last scene




day-12 : 秘密の共有




「 ハリー、ドラコ、お帰りなさい。 」


暫くして戻ってきたハリーとドラコは、相も変わらずお互いの視線を一瞥しては詰る言葉を吐き、我先にの元へと歩いて行く。
数メートル先の動く階段を忙しなく駆け上りながらああでもないこうでもないとお互いの欠点のみを突付き合っている声さえ聞えて来る予想が付く程、何かの前 触れの様な雰囲気が図書館には伝わっていた。
口を開けばついて出のは塞ぎ込みたくなる様な言葉と怒声、其れがどれほど人に迷惑を与えるのかと言う事が当人たちはまるで判っていないらしい。と言うより も、既に抜け落ちてし まっているのだろう。可哀想に。此れだから恋という奴は頂けな い。

其れを証明するかのように、が言葉を投げ掛ければ其の歩みは予行練習をしていた二人三脚の様にピタリと一致し、二人仲良く歩調も乱さずの眼前まで 来ると 互いの胸倉を掴み取らんばかりの勢いで 無意味な事を言い合う。
スプラウト教授とビンス教授の元へ行き、無事に図書の貸し出し許可が得た事を告げる、唯其れだけだと言うのに二人の間で勃発した第○次先述論争。
どちらが教授と話を付けたかなど、如何でも良い事だろう。全て結果がOKならば何の問題も無い。しかし、許可は自分が取って、相手は何もしなかったと言わ んばかりの喧嘩。
ハーマイオニーは馬鹿馬鹿しくて眼も当てられない、と頭を左右に振りながらロンが持ってきた【中世南仏に生息した魔法異種混合薬草と薬学】の活字を追う。

ロンも仕舞いにはハーマイオニーの手伝いをするかのように同じ図書を読み耽りながらの手伝いをし、ハリーとドラコに視線すら合わせない。さすればこの 状況、云わずと二人は浮いた存在に為る。
二人に注がれる視線に鋭さが二倍増しに為った頃、息継ぎをするタイミングを見計らったが声を掛けた。

其の言葉に、顔面が零れ落ちんばかりに和らぐ者一 名、蒼白する者一名。


「 ハリー…一つ、お願いがあるんだけど、大丈夫かな? ハリーじゃなきゃ如何してもダメなの。 」

「 え?! 僕に出来ること? 僕に出来る事なら…ううん、出来ない事でも何でも言って! 」
「 何だと? 思い上がるなよ、ポッター!! 、頼みなら是非僕に。 ポッターなんかよりも全然役に立てるぞ! 」


喜びを隠し切れないハリーに、ドラコの悲痛な叫びとも取れる言葉は届かなかった。隣に居たロンに抱きつかん勢いで駆け寄ると、両の手を無理矢理古書から引 き剥がしてブンブンと大きくニ三回握手する。
呆れた様に見詰めるハーマイオニーが良かったわね、と声を掛けながら…勝負に負けた一方を窺ってみる。
傍目から見ても充分過ぎる程の怒りを顔面に貼り付け、悲憤慷慨し、何とかハリーではなく自分にチャンスを、とに自身を売り込む。が、しかし。


「 ごめんね、ドラコ。 これはハリーに遣って貰いたい…ううん、ハリーの力が必要なの。 」


言葉に、全身から春爛漫の花畑を軽快にスキップする様な晴れ晴れとした表情で振り返ったハリーに、心底落胆し極寒吹雪き吹き荒れるの山間をローブ無しに宛 ても無く歩く様なドラコ。
其の落胆振りには流石のハーマイオニーも微かに可哀相だとは思ったけれど、よくよく考えてみれば、が深夜共に行動を起こすなら間違いなくドラコよりも ハリーの方が安心出来る。
もし仮に、深夜を共にするのがドラコだったらば、如何詰られ罵声を浴びせられようともハーマイオニーはに着いて行くと心中で確かな焔を燈していたほ ど。


「 …所詮、【穢れた血】の【節介】だろ 」


に聞えない様、ドラコは冷やかな眼差しと共に告ぐ。
ホグワーツに入学しドラコと関わりを持つ度良く耳にする忌々しい台詞ではあったが、今日のは本当に言葉に棘が生えていた様に思える。
遠回しの八つ当たりだろう。偶々眼が合ったのがハーマイオニーだったからこんな台詞が飛び出して来た。此れがロンだったならば過去の講義中の失敗を罵られ るだろうし、ハリーだったらば今まで以上の罵詈雑言が飛ぶだろう。
我を忘れた様に取り乱してしまう様な子ども染みた悋気をしてしまう位に、既に心奪われているのだと悟れる程、ドラコもハリーも恋を知ってはいない。
恋、という名の思い、決して二人に馴染みの薄いものでは無いにしろ、今の蟠りやら悋気を恋だと認識できるほど冷静な思考回路は持ち合わせて居なかった。


「 僕は何をすればいいんだい? 。 」
「 ハーマイオニーから聞いたんだけど…透明マントを貸して欲しいの。
 それで…深夜、一緒に禁書が置かれた棚から本を探して欲しいの。 お願いできるかな? 」
「 は、ハーマイオニーッ…!! 」


如何して昨日ホグワーツに入寮したばかりのが、ハリーが透明マントを持っている事や禁書の置かれた棚にハリーが侵入した事があるのか、思い当たる点は 一つしかない。
ロンが口を滑らせることは有るだろう。しかし、話を聞けばロンも直ぐ図書館を後にして図書を取りに談話室へと戻り、ハリーとドラコが帰ってくるほんの数分 前に此処に着いたという事は、ロンが話す暇は皆無に近しい。
と言うことは。

抱えたくなる頭を押さえ付けてハーマイオニーを見れば、申し訳無さそうに項垂れてはいるが、其の表情からの為に何か策を練ってあげたいと言う意思と苦 渋の決断の上だと言う事が容易に見て取れた。
勿論、はこの事実をダンブルドアやマクゴナガル教授に言触らす事は無いだろう。しかし、それ以上に危険な人物が居る事をハーマイオニーはすっかり忘れ て居たのだ。


「 へぇ…透明マントに禁書の棚の閲覧ね。 密告すれば何点の減点になるだろうな、ポッター。 」
「 …………… 」


返す言葉も浮かばなかった。
事実は事実、例え2年前の出来事にせよ、そう云う事実があった場合は寮の減点対象になる。
禁書の棚を調べていた時、確かフィルチに見付かって慌てて外に逃げたら、其処でスネイプとクィレルの言い争いに出くわした。
面倒な事に、あの瞬間息を殺して一歩一歩後に歩み寄っていたハリーに、スネイプは何かを気付いたか掴み取るように腕を伸ばして来た。
後、一歩。そんな場面でスネイプの指先が空を掴んだだけに終わったから難を免れたものの…此れが全て公になってしまうとスネイプに間違い無くバレる。

何点の減点だろうか。 否、禁書を閲覧したのだから減点どころでは済まないだろう。


「 ドラコ、密告なんて…。 私の為にハリーやハーマイオニーを退学にする訳には行かない。 お願い、眼を瞑って? 」


重たげな沈黙を破って、が呟く。
困らせて遣ろうと口から吐いて出た言葉には、変わりない。しかし、桜の花のような、でももっと色鮮やかな薄桃色の唇が哀しげに歪み泣き出しそうな空に似た 表情で精一杯微笑みを作りながら言われてしまえば、そんな感情は消し飛んだ。
どうせ克ち合う瞳なら、哀しみに満ちたものより、そんなものより…


「 …誰にも言わない、僕は聞かなかった事にする。 」
「 本当!? 有難う、ドラコ。 」
「 だから…一つ、僕の頼みも聞いて貰えるか? 」


ハーマイオニーとハリーは心の中で溜息を吐いた。
一旦はドラコの言葉に、晴れ渡った様な青空が心の中に広がったけれど、一気に其れがどんよりとした灰色の雲に覆われた気がした。
如何考えても、あのマルフォイが無条件で事を了解するとは思えなかった。しかし、の頼み事と知れば、無条件で遣ってくれるものだろうと鷹を括ったのが 大きな間違い。
けれど、そんな事は露も知らないはドラコの頼みを聞くべく、己の頼みを聞いて貰うべく了解の旨の返答をする。
灰色で終われば良かっただろう空は、その次に発せられたドラコの言葉によって、ぶ厚い鉛色の雲に遮られて月光すらも届かない漆黒の夜空へと変貌した。


「 今週末、ホグズミードに行ける。 スネイプ教授に認められたら、もきっと行ける。
 僕の友人が来週誕生日で…君にプレゼントを一緒に選んで欲しい。 駄目か? 」
「 勿論、私が選んで差し支えなかったら協力するわ! その…スネイプ教授に認められたら…だけどね。 」


予感的中、どうせ来週誕生日だと言う話しは取って付けた言い訳だろう事は、其の場に居た以外の人間ならば判りきっていた事だろう。
事実、ドラコが勝ち誇った様な眼差しをハリーに向けたのだから。
独り勝ちは許さない、そう言わんばかりのあてつけに似た行動、腹立たしくあるも此処は飲むしかない。
透明マントの事や禁書の閲覧を外部に漏らされる事だけは何としてでも阻止せねば為るまい。
とは言え、ドラコとがホグズミードでデートをするというのも中々納得が行かないもので。こうなれば、透明マントでも使って無理矢理後を付ければ良い。
何か起きようものなら其の場でドラコを張り飛ばす勢いで。

ハリーは透明マントで尾行する事が可能でも、ドラコは透明マントで禁書を閲覧するとハリーの邪魔は出来まい。
透明マントは独りでも充分過ぎる程小さいものだし、透明マント無しで禁書の棚がある部屋に入ることは不可能だろう。
幾らドラコの父親が資産家でも、透明マントを調達するには時間が無さ過ぎる。

僕の方が明らかに有利だ。
そうハリーは独り心の中でごちた。


「 じゃあハリー…申し訳無いけど明日の夜お願いしても良い? 」
「 明日? 僕は何時でもいいけど…今日じゃなくて? 」
「 今夜はダンブルドア校長に呼ばれてて、今日は如何しても決行出来無そうなの。 」
「 うん、判った。 じゃあ明日…夕食が終わった後にまた此処で。 」


そう言って立ち上がったハリーは、ロンとハーマイオニーを促す様に図書館を後にしようとする。
勿論、これ以上閲覧できる図書を読み耽ったところで何の問題解決も為さない事が証明されたも助長される様に立ち上がり、つられる様にしてドラコも面倒 そうに立ち上がり。
グリフィンドール寮とスリザリン寮は図書館を中心と考えれば正反対の位置に有る為、動く階段で両者は離れる事に為る。
別れ難そうなハリーを引っ張る様にしてロンとハーマイオニーはに手を振り、ちゃんと寮に届ける様にドラコに睨みを利かせると「また明日」と言って其の 場を後にした。

一方とドラコは、開かれた窓から見えるインクを流したような夜空にできた僅かな隙間から、青白い月放つ光りに照らされながら静謐な廊下を歩いていた。
改めて二人きりになってしまえば、何を話せば良いのか判らなかった。は物珍しそうに窓の外に映り込んだホグワーツの外観に魅入っている。
交わす言葉も無く、沈黙ばかりが二人の間には落ちてきて。居た堪れなくてドラコは隣のを視た。秀麗な容姿を兼ね備えた東洋の少女は何を考えているのだ ろう。ドラコには知りえない侭。


「 ねぇ…ドラコもクィディッチを遣るの? 」
「 え?あ、あぁ。 此れでも僕はスリザリンのシーカーなんだ。 」


突然振られた話題に一瞬たじろいだドラコでは有るが、の見詰めていた視線の先に有ったのがクィディッチ競技場だと知れば、必然的に自身の地位を語って いた。


「 そうなんだ、凄いね。 ドラコもハリーも。 いつか…私も見て見たいな。
 出来ればグリフィンドールとスリザリン別々の試合で。 」
「 見せてやるよ、僕が。 一番近いのはグリフィンドールとの試合だから、僕がポッターの奴を叩きのめしてやる! 」


言えば、桜が綻んだようにが笑った。其れを見て、ドラコも照れた様に笑う。
夜色の闇が空を侵食し始めたある一日の小さな約束、叶えられる其の日が来ないことを、ドラコは未だ知らなかった。






























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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/9/27