last scene




day-45 :告げる警告、破られた歴史の欠片




静謐な空気だけが静かに流れ落ちる図書館の先。周囲を憚る様にして静かに開かれた【閲覧 禁止の棚】は 余り使用されない為か、埃が散りきな臭い様な感じさえした。
生まれ育った環境上、埃塗れの世界に等足を突っ込んだ事が無いドラコは其の匂いにあからさまな嫌悪感を抱き、苛立った様に眉根を寄せ咳込む。
其れを目配せで咎めたハリーは一秒さえも惜しいとばかり、二週間前、と共に入ったこの部屋で唯一の手がかりを見付けた場所へと足を進める。目的の場所 まで来てしまえば、もう透明 マントは要らないだろう、と埃が層を織成す床にひいて座り込む始末。


「 …座りたくないなら別に構わないけど、君の立派なローブが汚れるより得策だと思うよ。 」


立尽くした侭、薄ら埃の絨毯が敷かれた地面を眼前に、ドラコの視線が泳ぐ。
足を踏み入れた事が無いだけに、想像し様も無い閲覧禁止の棚が、此処まで酷く汚れているとは知らなかった。知っていれば自分も座る為だけの布か何かを持参 しただろうに。知らなかったから、何も持参していない。
勿論、用心に越した事は無いだけに杖も持ってきてはいるものの、この場所で魔法を使って誰かに知られないと言う確証が無いだけに使用する事も躊躇われる。

況して、最も嫌悪する相手のローブに我が物顔で座り込むのも如何かと思う。クラッブやゴイルが居るなら未だしも、こんな状況下、自ら進んで獅子に喧嘩を売 る気にも為れない。
とは言え、新調したてのローブに埃を引被らせる訳にも行かない。右往左往する思考、飛び込んできたハリーの言葉にドラコは違和感を覚える。


「 勿論敷いている方は表側だから帰りも汚れる事は無いから。 」


だから早く座れ、と暗黙の内に促すハリーにドラコは怪訝な一瞥を投げるも、諦めた様にハリーの隣に腰を落とした。
透明マントは決して広いとは言えない。寧ろ、マントと呼ばれる位だから当然の如く一人用なのだ。だからこそそんな場所に二人の男が場所を取り合う様に座り 込めばあっという間に隙間は無くなる。
其れでも、仕方ない。今は甘んじる以外に術は無い。

文字通り、肩を寄せ合う様に、だがけして触れぬ距離を保った侭、ドラコとハリーは閲覧禁止の読書を勤しんだ。


「 何か有力な文献は見付かったか。 」
「 …特に。 可笑しいな、此処に来ればきっと見付かると思ってたんだけど… 」


一時間ほど経過しただろうか。無言を保った侭静かに羊皮紙が捲られる音だけが微かに響く中で、ドラコがそう聞いてきた。破られた沈黙にハリーが顔を上げれ ば、周囲には何冊もの草臥れた年季入る冊子が無造作に置かれ積み上げられている。
あの日と同じ、光景。見付けてしまった納言草の手掛かりは、かのヴォルデモート卿と繋がっていた。の生まれ故郷だと言うRevalue、其処にしか生 息しない極めて珍しい草植物である納言草…賢者の石の作成に使われる唯一の成分…と、其処まで思い出したハリーは、あの日見付けた文献を最後まで読んでな い事に気が付く。


「 もしかしたら…! 」


逸る気持ちを抑えきれず、ハリーは比較的埃の被って居ない本を片っ端から開き、あの日の記憶を頼りに本を探してゆく。あの時は知り得た事実の大きさに気が 動転し、背表紙すら思い出す事も無いまま封印する様に本を棚へと戻した。
今思えば、せめてタイトルだけでも憶えておくべきだった、と悔やむ。
だが、悔やんでも遅い事等知っているから、必死に記憶を呼び覚まして探す。


「 これだ…この本、ここに書いてあったんだ、納言草の真実が!! 」
「 納言草の真実? それとと…何の関係がある? 」
「 関係があるかは判らないけど…無いとは言い切れないから。 でも、見てみる価値はあるよ。 」


訝しがるドラコを尻目に、ハリーは嬉々とした表情で表紙を捲り、瘡付いた羊皮紙を開く。幼い子どもが秘密の宝の地図を見付けたような、そんな好奇に満ち溢 れた眼差しだった。
大方、其れに相違あるまい。の郷里を探す、其れは小さな宝探しに似た行為だったのだから。本当に小さな興味、想いを寄せたひとが生まれたと云う国は一 体どんなところなのだろう。そんな可愛らしい疑問は、一度は誰しもが想像することではなかろうか。

だが、忘れては為らない。宝探しは何時も、本当に宝だけが見付かるとは限らない、ということを。


「 Don't break a seal…? 」
「 封印を破るな、と? 」
「 この本、もしかしてヴォルデモート卿の秘密が書いてあるとか…? 」
「 其れが真実なら、こんな場所において置く訳が無い。 魔法省で厳重に管理されているだろうさ。 」


1頁を開いて早々ぶち当たった問題に、ハリーとドラコは言葉を失くした。
1頁目の草臥れた羊皮紙は、二枚を張り合わせた様に分厚く、だが確実に一枚一枚分離するだろう事が見て取れる位の隙間が在った。興味本位で引掻くように爪 先で擦り取れば、粘着物が乾涸びたものを無理やり引き剥がす様な耳障りな音と共に、掠れた紅い文字でそう認められていた。


「 こんなもの…僕が最初に見付けた時は無かった気がする。 」
「 何寝惚けた事を言ってる。 現にお前が見たのはこの本なんだろう?! 」
「 確かにこの本だった、見覚えは無いけど…でも、全く同じ言い回しの本が複数存在するなんて可笑しい。 引用でもしてなきゃ絶対に! 」
「 …じゃああれか? 本当にこの頁を見付けなかったか、後付されたか… 」
「 気付かなかっただけかもしれない…僕はこの本を先頭から読んだ訳じゃないから。 」


そう言い、ハリーは手にした本をパラパラと不規則に捲り、あの日眼裏に焼き付いて離れない一文を見付ける。
あの日もこうやって偶然に見付けた。他の頁を開く事も眼に留まることも無く、偶々開いたこの頁にあの事実が記されていた。本当に、意図した訳でもなく、偶 然に。

偶々。
偶々……?……偶然………?本当に、偶然に見付けた、、?……其れとも、必然?


混乱し始めた頭を抱えたくなる。如何にかなることは無いと判っていながら、其れでも一人頭を抱えて悩み抜きたくなる。あの日自分がこの本を見付けたのは 偶然か?其れとも、誰かが読むべくして差し向けた必然なのか?
手にとって数頁適当に捲って偶々見付けた文書に、納言草の事実が記されていた。
偶然とはこんなにも重なるものなのだろうか。偶然とは、こんなにも高い頻度で訪れるものなのだろうか。偶然とは、必然的な理由が考えられないのに、思いが けなく起こる事象では無かったのか。
 

そうしてひとつの言葉に行き着いた。偶然が重なり合 わさって、必然が出来上がるのだ、と。途端、脳内でけたたましくサイレンが鳴り響く。


「 …如何した、この本で間違い無いなら早く開いて確認しろよ。 」
「 ……なんとなく、唯の勘なんだけど…これ以上、この本を見ちゃ行けない気がする 」
「 何を今更! 弱虫ポッター君はまたもや怖気付いたのか? 」


ドラコの挑発に、ハリーは冷えた眼差しを以ってして返した。
茶化したければ茶化せば良い。これを弱虫だと罵るのならば好きなだけ罵倒すれば良い。
だが、どんな言葉を言われようとも、ハリーの中で確証に似た勘が警告の鐘を鳴らし続けるのは事実。確固たる確証なんてものは存在しないが、其れでも自分の こう云う勘が必ず当たる、とハリーは経験上知りえていた。
だからこそ、これ以上見ないほうが良い、と本能が教えてくれる。


「 止めよう、もう此処には来ない方が良い。 」


言葉と共に、ハリーは手にした本を閉じ、棚へと戻そうとする。
其れを阻止したのはドラコの冷ややかな一瞥と共に差し出された掌。お前は見なくても良い、だから此処へ置いていけ、と明示的に示して見せたドラコに対して ハリーは本を渡す気は更々無かった。無視する様に棚へと押し戻そう とすれば、ドラコが脇から腕を伸ばして来た。如何やら無理やりにでも取り上げるらしい。


「 今更怖気付く気か? どれだけの危険を犯して僕が此処まで来たか判るか!? 」
「 あっ…、 」


半ば引っ手繰る様にハリーの手から本を取り上げたドラコは、勝ち誇った様な笑みを見せる。
だが、ハリーも負けては居なかった。取り上げられた本を取り返す様に下部を掴むと手繰り寄せる。ハリー側へと傾いた本は、数瞬のうちにまたドラコの方へと 引っ張られ、其れが繰り返される。
暫くの押し問答の末、一際強く引っ張るドラコとハリーの呼吸が絶妙なタイミングで重なり、両側から一気に力圧を加えられた本はバランスを失って床に落ち た。

瞬間、ひなげしに似た色のブックカバーが剥がれ落ち、其の本が本来持つ表紙が現れる。元は柔かであっただろう革張りの文献は乳鋲で丁寧に縫い止められ、歳月を感じさせる程に草臥れ、表紙自体に触れれば砂か何かの様に毀れ落ちてしまいそうな気さえ起きてくる。如何やら大切に扱わなければ為らない、文献らしい。通常、腐敗等を恐れた文献に関しては、何らかの魔法が施されたブックカバーによって其の身を護られている。其れが偶然にも剥がれ落ちた今、必要以上の刺激を本に与えかねない。

早くブックカバーを掛け直さなくては。事が露見し、文献が痛む様な事があれば、間違い無くハリーとドラコは退学処分に科せられるだろう。


「 汚れたら間違い無くフィルチにバレる。 丁寧に扱え、ポッター 」
「 僕にだって其れくらいは判ってる! 」


掴み上げた本。ブックカバーを掛け直そうとした其の瞬間、ハリーの指先は本来持つべきタイトルが記されている事に気が付いた。上等の箔押しは柔らかい指先 に馴染む様に吸い付いてくる。
だが、相当文献が古いのか、 文字が薄れハッキリとは見えない。仕方無しに僅かに射す明かりの下で眼を凝らした瞬間。

其の顔が崩れた。


「 The fall of the Revalue and perish, die out... 」


触れては為らぬ歴史の禁忌に触れたとき、知っては為らない真実を知ったとき、ひとは後に戻ると言う行為を欠乏してしまう。視界に入り込んできた文字を見た 瞬間、まるで何かに導かれるよう、ハ リーは決して開いては為らなかった歴史の紐を解く。

Revalue王国の滅亡とその民族の絶滅。
ドラコとハリーは両者黙した侭、再び透明マントの上に座り込んで静かに頁を捲る。此れから先、絶望に似た真実に触れるとも知らず、笑えるぐらいに予想通り の結末を迎えることも判らずに。






































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© 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/2/28