| last scene ![]() last scene day-55 :君を失くした世界は今にも崩れそうなほど脆く、心は闇夜に沈殿した あぁ、何と云う愚かな行いか。 自分が愛した男の為に一国と遣える民、そして自分の命が消え去ろうが流す痛みの涙は無くとも、望まれぬ男との間に生れ落ちた子どもを喪失するこ とには慟哭すると云うか。 謀らずも齎された結果は賛否両論。伝える事すら望まなかった実の娘への情愛は、酷く不器用な形で伝えられた。 桔梗の行いに、スネイプは、まるで嘗ての自身の姿を垣間見ているかのようだった。伝えたくとも伝えきれずに燻った想いの真意は決して伝わる事無く、後付の 形で終焉を迎える羽目に為 る。 そう、スネイプが抱いた、眠り姫の様に永久とも思える長い眠りに付いたへの恋情の様だ、と。 「が目覚めれば…もしもが三日以内に目覚めれば、これからもずっとホグワーツに居られるんですよね!?」 嬉々とした特有の甲高い少年の声が鼓膜を掠める。 魔法薬学テストで一位を取った際にもあげない様な心からの歓喜を声色と表情に表したポッターに、スネイプとダンブルドアの顔だけが悲愴に歪んだ。子ども、 の感情論だ。大人の話だけを聞けば自ずと見えてくる幼稚な楽観的思考回路は手に取るよりも簡単。だが、世の中自分の思案した通りに物事が進む等と甘い事を 考えない方が良い。 現実は時に、酷く残酷なるものなのだから。 「無理だ。例えが三日後に眼を覚まし、魔法省の奪取から逃れようとも、後26日経過すればまた同じ塔へと幽閉される。」 感情籠もらぬ冷えたスネイプの言葉に、生徒四人が狼狽する。ダンブルドアはスネイプから吐かれた事実を既知としている事の様、変わる事無く悲愴な表情を浮 べた侭。 此れまでの状況から、真相を問うてくるのはハリーか、ドラコだろう。そう想念していた予想は外れ、如何してだ、そう問うて来たのは意外にも口を噤んだ侭関 わりを拒否した筈のロンだった。 「先程の映像を見て、未だ判らぬのか。は桔梗に命を奪われ魂だけの形に成り下がったのだ。魂だけで、人が生きて行けると思うのかね。」 「ですが…ですが、今は"生きて"居ます。確かに二本足で地に立って言葉を交わし…ちゃんと生きているんです!」 ロンの叫びに、ダンブルドアが表情を一瞬凍らせる。だが、それから、ゆっくりと顔つきを普段の物腰柔らかい光りを湛えたものに変えた。 「………其れは、の。今桔梗とが入れ替わっているからに過ぎないのじゃ。 49日法要と云う東洋の慣わしを知っておるかね?此れは単なる言い伝えじゃが、人は命を落すと三途の川を渡り長い旅をすると言われている。その旅の途中7日を一つの単位として7回、天からの裁きと教えを受ける事になる。 最後に天またの名を"名も無き神"にによって生前の行いを裁く審判があるとされ、其れが終わって判決が言い渡されるのが49日目。 全ての審判が終わった故人の魂は49日を過ぎると天へ還るとされている。49日の間だけ…の命は桔梗から離れへと還るのじゃ。」 「それは一体、如何云う意味ですか?」 ハリーが聞き返す。 「は…神からの裁判を受ける為だけに、桔梗の身体から命を授けられ、桔梗に代わって黄泉の旅をする。 だが、最後の最後で言い渡される審判の内容、其れは敢えて公言しなくとも判ろう、 貴殿の命は主たる桔梗の元へと還り、貴殿は来年迎える49日まで、魂の抜け殻となって眠るように」 ハーマイオニーが華奢な肩をわなわなと震わせ、瞳に涙溜めた侭の冷えた手を握り返した。 この温もりさえも伝わらない。何時もずっと一人ぼっちで光り射す事さえない暗闇の塔に幽閉さえ、己が犯した訳でもない罪過を償う様に49日間もの期間を悪 戯に生きて旅をしなければならない。 其れは自分自身の意思とは全く関係無く、自身の願い等聞き入れて貰える訳等無く、唯桔梗を生かす為だけに在る存在に成り果てるしかない。 言い様の無い怒りはもう、臨界地点を突破していた。 「ダンブルドア校長は、49日間命を与えられた侭魔法省管轄下に"見せもの"の様に置かれていたを見付け、此処に連れて来られたのだ。49日間だけ、毎 度変わる事の無い審判の内容を言い渡される其の間だけ、ホグワーツに普通の生徒として存在出来る様に。 例のあの人から其の身を護ると言う絶対の条件を飲んで。」 だが、絶対の約束は、破られた。 ホグワーツ校内にヴォルデモート卿の顕現を許し、は其の身を桔梗によって封印されるかのように眠らされた。 其の話を、スネイプは他人事の様に左から右へと流していた。今のスネイプに在る思考は、其れは魔法省に如何言い訳しよう、そんな陳腐な悩みではない。 ふと、普段から鋭いスネイプの瞳が厳しく細められた。誰かが此方へ向かってくる気配がする。同じものをダンブルドアも捉えている事だろう。 死を告げに来る死神を待つ様な酷く心地の悪い冷えた汗が背を垂れる。あと、数秒後、ダンブルドアによって強制的に落された魔法薬学研究室の錠は、魔力を遥 かに凌駕する権力と云う圧力を以ってして崩壊するだろう。予感が走った。 魔法薬学研究室の扉にゆっくりと向けられたスネイプの双眸は、かつて無いほどに美しく邪謀に歪み、其処に潜む光には既に苦渋や感傷の色は無かっ た。己の全てを掛けて護ると誓い、渇望した唯一を嘗ての想い人に狂わされた時、人はこんな貌をするのかもしれない。 思いながら、唯静かに、ダンブルドアに向けている様にも見える姿で杖の切っ先を扉に向けた情景に、4人は唯、息を呑んだ。 カツカツカツ、と石畳の階段を革靴が掠める音だけが静寂した室内に木霊し、ピタリと扉の前で止まった。 と、同時、外からの絶対的な圧力によって扉は木っ端微塵に粉砕した。 「---------------余計な手立ては無用、邪魔立てすれば魔法省に連行しますよ、アルバス・ダンブルドア、セ ブルス・スネイプ。」 真意の見えない小さな嘲笑が零れた気配に独特の物言い。 扉の奥、その全身に夜の帳の様な漆黒のローブに身を纏った男二人を従えた男、ルシウス・マルフォイは抑揚の無い声音だけを空間へと落とし、彼等の前に現れ た。 「父上------っ!如何して此処……ッ」 ドラコが己の父親の出現に狼狽し、一歩前へ出て言葉を投げ掛けた瞬間、蒼天の瞳が歪められ低く厳しく睨み付ける。 ドラコの口から零れ出ていた言葉は最後まで吐かれる事無くこの時点で止まり、ルシウスは強烈な不快感を得た様な眼差しで我が息子を見遣り、冷蔑した。 「関わるな、と私は言った筈だ。親の顔に再三泥を塗る気か」 「で、ですが、父上、此れには、」 ドラコが震える声で叫ぶ。 己が起こした行動ではないのだと弁解しようと得意の饒舌が走るが、ルシウスの前では言葉を発する機会すら与えて貰えないらしい。貴様に興味は無いとばかり 無言の侭視線を反らされ、以降、一切の親子の視線が交わる事は無かった。 「さて、お二方にコーネリアス・ファッジより遣わされた朗報と悲報をお届けしよう。」 自ずと告げに来ずとも、既に知っていた筈だ、と深蒼の双眸は半ば笑んだように告げる。 「先ずは悲報。ファッジは・が目覚めるまで3日の猶予を与えると仰った。三日後に眼を覚まさない場合は魔法省へ強制連行する。だが、三日後に目覚め た場合は先の約束通りホグワーツに留めて置くと仰っている。我らにすれば悲報だが、君たちにすれば朗報だろう。」 言葉に、歓喜の声は上げなかったけれど、子どもたちは表情に少なからず喜びを表した。 だが、ルシウスは彼等を冷瞥すると、其の侭視線を真横にずらして酷く面白そうにスネイプを見た。其の視線に、スネイプは怪訝な一瞥を以って返す。 ルシウスの何かを企んでいる様な笑みと変わらぬ憮然とした態度に、スネイプの胸中に不安要素が燻る。 そうして、スネイプの予感は的中した。 「さて朗報だが…此れはセブルスにとっては悲報になるか?まぁ、良い。魔法省が保管していた最後の納言草がつい先刻、焼却処分された。直に予言新聞にも載 ることだろう。」 予期に反し、ルシウスは酷く滑稽そうに嘲け笑った。心の底から、感情を押し殺す事無く笑うルシウスの姿を初めて目の当たりにしたドラコは、空いた口が塞がらない。 納言草がこの世界から本当に滅せられたのだとすれば、はもう二度と桔梗とヴォルデモートに命を狙われるような事は無いだろう。納言草の殲滅は酷く喜ば しい事、そう結論付けるには遅過ぎる事は在っても早過ぎる事は無かった。 そう、思っていた筈が、次いで告げられた言葉に、周囲が一斉にスネイプを顧みる。 「非常に残念な結果だ。そうだろう、セブルス。」 「何が、言いたい?」 嫣然と言葉を吐いたルシウスの表情には、全てを見通し、定かではない憶測を確固たる事実に結びつける様な勝利を確信する余裕すら感じ取られる。 案の定、余裕の笑みで吐かれた言葉は、スネイプを崩落させた。 「お前はあの時と同じ様、納言草の力を以ってすれば桔梗の呪縛を解き放てる、納言草にさえ実を付けさせれば良い、そう思いこの娘に近づいたのだろう?己が野望を曝け出し、情愛を抱いた娘へと 裏切りの真意を晒して。其処にあるのは、唯、何処までも独善的な自己利欲の狭隘なのだろう?」 全ての戒めが既に手遅れであることを、スネイプは悟った。 君を護りたい気持ちに嘘は無かった。 名も無き神に祈った位で願いが叶う位ならば、己は微塵の怖れも無く、自身を捧げただろう。 君を、護ろうと誓った言葉に嘘は無い。嘘は、無かった筈だ。 「 お前を護る為なら、我輩はお前の母を…桔梗を殺したとて、何の後悔もない。 」 何かの残響が耳の奥で鳴り響いている。とても繊細で、泣きたくなるような音。其れが、嘗て自分がに言った絶対の忠誠に似た言葉だと、漸く気が付いた。 [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/4/26 |