| last scene ![]() day-53 :What is done cannot be undone 「 ---------------------- 過去は過去として受け止めるものじゃ、未来を見据えぬと、人は生きては行けぬ。 」 扉が開かれる音など、何一つとして捉える事の出来なかった静寂の中、普段と何一つ変わらぬ柔らかな物言いのダンブルドアの声に、我輩ははたと面を上げた。 飛び込んできた絵姿に、思えば、床ばかりを見詰めて居た事を思い知らされた。 上げた顔の先、普段と変わらぬ優渥なる態度と表情で立つダンブルドアの隣に、似つかわしい赤毛一族の子が居た。何時も三馬鹿トリオの様に行動していたグリ フィンドールの彼等に感じた違和感は、此れだったかと今更ながらに思う。 「 如何してロンとダンブルドア校長が? 」 少し苛立った口調でポッターが言った。彼も今更に思い出したのだろう、何時も共に居る少年が姿を消し、再び現れたと思ったらダンブルドアと共に居るのだ。 問 質したくなるのも間違っていない感情、この場に居る誰しもがの代表として詰問をしていると受け取っても強ち間違いではない。 「 ダンブルドア校長が魔法省に行くって話しを聞いて、僕も父に呼ばれていたから一緒に行ったんだ…其れがまさか、こんなことになるなんて… 」 ウィズリーが言う。視線を向ければ、一瞬眼が合い、直ぐに逸らして俯かれる。魔法薬学中の講義を彷彿とさせる行為だ。 ダンブルドアと行動を共にすると云う事が、吉とばかり出るとは限らない。笑顔 で籤を引いたらば、見事に大 凶でも引き当てたような顔を曝して、一体何を聞かされてきたのやら。 ウィズリーの言葉に等興味の無い我輩、勿論其の機微にも興味無く瞬時に逸らしてダンブルドアを見遣った。刹那に合う視線、小脇に置いたを痛嘆した瞳 で見詰るダンブルドアは酷くやつれている様にも見受けられた。キリリと痛む心は今に始まった事ではないだろうに、鋭敏に傷が疼く。 「 三日、じゃ、セブルスよ。 あれがホグワーツに顕現した事が露見し、魔法省がを再び引き取ると言い出しおった。が最後のRevalueの生き残り、魔法省は何としてでも紫 苑を護り切るじゃろう。が目覚めなければ、三日後にははあの場所へと強制連行されてしまう。…ワシでももう、引き止め様が無いのじゃ。 」 何処までも役立たずで、申し訳無い。 最後に言い放った言葉、耐え難い痛みと心の裂ける音が、無機質な部屋に響いた気がした。 今までも散々己の無力さを痛感してきた我輩にとって、あのダンブルドアが申し様の無い表情を晒す姿に、共感どころか憐みさえも感じた。 同時、己の非力さを再び呪った。抗う事の出来ない運命の轍の上を歩き続けるしか生きる術を知らぬに、此れ以上人との交わりを植え付ける事こそ、最初に 我輩が懸念した事態への手薬煉では無かろうか。 為らばいっそ此の侭、記憶を消し去り何事も無かったかのようにあの場所へ戻してやれば良い。言葉を交わした事も、共に笑った事も、憤怒間際の怒声で怒鳴り あった 事も、スネイプ教授、と其の名を呼んでくれた事も、何もかも、全部、全て。を知る全ての人間の記憶からの存在を消し去れば、我輩の記憶からを 消し去れば、 --------------- 出逢った事自体、忘れてしまった方が、出逢った事実を消して仕舞った方が良いのではないのか。 僅かばかり漆黒の睫を伏せ遣って、あぁ、まこと馬鹿馬鹿しいと嘲笑う。が忘れたとて、我輩には到底忘れる事等出来ぬと判って居ながら、今更に何を言 う。 あの時に、出逢いは叶ってしまったのだ。取り戻しようもない過去、今更出逢いを悔やんでも、もう遅い。此処まで、これ程まで自我が抑制するにも関わらずに 心落ちたのは初めてだった。だからこそ、護って遣りたかった。 護って、………遣りたかった。 「 …だから止めようって、言ったんだ。 に関わるのは。 忠告しただろう?其れは君の為だったんだよ、ハリー 」 普段は訥々と言葉を話す生徒だったと記憶しているウィズリーが、徐々に苦渋に濁った声を漏らし始めた。 グレンジャーが息を呑む。何て酷い言葉を、そんな表情を貼り付けたままにロンを睨み上げている。 何時か類を似た言葉を言われるのだろうと覚悟していた気さえ起きるポッターは、顔を伏せたまま、真剣な声で言った。 「 こう、なったから? …はもう二度と眼を覚まさないかもしれない、僕達と一緒に時を過ごさないかもしれない、何時かは去らなくては為らない運命だった、だから最初から出逢 わなければ良かった、そう言いたいのか--------- ロン 」 感情に身を任せ、怒鳴り散らした声で吐き棄てられるだろうと予想していた事態とは裏腹、表情の色を全く読ませぬ声色でポッターが切り返す。ウィズリーは、 俯いて唇を噛んでいた。望んで言葉を発した訳ではない、我儘だとは思っているが、気持ちを判って貰いたくて必死になって最も適切な言葉を選ぼうと格闘す る。 ポッターの傷付かない言葉を、正しく気持ちを伝える言葉を、を失った悲しみに耐えうるだけの言葉を。 だが見付けられる事無く、事態はポッターの自己完結的な言葉で締め括られる事となる。 「 大丈夫だよ、僕は待ってるから。 が目覚めなくても、もう二度と逢えなくても、僕を…想ってくれなくても、其れでも良いんだ。 僕は決めたんだ、小さな子どもみたいに笑うを護るって。だから、良いんだ、出逢いを悔やんだりしない。 」 絶対の忠誠を誓う言葉を口にしながら微笑んでいるようなポッターに、マルフォイの瞳に焔が走る。だが刹那に、薄蒼が愁いを孕んで瞑目した。其のさまに、如 何やらポッ ターとマルフォイも共にに想いを寄せているらしい事が伺える。 否、ヴォルデモートがホグワーツ基い、と我輩の前に顕現したあの日、の頬を張った時に聞いた忌わしいまでの恋の唄が物語っているだろう。 だが先程 の我輩の作り出した記憶から、マルフォイは寮監である我輩の逆鱗に触れる事を恐れたか、其の想いを口にする事を自粛したらしい。謙虚なことよ、乳臭い子ど も同士の恋愛沙汰に巻 き込まれてやる気など、とおにないと云うに。 「 ダンブルドア校長、は何処に戻されるのです?が母親に魔法を掛けられ、死んだように眠ってしまった事は判りました、ですが…僕たちは其れ以外に何 も知らないのです。 教えてください、は何故目覚めないと魔法省に連れて行かれてしまうのですか? は、僕たちと一緒にホグワーツに居ることさえも出来ないんですか?! 」 記憶の残滓を見せ付けられてから、否…若しくは其れよりも大分前からだったのかもしれない。今まで心中に押し込め密度を増した疑問が一気に競りあがって堰 を壊して仕舞った様に、マルフォイの口から言葉が零れ出た。 三者三様、ダンブルドアを見遣る。賢明な判断だ、同じ質問を我輩に投げたとて、到底納得出来る様な回答が見付るとは予想出来ず与えてやる気さえも起きな かったのだから。 「 …先ずは、座っては如何ですかな。 軽い茶位なら、出しましょう。 」 助長してやるのと同時、マルフォイの言葉の付け足しの様に、我輩は一切何も告げぬと明言してやった。 そうして、杖先で大窯に火を入れれば、苦い表情を零したダンブルドアも意を決したのか、手 近に在った寂れた生徒用の椅子にゆっくりと腰を落とし魔法で室内に錠を落とす。 行為に、此れ以上関係者を増やす事も躊躇われたのだろうことが伺えた。最も、我輩の知る限りに於いては、と関わりのある人間は、此処に雁首揃えている 面子だけ だと思っている故、然程問題など無いと思われるのだが。 鼻腔に揺蕩る、鮮烈だけれども気品高い芳ばしい薫り。 蒼い真夏の枯れた空気の様な爽やかさを放つシトラス・アールグレーが魔法薬学研究室に立ち込める頃にはダンブルドアの腹も決まったのか、我輩の淹れ た紅茶に舌鼓を打ちながら、時計の針を戻して昔話をする様にゆっくりと語り始めた。 「 は……両方ともじゃったな、此れでは区別が付かぬ、母を桔梗、子をとファーストネームで呼ぶことにしようかの。 」 此れから吐き出される真実の残酷さを知る由なも無いような、静かで平穏そのもののような言葉が紡がれる。 先を急ぐ忙しない子どもの様に視線でダンブルドアを急かせる子ども達は、黙した侭時間を遣り過ごしていた。我輩はと言えば、渇き切って皮膚が裂け血の滲み 掛けた唇を潤す為に、シトラス・アールグレーを頻繁に口に運んでいた。普段は感慨深い味に心休まるものだが、今日ばかりは低迷する思考を活性化させる役目 すら負ってはくれていない。 ヴォルデモート卿がに思い出させた過去と同様の事実を苦悶を浮べた侭に、ポッター、ウィズリー、グレンジャー、マルフォイに話しているダンブルドアの 言葉を右から左に流しながら、隣に眠るを見詰た。童話の中の眠り姫の様に寝息一つ立てずに刻を唯過ぎ行くだけの抜け殻に成り果てた姿に胸が痞える。 ( ……………… ) 伝えたい想いは毀れ溢れ出でて来ると云うに、上手く言葉に為らず音に為らない。 「 が何故魔法省の保護観察下にあるか…いや、違うの、が幽閉された塔を何故魔法省が管轄下においているかと云うことじゃが…其れを話すには先ず、 Revalueの歴史から紐解かねばならんのじゃ。 」 昔むかし、名も知られていない様な東洋の海域に囲まれた、季節の色彩緑豊かで発展途上国と囁かれていた国が在った。名を、Revalueと云う。かの国 は、先々の大戦でフランス領に合致されたものの、国民の自給自足率120%と云う農業生産性と他国との輸出に於いて絶対且つ独占的な独自の輸出手段を確立 していたために、フランス領に属しながらも独立国家と呼ばれ地位は不動のものであったと言われている。 Revalueは実に紀元前500年以上も昔から栄耀栄華を極めていたとされているが、では何故国土も小さく海に浮かぶ陸の孤島状態であった国が輸出だけ で2000年以上も繁栄する事が出来たのか。其れこそが、魔法省が恐れ畏怖し、ヴォルデモートが欲しRevalueの人々が犠牲に為ったとされる、納言草 の存在だ。 納言草、賢者の石の精製を行う上で必要不可欠だと文献には記されているが、実際明確に言えばそうではない。納言草は特異体質を持ち、生まれ郷里でもある Revalueにしか根を張らず、花を咲かせようとはしない植物だ。実際、Revalueの輸出物の実に98%を占めていたのが、この納言草である。とは 云え、Revalue以外の土地では根を張らぬ野草を輸出したところで、花は枯れ根は腐り水を吸わぬ植物は、愛でるどころか二・三日で石灰の様に成り果て 死滅する。 ではRevalueの人々は如何遣って納言草を輸出したのか、簡単なことだ、納言草自体は輸出の対象ではなかった。考える事も無い。魔 法省にとって険悪すべきもの、Revalueの人々にとって富となったもの、ヴォルデモート卿に愛でられたものは納言草が付ける其の果実に在った。 納言草は野草だ。背丈は20cm程度しかない貧弱な茎に、透明純度の高い氷の結晶の様な五枚の花弁から出来る真綿の様な、白い花を付ける。世間一般的に知 られ ているのは此処までだ。大概の人は此れ以上を知ることは無いだろう。だが、納言草にはもう一つの使用用途がある。納言草は在る条件化だけ、雪の様な白い花 弁の間に赫い実を付ける。大きさは柊の実と同じ程度だと思ってくれて良い。其の実は元来怪我の治癒や病気の浄化に使用され、其の効果は100%だと言われ てきた。闇の魔法が掛けられた身体に於いても瞬く間に治癒してしまうという其の実の存在は、魔法界全土に水面下で暗黙のうち広まった。 暫くして魔法省がRevalueに監査に訪れた。他国では育ちさえもしないと云う納言草が如何なる風にして実を付けるのか、単純なる疑問だったのだろう。 当時のRevalueの国王----------先代の国王でありの御爺は査察に来た魔法省の人間の眼の前で、誇らし げに納言草に実を付けて見せた。だが、其れが悲劇を生んだ。 其の日以来、Revalueは国土の8割を占める野地を焼かれ、納言草は魔法省に保管すべく Revalueの土と共に厳重に魔法で封印された二株を除いて全て焼き捨てられた。そして、栄耀栄華を極めたRevalueは急速に衰退し栄枯盛衰の道を 辿って行った。だが、没落したとはいえ、純粋な魔法一族故に、魔法省は情けを掛けた。二度と納言草の栽培及び果実の生成を行わない事をRevalueの民 と国王に約束させ、其れが守られている内は不自由無い生活を約束する、と。魔法省の位高い人の多くも納言草の果実で本来の命宿を延ばしてきたのだ。事実を 知らな かったとはいえ、恩が在ったのだろうな。其の日以来、十数年間Revalue国王と其の民は頑なに約束を護り続けた。 だが、決して破られては為らぬ約束は、桔梗とヴォルデモート卿によって呆気無く崩壊した。 [ home ][ back ][ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/4/15 |