last scene




day-2 : スリザリンとグリフィンドール




組み分け帽子が声高らかにスリザリンと叫んだ後、掌を返した様にあからさまに拒絶の意を 示したスネイプが食堂を立ち去って、生徒たちは壇上に上がった侭のを見詰めた。
少女が壇上に上ってから未だ30分も経っていないだろう。其の僅かな時間の間でさえ、はよく人を計るような眼差しを見せる。ほら、今もそうだ。スネイ プが去って行った扉を一瞥した最初の眼差しは年頃の女の子に比べれば随分と鋭くキツイ。
心までも見透かすようだとハリーは咄嗟に思う。しかし、其の後に直ぐ清冽な微笑みを浮かべて視線を扉からテーブルに映した。
心に引っ掛る蟠りに似た感情、如何しても消えない其れを拭い去る様に、温かいコーンスープを咽喉奥へと急いで落す。
彼女の寮はスリザリン。如何見ても、此れ以上の関わりは無いだろうから。


ダンブルドアに急かされる様にして壇上から食卓へと移動したは、やはりと言うか当たり前と言うか、エスコートする様に壇上の真下まで出てきたドラコ・ グラップ・ゴイルに連れられて彼等が食事をしていた席に案内される。
普段は三人並ぶようにして座っている彼等は、ドラコの隣の席をに譲ると、真向かいに座っていた二年生の生徒を押しのける様にして無理矢理に場所を作っ た。
明らかに場所横取りに近いこの状況、居た堪れなくなったが空いている席は無いのだろうかと周囲を見渡した瞬間に、ぐいと腕を引かれドラコの横に座らさ れる。


、スネイプ教授と何か有ったのか? 」
「 え?あ…あの出て行ってしまった先生は、スネイプというの? 」
「 あぁ。 スネイプ教授…Severus Snapeは魔法薬学の教授でもあり、我がスリザリンの寮監督でもある 」


Severus...Snape…、と覚えた手の単語を繰り返す子供の様に小さく呟いたは、もう一度彼が去った扉の方を見詰めた。
光りを浴びた水面が反射して煌めく様に揺れる様を髣髴とさせる輝きが、の紫水晶の中に在った。
しかし其れは、憧れや熱望と言った類の其れではなく、もう少し違う何か。例えば揶揄する為に何か隙を狙っている子どもが見せる様な眼差し、そんなものに近 い気がした。
だが、其れも一瞬で終わりを告げる。
何の返答も寄越さないに不快感を覚えたのか、ドラコが問い掛ければ、は先程と同じ様柔らかな微笑みを浮かべてドラコを視界に映し込んだ。


「 あ、ごめんなさい。 スネイプ教授と何か有った訳じゃないよ…初めて逢った人だったし。 」
「 じゃあ何故あんな態度を? マグルなら未だしも、君は純血なんだろう? 」
「 虫の居所が悪かったのか…態度が気に喰わなかったんじゃない? 其れは本人に聞かないと判らないわよ、ドラコ 」


まぁ、確かに。
そう呟いたドラコを他所に、は用意されたスプーンにコーンスープを掬うと其れを喉奥に落とした。
焼き上がったばかりのパンを小さく千切ってはバターを塗り、口に運ぶ。小さな小鳥が餌を啄む様な其の仕草に苦笑しつつ、ドラコも自分の食事を済ませようと フォークを取る。
聞きたい事は山ほど有り少しでもの事を聞きだそうとすれど、朝食の時間は限られた時間の中にしか無く、組み分け帽子が延々寮決めに悩んでいた為に短い 朝食の時間が更に縮小されて。
そう云う日に限って、一限目から講義があるのだから給ったものではない。しかも、其れが例の魔法薬学教授の講義とくれば、遅刻等する訳には行かなかった。


「 ロン、レポート如何するの? 」
「 取りあえず、腹痛で講義を欠席…しようかなって思ってるけど? 」
「 ダメよ、朝スネイプに見られてるのよ? 間違い無く仮病だってばれるわ。
 ハリー、貴方二つ書いたって言ったわよね?ロンに一つ見せてあげたら? 」

「 あ、う…ん。其れでも良いけど…ねぇ、ハーマイオニー。 如何してはスリザリンなのかな? 」


食事をしながらも、ハリーの視線は何時の間にか転校生の姿を探して見詰め続けていた。
学年は一緒であれ、寮が違うのだからこれ以上深い関わりは無いだろうと己で思っていた矢先に、ふと視界に映り込んで来たスリザリンの食卓。
パンを幾つも小さく千切りながら一向に食べる気が起きなくて、ドラコとの会話が聞える訳でも無いと言うのにしきりに耳を欹てて視線が勝手に彼女を映し 込んでいる。
ハーマイオニーに声を掛けられたのは、そんな頃合で、手元を見れば幾つもの千切れたパンの山で皿が盛り上がっていた。
此処まで小さくなってしまえば、バターを塗るスペースも無いだろう。一気にニ三個摑み上げると、其の侭口の中に放る。予想通り、パン本来の柔らかく芳ばし い風味が一斉に嗅覚を付くが、やはり味気ない。


「 如何してって、そんな事私が知るわけが無いじゃない? 直接聞いてみれば如何? 」
「 そうだよ、ハリー。 沈黙が続いた間、組み分け帽子はの脳に直接語りかけたかもしれないよ、君の時の様に 」
「 喜ばしくないことに、一限目の魔法薬学はスリザリンと合同なんだから。 」
「 う、ん… 」


自分で聞いておきながら、返答が漫ろになるハリーにハーマイオニーとロンは盛大な溜息を吐いた。
ハリーは相変わらず、義務的にパンを口に運びながら、遠くに映るを目を眇めるようにして観察する。
表面に柔らかい微笑みを作り上げて楽しそうにドラコと会話するの、夜色の髪、薄い肩。幼い印象と頼りなさを与えるが、清廉に整った顔立ちと華奢な身体 へ、順に視線を落として行く。
遠く離れているからだろう、一心に見詰めても此方の視線に気付く事無くちらりとも視線が交錯しない事を良い事に、ハリーは絵画でも眺めるようにを見詰 めた。
先程スネイプが去った扉にして見せた、睨み付けてくるよう真っ直ぐに見つめる視線も今は与えられない。


「 私も、グリフィンドールかと思ったわよ? 最初こそ笑わなかったけど…今はあのマルフォイと楽しそうに微笑っているし 」
「 そうそう。 笑うと本当に可愛いんだな、あの子。 最初なんで笑わなかったのか不思議な位だよ。 」
「 …スリザリンとグリフィンドール、両方兼ね備えているのかな… 」


ポツリと呟いたハリーが手元のパンを全て食べ終えて、一気にコーンスープを流し込もうと視線を僅か下にずらした瞬間。初めて、彼女から視線を剥した瞬間と も言えよう。
其の瞬間に、ハリーは背も凍る様な冷たい視線に曝されていると直感的に悟った。
止めておけば良いものを、ハリーは何故か本能的に顔を上げた。飛び込んで来たのは、真っ直ぐに此方を射抜く様に見据えた鋭すぎる紫水晶を持つ目元。
視線を、剥せない。蛇に睨まれた蛙の様に、ハリーはを見つめたまま。
日頃、穏かな人が怒ると恐いと例えられている様な恐さとは類が違う。もっと鋭利な、酷薄さ。
見詰めてはいけない、逸らさなくては。そう思えば思うほど視線が剥せないのは何故か。指に力が入らず、手にしたフォークがずり落ちそうになった瞬間、克ち 合った視線の先に変化が生じた。


「 ……え? 」


髪も瞳も色味を揃えた其の色彩で柔らかく微笑まれて、急激に意識が戻ってきた気がした。
先程まであれだけ鋭利な瞳で背に悪寒が走る位に睨み付けていた癖に。いや、睨んでいたと言うのは語弊が有るかもしれない。人の思考を行動を、制御してしま う位に冷たい眼差しを向けていた癖に、急に表面を取り繕うよう虚偽に似た微笑みを浮かべるのを止めて欲しい。
ドラコと他愛無い話をしながら笑っていたであろう時は、歳相応のあんなにも可愛らしい微笑みを浮かべていたと言うのに。
何か、悪い事でもしただろうか。したと言えば、した。視線を外す事無く見入っていた、其れは確か。だがしかし、視線を外したあの一瞬で此方の視線に気付 き、視線を --------


「 若しかして、気付かない振りをしていた…? 」


此れだけ離れた距離、到底気付く事は無いだろうと鷹を括ってはいたが、実際見詰めていただけの時間を考えれば確かに有り得ない話ではなかった。
ハリーが視線を外すまで気付かない振りをして、外した其の一瞬でハリーを射抜く様に冷たい一瞥を投げつけた。
一体、何故。気付いた時にでも視線を寄越せば良いだろうに。
ハリー?
そう呼びかけてくる声が最早誰の声かも判別が付かない程、ハリーの思考回路はで満たされていた。
次の魔法薬学の講義、もし仮にに呼び止められ見詰めて居た事を問い尋ねられたら、何と答えようか。如何にも答えられる訳が無かった。
ハリーは目を眇めながらも、返答の言葉を口にする事はない。そんな暇は無かった。もうじき講義が始まる。
気が付けば見詰めていて、視線が剥せなくなった、その理由を何と言おう。其の侭述べるには余りにも稚拙すぎる。


「 ハリー、ハリーってば! 」
「 え、あ…如何したの?ハーマイオニー 」
「 如何したの、じゃないわよ。 鐘が鳴った事にも気付かなかったの? 早くしないとスネイプに減点されるわよ! 」


其の言葉に顔を上げれば、自然と探した視線の先、スリザリン寮の食卓にの姿は無かった。
ほっと胸を撫で下ろす様に一呼吸置いた瞬間、腕をハーマイオニーとロンに取り上げられて無理矢理立たせられる。
厭でも聞える朝食時間終了の旨を告げる鐘の音を何処か遠くに聞きながら、ハリーはもう一度だけの座っていた席を見て、あの瞳を思い出した。

何処かで、同じ視線に遭った気がする。

一瞬浮かんだ言葉は一限目の講義を受ける為に寮へと急ぐ雑踏に飲まれて、やがて消えた。






















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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/8/4