last scene

day-23 : 束の間の幸甚U
「 何色が好き? 私は琥珀色に一目惚れしてこの指輪にしたんだけど…折角だから、
の好きな色にしましょう? 」
眼に余る色とりどりの色彩が織り成す光りの中で、ハーマイオニーが嵌めていた指輪は際立った存在を誇張する様な場所に置かれていた。
淡彩を基調にし、本来の色を決して殺さない様な彩色と細工は見ている者の瞳を拡張させた。
勿論、見とれる様に板張りの床に足が張り付いたとて、例外ではない。
「 私…、貴女と同じ色にするわ、ハーマイオニー。 」
は咽喉元から声を絞り出すように告げる。どれだけ遠慮謙遜しても、本当は足りなかった。
籐を綿密に編込んだ籠の中、転がる様に無造作に置かれた指輪の数々は、誰が如何見てもその存在価値を疑うほどの値札が付けられていた。
眼を見開き、両の指で強く擦っては現実感を確かめる様な仕草を脳内で行った。
ホグワーツと言う学校に通う子どもが、小遣いの類で買える様な代物では決して無い。
指先に触れる事すら戸惑う様な高貴な品が、何の抵抗も無く置かれている現実に倦怠しそうになるも、目的の品物は此れでは無いと言い聞かせ向き直る。
「 はもっと他の色が似合うと思うのに…ま、いいわ。 じゃあお揃いにしましょう。 」
同じ色に、そう零した瞬間、一瞬だけはにかんだ様に笑ったハーマイオニーがそっと掌から桜色の指輪を籠の中に落とした。
何も見なかった、手に取らなかった、そう示すように。
それから手を取る様に店の奥へと入り、指輪の代金を支払った。予想を超える程高価な品では無かったが、にして見れば自分で自分の為にお金を使うなど経
験した験しが無い。
寧ろ、名義のグリンゴッツ銀行へ莫大な金額の預金がある等と言う事も、今朝方ダンブルドアに聞いて知ったばかり。
魔法界で一・二を争うとも謳われた名家家の令嬢と言うのも強ち嘘ではないらしい。
(お金なんてあっても、何の役にも立たないのに)
掌に握り締めた古札が瘡付いた音を立て、ひしゃげるように収まった。
其れから、ハリーやドラコとの約束の時間まで、はハーマイオニーに連れられる侭にホグズミードの街中を歩き回った。
最近出来たばかりだと言うお店で西洋の甘いお菓子を食べたかと思えば、魔女界の流行が一目で判ると言われているブティックに顔を出し。
来週の魔法薬学の講義に必要不可欠だから買って置いたほうが良い、と勧められるが侭に手にした分厚い辞書。
魔法史の講義に役に立つと言われて買った奇妙な袋に、クィディッチ観戦には欠かせないという【破れないビニールシート】。
何時しか手に持つ紙袋の数も増え、ハーマイオニーと共にホグワーツ直行便への宛先を認める頃には、ハリーとの約束の時間に差し掛かっていた。
「 今日は楽しかったわ、。 此処で別れなければ為らないのが本当に残念よ。 」
「 また夕食の時に逢えるじゃない?其の時にはこの指輪をしていくから。 」
「 本当? 約束よ、、絶対だからね。 」
柔らかな午後の風にたゆたうハーマイオニーの髪は、残像を残して行くようにゆっくりと流れては彼女の小さな背に垂れていた。
小さな存在を見送りながら、ハリーが姿を現すまでは道脇に鎮座したベンチに腰を落とした。
装飾品が施されて居ない簡素な造りのベンチは、年老いて水分を充分に含んだ古木の再利用を行う役目を喜んで引き受けた様に、柔らかな陽の光りを受けてい
た。
節くれ立った枝で造られたであろう肘掛けを指でなぞれば、記憶を辿る様に巡る思い出。
(お母様…如何して、私を…)
纏らない考えと一つに為らない記憶が渦を成す、何も意識してなかった瞳はただ虹彩の太陽を映しているだけ。
浮かんでは霧散し、再び渦へと戻る考えは軽い脳震盪に似た頭痛を引き起こす。
思わず頭を抱え込みそうに為って、…僅かにコトリと静かに鳴る音が意識を正常へと戻した。
「 ごめん、…僕待たせちゃったかな? 急いでロンを撒いてきたんだけど… 」
「 ううん、大丈夫。 私も今来たところだから気にしないで? 」
そう言えば、沈鬱な色に塗り固められていた孔雀緑に似た瞳が一瞬で光りを取り戻した。
優しいハリー。決して聞きなれて等居ない筈なのに、声を聞いただけで胸の真ん中辺りがあったかくなった。
柔らかく崩したように微笑うハリーにつられて、も笑顔を零す。
「 何処へ行こうか、。 …あ、もしかしてお昼ごはん食べて無いんじゃない? 」
「 ハーマイオニーとハニーデュークスでお菓子を食べたけど…そういえばご飯は未だ食べてないかも… 」
「 よし、じゃあ決まり! 僕が最近見付けた美味しいミートパイを出す店があるんだ。 其処で良い? 」
「 もちろん。 」
の返事を聞くが早く、細い腕を傷つけない様に慎重にその指先で掴むと、ハリーは走り出した。
きっと此れがドラコなら、の意思を問う事無く向う先を告げる訳でも無く淡々と道を踏み締めて目的地に辿り着くのだろうな、と思えば少しだけ笑えた。
勿論ドラコに対してでも、ハリーに対してでもない。
何の気無しにそんな事を自然に考えられる様になってしまった自分自身に対して、自嘲に似た笑いだった。
(何時までもこうして、居られたらいいのに)
叶う筈の無い未来、そんな事を脳裏に侍らせながら、ハリーが話してくれるロンとの買い物話に相槌を打ちながら小道を歩いて、其処に着いた。
眼前に現れた場所は、時の狭間を越えて、遠く中世の村に辿り着いた様な雰囲気だった。
ホグズミードに着いた時にも同じ様な感覚に出会ったが、其れよりももっともっと重圧な雰囲気。
その中心に、ハリーが求めた小さな切り株小屋が在った。
「 …でね、ロンのヤツ、何を買ったと思う? 」
「 さぁ…でも察しが付く、きっとハーマイオニーが血相を変えて叫んだ後で米神に青筋を立てて怒鳴りそうな悪戯品? 」
「 残念! 確かに去年まではそうだったかもしれないけど…でも今年は違ったんだ。
ロンの手には小さな桃色の羊皮紙に包まれていた…、 」
温かそうな湯気が立ち昇るミートパイを突付きながら、ロンがハーマイオニーの為に買ったと言うお土産の話に花が咲いた。
ハーマイオニーとハリー、そしてロンが初めて出会った時の事を聞かされていたにしてみれば、ロンが誰かに悪戯の道具以外のものを贈るなど想像が付かな
いのも無理は無い。
きっと今頃…ホグワーツに二人同時に到着して、グリフィンドール寮の談話室で土産話に花を咲かせているだろう。
ハリーから聞いた分にも、が聞いている分にも、二人とも真っ直ぐにホグワーツに帰ると言っていたのだから。
風は開かれた大窓から穏かな日光と共に入って来る。
凭れ掛っていたソファから少し身を乗り出して、ハーマイオニーはテーブルにちょこんと置かれた小さい桜色の包みを取た。
人間の本能からか、眼の高さまで持上げれば近づけた瞬間に、鼻腔に香る甘さ。
桜色の羊皮紙をゆっくりと解き解していけば、現れたのは薄い透明なビニールに包まれた花の型押し細工のチョコレート。ピリピリと小さい音を立ててそれを剥
がす。
空けてから食べようか。
ハーマイオニーは今更ながらにそう考え、掌の意外な珍客を眺めていれば、手の平の温度で花型がひしゃげて丸くなる。
「 …要らないの?なら僕が… 」
「 いっ…今食べようとしていたのよ、ううん…今食べるか夕飯後にと食べるか考えて居たのよ! 」
「 普通…さ、そういうのって包みを開ける前に考えるんじゃないの? 」
「 …だって、食べようと思ったら甘そうで…ううん、嫌いじゃないわよ、甘いものは。 でも… 」
「 甘いよ、だって僕が買ってきたのはニガヨモギじゃなくてチョコレートなんだから。 」
促される様に言われ、改めて掌を見れば、無残にも液体に近付きつつあるチョコレートが其処に在る。
最初の型押しの花模様は見る影も無く。
勿体無い事をした、そう悔やむ気持ちと共にそっと唇を近付ける。
子猫がミルクを舐め取るように舌先で花型だった其れに触れれば、熱でチョコレートが溶けて更に面積が増した。
もう掌から落ちそうなその1滴を舐め取る。口に広がる甘味が喉に痛い。
「 有難う、とっても美味しかったわ、ロン。 」
結局そうして掌のチョコレートを平らげたハーマイオニーを見て、ロンは口を噤んだ。最初に思い浮かべていた返す言葉と違い過ぎる展開に発展した為だ。
最初はそう、単なる悪巧みだった。
溶け易いチョコレートを敢えてハーマイオニーに渡して、お気に入りだと言う其の真っ白なブラウスにチョコレートの染みを付けてやったらきっと面白いだろう
と。
店先でこのチョコレートを店主に渡された時に自分が辿った末路と同じ展開になるだろうことを予想して。
だが其れも、束の間の脳内思案で終わってしまった。
眼の前で繰広げられた想像もしない事態に、ロンは心の中で感嘆の溜息を吐いていた。
悪巧みは、ひっそりこっそり。耳貸せとか囁き声で伝えあう。男同士の約束だなんて言ったりして。
この方法だって、兄から教えて貰ったウィズリー家代々の【女に有効な優しい悪戯】だった筈だ。
本当に女に有効か如何かはさておき、其れが如何してこうなってしまったか。
まさかハーマイオニーが掌に今にも溢れそうなチョコレートを舌先で舐め取るだなんて。
この話を事前に得意気にしたハリーでさえ、ハーマイオニー相手にまさか本気で仕掛けたりしないだろうと、甘い事考えていただろう。
彼等がホグワーツから戻ってきたら何て言おう、失敗だとでも?隙は有ったけれども、如何にも思う方向に事が及ばなかったとでも?
「 …どういたしまして。 」
降参とばかり、心の中で両腕上げた。
降参っていうのは、ロンの思うような意味ではないが、今の時分細かい事は置いておこう。
ハリーにも教えてあげようか、この秘密の悪戯を。そしてその結末を残ったチョコレートと共に。
クスクスと背後で漏れる笑いに反論さえする気が起きず、底抜けの青空と白い雲、温い風を感じながら、テーブルの上に乗った溶けたチョコレートを口に放り込
む。
ロンの指に付いたチョコレートを見て笑うハーマイオニー。
ハリーに此れを渡せば、指にチョコレートを付けるのはハリーで、傍らで笑うのはだろう。
「 …協力、してあげようか。 」
ロンが空を仰いで呟いた。
指先で未だ解かれていないチョコレートを弄りながら、冗談交じりの口調だった。
今頃ホグズミードで仲良くデートしているであろうハリーとを思って、ロンはチョコレートを数個片手で掴み上げると、其の侭ポケットに仕舞いこんだ。
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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2005/5/21