last scene




day-54 :殲滅された臣民、葬り去られた歴史の闇、隠蔽され続けた真実






この日こそ、ヴォルデモート卿がに追想の記憶の中から無理やりに掘り起こした、幼い命が母親によって奪われた日だった。

弓を弾く様な特徴的な季節風が豪奢なステンドグラスを破らん勢いで叩き付ける中、桔梗は魔法省で厳重に管理されていた納言草を秘密裏に盗み出し果実を実ら せるべく、夫であるRevalue王国最後の皇帝の元へと向かっていた。
時は夜半過ぎ、玉座に居座ろうと言う物好きな臣民は居ない。ヒタヒタと大理石の上を裸足で歩く拙い足音だけが木霊し、桔梗は玉座へ続く長い廊下に警備兵の 様に張り付く鎧から剣を一対抜き取ると、背に、隠した。

廊下の最果て、幾重もの絢爛な皮を乳鋲で張り合わせた扉は見た目以上に軽く、片足で押し開く様に蹴れば意図も容易く開いてくれた。
豪華なシャンデリアが照らし出す中央の玉座に腰を据えたRevalue国王は意外な来訪者に柳眉を歪め、読み耽っていた古書を小脇に置いて問うた。

「 この様な時間に何か用か。 」
「 えぇ、貴方で無いと為し遂げられない大事な大事な用事があるの。 」

整った容姿で酷く綺麗に微笑み、桔梗は後手で扉を閉める。音も無く閉じられた扉は瞬く間に密室空間を作り上げ、静謐な空気漂う中、桔梗はゆっくりと息を吐 き 出す。

「 此れが何か、ご存知? 」

作り物の様な秀麗な笑顔の桔梗が懐から差し出した、一株の花。外的からの刺激を一切拒む様に柔かな皮膜に包まれ、魔法密閉空間の中で、気高く凛と咲き誇 る。
薄暗闇の中でさえも存在を誇張するかの様な花を視界に入れたRevalue国王は、色を無くした様に顔面を蒼白させ、狼狽した。

-------------------------------- なっ…何処で、其れを! 」

勢い良く立ち上がった反動で、ガタリと椅子が左右に揺れ、重心が取れない細工の様に後方へと背凭れを打ち付ける。
禁忌の花、視界に入れた途端に、決して存在を世に現しては為らぬと護られ続けた咎が放たれる気がした。人目に触れぬ内に早く魔法省へ返さなくては、国が滅 びる。脳裏に過ったのは其れだけだった。
背に垂れる冷えた汗を其の侭に、Revalue国王は桔梗に詰め寄った。

「 お前は其れが何を意味するか、判っているのか!? 返しなさい、今なら未だ、間に合う! 」
「 …間に合う? そうね、未だ間に合うわ。 」

物を隠す悪戯を親に叱られ、堪忍した子どもが隠した物を差し出す様に恭しく片手に乗せた納言草を差し出せば、国王は高価な品を受け取る様に震える指先を差 し出す。
傷を付ける事は赦されない。此れは現存する最古で最後の納言草、無傷の侭魔法省に返却せねば。
逸る気持ちを抑えながら差し伸ばした震える指先を納言草の花弁に近付けた、刹那、

--------------- 未だ、間に合うわ…この花が実をつけるには。 」

Revalue国王は凍り付いて戦慄した。己が妻の成し遂げようとしている新事実に気付き、顔を硬直させた侭後退ろうと足を一歩後退させたと同時、

「 ねぇ、こんな私でも未だ、貴方は愛してくれるの? 」

瞬間、どすっと鈍い音を立てて、国王の心の臓に剣が突き立てられた。大輪の花が一斉に咲き誇った様に、ばっ、と大量の血が噴出し、月明かりに飛び散った。

「 …だ、駄目だ、紅い花を咲かせるな…っ 」

国王の顔から血の気が失せ、噴出した血を堰き止めるべく魔法を唱えるよりも、桔梗の手から納言草を引っ手繰ろうと必死だった。紅い花を咲かせては為らぬ、 口から大量の血液を噴き溢しながら必死に乞うても、願いは聞き入れられない。
桔梗は明確な意思と殺意だけを表情に貼り付け、瞬く間に弧を広げ始めた血の水溜りを満足げに眺めながら、事切れようとする自分の夫を静かに見下ろしてい た。
返り血を浴び、真っ白な服を紅樺色に染め上げたと同時、桔梗の指先に掴まれた納言草が花弁の端から紅く染め上げられていく。
養分でも吸い込む様に血で自らを染め上げた納言草は、花芯のある中央部分まで綺麗に着色されると、風も吹いていないと云うにはらりと全ての花弁を地に落と した。そうして先端には、珊瑚の欠片の様な小さな果実が貼り付く様に生っていた。

「 やめ…ろ、国を滅ぼす気か、、 」
「 あら、此処は私の国じゃないもの、滅び去ろうと関係無いわ。 最後の最後で、愛しいあのお方の役に立ったのね、貴方も。 」

小さな、心の底から幸せを振り絞って表した様な笑い声が、闇夜に響く。
桔梗の小さな掌の中で血を吸い上げ、徐々に、だが確実に成熟し始める果実を見て、愕然とした。
あぁもう、如何することも出来ないのだ、嘆きながら国王は懐に手を差し入れる。少し体を動かしただけでも気絶してしまいそうな程の激痛が体中に駆け巡り、 苦悶に表情を歪めながらも、国王は必死に震える指先で杖を掴み上げると息も絶え絶えに叫ぶ。禁忌とされた呪文、Avada Kedavra、と。

そして、記憶が、繋がる。

「 -------------- 助けて、私を迎えに来て、Voldmort! 」


まるで時間が狂わされた様にゆったりと崩れ落ちる細い身体。
ドレスローブが広がる様に夜の帳の様な漆黒の髪が弧を描きながら地面に広がり、桔梗が大理石の上に伏せる。其の上に無常にも折れた柱が圧し掛かり、周囲が 血液に染まって。より赤く、紅く染め変えられて行く。
遅れる事、数分。桔梗が後ろでに閉めた筈の扉を再び開いたのは、僅か6歳にも満たなかった幼いだった。


 

「 …判ったじゃろう、納言草は唯咲いている分には清廉潔白な綺麗な白い花じゃ。
だが納言草がRevalueの土地の血を継ぐ者の血を吸い上げれば忽ちに紅く熟し、事切れる寸前の大病大怪我でさえも一瞬のうちに治癒してしまう不死の妙 薬と為る。故に、納言草の果実は、賢者の石を練成する上で必要不可欠だとさえ云われて来た。
人の血を吸うて育つような植物を栽培し、臣民の血を吸わせては果実を実らせ栄えてきたRevalueと云う国は其の日を境に、文字通り根絶やしにされた。
何時ぞやの魔女狩りの様に。納言草は王位継承者に近しい程深紅に染まり、効果は高いとされていた。幾数多の納言草を熟させるために一体どれだけの罪の無い臣民が犠牲に為ったか、其れは今と為っては歴史の闇に葬り去られ蒸し返すことすら禁忌とされているのじゃ。
Revalueの血を継ぐ者はもう誰一人として存在してはいない。最後の納言草を実らせるために国王は亡くなり、悪しき血が此れ以上流れる事を恐れた魔法 省は…Revalue国民を殲滅させた。酷い話じゃ、Revalue臣民は頑なに血を護り続け、他国と子を成す事を恐れた。が最初で最後の、 Revalueの血と他の国の血が混ざった子ども、故に魔法省は彼女を厳重な管理下に置いて監視しているのじゃ。
があの搭から出る事は不可能、否…はもう生きてはいない、血を絞り出そうとしても、桔梗が魂を占有している間は決して流れる事は無いのじゃから。 」

「 我輩は、護って遣る事が出来ませんでした。 傍に居ながら、桔梗の手から…っ、 」

憎しみに変わる程の絶望的な喪失感。狂わされた感情の元凶は、桔梗がヴォルデモート卿を愛してしまったことから、Revalue国王が桔梗を見初めたこと から始まったのだ。
身を焦がす愛にしては、余りにも多くの犠牲を払い過ぎた。たった一つの果実を実らせるために、滾る憎しみの矛先を自分達以外の全てに向けた様、何の罪も無 いRevalue臣民の幸と明日を奪い去った。

「 …のお母様は、やっぱりを愛していたのではないのですか? 」

場違いなグレンジャーの言葉が息を呑む静寂の中に木霊した。この後に及んで何を言う、鋭利な一瞥を投げれば怯む素振さえ見せずに彼女は淡々と自身の胸中を 語り始めた。

「 だってそうとしか考えられない行動じゃないですか?
憎んでいたのなら、納言草の果実を熟す為に使う血はだって良かった、と言う事になりませんか?
私が考えても…大人と僅か5歳の子どもを天秤に掛けたら、殺し易いのは明かに5歳の子どもです。
でものお母様は初めから夫であるRevalue国王の血を使った。幾ら純血の方が効率が良いとは言っても…やっぱり子どもを殺す方が楽だと思うんで す。
それに、のお母様の最後の言葉、あれは…の身体を奪う事でしか護れない、憎む事で害が及ばない様にしている、だから私を赦さないでって意味じゃないんでしょうか。 」

見当違いも甚だしい、最初はそう突っ撥ね様とした言葉を喉奥で飲み込んだ。
言われてみれば確かに大の大人を殺めるよりかは子どもを手に掛けた方が格段に容易く成功確率も高い。桔梗は背に剣を隠していたとは言え、自身が愛用してい た杖を手にしていた訳ではない。
自身は死を覚悟して、恋情抱いたヴォルデモートの為、唯納言草の果実を成熟させるため、唯其れだけの為に。

「 そうじゃな、確かにハーマイオニーの言う通りかもしれん。
魔法省がをこの世から抹殺しなかったのは、半身には桔梗の血が流れている事由もある。況して身体だけは桔梗の所有物となったの身体を傷付け血を削ぎ落とすと云う事は、桔梗の死にも繋がる。
ヴォルデモートはよもや愛しい女の新しい身体を奪ってまで第二の納言草を得ようとは思わないだろう、だが一応念の為、そんな理由でヴォルデモートが厳重に囲っているを魔法省が更に監視している、と云うことじゃろて 」


桔梗が最初で最後に見せた、への哀しい程の慈しみに似た笑みを思い出して、我輩は唯過ぎ去った筈の想いに心の中で慟哭した。
























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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/4/22