last scene

day-3 : 【生き残った男の子】と【望まれざる女の子】
「 如何して今日のスネイプはあんなに不機嫌なんだよ…
あの転校生の所為だろう?全く、何でスリザリンに… 」
漏れ聞えてきたあからさまなに対する非難の言葉に、ドラコは声がした方向を一瞥した。
其処には同じスリザリンの一群に存在していても、ドラコ達とはまた異なった性格を持ち合わせた輩が壁に背を凭れさせて卑しげな笑みを表面に貼り付けて笑っ
ている。
胸糞悪くなりそうな顔を見ている事さえ耐え兼ねられ、今も絶えず聞えてくるへの敵対心にも似た言葉遣い、グリフィンドールの輩にすら吐かない様な言葉
まで聞えた瞬間ドラコは手にした魔法薬学辞書を思い切り机に打ちつけた。
途端に静まり返る教室内、グリフィンドール寮の生徒が一斉にドラコの方を向き、スリザリンの生徒は一斉に眼を背けた。
グリフィンドールの生徒は皆、知らないのだ。ドラコ・マルフォイがスリザリン寮生にしか見せない、怒の感情が有る事を。
「 …の事を罵倒する輩は、僕が赦さない。 」
表面上だけは誠実な声音に、射抜く様な眼差し。
片目を眇め、人の心を諮るような表情。睨み付けるよりも未だ酷く鋭い両眼には、怒りを露わにするドラコには似合いの表情と云える。本心を見せない笑みよ
り、余程良い。
ダンブルドアに呼び出されたが少し講義に遅れると言って、ドラコ達と逸れたのはつい先程の出来事。
一限に講義が入っている事をダンブルドアは熟知しているだろうから、きっとそう長い話でも無いだろう。長い時間を有する話ならば何も今でなくとも、放課後
に充分過ぎる程の時間も有るだろうに。
ダンブルドアに呼びだてられたとは言え、転校初日から講義に遅刻する訳には行かないとは両の手に重たい教科書を抱えて走りこんでくるだろう。息を切ら
せて、細い肩を上下させて。
そんなにこんな言葉が如何して聞かせて遣れるだろうか。出来る訳が無い。
何故に、如何して。
自問自答に近しいその言葉、解答が見付からず模索する事もしないのは、言葉に表現出来ないこの感情を味わった事が無い…唯其れだけの理由。
「 済みません、遅れてしまって… 」
講義が始まって5分位しただろうか。案の定、息を切らせて大きく肩で息をして、陶器の様な白い肌にほんのりと映える桜色に染まった唇と頬。
慌てて駆けて来たのだろう、普段音を立てて開く人間等居ない魔法薬学教室の扉が酷く杜撰な音を立てて開かれた瞬間、反射的に全員が音のした方向に振り返っ
た。
案の定、講義中な為に誰一人として声を掛けるものも居ず、カツカツと厭味な程に静かに床を鳴らしたスネイプが怪訝そうにを一瞥しては黒板に向き直る。
「 遅れる理由は聞いている。 空いている所に座り教科書の158ページを開き給え。 」
視線も合わせない。
直ぐに後を向いて黒板に几帳面さが窺える達筆な文体で解説文を書き始めれば、つられる様に反射的に生徒が黙々と羊皮紙に其れを写し取ってゆく。
が幾数多の二つの眼に見詰められたのも一瞬のことで、ドラコでさえに声を掛ける事が出来ずに名残惜しそうに視線を黒板に戻すと、羊皮紙に記述を始
めた。
一方のと言えば、疎らにしか空いていない空席に溜息を零しそうになる。
決して狭くは無いけれども広くも無い室内をぐるりと見回して、辿り着けそうな場所を探そうとするも、前列まで出れば黒板を写し取っている生徒の視界を遮り
邪魔に為ってしまうだろう。
幸いにも、は視力は決して悪くない側の立場に居る為に、何処に居ても黒板の字は見て取れた。為らば敢えて席を捜索する必要は無い。
運良く空いていた一番扉に近い席に座っていたグリフィンドールのタイを絞めた男の子に、は声を投げる。
「 あの…隣、座っても良い? 」
「 え?あ…、僕の隣で良ければ… 」
声を掛けられた事に驚いたのか、羊皮紙を書き綴っていた手を止めて振り返った少年は、眼鏡を掛け額に掠り傷が在った。
孔雀緑に近い瞳で真っ直ぐに見詰められ、は一瞬息を呑む。純粋な程に透った瞳が曇りも見せずに驚いた様に眼を開いらげて、そして緊張を崩す様に笑っ
た。
童心の様な無邪気な笑みで、エスコートする様に椅子を引かれれば、其の行為を無下にする訳にも行かず、は小さく礼を言うと彼の隣に腰を落とした。
鳶色に近い緑色が映える瞳の少年は、ハリー・ポッターと言った。
小難しい言葉の羅列を延々延べて居るスネイプに気付かれない様に少年・ハリーに視線を向ければ、其の視線は黒板に注がれていての瞳とは克ち合わなかっ
た。
「 …Harry…? 」
「 え?如何したの?黒板が見えない? 」
講義中とも有ってか、名を聞く事さえ忘れて居たは、ふと見下ろした先に紅く採点が付けられている羊皮紙が飛び込んできた。
如何やら今のこの講義は、先週に出された魔法薬学のレポートの余りの点数の低さに激怒したスネイプが教科書を復習する形で進めているらしい。
どの生徒も皆一様に羊皮紙と教科書と黒板を見比べては、羊皮紙に蒼いインクで文字を綴っていく。
一方はと言えば、初めから移そうにも掻い摘んで解説している講義の為に何処から何処まで、またどの箇所の開設をしているのか一切不明な為に隣人のレ
ポートを少し見せてもらおうと視線だけで覗き込んだ。
其処に飛び込んできた、Harry Potterの、文字。
思わず口に出してしまっていたと気付いた時は、深い青が交じり合ったような緑の瞳で微笑む彼の瞳と交わった瞬間だった。
「 あ、うん…そうじゃなくて、ね。 講義、何処までいってるのかが判らなくて… 」
「 あれ?若しかして先週のレポート貰ってないの? スネイプ…配って置くのが普通なのに。 」
「 私が聞くのが遅れたから仕方ないよ、スネイプ教授の所為じゃない…それでね、ハリー…もし良ければ… 」
「 僕の見せてあげるよ。 但し、相当的外れな解答の上にスネイプからの厭味で埋め尽くされているけどね。 」
微笑った彼・ハリーの表情は本当に柔らかくて優しいものだった。
離れている席を態々傍に寄せて長い羊皮紙が折れない様に捲くれない様に使わない教科書で重石をして、自分は一回読んでいるから…と敢えて講義真っ最中の箇
所をの見える位置に持ってくる。
しかも、が黒板に視線を映している最中に其れを遣ってくれるのだ。
気疲れしないしない優しさと言うのはこう云う事を言うのだと、は思う。普段ならば執拗に避ける程、スリザリン生とグリフィンドール生の仲が悪いと言う
ことは暗黙の了解事項の様には聞かされていた。
スリザリンに入ったがグリフィンドールのハリーに此処までして貰う道理は無い筈。其れでもハリーは厭な顔一つ見せずに親切丁寧に対応してくれた。
其の点で言えば、食堂で席へと案内してくれたドラコも同じと言える。しかし、相反する位置に居る様な二人は似ているようで矢張り何処かが違っていた。
「 あの…、一つ聞いても良いかな? 」
「 ん?魔法薬学なら私に聞いても120%答えられないけど? 」
「 あ、違うんだ。そうじゃなくて…今朝の事なんだけど 」
「 今朝?食堂ってこと? 」
「 うん。僕が君を見ていた事に不快感を覚えてたら悪いなと思って、謝ろうと… 」
私、今初めて貴方を見たけど?食堂で…多分眼は合ってないと思うよ?
言えば、優しく柔らかく笑んでいた筈の孔雀緑の瞳が大きく見開いた。信じられないとばかり、の驚きの表情。これは多分演技ではない。たっぷり30秒は黙っ
た後、ハリーは短く息を吐き出した。溜息にも似た、息を。
きょとんとしたの表情、多分此れも嘘偽りではなく本当に知らない人間がする表情だろう。
だがしかし、ハリーは確かに見ている。食堂での一挙一動に始まり、不意に視線をずらした先に映りこんで来た心を射る様な冷たい眼差し。
感情を持たないディメンターに見詰められた時でさえ、あんな感情は沸き起こらなかった。もっと、冷たい、何か。
如何したの?ハリー…
覗き込む様に目線を上げられて、同一線上に視線を同じくした今、は顔を近づけて窺うように問いかけて来た。
自分とは色味が全く違う目は昏く、光の透過を凌いで考えを読ませなかった。其れでも、深い夜色の黒い髪も紫水晶に似た神秘的な眼も、には合っていると
感じる。
間違いない、この瞳に魅入られ、そして感じたのだ。恐ろしいまでに神経をさかなで、心臓を鷲掴みにされ循環器が凍結した様な感覚に苛まれた。
「 あ…き、気の所為かもしれない、ゴメンね。 」
「 ううん、いいの。 若しかしたら私が気付かなかっただけかもしれないし… 」
「 そんな君の所為じゃ…!僕の見間違いだよ、変なこと、言ったりして… 」
「 最下位から数えた方が早い癖に講義最中に喋りとは、余程我輩の講義が退屈らしいな、ポッター。 」
仕舞った、と思った瞬間は既に事を成し終えた時である事が其の大半を占めている。
声のした方向…つまりは真上を仰ぎ見る様に首を擡げれば、其処に映り込んで来たのは闇色に染まったローブと怪訝な眼差しで見下ろす冷たい視線だった。
体温の低さを想像させる様な心を殺すような感情を含まない声色だった。静けさの中、恐怖に息を飲み込む生徒で溢れ、ハリーも例外ではなかった。
何点の減点を受けるだろうか。昨日も魔法薬学の講義中にグリフィンドールから減点者が出た。もう賄いきれないだろう、此処でスリザリンに負けてはバツが悪
過ぎた。
「 違うんです、教授。 私、講義の内容が判らなくて、其れを彼に…ハリーに教えて貰っていたんです。 」
「 ほぉ…スリザリンの人間がグリフィンドールを庇うのかね? 」
「 そう云う意味では…っ! とにかく…っ 」
「 スネイプ教授、講義終了の鐘が鳴りました。 」
彼方から響いてきた声に、スネイプは顔を上げた。
見れば其処には知った顔。珍しくドラコが席を立ちスネイプに対し、抗議に似た言葉を吐いていた。
苛々する。以前はこんな事は無かった、ドラコは決して寮監であるスネイプに逆らった験しがない、其れは道理に沿っていても反していても変わる事、無く。
教師に逆らう事はするな、自己の評価を著しく下げるような行動は慎め、両親にキツクそう言われているんだろう事は其の態度を以ってして判る。
其れが、如何云う風の吹き回しか。スネイプに意見をするとは珍しい、というよりも命知らずと言えようか。
スリザリンの生徒だけでなくグリフィンドールの生徒でさえも驚いた様な眼差しでドラコを見ている。
何が違う。昨日までの彼と、今日の彼と。何処に彼を変える要素が有った?
考えて、視線の端に映り込んでいるを見て、気付いた。
そうだ、この少女の存在だ。昨日は無くて、今日は在るもの。大方、この少女に絆されたに違いない。何とも厄介な事か。
この気質、明らかにスリザリンでは有るまいに、何を如何間違ってスリザリンに…。
苦虫を噛み潰す様にギリ、と歯を鳴らして見せたスネイプは、一度だけポッターを一瞥するとローブを翻して教卓に向う。
何時も冷たく響く足音が、自棄に大きく聞えるのは気の所為ではない。足音からだけでも充分にスネイプの憤りが窺える。
「 本日の講義は此れで終了する。各人、復習をしておく様に。特にポッター。
片づけた者から次の講義に行き給え。 、君には話が有るから残る様、 以上。 」
何故減点しないのか、其れを疑問に思う輩は居ても、スネイプに問う人間は居なかった。
誰も一言も発しない侭、教科書を抱えて脱兎の如く教室を後にする。
椅子に座ったまま身動ぎもしないに掛ける言葉も無くて、出来ることなら咎めを受けるのは自分で有れば良かったのだと罪悪感に苛まれたハリーは振り返り
際にもう一度を見詰めた。
しかし其れも一瞬で、追い立てられる様に冷たく睨まれるスネイプの視線に背を蹴られる様に扉に手を掛け冷たい石段を登りあがり。
重たげな音を立てて最後の一人が魔法薬学教室の扉を閉めれば、其の空間に居るのはとスネイプだけに為った。
グツグツと煮え滾る魔法鍋の音と、スネイプが黒板を消す音だけが静かに響いて木霊する。
光りが射し込むことの少ない室内、改めてゆっくりとが見回して見れば、其れと略同時にスネイプがゆっくりとに向き直った。
[ home ][ back
][ next ]
(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/8/9