last scene




day-14 : 柑橘の誘惑




夜半過ぎが訪れるまで、一体如何遣って過していたのか明確には覚えていない。
然して難しい講義も無かった為に、教科書と黒板の内容を必死に羊皮紙に書き留めながら、脳内では全く別の事を考えていた。
図書館に貯蔵されている有りっ丈の魔法薬学関連の文献を引っ張り出してきても、結局納言草に関する情報は全く得られない侭に終わった。いや、全くと言えば 語弊が生じる。手がかりは見つけた、禁書の棚に行けば詳しい事が明記されていると。
図書館で文献を漁っている際に、一瞬だけ透明な硝子の向こうから其方を見た事があった。
周りに誰も居ない事を確認し、足らない身長でやっと中を覗き込めたと思えば、其処は薄暗闇に覆われ眼を凝らしてみても一定の高さの棚が並んで様しか見る事 が出来ない。
あの膨大な量の中に、手掛かりが潜んでいる。逸る気持ちを押し殺しながら講義を終え、夕食が終わると羊皮紙とペンに魔法を掛けて胸のポケットに忍ばせる と、もう通いなれてしまった図書室への道を登る。


「 遅かったじゃないか、。 もう来ないかと思って心配したんだ。 」
「 ごめんなさい、ハリー。 考え事をしていたらこんな時間に為ってて… 」


もうじき消灯時間を迎えようかと云う頃合、慌しく動く階段を駆け上ってくる音に、図書館の前で立ち尽くしていた三人は一斉に音のする方に向き直った。
動く階段に振り落とされない様に、長いローブを踏んでしまわない様に気をつけながら、は肩で息をしながら三人の前に現れた。
ハリーの問い掛けに申し訳無さそうに言葉を返して最後の階段を上った瞬間、の僅か数段後を歩いていた影の存在がハーマイオニーの視界に飛び込んでく る。
薄々勘付いては居たが、認めたくない存在を視界に認めると止め様の無い怒りが込み上げてくるのだから致し方ない。
気付けばハーマイオニーはドラコを冷遇していた。


「 如何して貴方が此処に居るのよ。 」
「 そう云う貴様等こそ何してる。 深夜独りで此処まで来るのが恐かったか、ポッター。 」
「 何だって!? 僕は独りで来るって言ったんだ、勝手についてきたのはハーマイオニーとロンだよ! 」


ハーマイオニーから点いた喧嘩の火種は瞬く間にドラコからハリーへと広がり、数日前の笑いさえ起きない稚拙な口論が始まるかと思えば、溜息が毀れそうに 為った。
此の侭二人に好き放題言わせておいても問題無いが、今は消灯も間近に控えた深夜に近しい時間帯。
生徒の数も殆ど無く、静謐な廊下に響き渡るドラコとハリーの声を教師が聞きつけ、この場に遣ってきたらどうなるだろうか。
間違い無く何点かの減点を喰らった後、今日の作戦はお預けに為るだろう。いや、其れだけならば未だ良い。
勘を働かせた教授が図書館と禁書の棚に見張りを置こうものなら、数日間は確実に作戦を決行する事は不可能だ。禁書の棚を閲覧出来なければを救ってやる 事が出来ない。

問答無用でハリーとドラコを黙らせたハーマイオニーは、目配せだけで図書館に入る様に促した。


「 ポッター、に指一本でも触れたら貴様を呪う。 地獄の底に突き落としてやるから覚悟しておけ。 」
「 なっ…人を穢い物みたいに言うな、マルフォイ!! 」
「 穢い物? 貴様は物以下だ。 肝に銘じておけ、ポッター。 」
「 そう云うお前こそ、ホグズミードでに触れてみろ…其の場で禁じられた呪文を唱えて遣る! 」
「 遣れるものなら遣ってみろ。 どうせお前はホグズミードには行けないんだからな。 」


普段は凄烈に飛び交うだろう言葉の音量は、今は時と場所を弁えてか其れでも控えめだった。
内密の内に調べ上げた禁書の棚に置かれている図書の位置関係を記した羊皮紙をに渡し、ハーマイオニーは頑張ってね、と声を掛ける。
一方ロンは、ハリーから預かった忍びの地図で図書館へと向う教師の痕跡を辿っている。
もうじき消灯の時間が訪れる。例外無く此処も見回りの一つとされている為に、フィルチが念入りに調べ上げるだろう。
透明マントを持たないハーマイオニー、ロン、ドラコがこの場に留まる事は危険過ぎる。若しかしたら、禁書の棚に誰か居る事を悟られてしまうかもしれない。

ハーマイオニーはロンを引き摺る様にして図書館から出ると、後に続く様にドラコも図書館を後にする。
勿論、終始ハリーの瞳に一瞥をくれてやる事を忘れず、澱んだ感情全てをぶつける様な捨て台詞を置いて。


「 良いか、忘れるな。 所詮お前はグリフィンドールで…はスリザリンなんだ。 」


空理である事は百も承知、けれど言っておかなければ気が済まないとドラコは吐き棄てる様に呟いた。
低い声に冴えた響き、蒼の瞳が映し出すのは心の内に潜む妬心。
二人だけにさせれば間違い無く決闘クラブパートUが開催されるだろう。喜ぶのはドラコのファンか其れともハリーのファンか。
考えるのも馬鹿馬鹿しくなって、ハーマイオニーはロンから忍びの地図を取り上げ、「マクゴナガル教授がこっちに向ってくるわ」と虚偽の報告をする。
慌てた様にハリーの元から離れたドラコに変わって、ハーマイオニーは


「 ハリー、私貴方のこと信用してるわ。 信用してるけど…一つだけ言わせて頂戴?
 に触れたら一年間は口利かないから、そのつもりで居てね。 」
「 …其れって絶対に信用して無いと思う。 」


あら、其れじゃあ守れないって言うの?
呆れた様に言い放ったハーマイオニーにがっくりと肩を落としたハリーは、右手を恭しく上げて宣誓の言葉を述べる。
如何して僕を信用してくれないんだ!
そう強く言い返せない自分が腹立たしくもあり、既に心惹かれ始めているに対して深夜の帳に二人きり、其の状況を本当に何も無しに切り抜けられるかが正 直不安だった。
寧ろ、この役をハーマイオニーに譲った方が良いのではないかとさえ思う位に。


「 ハリー、くれぐれもフィルチに見付からないように気をつけてを守ってね。 最悪… 」
「 判ってるよ、最悪僕が身代わりに為れって言うつもりだろう? 最初から其のつもりだよ。 」


これ以上図書館に長居をしたら誰かに怪しまれる、とハーマイオニーを押し出して、ハリーは図書館の鍵を静かに落とした。
閲覧禁止の棚に一番近い出窓の上、空を眺める様にして座っていたの隣まで来ると、片手で反動を付け駆け上ると隣へ腰を落とした。
ローブの中から使い古された透明マントを取り出して、覆い被せるようにとハリーの上から被せれば、向き合った窓に映っていた筈の二人の存在が綺麗に消 えた。
代わりに、漆黒の空にやんわりと霧を纏って浮かび上がっていた朧月が透明な窓枠に映し出され、辺りは静けさに包まれる。
時計に眼を落とせば、完全な消灯時間を迎えるまであと30分は有るだろう。行動を起こすには未だ、早過ぎる時間帯だ。
人が入り込めるスペースの半分開けて並んで座るとハリーの間に落ちてくる無言に耐え切れず、口を開いたのはのほうだった。


「 ねぇ、ハリー…ハリーのお母さんって、貴方を例のあの人から護ってくれたんだよね? 身を犠牲にして。 」

「 うん…僕は覚えていないんだけどね。
 勇敢な人だったって、ルーピン先生が…あ、ルーピン先生は闇の魔術に対する防衛術教授だった人なんだ。
 その…事情でホグワーツからは居なくなってしまったけど。
 で、そのルーピン先生がお母さんのこと、勇敢な人だったって言ってたよ。
 は? のお母さんはどんな人なの? 」

「 ………覚えて、無いんだ。 私が小さい時に亡くなったみたいだから。
 ハリーのお母さんは凄いね、命を掛けてハリーを護ったんだから… 」


気のせいだろうか、一呼吸置いたの返答の後、物欝気な感情が瞳の中に翳りを見せた気がした。
何故急に母親の話を出すのだろうと疑問に思ったけれど、唯一の肉親を過去に亡くしているハリーにとって居て欲しいべき存在の人間を思い出させる様な話を深 くするという事が、本人にとってどれだけの心の打撃を与えるかを知っている。
だからこそ、此処で深くの母親に関して追究するのは得策では無いと判断した。とは言ってみても、再び落ちて来た重たい沈黙に耐える事も出来無そうだ。
二人きりに為るという事が、こんなにも心臓に負担を掛けることだなんて判らなかった。
寮の談話室でハーマイオニーと二人きりに為ることは有っても、此処まで緊張した事は無い。紡がなければ為らない筈の言葉は何一つとして言葉に為らず、何を 如何話して良いかが全く判らない。
いっそ、ハーマイオニーかロンにこの場所を譲れば良かったのだろうか。昨夜寮の談話室で「誰にも譲らない」と豪語した癖に、情けない。

重たい沈黙、互いの呼吸の音さえ聞えてきそうな静寂の中、が零れ落ちて来た髪を掬い上げながら小さく笑った。


「 そう言えばね、昨日ドラコが言ってたよ? もうじきグリフィンドールとスリザリンのクィディッチの試合があるって。
 私の目の前でハリーを負かすって宣言してた。 」

「 えっ!? 僕がマルフォイのヤツに負ける訳が無いよ、この間だってスリザリンに勝ったんだ!
 其の前は負けたけど…でも、次の試合は絶対にの眼の前で僕がマルフォイを負かす!!
 は…僕とマルフォイ、どっちを応援してくれるの? 」


言葉に、大きな薄紫白淡の瞳が見開かれた。





































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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/10/7