本の中からハーマイオニーの所望した本を摑み上げると、は申し訳為さそうな表情を浮かべて其れを手渡した。
交換条件の様に渡した本の代わりに返って来たのは、ハーマイオニーの名で借用された本のタイトルがずらりと並ぶ羊皮紙で、一様に間隔を開けて書かれた達筆
な文字からハーマイオニーの知性を髣髴とさせる。
本当に受け取って良いものかと一瞬たじろいだが、微笑みと共に差し出された悪意無き善意を突っ返して良いものか如何なのか悩んだは、同じ様な微笑と共
に指を挿し伸ばした。
出来る事ならば、寮でゆっくりと本を読み耽り出された課題の糸口を見つけ出したいと思っていたのは紛れない事実だった。
「 有難う、ハーマイオニー。 ハリーといい貴女といい…グリフィンドールは優しい人ばかりね。 」
「 あら、スリザリンにも優しい人がいるじゃない。 ハリーが言っていたわ、に助けられたって。 」
もうじき消灯だから、早めに寮に帰った方が良いわよ。
そう付足すように言葉を残して、ハーマイオニーは古書を抱えて其の場を後にした。明日の放課後、この場所に本を返しにくると約束して。
終始微笑みを浮かべていたハーマイオニーの後姿を見送り、急に静まり返った図書室には表現し難い静けさを纏った空気が立ち込めていた。
ふと視界に入り込んできた時計を見れば、ハーマイオニーが促した様にもうじき消灯を迎え様という頃合、慌てて寮の自室に届く様に本に魔法を施した。
一冊一冊ふわりと浮き上がっては透過魔法を施した甲斐があってか、窓枠を擦り抜けて列を成す様にスリザリン寮へと飛び立って行く。
手渡された羊皮紙を懐に仕舞いこみ、脇に畳み置いたローブを羽織ると、数時間ぶりには図書室を出る。
「 …夜はやっぱり冷えるんだ…当たり前か。 」
背を駆け抜ける悪寒と共に、はっとする程の暗さが其処には広がっていた。
24時間絶える事が無く灯かりの燈り続ける大広間が動く階段の彼方に見えはしたが、僅かな燭台の灯かりだけで成り立っているような廊下には闇に吸い込まれ
そうな酷い暗闇が腰を据えている。
人が歩く音どころかゴースト達の話し声でさえ聞えてくることの無い静寂仕切った空洞が其処に在って、は溜息を吐きながら足を踏み出した。
カツンカツン、と大理石に響く靴音さえ煩げに感じられ、背後から付き纏ってくる様に間を縫ってくる自分の影が鬱陶しく、誰とも擦れ違う事の無い現状に妙に
苛々する。
は昔から暗所恐怖症と言った類の欠点を持ち合わせては居なかったが、それでも昼間とは打って変わる殺伐とした雰囲気の中に独り取り残されたような虚無
感を味わえば、躊躇してしまう。
心に染み込んで来る様な仄暗い空気の気配。
此処はホグワーツ、ゴーストと云った類のモノに等遭遇しても可笑しく無いと云うに如何してか背中を駆け抜けるのは、毛を逆撫でられたような感覚。
肌が粟立った様な感触、瞬きすらも忘れたように冷たい空気をただ肺に落とし込み、振り返ることすら恐ろしいとばかりに一歩ずつ自然と足が前にしか進まな
い。
思わず、走り出そうと意気込んだ。
瞬間、暗闇に押し留める様に気配無く腕を捕まれる。
「 …其処で何をしているのかね、。 」
「 ス、スネイプ教授… 」
心臓が震え上がり、緊張から呼吸さえも震え、其れでも知った声の主に別の震えを感じた。
スネイプが此処に居るということは、消灯の時間は無常にも過ぎ去り、生徒が深夜のホグワーツを徘徊していないか見回る時間が来てしまったのだろう。
そうなってしまえば、眼に浮かんで消えないのは減点の二文字。幾らスリザリン生だからとは言え、スネイプに疎まれているの行為をスネイプが見過ごす筈
は無い。
其れこそ、絶好の機会ではないか。ホグワーツに転校した初日に減点を喰らう等、自ら素行評判を悪くするだけの行為、追放するには充分過ぎる糧となる。
振り返る事を拒んだ様に俯けば、無理矢理に上を向かされる。
呆然とするしか出来ないの表情を映し込んだスネイプは、静かに眉を寄せて、同じ言葉をもう一度口にした。
「 何をしているのか、と聞いているのだよ。 聞えているのならば早く答え給え。 」
「 あ、あの…その…、図書館で調べ物をしていたら道に迷ってしまいまして…申し訳有りません。 」
慇懃に頭を下げたに、スネイプは訝しげな表情を以って返す。
互いの間に舞い降りた沈黙が10を越えようかと云う頃合、何の言葉も発する事無く、スネイプは元来た道を辿る様に踵を返した。
食堂でのあの一件以来の脳に染み渡っているスネイプと言う人物像に加え、ドラコから聞いていたスネイプの客観的人物像を組み合わせてみても、浮かんで
きたのは【減点】の言葉と罵りの言葉だけ。
何時其れが飛んできても良いように自然と身構える形で拳を握り締めた。
…筈が、如何云う訳かスネイプは何も発しない侭に背を向け、来た道を戻ってゆく。
「 …また迷いたいのかね。 」
何時まで経っても一組しか響かない足音にスネイプは呆れた様な溜息と共に立ち止まって振り返る。
呆然と此方を見詰めた侭のに対してそう言葉を投げれば、瞬時に覚醒したかの様、慌ててが此方に駆けて来た。無数の謝罪の言葉と共に。
其れ等一つ一つに耳を傾けてやる道理も無ければ義理も無く、スリザリン寮に向って歩き出せば、少しばかり後をが着いてくる。
薄暗闇の中に散ばる燭台の灯かりに照らし出される影は二つ。其れも、決して交わる事無く一定の間隔を保ったまま。
話を切り出す雰囲気でも無ければ、敢えて話す話題すら無いだけに、お互い沈黙を守りながら足音だけを響かせる。
仄暗さを保ったホグワーツの廊下とは打って変わっる深い夜色のローブを翻しながら一歩先を歩くスネイプの背を見詰め、は思う。
せめて、追い出される前に償えるだけの減点数である様に、と。
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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/9/7