last scene

day-31 :其々の、想いU
ホグワーツに転校して以来、何度も通った動く階段の無重力に身を任せ移動した後、目的の
場所に辿り着いて後手に扉を閉め、息を深く吸って吐く。
大広間から此処まで息を殺して歩いて来た様な絞殺感に包まれていた身体に、安堵する様ゆっくりと脈拍が正常に戻った。
冷えた身体は先程の夕食のお陰で温まりはしたが、何処か口寂しい、とは珈琲をたてながら、窓奥の景色を映しこんだ。
柔らかい白い煙が薬缶から上がる頃、淹れたての珈琲に少しの安堵感を感じながら椅子に腰掛け、ベッドに少しだけ体重をかける。
ふと見れば、ホグズミードでの買物の品が無造作に床に置かれていた。
「 きっともう…こんな経験は無いんだろうな。 」
柔らかい色の包装紙に包れた中身を取り出して、指に嵌め、自嘲気味に笑った。
の細い指で光るのはハーマイオニーと揃いの店で買った揃いの指輪。自分の為に何かを買うという行為自体が神への冒涜に近い気がしていたあの頃の生活か
ら思えば、想像出来ない位置に、今は居た。
許されないことだろう、そう思いながらも、指に光る指輪を見れば自然を顔が綻む。
「 ドラコに、後でちゃんとお礼、言わなきゃ。 」
もう片方の包みを開けば、空から毀れた星を掻き集めて作り上げた様な白銀に輝くブレスレットが其処に在った。
防水魔法が効いたのか、一滴の水滴も付着していない其れは、の掌の中で独特の冷えた金属感を伝える。
さらりと流れる様に繊細なブレスレットを見て、思う。
こんなものを貰えるような身分ではないのに。そんな事は赦されないのに。其れなのにやはり、今まで誰からも何も与えられなかったにしてみれば、誰かか
ら与えられたものというのは凄く貴重なものになる。
本当は返そうと思った品。
けれど贈ってくれた人の気持ちを思えば、無下に返す訳にもいかないことが漸く判った。
どうせ…どうせ長くは付けられないのだろう、あそこに戻るのならばきっと取り上げられてしまう。
其れまで、その時を迎えるまでの限られた期間だけ、少しの幸せに身を委ねても罰は当たらないのではないか。
そう自分自身に言い聞かせて、は銀細工のブレスレットを左手に付けてみた。
皮膚の上をさらりと流れる様にして手首の少し上で止まるブレスレットは、無骨な部屋の灯りを反射して、星の様に輝いた。
其れを見詰めながら、は何時の間にか深い眠りの世界に堕ちていった。
其れから、何事も無く、ニ週間が過ぎ去った。
初めのうちこそ、ブレスレットをくれたドラコに逢う事が如何も気恥ずかしかったりもしたが、季節柄ホグワーツのローブに身を包んでしまえばブレスレットを
した腕を晒す事はない。
他の生徒に彼是厄介な事を云われることも無い為に、は良かったと思ったが、当のドラコはそうは思って居なかったらしい。
が最初にドラコに選んだものがブレスレットだった為に、あの日は自分の行為が自分で気恥ずかしかった為に、揃いのネックレスになど気が行く事も無かっ
た。
今思えば、ローブで隠れてしまうブレスレットではなく、常に人前に晒されるネックレスにしておけば良かったと後悔する。
そうすれば、あの目障りなポッターの眼にも嫌がおうにも留まる事だろうから。
「 、次のクィディッチの試合が決まったんだ! 来週…、スリザリン戦だよ! 」
魔法薬学講義終了後。
今日の講義は此れにて終了な為、生徒は皆安堵の表情を浮かべながら荷物の整理をしている。
初めてと共に魔法薬学の講義を受けて以来、同席になる事は叶わなくなったハリーは、慌しく荷物を片付けるとスリザリン生が集まる席へと駆けて行った。
は丁度、配布された資料をまとめて居る真っ最中で、顔だけを上げてハリーに応える。
「 こんにちわ、ハリー。 さっきドラコも言ってたよ、来週試合だって。
如何やらハリーとドラコの一騎打ちになるみたいだね。 」
「 一騎打ち? そんなの、返り討ちにしてみせるよ!
其れより、この間の…ホグズミードでのこと、覚えてる? 僕が言った事… 」
「 勿論覚えてるよ、大丈夫、忘れて無いから。 」
零れる笑顔に、ハリーが息を呑む。
如何してだろう。先週ロンに【を護る】と公言して以来、の一挙一動に心を揺さぶられる自分が確かに居る。
其れは、がハリーに対する態度や表情だけの話ではない。
最近では、ハーマイオニーと楽しそうに談笑しているその笑顔を見ることでさえも、心の中に柔らかな灯が燈る様な気持ちにさせられる。
ロンは其れを恋だと云うが、ハリーにしてみれば、この感情が恋でもそうでなくても関係は無かった。
ただ、が其処に居て、僕が此処に居れれば良い。
そんな幼稚な感情に名前を付ける事が如何しても出来なくて、唯ハリーはと一秒でも長く共に居ようと、其れだけを考えていた。
何時も、無残にも崩壊させられるのだが。
「 、グリフィンドールの人間と口を利くと腐るから止めておけ。 」
流れる様な銀糸と共に睨み付けてくる眼差しのきつさ、頑なさ。
日増しに其れが膨大して行くような気がして、ハリーは声がする方向に視線を送った。
壁に凭れかかる様にして、両脇に親衛隊の様なグラッブとゴイルを置いたドラコが、射抜く様にハリーを見ていた。
其れは整然とした街道に平気で塵を棄てて行く人間を侮蔑する眼差しに似ている。
初めの内こそ其の眼差しに憤慨し、ドラコの言葉一つ一つに腹を立てては蛇に噛み付く獅子になっていたものの、最近は相手にすることも無くなった。
いいこと、ハリー。 一々相手にしている方が莫迦よ、無視すれば良いのよ、無視すれば。
ドラコに遇う其の度に、ハリーの心の中にハーマイオニーの勝ち誇った笑みで言われた言葉が蘇る。
「 ドラコ、そう云う言い方は良くないよ、ハリーに謝って。 」
「 僕は良いんだ、。 有難う、でも気にしないで。 」
「 でも、、 」
「 僕はそろそろ行くよ、スプラウト教授に呼ばれているんだ。 また、明日ね。 」
其れだけ伝えると、ハリーはドラコの事は最早見えて居ない様にに手を振ると、入口で待っていたロンとハーマイオニーと共に階上へと向った。
何時もならばあの日の様な蛇と獅子の論争が巻き起こっても可笑しくない筈の事態。だと言うに、其れを敢えて避ける様にハリーはドラコの口車には一切耳を貸
さなかった。
言いたい放題言われた挙句に一言も言い返さずに尻尾を巻いて逃げる様な行為はハリーにとって胸糞悪い結果に為るが、の前でドラコと喧嘩をし、に気
を使わせるよりは何十倍もマシだった。
一方、面白くないのはドラコの方である。
どれだけの罵詈雑言で嗾けようとも、ハリーは何時もドラコの声など耳に届いていないかのような態度を示し、そして煙の様に消えていく。
一度や二度なら未だしも、最近は視線すら合わせることの無いハリーに、ドラコの怒りは頂点に達していた。
「 おい、待てよ、英雄気取りの弱虫。 」
「 ちょっ…ドラコ! 」
足早に立ち去ろうとするハリーの足が止まる。
右から左に文字を写し取っていたが慌ててドラコを窘めようとするが、時既に遅し。
入口の扉がキィと音を立てて閉まり、ゆっくりとハリーがドラコの方に向き直る。
ハリーは瞳に僅かな険をのせたが、ドラコの言葉に言葉を返してくることはなかった。言い返す筈がない。言い返さないと、そう自分自身に誓ったのだから。
「 如何した、言い返す事も出来ないのか! お前の其の口は、英雄気取りの心同様、飾り物なのか? 」
「 …好きな様に言えば良い、僕は決めたんだ、もうこんな無駄な時間は過ごさないって。 」
「 無駄だと!? お前…ポッターの癖に僕を愚弄するのか!! 」
「 別に愚弄しているわけじゃないよ、僕はもう疲れたんだ。 君の相手をする事が 」
(ポッターの癖にッ)
の見ている其の眼の前で、僕がポッターを打ち負かしてやるつもりだった。
あのポッターが、英雄気取りでグリフィンドールの皆に慕われ、孤児の癖に必要以上にホグワーツで可愛がられて贔屓されているポッターが気に入らない。
に、全てを見せ付けて遣りたかった。僕の方が、ポッターなんかよりもずっとずっと博識で地位も名誉も権力も有って、に相応しい男だと自負すらして
いる。
(其の僕が、こんな、こんなポッターなんかに…)
(ポッターの癖に…ポッターの癖に、僕に偉そうな口を利くな!!)
「 ポッターの癖に、偉そうな口を利くな! 僕はお前とは違う、お前なんかとは格が違うんだ!! 」
薄蒼の瞳が、歪む。其れは嫉視を遥かに超えたもの。胸の中に渦巻くどす黒い感情が競り上がり、堰を作ってやる前に溢れ零れ出た。
此処で感情に身を任せてはいけない、流されてはいけない。
そう思えば思うほど、自分の言葉など何一つとして聞いていない様な涼しい顔をし続けるハリーに憤慨を押し留められなくて、気が付けば。
ハリーとロン、そしてハーマイオニーが居る魔法薬学研究室の扉に向って距離を縮めて、そうして眼前に立ったとき。
「 ポッターの癖に…ッ! 」
怒りに我を忘れ、片手を振り上げたドラコに、ハーマイオニーとロンが息を呑んだ。
ハリーはドラコの意図している事が何かを理解したかのように、唯黙って其処に立ち続けた。其れでドラコの気が晴れるのならば其れで構わない、とそう言わん
ばかりに。
パアンッと頬を打たれる乾いた音が、がらんどうの部屋の中に、空しく木霊する。
瞬間、顔を蒼白にしたハーマイオニーが悲鳴をあげる。小さな両の掌で顔を覆う様にして、眼の前で繰広げられた事態を飲み込み理解するまでの時間を要する事
無く、言葉が口を付いて出た。
手加減等考えても居なかっただろうドラコの掌を其の頬で受け止めたのは、ハリーではなく、庇う様に間に割り込んできただった。
細く小さな身体では到底防ぎきれなかった強い反動。
は冷たい床に身体を其の侭打ちつけ、鈍い痛みが全身を回る。
「 、ッ!! 」
重なるハーマイオニーとドラコ、そしてハリーとロンの声。
大丈夫だよ、と言おうとして、口の端が切れている事を知った。鈍い鉄の味が咥内に広がって、そうしては唐突に悟る。
自分は今、生きて、居るのだ、と。
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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2005/7/16