| last scene ![]() day-50 :君と云う光が消えた世界 ハリーとドラコが連立って閲覧禁止の棚へと消えてから約、三時間後。膝に抱いたクルックシャンクスの長い毛足を指で梳きながら、退屈さを前面に押し出した ハーマイオニーは忍びの地図と魔法薬学の教科書とを交互に眺めながら二人を待っていた。 閉鎖された図書館は思いの外居心地が良い。図書館と云う位、普段も静謐な空気に包まれ静寂を護り切っては居るが、他者が居る気配だけは無関心に為ろうとも 自然と感じられた。マグルというだけでスリザリン生からの痛いまでの視線を受けているハーマイオニーにとって、自分以外の誰も存在していない図書館は酷く 魅力的に感じられた。 しかし、此処でのハーマイオニーの役割はあくまで監視役。他者が図書館に寄り付く様であれば、真っ先に閲覧禁止の棚の奥に居る二人に告げる役割、静寂の中 読書だけに没 頭する訳には行かない。 忍びの地図は図書館に近づく者を余す事無く表示してくれる為、監視役としては気分的に楽だった。だがしかし、忍びの地図を以ってしても避けられぬ事態に 為った事象を考慮し、万全を期して、タイムターナーも持参している。 だが、予想された事態は起きる事無く、永久に開かない気さえ起きてくる閲覧禁止の棚が僅かに軋んで、静かに閉められた。 「 如何だったの? 随分遅かったみたいだけ… 」 透明マントを被っているであろうハリーとドラコの姿が直視出来る前、既に其処に居るであろう二人に声を投げたハーマイオニーは、言葉を最後まで言い切る事 無 く表情を詰まらせた。 バサリと音を立てて落とされた透明マント、中から出てくるであろう二人は犬猿の様に瞬時に身体を引き剥がし合っては罵りあうのだろう、そう思って居たハー マイオニーを出迎えた二人の顔は悔恨の念に破願していた。 「 …一体如何したの、有力な文献が見付からなかったのかしら? 」 如何して私が気を使わなければ為らないのだろう、そう思いながらも努めて明るい素振でハーマイオニーが言えば、ドラコとハリーは両者黙した侭顔を上げた。 其処に在ったのは、二人同じ様に虚空を見詰た侭戻る事を忘れた人の様に虚ろな眼差しと、何かに憤怒した侭怒りの余りに現実を放棄した人の様に空ろな眼差 し。 片方がそうであるのならば未だ、話は見える。だがしかし、両者…しかも敵対するであろうハリーとドラコが同じ顔を揃えて何一つ言葉を発しない侭、視線を合 わせて頷く様に頭を縦に振った。まるで、固く誓った密約に対する、意思疎通の様に。 「 …スネイプか…ダンブルドア校長は帰ってきた? 」 「 いえ、未だだけど…ねぇ、如何したの? 」 普段と変わらない表情の侭、柔かな笑みだけ欠いたハリーの言葉に、ハーマイオニーは一抹の不安を覚えた。 こう云う時のハリーは内面では酷く思い詰めていて、他者が何か助言しようが意見しようがお構い無しに己が信念を貫き通し、踏み込む先が茨の道だろうが地獄 へ繋がる三途の川だろうが構う事無く直走る傾向にある。 去年も一昨年もそうだった。相違有るものは正すよう、意味も無く行動を起こすのとは桁が違う。だからこそ、予感が走るのだ。閲覧禁止の棚に於いて見付けた に関する文献の中で、彼らの逆鱗に触れる様な真実をと全てを狂わせた栄枯盛衰の果てに、多くの屍を甘受する、禁忌---------其 れを見つけて仕舞ったのではないか、と。 「 スネイプが帰ってきたら、其の時に話すよ…其れまでは何も言えない。 」 其れきり押し黙るハリーと、一言も話そうとしないドラコ。両者を交互に見詰たハーマイオニーは、これ以上模索しても得られる物が何も無いと悟り、忍びの地 図を取り出して図書館を出る様に促した。 ハリーとドラコが閲覧禁止の棚から出て来た以上、此処に居続ける事は得策ではない。開館されている時分での図書館に居るならば何も疑わしい事は無いだろう が、敢えて閉館している図書館に居座り続けると言う行為は他の人間から見れば不可解な行動と捉えられても可笑しくは無い。 閲覧禁止の棚を閲覧しただ等と云う事が露見でもすれば、間違い無く咎めが来る。其の前に、如何してもしなければ為らない事があるハリーとドラコは大人しく ハーマイオニーの助言に従った。 険悪な雰囲気漂わせながら、図書館から出た三人は宛ても無くホグワーツの廊下を歩く。 「 多分、予想だと一番最初にホグワーツに帰ってくるのはスネイプよ。 ダンブルドア校長は今日は一日戻らないってさっきマクゴナガル教授が話していたのを聞いたの。 」 「 じゃあ魔法薬学研究室でスネイプを待とうか。 」 「 そうね、そうしましょう。 」 連立って魔法薬学研究室に向かう道中、交わされた会話はこれだけに終わる。ドラコに至っては、閲覧禁止の棚から出てきて以来一度も口を開いては居ない。ハ リーも余計な世間話を好まない様に沈黙を守り切られると為ると、ハーマイオニーは非常に居た堪れない心地になる。 此処は一先ず、ハリーとドラコの二人だけ にさせた方が賢明なのだろうか。自分が居ることによって話が先に進まない、と云う事態も有り得るかもしれない。否、二人きりになったとて、彼等が相談染み た話をするとも限らない。 其れならば、例え萱の外に放り出されているような疎外感を感じようとも、共に歩いている方が得策だ。此処で踵を返せば、閲覧禁止の棚で知り得た事をもう二 度と聞く事が適わなくなる様な予感さえもした。ハーマイオニーとて、閲覧禁止の棚に於ける出来事を知 り得たいと思っている。 無言の侭只管に歩き続け、黴臭く湿度の高い魔法薬学研究室独特の薫りが立ち込める部屋に到着したのは、それから10分後の事だった。石造りの扉を押し開 け、がらんどうの教室内に並べられている椅子に適当に腰を落とし、相変らずハリーもドラコも互いに視線は合わせるものの、言葉を発せずに何かを試行錯誤し ている様に思われる。 瞑想に近しい静寂の中、ハーマイオニーは今朝方の出来事を再想していた。聞きたいことがある、内容を一切言わず別れた侭に終わっているだけに、が気に していはしないか。また、話を如何切り出そうか。 あれ程までにを毛嫌いしていたスネイプが、よもやの肩身を持つ様な真似事をし、天津さえ共にロンドンに出掛けるだ等と…在り得て良い訳が無い。 刹那、重厚な音が魔法薬学研究室に響き渡り、条件反射の様に三人が扉に向き直る。と、同時、視界に飛び込んできた光景に言葉を失った。凌轢した後の様な凄 惨さを内に隠した様に眠る、見知った顔。 責めるよう、嘆くよう、畏憚でも見たかの様にドラコの顔が引き攣った。 「 ----------------- …! 」 洗濯日和とも言える位に晴れ渡っていた今日、ロンドンも例外無く乾き切った快晴に包まれていたと云う情報を仕入れていた。だがしかし、扉を開けた張本人は 滝に打たれたかの様な水量を浴びた様な形相、滴り落ちる水滴はスネイプを中心に即座に水溜りを形成させた。 否、其れよりも三人には叫ばずには居られない光景が其処に在った。心が音を立てて軋む。涙等滲んでいないにも関わらず、歪んで見える情景。違える筈は無 い。 見開かれる三人の瞳孔の中、凍て付く様な鋭利な眼差しのスネイプが、両腕に横抱きにし、外套で包み込みながら抱えて居る-------------が居た。 駈け寄ろうとする三人に、スネイプは火でも噴きそうな程の視線で睨み付ける。睨み付ける行為で、隠し切れて居ない動揺と怒り、屈辱と憤怒の織り交ざった感 情に、僅かに身を震わせていた。 「 …貴様等、如何して此処に居る。 無断で立ち入って良い場所ではない。 」 時は夕暮れ、橙の色味射す事無い魔法薬学研究室。普段は訪れ得る事の無いだろうグリフィンドールの生徒二人とスリザリンの生徒一人を見据え、スネイプは憤 怒に身を任せたい衝動を堪えながらも漂う空気に眼を眇めた。埃と黴臭い魔法薬学研究室が、今日程有難いと思った事は無い。舞う埃飛礫が開詮しかけた涙腺を 塞ぐ役目程度 には為ってくれるだろう。 ホグワーツ正門から歩いてきたと云うに、腕の痺れは全くと言って良い程無く、猫の子供でも抱いているかのような感覚、スネイプに恐怖が走る。 人ならざるものに為ってしまった気がして、雑念を振り払うよう、かいなに抱いた少女を安置する為に、詞を紡いで簡易ベットを作り上げると、其処へ静かに横 たわらせた。もう二度と開かぬだろう雰囲気さえ伺える白磁器の様な頬に掌を添えれば、刹那に伝わる心と皮膚を這う悪寒に、身体が震えて。 ( 我輩が…ロンドン行きを許可さえしなければ、こんな凄惨な事には為らなかっただろうに) 生まれて初めてスネイプは、神にでも祈ろうかと云う無力さを憎んだ。 桔梗が起こした全ての大罪と計り知れない犠牲の代償が、この身一つで足る為らばが背負う宿業を我に背負わせるように、と。 あまりにも傲慢な、されど譲ることも許されない、愚かにして唯一の、絶対の願いを確かに心の中で叫喚した。 [ home ][ back ][ next ] (C) copyright 2006 Saika Kijyo All Rights Reserved. update 2006/3/22 |