last scene

day-43 :休戦協定
「 ねぇ、ハリー、本当にそんな事するつもりなの!?やめた方が良いわよ、遣るなら深夜に… 」
「 駄目だ、今日はスネイプも居ないし、フィルチもミセス
ノリスと出掛けている。図書館の蔵書点検を明日に控えた図書館が閉鎖されるなんて、格好のチャンスなんだ 」
「 …なんだ、優等生のポッター君はまた禁書の閲覧にでも勤しむのか。 」
他の生徒に聞こえぬよう、声を押し殺して大広間から談話室への帰路を急いでいたハリーとハーマイオニーの会話に、意外な人物の声が混じっていた。
誰かに聞かれてしまった、と云う焦慮感より先に、聞いていた人物が自ら声を掛けて来た事に二人は驚愕した。
護衛の様に何時も左右を固めているクラッブとゴイルを隣に付けていないドラコが、なんの表情も付けずにハーマイオニーとハリーの前に躍り出た。
勿論、本来居るべき筈のロンが居ない事への説明は割愛するとしても------ この組み合わせは異常だった。
「 …関係ないだろう----- これは僕が勝手にって、ハーマイオニー!? 」
勇敢にも蛇から吹っ掛けられた喧嘩に咆哮した獅子は、無残にも仲間の獅子によって無理やり牙を折られました。
…と云うのも、ハリーが言葉を全て吐き出す前に、ハーマイオニーはハリーのローブを左手で掴み上げると、偶々開いていた教室の中へと放り投げる様に押し込
んだ。
そして事もあろうに、扉を閉める瞬間、鋭利な薄蒼の瞳に目配せをしたのだ。 否、無言の会話。関わりたくば、共に部屋の中へ入れ、と。
そして意外な事に、マグルから眼で指図されると云う恥ずべき行為に憤慨する事無く、ドラコは無言の侭殺風景な教室に足を進め、後手に扉を閉める。パタン、
と乾いた音が妙にがらんどうの部屋に木霊する。この部屋に居るのは、ハリーとハーマイオニー、そしてドラコの三人だけ。
「
…初めに忠告しておくわ、貴方は私たちを仲間だとは思ってない、勿論私たちも思ってない。でも、同じ秘密を共有する特殊…特異と言っても良いわね、そんな
関係よ。 」
「 今更何言ってるんだよ、ハーマイオニー! 」
虎視眈々と言葉を投げるハーマイオニーに代わって、ハリーは其の顔を蒼く変化させていった。
一方のドラコは、ハリーの挙動等興味が無い、或いは存在していないかのように黙殺し、唯目の前の少女の言葉にだけ耳を傾け遠くを見詰める様に見据える。
「 閲覧禁止の棚に、入るべく…理由が在るから、なのか? 」
ドラコは呟く。そして、真っ直ぐに視線をハリーへと動かした。ドラコの意外な答えにハリーは顔を上げ、そして畏縮する。
壁に凭れ掛かるようにして立つドラコからは明らかに不機嫌の色が伺え、そして其れが自分やハーマイオニーに対してだけでは無い事を間接的に思い知らされ
た。
だから半ば仕方なく、重たげな溜息一つと共に、出来れば告げたくなかった言葉を吐き出した。
「
最初は小さな興味…そう、ホグズミードでの生まれた国について聞いた事から始まったんだ。
どんな国なんだろう、そう思って聞いてみたけど、余り芳しく
ない表情をされたから。
でも、葡萄畑が在って、夜になると星が綺麗だったって…だから、興味本位から調べたんだ。
の生まれた国、Revalueについて。 図書館のありとあらゆる本と云う本を引っ掻き回し… 」
「 それで? 」
「 検索魔法を使って図書館の膨大な書物を探したんだ。 けど、無かった。
Revalueなんて云う国に纏わる伝記は元より、歴史書にそんな国は無いんだ。
可笑しい、絶対に可笑しいよ、マグルの小さな島でさえ、この図書館には記録があるのに!! 」
ハリーの云う話を最もだ、とドラコは唯静かに聴いていた。
そもそもマグルの世界の地理に等興味等無いが、が生まれ出でたという国については聊か興味が在った。
純血を繁栄させ続ける貴族は多くない。勿論衰退していく貴族もあるが、滅したとしても純血一族は其の家名と経緯を魔法省が管理している。
だからドラコ自身もほんの小さな興味本位で、父であるルシウスに文を飛ばして聞いてみたりもした。だが、無常にも返ってきた返事は唯一言、
------------- 関わるな、そして忘れろ。
其れは、不可抗力ながらに、ドラコがにブレスレットを贈った翌日の朝、届いた。
「 同感だな。 僕も僕なりに調べてみた。 可笑しいと思った、純血なのに僕が家名どころか国を知らないとは。 」
「 …その、言い辛いんだけど…が純血じゃない、って云う可能性は… 」
「 流石は穢れた血。 思考回路も其の程度か。
だが残念なことには純血だ、其れも…あのスネイプ教授を一言で黙らせる程の名家だ。 」
じゃあ、如何して文献の一文にも出てこないのだろう。
其れは三者三様脳裏に過る疑問だった。
そして、思い当たる節が一つ。一番最初、既に忘れ去っているのかもしれないが、スリザリン寮生として認める代わり、と条件を提示してきたスネイプの【納言
草】と云う言葉。
の郷里に咲くと云う其の花の名を、スネイプは知っていた。と云うことは、が生まれた国が存在していた、という物理的ではあるが証明になる証拠が
在った。
そしてもう一つ、忘れて為らない事実。納言草を調べ上げた際、其れについて記された文献が唯一存在した箇所、其れが閲覧禁止の棚、だった。
「 だから僕はもう一度入る。 そして… 」
「 でもね、ハリー。 調べて如何するつもり? の事を彼是画策して…に厭な想いをさせないかしら。 」
「 だったら知らせなければ良いだけだ、調べた事実を告げなければ良い。
仕方が無いから僕も其の探検ごっこに付き合って遣るよ。 ポッター君と一緒、と云うのは不本意だが。 」
「 …なら僕に付き合わなくても良いと思うけど。 」
「 為らば透明マントを此処に置いていけ。 別にお前が必要な訳でもない。 」
其処に蟠るのは、困惑に似た空気。如何して何時もこうなるのだろう、こうさせるためにドラコを招き入れたわけではない、とハーマイオニーは独り心の中で悔
いた。
其の空気の中心に位置する二人の人物は、互いに一歩も譲らぬ侭睨み合いに近しい視線を飛ばしていたのだが、ふいに其の重たい沈黙が破られることになる。
「 …何時だ、何時来れば良い? 」
コレマタ意外。の事と為ると、この二人は敵対関係から協力関係へと依存関係が変更するのだろうか、とハーマイオニーは瞳を丸くする。
ドラコがハリーに譲る、という行為、何があっても見ることはなかったこの三年間。初めてだと言えよう其の出来事に茫然自失に為りそうな精神を何とか奮い立
たせ、ハーマイオニーは決まってもいなかった時間を勝手に告げる。
「 直ぐ、よ。 フィルチとダンブルドア校長が何時帰ってくるかも判らないし、
他に邪魔が入らない保障は無いもの。 見張りは私が遣る、だから… 」
結果を教えて欲しい、なんて素直に言えた義理ではなかった。唐突に思い出すのは、今朝の大広間での出来事。
明朝、夜も明けきらぬ頃合にを送り出したのは他の誰でもない、ハーマイオニーである。が朝苦手だとか、あれ程着たく無いと言っていたドレスを無理
やり着せなくてはならない、とかそんな陳腐な理由ではない。
唯、如何しても良くない事が起こる様な気がして眠れず、朝靄の中大広間で独り擬似的な青空を見上げていたら、声を掛けられた。
「 お早う、ハーマイオニー。 今日は随分と早起きね。 」
「 おはよう、。 こそ、随分早いじゃない。 朝日が昇る前に発つの? 」
「 そうみたい。 お陰でちょっと寝不足…昨日は遅くまで本を読んでしまっていたから。 」
「 じゃあ行きの電車で少し寝なくちゃ駄目ね、ロンドンは想像以上に遠いから。 」
他愛無い会話。既に昇りかけた朝の光が其処等中に毀れている。
スネイプとの待ち合わせの時間、そろそろホグワーツを出なくてはいけないと判っていたが、偶々通り掛った大広間で独り上を見上げるハーマイオニーの姿を見
つけてしまっては、声を掛けずにはいられなかった。
「 そうだね、やっぱり朝ご飯食べたらちょっと寝よう。 スネイプ教授と会話する事も無いものね。 」
ふわりと微笑むを見ていれば、ふと、心の中に押し込めた筈の疑惑が溢れ出して来た。思い返してみれば、それらは全てあのスネイプに繋がっているのだ、
と思わずには居られない事ばかり。
「 …ねぇ、、貴女に…幾つか聞きたいことがあるの。 」
今この場で言うべき事ではないと判っているけれど、朝早い為か自身の感情を制御し切れていないハーマイオニーは、予てからの疑問をぶつける様にそう問う
た。
ハーマイオニーの下がり気味の視線が、落ち着き無く動く。居心地が悪そうに、あちらこちらに視線を投げては真っ直ぐにを見れないでいる。
「 …帰ってきたら、で良い? 約束の時間に遅れそうなの。 」
「 あ、うん、全然大丈夫よ、ごめんなさい、引き止めてしまって。
スネイプ教授との待ち合わせに遅れるなんて…朝から減点なんて心地悪いものね! 」
慌てた様に取り繕ったハーマイオニーは、へと手を振り、別れの挨拶と出発を促した。
其れにも笑顔で応え、そうしてゆっくりと踵を返す。後姿を見詰めながら、ハーマイオニーは思う。如何して今日と云う日に限ってこんな事を、考えたりし
たのだろうか。
一言、侘びの言葉を言おう、この事で気を悪くしたら申し訳ない。折角ロンドンに出掛けると言うのに、心に引っかかるような事を何故敢えて出立前に口走った
のか判らない。
開きかけた唇、呼び止め様として発しようとした名前。だが其れは、意外なの言葉に掻き消された。
--------- 私がなにであっても…貴女は私と友達で居てくれる?
確かにそう聞こえた。一体如何云う意味なのだろう、と言葉を返し掛けたハーマイオニーの眼前に既にの姿無く、慌てて追い掛けて見ようにも、何処にも姿
は見当たらなかった。
ハーマイオニーの元から逃げる様にして走り去り、外に出た途端、頬には冷たい風が当たる。
季節柄暖かいとは言え、未だ夜も明けきらぬ時間帯。過ぎてゆく時間を痛感させられる。時は決して止まらない。
見上げれば、昇り始めた太陽が心なし嘲って居るような気がした。今までは観る事すら叶わなかったあらゆる
全て幻のを見ているようなものだった。
いつかは壊れてしまうもの。壊さないように大切に護る位なら、最初から壊れてしまえば楽なのに。
タイムリミットは近い。もうじき約束の日が訪れる。勿論、其れまでが此処に居れるか、そんな保障は何処にも無いのだけれど。
覚えておけ。何処に居ても何をしていても、お前は私の代
わりでしかない。
だって其れは私のものだもの。だから早く気がついて、早く私に返して、お前は必要
ないんだって何回言えば判るの、。
去り行くの後姿を、漆黒のローブに包まれたモノが唯静かに静かに見送っていた。
止められぬ運命の歯車は、ひとつひとつゆっくりと其の軸を壊す。やがて訪れるだろう避けられぬ終焉へ向けて、様々なものが其の足を踏み出し始めた。
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© 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/2/12