last scene




day-51 :誰が為に君は泣く






微弱の動揺を拭い隠すよう、拳を作り上げては握り締め、スネイプは息を殺す様に其の場に立ち尽くした。そうでもしなければ、朽果てそうな机に一撃を喰らわ せてしまいそうで。
唇の感触が乾いているのが判る。声を出す度に擦れた下唇に亀裂が入った様に裂け、血が滲んでいるような味がする。其れでもスネイプは、言葉を発し続けた。


「 …如何して此処に居る、と聞いているのだよ。 君達の耳は飾り物かね。 」


苦渋の溜息、此れ以上声を荒げる気は起きないのだろう、唯淡々と言葉を述べるスネイプに、三人は言葉を失くした。
スネイプが見詰める先、ベットとは到底言えない様な簡素な造りの家具の上に横たわるは、白磁器の様な白さの肌を更に純白雪の如き白さで染め上げてい た。

スネイプが無意識に頬を撫ぜてしまうのは、壊れたラジオが意味の無い音を唯流し続けている行為に似ていた。
其れを否定も肯定もしないまま、ハーマイオニーは複雑な表情を貼り付ける。

「 …は…一体、如何してしまったのですか?! 」

薄く浅い呼吸しか繰り返さない友人、昨日まではあんなにも楽しそうな笑顔で歓談し、初めて見るだろうロンドンの街に思いを馳せていた。必ずお土産を買って くるから、そう言っていた無邪気な声が今でもハーマイオニーの脳裏に木霊する。
今にも落とした瞼を上げ、空気を振動させてあの柔らかい声で紡がれる言葉が聞こえて来る気がした。


……----------------- …っ! 」

痛嘆にくれ、悲壮な声色で名を呼ぶドラコが、の傍に駆け寄ろうとするのを、スネイプは一瞥だけで制する。
此れ以上近づくな、暗黙の注意に似た行動に、ドラコの身体は阻まれる。勿論、其れをぶち壊してでもの元に駆け寄ろうと云う意思はあるのだが、如何せん 戦慄走らせた様に身体が云う事を利かない。だから唯、見詰め、暗黙に問う。ハーマイオニーの様に声には出せず、今のドラコに出来ることは其れだけだった。

、如何して、、 」


ハーマイオニーには、ベットの上に横たわり身動き一つしないが、信じられなかった、現実を信じたくなかった。だから気が付けば、スリザリン寮監督相手 に声を荒げ、可愛らしい顔には幾つもの青い筋を浮き立たせた。

「 ……………………… 」

ハーマイオニーの痛み伴う痛嘆にくれる叫び声に、ハリーもドラコも俯き気味に為る。
聞きたいことも話したいこともいっぱい有った。互いに、奴より先にに対して「おかえり」と言って遣りたい、言ってやるつもりだった。だが、帰ってきた は、百年の眠りに落ちた姫の様に身動ぎすらせ微動だにせず、浅い呼吸を繰り返すばかりで今も目覚める気配すらない。
更には、万年土気色のスネイプの顔が、悲壮と悲愁に苛まれた蒼白さを帯びている。只ならぬ事が起きたのは明白だった。


「 眠って居るだけだ…多分、な。 」


其れ以上も其れ以下も言わず、肺の中に吹き溜まりの様に溜まった重たい息を吐き出す。
俯いていたドラコとハリーは同時に顔を上げた。眠っている、其れは如何云う事か、何故にホグワーツ教授ともあろう人が曖昧な返答を遣すのか。噎び上がる疑 問は留まる所知らず。だが、決して虚偽を述べたりしないスネイプから放たれた苦渋の溜息とも取れる言葉、判っている事は本当に其れだけなのだろう。
で、無ければ、ホグワーツに戻ってくる前に何とかしているに決まっている。
ハーマイオニーは納得せざるを得ない様、其れきり口を噤み、代わりにドラコが一歩前へ出る。随分とキツイ印象を受けるドラコの視線とスネイプの一瞥が、キ レイにぶつかる。


「 如何しても、お伺いしたい事があります。 …お時間を、頂けないでしょうか。 」

意を決したよう、口火を切ったのは、意外にもスネイプに絶対的の忠誠に似た私情抱くドラコ。懇願めいた科白が吐き出されると、スネイプの尖る瞳に一層力が 籠った。

「 ほぉ、スリザリンの生徒がグリフィンドールの生徒と仲良く頼み事とは、世も末かね。 」
の…共通の友人の事となれば、最早寮は関係ありません。 」

慇懃無礼な物言い、相も変わらずマルフォイの息子だ、といたく感心しながら、スネイプは冷えた研究室内の暖炉に火をくべた。音を立てて劫火の如き燃え上が る火を背に受け、持成してやる義理は無いとばかり、寂れた椅子に腰を落として足を組む。スネイプの体重を受けてギシリと為る椅子の悲鳴は、天高く燻られる 様な焔の音に消えた。
季節外れの進路相談でも遣っているかの様な異様な光景の中、ドラコとハリーを眇める瞳で見やって、スネイプが冷厳たる一瞥を投げる。


「 貴様等、閲覧禁止の棚に立ち入ったな。 」
----------っ、其れはっ… 」

三人が、言葉に詰まる。此処で違う、と否定することは得策ではないだろう、だがしかし認める事も躊躇われる。如何切り替えそうか、ハリーとドラコ視線を混 じらせる事無く思案した。
だが、当のスネイプはドラコとハリーに何らかの返答を期待していた訳では無いらしく、勝手に話を進める。

「 二週間位前だったか、閲覧禁止の棚に侵入者が現れたのは。フィルチに事が露見せぬ様に魔法で証拠を隠滅したのは、我輩だ。其の時の魔法の残滓がお前等に付 いている、明白な証拠だ。 」

組み上げた足の上、筋違いの憤慨に身を任せて杖を握って仕舞わぬ様に、と組まれた両手を解いて代わりに腕組みをする。

三人にしてみれば、が納言草に関する文献を調べ上げ、羊皮紙に纏めてレポートとして提出した時点で、と誰かが閲覧禁止の棚に侵入した事を間違い無 くスネイプには露見していると知っていた。
だが、其れを敢えて証拠隠滅とばかり、スネイプが直々に魔法を施していただ等と、如何も可笑しい。まるで周囲に侵入者の存在を知らせたくなかったかの様な 行動。普通は呼び出した挙句に幾らかの減点を加え、ダンブルドアに報告するのが教師としての筋だろう。

だが其れを敢えてしなかったのには、何か理由があるからか。

------------- 読んだのだろう? Revalueに関する文献を。 」

低い声、冴えた響き、突き刺さる鋭利な視線、そこに潜む感情は何なのか。

「 だったら、僕が聞きたいことも判っている筈だ! 」

今すぐ何が何でも説明しろ、とでも言いたげな鋭利な孔雀緑の瞳がスネイプを直視する。だが、スネイプは更に凍て付いた一瞥を以ってして制すると、昔話でも するかのように小さく息を吸い込み、吐き出すと共に言った。

「 我輩も学生時代、あれを見付けたのだよ。貪る様に読み耽ったお前達同様、疑念抱いた侭十三年の月日が流れ、今日初めて意図的に隠された真実を知った。 」
「 意図的に隠された事実…を知った? …ロンドンで、ですか? 」

ドラコが少し戸惑いながら問う。其の言葉に、ハーマイオニーは心の中で思案する。
スネイプの言葉に同意する様、何がしかの疑念を抱いた侭にハリーとドラコは閲覧禁止の棚から這い出て、事の真実を問質そうとスネイプとダンブルドアを捜し て居たのだろう。
に納言草に関して調べさせた時点でスネイプは何か真相を知っているのだ、と確証に似た予想を立て、ダンブルドアはホグワーツを統括する総帥、新入生の 事情を知らない訳は無いだろう、そう確固たる自信を以ってしての行動だった。

だからドラコとハリーは、閲覧禁止の棚で知り得た事を何一つとしてハーマイオニーに話さなかった。否、話さなかった訳ではない、話せなかったのだ。余りに 断片的な事実でしか描かれて居なかった文献、憶測だけで物を言えるほど有力な情報など何一つとして無かった。況して、想像だけで事足りるほど稚拙なもので もなかった。

千切れたパズルのピースを嵌め込んで完成させる様な奇怪な謎に満ち足りた文献、Revalueと云う国と納言草に興味の無い人間には薄汚い屑同然の羊皮 紙。prologueからepilogueまで、実に二時間以上の時間を掛け、周囲には眼もくれずに只管に活字を追った。


「 説明する時間も無駄だ。 」
「 …っ! 」

一括された彼等は、見開いた視界の中、線の様なスネイプの言葉が脳髄に矢となって突き刺さり、自分の理性が燃え上がる焔の息吹に吹飛ばされそうな予感がし た。

スネイプが、次の言葉を吐くまでは。
 
「 だから、お前達に我輩の記憶を見せて遣ろう。 」
「 …記憶、? 」
「 あぁ、質問は其の後で纏めて聞いてやる。 」

記憶を擬態化するだ等と、愚かな行いをしている事は、嫌という程スネイプには判っていたが、後悔は不思議と覚えなかった。
過ぎるへの執着の果て、己の悲壮をこやつ等にも味合わせる気か。自身を嘲笑う声が心の内からも聞こえたが、ねじ伏せ、音を立ててスネイプのローブが翻 り、懐から取り出した杖に向かって呪文を紡ぐ。勤勉なハーマイオニーでさえも熟知しない高度魔法を意図も容易い飯事みたいに作り出しては、用無しと為った 杖を懐に仕舞いこむ。

何が、おきるんだ。

三者三様、ごくりと唾を飲み込む音さえも聞こえてきそうな閑散とした室内で、白い湯気の様な乳白色の蜃気楼に似た霧を見詰めた。初めの内こそ出来損ないの 綿菓子の様だった其れは徐々に光彩を取り入れ色味を増し、ゆっくりと数時間前にスネイプとが遭遇したであろうあの白い花咲き誇る場所を描き出してい た。

------------------------- 凄…っ、空に…浮いてる、、 」

白い花が夜空の様な灰色掛かった空の隙間を埋める様に咲き誇る小高い丘の上。周囲にそぐわない漆黒のローブを風に嬲らせたヒトが静かに空に浮いている。空 模様は芳しくなく、今にも灰色の雲から雫が滴り落ちて来そうだ。
音を増して風の勢いが増強し、風に煽られローブのフードが飛び、秀麗な顔が露になった瞬間、三人が息を呑んだ。バサバサと音を立てて翻るローブから、夜の 帳に似た黒髪が零れ落ち、薄く紅を引いた形の良い唇と浅紫ににび色を混ぜた様な独特の色彩放つ濡れ宝玉のような瞳。

衝撃はスローモーションで訪れた。
周りの空気も水滴もゆっくりとゆっくりと 時間が止まったと錯覚させられるように、眼前の光景に釘付けに為る。

同じ顔と瞳を持つ少女を、彼等は知っていた。
























[ home ][ back ][ next ]

(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/3/29