last scene




day-19 : 届かない声U




「 今回のレポートは眼を覆いたくなる様な悲惨な結果でした。 えぇ、本当、眼も当てられない位に。
 あのミス グレンジャーでさえも私の求めていた境地なる答えには辿り着けずに居た。惜しい、実に惜しい。 」


何度も黒板を突き抜けては入り込んで、を繰り返しながら悲愴な声色で嘆くのはビンス教授。
積み上げられた羊皮紙、スリザリン寮とグリフィンドール寮の分実に羊皮紙100巻に及ぶレポートを一気に読み上げた教授はあまりの出来の悪さに落胆を隠そ うともせずに盛大な溜息を零した。
勿論、始めの内こそ羊皮紙を一枚一枚見ていた時の彼の表情は何時も通りの青白い侭だったが、其れがやがて怒りの混じり込んだ落胆の溜息を帯びた表情へと変 わった。


しかし其れも長くは続かない。ビンス教授の表情に一瞬だけ期待に満ちたものが浮かんだ。其の刹那に眼が合ったのはハーマイオニー。
如何やら彼女の羊皮紙に辿り着いたらしい事が客観的に伺える。
ビンス教授自身でさえも期待していたであろうハーマイオニーの羊皮紙を見て、一瞬は其の表情に喜が浮かぶも最終的にはがっくりと肩を落としたようにハーマ イオニーを視界に居れ、他の生徒と同じ様に【可】の欄に羊皮紙を置く。
自分のレポートに自信が在った訳でも無いが、流石に【可】の欄に自分の羊皮紙が放り込まれた事をハーマイオニーは自分への蔑みに似たものと捉えてしまって いた。
小さな掌が怒りに震えているのを、隣に座ったロンが目撃しつつ、言葉を掛けられずに居た。


「 だが、皆さん。 この中にたった一人だけ、私が求める境地に辿り着いた生徒が居ます。 」


99巻の羊皮紙が放り込まれた【可】の棚の直ぐ脇、【優】の棚にたった1巻だけ羊皮紙が投げ込まれていた。
ビンス教授は羊皮紙を読み終わると律儀にも一つ一つ巻き直して棚に入れ込むだけに、遠目から見れば其の羊皮紙の持ち主が誰で在るかの判別は付かない。
だが、確実にわかる事が、一つ。唯独り正解者が居る。
其の言葉にビンス教授を直視出来ずに居た複数の生徒が一斉に教授に視線を送り、自分の知能頭脳の無力さを痛感していたであろうハーマイオニーは誰より先に 身体を乗り出さん勢いでビンス教授を視る。

きっとマルフォイだろう? 大方、父親にでも聞いたに違いない。

心の中で罵倒しながらも、ロンはドラコを一瞥してから興味無さそうにビンス教授を視る。
其の表情がすぐさま驚愕に変わるとも知らずに。


「 素晴らしい其の生徒は…スリザリン寮のミス ! 」


其の声に、一斉に生徒がを視た。隣の席に座っているハリーまでもが驚愕の表情を貼り付けて。
ハリーから借りた今までの分の魔法史の講義内容を必死に羽ペンで羊皮紙に書き留めていたは、疑問符を顔に貼り付けたまま机から顔を上げれば、教室 中の生徒の瞳と克ち合った。
流石に気まずい。別に何をしたという訳では無いのだけれど、自分ひとりだけ正解を当てたという事自体に自身でさえも驚いている。
【可】の棚に放り込まれているだろう自分の羊皮紙の心配よりも、間近に迫る学年考査の方が不安だ、と持てる時間を有効活用すべきだと、は長ったらしい ビンス教授の嘆きの言葉を耳に入れる事無く独り黙々と羊皮紙の模写に励んでいた。
【不可】の棚に投げ込まれたのなら其れこそ背から冷たい汗が流れるものの、誰一人として【不可】の棚に投げ込まれてはいない。
其れだけでも充分だとは安心しきって居た。あのハーマイオニーでさえ辿り着くことが出来なかった答え、よもや自分の書いたレポートが【優】の棚にある 等とは思いもしない。

だからこそ、名を呼ばれた事に一番驚いたのはレポートを作成した本人だった。


「 ”真実と現実の反映”、魔法史とは…其れ即ち”虚偽と虚像が織り成す真意の鏡”其のもの。
 素晴らしい解釈だよ、。 」


づかづかと幽霊だというに音を立てて床を歩いてきたビンス教授は、携えた羽ペンからの手を無理矢理奪い去ると有名著者か何かに出会った様な感極まり無 い表情を晒して、ニ・三度握手を交わす。
転げ落ちた羽ペンは硬い大理石の床に落ちて刃先が割れ、パキリと小さな音を立てるも、誰も其の微かな叫びに気付く者は居なかった。

と、云うのも。
の両手を握り締めたままビンス教授は先程までの嘆きは一体何処へやら。次から次へと溢れ毀れ出てくる賛美の言葉と独自解釈の魔法史説を延々と唱え始め る。
こうなったら誰も止められない。飛び出せば二度とは戻ってこない鉄砲玉か何かの類と同じ様、次から次へと毀れ出る言葉の限りを生徒は圧巻の表情で見詰める しか出来ない。
此れだけの熱い滾る思いをあふれ出させてしまうほどの書いたレポートは素晴らしかったのか。其ればかりが生徒の脳内で走る。


「 …で、魔法史が世に認められるように為ったのは、、と、失礼。もう講義終了のチャイムが鳴っていたとは。
 、素晴らしい論文を感謝する。君のお陰で忘れて居た魔法史の素晴らしさを改めて感じることが出来た。
 礼と言っては何だが、此れは今回のレポートが【優】だった者に配る予定だったものだ。
 今週末君もホグズミードに行くだろう?
 ホグズミード有名高級服飾店【紳士と淑女のための魔法装束】の無料仕立てチケットだ。 」

「 すげ…マルフォイ家直属の仕立て屋って噂のあの高級店で無料で服貰えるんだぜ? 」
「 店の前に立つことすら躊躇するあの店の服…有り得ない、そんな店の服が貰えるなんて有り得ない。 」
「 いや、問題は何故ビンス教授がその高級店の無料チケットを持ってるか、じゃないのか? 」


様々な憶測と罵声が飛び交う中、ビンス教授は懐から淡い水色の透かし織りの入った小奇麗な封筒を取り出しての前に差し出す。


「 あ、あの…私、今週末… 」
「 いやいや、遠慮は要らない。 私も人から貰ったものだから、遠慮なく受け取りなさい。 」
「 で、ですが教授…っ 」


ホグズミードに行く事が出来ないから、受け取れません。
喉から出掛かった言葉を制したのは、魔法史の教科書の上に置かれた封筒と踵を返し鼻歌交じりに教卓へと戻っていくビンス教授の後姿。
好意で頂いたものを無下に突っ返すことが出来るわけも無く、は教科書の上に置かれた封筒と書き写し途中の羊皮紙を持って机の周りに出来た人だかりの山 の間を縫う様に教室を出た。
呼び止めるハリーの声もドラコの声も届いていないのか、は魔法史教室を抜けると真っ直ぐに寮とは異なる方角へと歩いていく。
夕食の時間には聊か早過ぎる。一体何処へ向っているのか。ハリーとドラコ、双方が魔法史の教室から漸く体半分抜け出せた時に、小さな背を確認する事は出来 なかった。


、全然嬉しそうじゃ無かったわ。 どうしてかしら?
 寧ろ…自分だけが正解した事に自分で驚いているみたいだったわ。 」
「 其れじゃあなにか、がカンニングでもして解答を見出したというのか。負け惜しみは見苦しいぞ、グレンジャー。 」
「 なっ…誰もそんな事一言も言ってないじゃない! 」

「 さぁ、どうだかな。
 は寝る間も惜しんで談話室でレポートを書いてたんだ。自分で掛けたローブの存在を忘れる位に没頭してな。
 そのを卑怯者呼ばわりするとは見据えた根性だな。 」


ハリーとロンに向けて言った言葉に即座に反応を示し言葉を返してきたのはドラコだった。
珍しくグラップとゴイルを小脇に付けて、何時も通りの蔑んだ様な冷たい瞳でハーマイオニーを見ると、腕を組んだドラコは柱に寄り掛かる。
明らかな誤解を含んだドラコの言葉に奇妙な引っ掛かりを感じたハーマイオニーは、すぐさま否定し怒鳴って遣ろうかと言う憤りの感情を一心に殺して、逆に下 手に出 た。


「 自分で掛けたローブを忘れる? 」
「 あぁ、そうさ。 僕が朝起きたらはテーブルの上に突っ伏した状態で寝ていたから、起こしたんだ。
 そうしたら、”ローブを掛けてくれたの?有難う”ってさ。
 自分で掛けたローブを忘れる位にレポートに熱中して何時の間にか忘れたんだろう。 」


ドラコの脳内で蘇る、今朝の情景。明度を完璧に遮断することは出来なかっただろうは、重たい瞼を何とか抉じ開け、手の甲でニ・三度眼を擦って漸く眼の 前に居る人物を視界に映してくれた。
大丈夫か?こんな場所で寝るなんて…風邪を引いたら如何する、と覗きこむ様にして訊ねれば、は大丈夫、とまどろみの中を彷徨う虚ろ気な眼をドラコに向 けて。
其の様でさえも愛くるしいと思ってしまう自分は相当末期だろうか。
昂ぶりを見せる恋情を押し留めようとすれど、視線が克ち合った大きな瞳は純度の高い紫水晶。思わず手を伸ばしたく髪は、柔らかな絹で出来た夜色をしてい る。

それを見て、溜息を零すドラコを、は心配そうに見つめた。


「 兎に角、マグルと言うだけで充分お前は劣ってるんだ。 これ以上の僻みは止すんだな。 」


ふん、と鼻を鳴らしグラップとゴイルを引き連れて魔法史の教室を後にするドラコに、ハーマイオニーは何の言葉も返さなかった。
其れを不思議そうにハリーが見詰める。勿論、言い返してやろう言葉は山の様に溢れかえって喉奥から今にも弾け出てきそうな勢いを帯びていた。
しかしハーマイオニーは其の言葉をぐっと堪えて、ドラ コの後背にあっかんべをするロンのローブの裾を引っ張る。


「 ねぇ、ロン。 にローブを掛けた人って、誰だと思う? 」
「 え?ドラコが言ってたみたいにが自分で掛けて忘れてただけじゃないの? 」
「 あの、が? 幾ら疲労困憊でもはそんな誤認しないと思うけど。 」
「 じゃあドラコよりも先に起きたスリザリン生が掛けたんじゃない?とにかく、僕達には関係ないことだよ。 」
「 …そう、よね…。 」


そうそう、と適当に返事をするロンに促される様に、ハーマイオニーとハリーも魔法史の教室から出る。
外はもう大分霧の立ち込めた夜闇が広がっていて、日が暮れることが早くなってしまった季節の到来を告げていた。
もう少しすれば、夕食を告げる鐘の音が鳴ることだろう。夕食の時間に為ればに逢える。胸の奥でつっかえている蟠りに似た疑問を投げる前に少しは頭を冷 やして考える時間が出来るのは良いことだ、とハーマイオニーは独り自分に言い聞かせて。


ねぇ、。 其の羊皮紙の端…
え?あ、スペルミスをドラコに書いてもらったの。ダメよね、ちゃんと単語も書けないなんて。


不意に横目に入ってきたの提出していない羊皮紙の端。一瞬では見落としてしまいそうな程に小さな文字で書かれていた一つの単語を偶然視界に留めたハー マイオニーはに問うた。
其の問いに慌てた様に羊皮紙を仕舞いこんだを見ながら、ハーマイオニーは曖昧に笑うしかなかった。
がレポートを纏め上げる為に使っていたいわば下書きの羊皮紙の端、走り書きとは言え丁寧なの字に混じって明らかに達筆な文字体が書かれていた。
始めのうちこそ、の云う様にドラコが書いたものだろうと思っていたハーマイオニーだったが、ハーマイオニーはドラコの書く文字なんて見た験しが無い。
だと言うに、其の文字を見た瞬間脳裏に浮かんだ【誰かの筆跡に似ている】という疑問が生じ、あれは誰の字だったか…脳が覚えていると言うことは結構な頻度 で見かける筈だ。
ハリーかロンか…いや、其のどちらでもない。一体何処で見た、あの文字を。確かに見ている、滝から川面に流れ込むような流暢な文字体を、何処かで。


「 …魔法薬学…! 」
「 …ハーマイオニー、勉強のしすぎ?今日は魔法薬学は無いよ。其れにもうじき、夕食。 」


呆れた様なロンの声は既に耳に届いては居なかった。
何処かで見た文体。性格を其の侭表現したような厳格な文字で書かれていたのは”MIRROR”の文字。
途端にハーマイオニーの脳内を駆け抜けた思いは、教師が一介の生徒のレポートに加点を加えるような贔屓をしたとかそう云う次元の問題を遥かに超えていた。
あのスネイプが眼の敵にしホグワーツから追い出そうとしているのレポートに答えに為る様な単語を書くとは如何しても考え難かった。
為らば如何してスネイプがのレポートに文字を書き綴ったのか。単なる気紛れか。其れとも彼にとって有利と為る何かが在ってか。
考えれば考えるほど、ハーマイオニーの脳内は混乱し、表情は苦渋を帯びて行く。

に逢ったら取り合えず、聞いてみよう。あの文字は誰が書いたのか。如何して其れを隠す必要性があったのか。スネイプはを疎ましく思っていたのでは 無かったのか。
そう思いながら食堂へと歩いていた矢先、視界の影に映り込んで来た魔法薬学教室に続く地下階段を漆黒の物体が降りて行くのを認めた。
呼び止めるハリーとロンの声も聞かず、先に行ってて、と声を返したハーマイオニーはを追う様に地下室へと駆け出していた。



























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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/11/23