last scene




day-41 :優しさと希望




「 ねぇ、明日の休日、クィディッチ競技場で練習があるんだけど、見に来ない? 」
「 明日、図書室で読書をしないか? 父上から貴重な文献を送って貰ったんだ。 」


授業を終えた生徒達の談笑が木霊する中、台詞は息も合わせた様にピタリと同じ場所から始まり、同じ場所で終わっていた。
が羊皮紙から視線を前方へと移動させると、ドラコとハリー、そして連れ立つ様にグラッブ、ゴイル、ハーマイオニー、ロンが立っている。
匆々たる顔ぶれに一体何事かと一瞬言葉を飲み込んだだが、二人に共通する"明日の休日"と言う言葉で漸く事態を飲み込むことが出来た。

明日は記念日。ホグワーツ中の講義が休みになり、平日にぽっかりと一日だけ空いた休日をどのように過ごすか。生徒達は思い思いの友人達と共に、朝から浮き 足立っ ていた。


「 ごめんなさい、明日は…その、用事があるの。 」


曖昧に微笑めば、案の定、ハリーとドラコは両者睨み合ってから、誰と何処に出掛けるのか、と詰め寄ってきた。
予報の様に予め告げられていた突然の休暇届に印を押された状態で受け取ったのは、魔法薬学講義前。
渡された羊皮紙には、繊細さを髣髴とさせる丁寧なスネイプの筆記で、休暇日の欄に明日の日時が記されていた。
まさかこんなにも早くスネイプとロンドンに出かける事になるとは思いもしなかったは一瞬驚き、そして何時もの様に柔らかく笑んだ。

今朝方の出来事を告げようと飛び込んだ大聖堂の視線の先、其処に普段居る筈のスリザリン寮監督の姿は無く、其れから魔法薬学講義前まですれ違う事さえ無 かった。
実際、魔法薬学講義前でさえ、話し込める程の十分な時間を取ることは出来ず、結果的に明日へと話を持ち越そうと決めた。

大したことは無い、もしかしたら見間違いなのかもしれない。揣摩臆測である事を心の何所かで考える。
そんな切望に似た想いが伝わったのかもしれない。


「 スネイプ教授と…ロンドンに行く用事があって。 」

「 スネイプ!? あのスネイプと君が如何してロンドンなんかに行く必要が有るのさ!? 」
「 そうだ、付き添いならグラッブとゴイルをつける様に僕からスネイプ教授に頼んでやる! 」


此処まで来ると、一種の漫才の様に思えてしまうのは何故だろう。
小さく噴出しそうになる感情を殺して、は先程のスネイプとの会話を思い出していた。明日の行き先、同行人(つまりはスネイプ)に関する事はハリー達に は内緒にし ていた方が良いのか、と。
だが、すぐさま返って来た返答に言葉に、は愕く。何故、隠す必要性があるのか、と。
そう言ったスネイプの言葉。自分をあれほどまでに疎んでいた人間の口から聞くと何故か無性に喜びを感じた。


「 私がお願いしたの。 ロンドンに…如何しても行きたい用事があって。
 でも生徒独りで行く訳には行かないから、ダンブルドア校長に特別に許可を貰って、
 寮監に付き添って貰うことで同意を貰ったの。 」

「 ……ロンドンへの外出届、父上に言えば何もスネイプ教授に付き添って貰わなくても僕が… 」
「 …そっか、うん、それなら仕方無いよね、気をつけて行って来てね。 」


素直に納得するハリーとは異なり、ドラコは未だ胸中に燻ぶる何かが有ったらしい。
だが、前日という間際に父であるルシウスに相談したところで、実現する可能性が高いわけでもない。
仮に親という権力を最大限に行使した処で、ホグワーツに於いてドラコとだけでロンドンへと行かされるような許可は先ず下りない。
例え百歩譲ってルシウスが許可したところで、ダンブルドアが許す筈が無いと知ってい た。

相手があのスリザリン寮寮監である、スネイプという時点でハリーは降参とばかりに両の手を挙げ、ドラコは如何し様も出来ない事態に唯憤りを感じていた。


「 ……じゃあ今週末は如何だ? 其れなら未だ用事は入っていないだろう? 」

ドラコは暫くの間、理解出来るがしたくは無い事態に子供の様に頬を膨らませて黙っていたが、やがて渋々と口を開いたかと思えば、其の顔に喜が浮かんでい た。

「 マルフォイ! 抜け駆けしようとしても駄目だ! 」

ドラコの問いに、これまたお決まりのパターンの様にハリーが怒る。
つい先日までドラコの一挙一動に左右されまいとしていたハリーだったが、の占有権となると如何やら話が異なるらしい。そして更に、何時ものパターンだ と思うと猛烈に腹が立ったのだろう。
唯でさえ寮が違うというだけで共に過ごす時間が限られている。百歩譲って、ドラコは消灯の時間まではスリザリンの談話室でと談笑することが出来るだろ う。だが、グリフィンドール寮である自分はそうは行かない。
何より、週末、其れは譲れない場所でもあった。


「 じゃあみんなで出掛けましょう? んー…場所はハリーとドラコに任せるからお願いね。 」


其れは幾らなんでも有り得ない。
そう思ったが口には出さないグラッブ、ゴイル、ロン、ハーマイオニーは奇特なものを見る様な眼でを見た。
次いで、何時ぞやの咆哮する獅子と毒牙をむき出しにする蛇の戦を髣髴とさせるハリーとドラコを見て、小さく溜息を吐いた。


「 あっと…ハーマイオニー、ちょっと話があるんだけど、図書館にでも行かない? 」
「 勿論、構わないわ。 じゃあ夕食の時にね、ハリー、ロン。 」


思い出した様にハーマイオニーに声を掛けたは、黒板の文字書き取りが終了したのか、荷物を纏めると椅子から立ち上がる。
ふわりと空を舞う漆黒の絹髪から柔らかな香の薫りがして、ああでもないこうでもないと言い争いをしていたハリーとドラコが振り返る。

目の前に広がるは、薄気味悪い地下室に映える金髪と漆黒の髪。
薄暗闇に溶け込んでしまっても可笑しくない漆黒は、帳が降りたばかりの空のよう。遠く、どこまでも続く黒の境界は儚い影を残している。
石畳の階段を登る音が響き、もう幾度も繰り返し眺めた、の後姿を改めて見る。


( …、 )


ドラコとハリー、両者が揃って心の中、振り向かぬひとの名を呼んだ。
一度瞼を伏せ、それから瞳を上げる。先程まで罵詈雑言を言い尽くして居た標的へと互いに視線を向け、お前には負けない、と心の中で両者息を呑んだ。
戦いは、始まったばかり。






永遠とも思えるような長い大理石の廊下を抜け、迷路の様な螺旋階段のように自由に意思を変える動く階段を登りきって、二人は図書館に辿り着いた。
夕食前とも有ってか、擦れ違う生徒は皆思い思いの友人と明日について語り、其の脇を擦りぬける様に歩いてきた。

がハーマイオニーを図書館へと誘ったことには、其れなりに理由が在る。其れは隣を歩くハーマイオニーにも伝わっていたようで、何度かハーマイオニーだ けを呼んだ其の意図を伝えようともした。
だが、何処で誰が聞いているかも分からず、況してハーマイオニーが大声で叫びを挙げてしまったら困った事態に為る。

ゆえに、他愛無い話で間を持たせる様に日々の語らいの延長線上の話だけをしながら、漸く本腰入れて語れる図書館に辿り着いたという次第。


「 明日出掛けるのに、こんな時間まで平気? 」


気遣う素振りで、続けられた言葉には答えずに、は大きな観音扉から空へと眼差しを戻す。
元より返答を期待した問いかけでもなかったのだろう、すぐに伏 せられた髪色に似た黄金色の瞳には確かに 距離があった。


? 何か話でもあったんじゃないの? 」


返答無いにもう一度ハーマイオニーが言葉を向ければ、戸惑うように声は遅れて聞えてきた。


「 その…お願いがあるの。 」
「 お願い? 改まって何かしら? 明後日の魔法史のレポートなら未だ書けて無いわよ? 」


意識して、ハーマイオニーは殊更に優しい声で答える。
必要以上に意図しない形で現れるハーマイオニーの優しさに、は胸の内、強く握り込まれる様な錯覚を覚えた。
何を、如何、という問題ではない。屈託無く微笑い掛けてくれる友人に、昨夜の悪夢を重ねて、今の自分は救われているのだ、とそんな幻想に駆られる。


「 ううん、違うの。 さっき話していた事なんだけど…、 」
「 明日あの偏屈爺…スネイプ教授とロンドンに出掛けるって話? 」
「 そう、それで…この間ホグズミードに行く時に貸して貰った服をもう一度、貸してくれないかな?
 …マグルの世界に着て行ける様な服を持っていないの。 」


哀しそうに笑って見せたに、すぐさまハーマイオニーは了承の旨を告げる返答をしようと試みる。
だが瞬間的に効率良く回るハーマイオニーの脳裏に描かれる思案が、一つ。
勿論、ホグズミードの際にハーマイオニーがに貸した服はハーマイオニーには常々"似合わない"と思っていたもので、さえ良ければ贈っても良いとさ え思っていた服だ。
今頃出し惜しみする様な代物でもない。

暫し考え込む様な表情を零すハーマイオニーの脳裏に、描かれて消えず、今も鮮明な映画のワンシーンの様な情景。


「 【紳士と淑女のための魔法装束】で買ったあのドレスは如何? ロンドンに行くなら、きっとピッタリだわ! 」


描かれたのは、あの日、居心地悪そうに試着室から顔を覗かせたが着ていた純白のスリップドレス。
漆黒の絹髪と紫紺色の瞳に酷く良く似合う純白のスリップドレスは普段覆い隠されているの神秘的な美しさを満遍なく表に出さん勢いで華奢な身体に纏わり 付いていた。
今改めて思い出してみても、あの情景は美しかった。同性のハーマイオニーの瞳から見ても、羨みを越えた憧れを抱かせる。

けれど、ハーマイオニーの期待と羨望の眼差しを他所に、は表情を夏の終わりの灰色雲と同じ色に染めた。


「 駄目だよ…スネイプ教授と一緒にロンドンの街を歩くんだもの…あの恰好じゃ、 」
「 確かにあの恰好とスネイプの恰好じゃ違いが現れ過ぎるわね。
 でも大丈夫よ、心配無いわ。あのスネイプだってロンドンに行くのだもの、それなりの恰好をしてくるわよ。 」
「 スネイプ教授の恰好じゃなくて…その、私みたいな子どもがあんな大人の女性の着る服… 」


似合うわけが無い、そう零しそうな桜色の唇を、閉口させるようにハーマイオニーは穏やかな金色の美しい眼差しを此方に下ろして、幸せを噛み締めるようにし て微笑んだ。


からは遠い手を伸ばし、そっと、ハーマイオニーはの髪に触れた。
馴染ませるような指にも、細くやわらかな感触は、やはり変わらずに優しい。瞬かれた睫毛の長さも、頬に落ちる影までも見える距離。


「 ……大丈夫、、貴女は素敵な女性よ。 私が保証するわ。 」


安心させるよう、言い聞かせるよう、洗脳にも似た言葉を囁いた。
私はこんな事が赦される人間じゃない、真実の言葉を続けようとして、けれど視線を合わせてくるハーマイオニーの瞳がの胸に何かを喚起する。
当然のように、慣らされてしまった事が多過ぎて、自分から拒絶していたのだ。
母親に棄てられた子どもなど、何も欲しがっては行けないのだ、と。存在すらも認められなかったモノは、何かを欲する事さえも、罪なのだと。


「 …ありがとう。 」


告げた声は想像以上に震えていた。
友情も愛情も何もかも、には与えられない不必要なものだった。
間違った存在であるなら、そのまま消えてしまえば良いのだ、と。出来れば消えてしまいたいとすら思っていた。

ハリーやロン、ハーマイオニーやドラコ。そしてスネイプがに意味を与えてくれなければ、とうに終わっていた。


「 ありがとう、本当にありがとう。 」


告げた言葉は社交辞令でも其の場凌ぎの言葉でもなんでもなく、が心の底から思った感謝の気持ちに他ならなかった。







































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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/2/2