last scene




day-11 : 真実と虚言の狭間




日は未だ高く、南向きの大窓から見上げる空は薄青く晴れ渡って、雲一つも無い。本当、昨日の豪雨がまるで嘘の様に、心を取られてしまいそうな錯覚に駆られ る程、澄みきっている。
端には、色を失った真昼の月が在った。
けれどそんな景色を一瞬たりとも視界に入れる事無く、ハーマイオニーとは静寂を取り戻した図書館で只管活字を追っかけて居る。
時折思い出した様に時を刻む動いた時計を見上げながら、ニ三互いの情報交換し、また食入る様に古書を読み耽る。
他者の瞳を仮らば、其の様は酷く勤勉な生徒にしか映り込んでは来ない。
事実、柔らかな金色の髪を湛えた少女も深い夜色の絹糸を携えた少女も、幾らでも上手く立ち回れる頭の良さと、勝負を張れる勘の良さも持ち合わせている。


同じ様な説明が様々な本でも書かれ、何十回見たか知れない頃合、気分転換にとは別の話題を投げてみる。

「 ねぇ、ハーマイオニー…スネイプ教授って、何時もああなの? 」
「 そうよ、愛想の欠片も無ければあらゆる情という名の付く感情が欠落して、口を開けば【減点】の言葉しか出ない
 スリザリン贔屓の最低最悪教授よ! きっと友達はホルマリン漬けだけなんだわ。
 私、一度だけ見た事が有るんだけど、スネイプの自室には何百と言うホルマリンがあって、アイツは毎日毎日飽き
 もせずにホルマリンを愛でているのよ、気持ち悪い!! 」


聞けば聞く程スネイプの悪口しか出て来ないハーマイオニーの口唇からは、止め処無く溢れ出る壊れた水道管の様に次から次へと言葉は出てくる。
魔法薬学と組み分け帽子の儀式の際でしかSeverus Snapeと言う人物を知らぬだけれど、あの僅かな時間だけでも相当な悪印象だった事は云うまでも無い。
漆黒の身形に不揃の髪、常に不機嫌を纏った様に眉根を寄せ、人を蔑む様に鋭い瞳に睨みを利かせて上からモノを言う様に言葉を吐く。
其れも、抗えない程の覇気を伴い、周囲に誰も寄せ付けない様な空気を纏って。
視線を通わせただけで爪先から凍り付き怯んでしまいそうな存在、確かに其れは間違っていないだろう。しかし、其れはスネイプが望んで遣っていることの様に 思えて仕方なくなって来た。
人間誰しも、そんな扱いを受ければ人から嫌悪されることは眼に見えているだろうに、其れを態と遣っている様に見て取れるのは何故だろうか。

考え始めたら、脳裏に浮かんできたのは昨夜の出来事。
本当に非人情的な人物ならば、昨夜寮まで導いてくれる等と言う面倒な事はしなかったに違い無く、減点だけして踵を返していたに違い無い。


「 例えば…ハーマイオニーが深夜偶然ホグワーツ内でスネイプに遭ったとしたら、 」
「 考えなくても判るわよ、そんな事! 散々小言並べて厭味言われた後に10点は確実に減点されるわね。 」
「 じゃあ、もしも其処でハーマイオニーが道に迷ってて其れをスネイプに告げたとしたら? 」
「 状況は何も変わらないわ。 減点された後に面倒そうに寮までの道程を教えてくれるだけよ。 」


此れがきっとルーピン先生だったら、優しく寮まで送ってくれるんだろうけどなぁ。


ハーマイオニーの話を聞きながら、は昨夜自身の身の上に起きた出来事を思い返しては、無数の疑問符を浮かべていた。
昨夜、幻の類を観ていた記憶は無い。あの日、気付けば就寝時間を超えていて、鍵の落ちた図書館を慌てて飛び出せば虚構の様に広がった真っ黒に侵食された世 界に身震いした。
陽が高々と昇り、薄暗い城内を仄かに照らし出していた時には何処を如何曲がって此処まで辿り着いたかなんて気にも留めなかった。
しかし、いざ帰り道…焦燥感に駆られながら右左どちらを見ても果てなく続く暗闇を見てしまえば、どちらがスリザリン寮だなんて判らなかった。
地図も無ければ道標も無い、浮浪している筈の幽霊達の姿でさえ見えないのだと悟れば、途方も無い孤独感と絶望感に襲われて。

其の中で、思い出すのは目元まで掛かる黒髪の下に、同じく黒い、どこか油断のならない光を持った瞳。


「 スネイプの最悪人柄話、取り敢えず私がホグワーツに入学する時から始まるけど、聞く? 」
「 え、遠慮しておきます…今ので充分お腹いっぱい。 」
「 其れもそうね、どうせ話すならアイツの話よりももっと楽しい話の方が良いもの。 勿論、続きも遣らなくっちゃ! 」
「 ゴメンね、ハーマイオニー。 貴方には関係の無い事を…結局は手伝わせてしまって。 」
「 全然良いの。 私も勉強に為るし、其れに丁度退屈していたところだから気にしないで? 」


もう、いっその事、諦めようか。


そんな考えがの脳裏に過ったのは、【納言草】に関しての文献を漁り始めて4時間が経った頃合。昨夜の時間も合わせればたっぷり10時間は其の三文字を 血眼になって探している。
見付けれども見付けれども【It is attached to secrecy and a prohibited book describes.(機密に付き、禁書にて記す)】の文章を此れまで幾度と見てきたことだろう。
諦める、其の言葉の為す意味を半ば本気で考える。考えながらも、この課題さえクリアすればスネイプに認めて貰えるのだと思えば、は淡々と機械作業の様 に羊皮紙に古書のタイトルとページ数、納言草に関しての引用文を文字で埋める事を続けていた。
こうすれば、一度読んだ本を二度読むと言う手間も省ける上に、スネイプに此れだけ探したのだけれど結局判らなかったと直談判も出来る。
分厚い草臥れた文献のページを繰り、目的の記述を探し出す。全く違う文献だと言うのに、同一資料から同文章を引用しているのではないかと錯覚する程映し出 される文章はたった12文字。されど、決して違わぬ文字。
脇に重ねられた本が30を超えようかという頃合、は機械的にペンを走らせかけ、だがとうとう其の指が止まる。


「 ねぇ、ハーマイオニー…閲覧禁止の棚って如何遣ったら閲覧出来るの? 」
「 えっ!? あ、…閲覧禁止って云う位だからきっと閲覧は出来ないんじゃないかしら? 」


心無し、ハーマイオニーは引き攣った様な笑いを浮かべて答えてくれた。
酷く慌てているのか何かを隠しているのか、今までの彼女らしからぬ行為はの中で何かを隠していると悟らせる。
例えば、インク壷。ハーマイオニーは間違ってもインク壷を倒したりはしない。慌てて立ち上がる時でさえ、必ずインク壷に蓋をして中身が毀れない様に配慮し てから立ち上がる。
しかし、今。ハーマイオニーはに言葉を投げ掛けられると同時、握り締めていた羽ペンをインク壷に置こうとしたのだろう。手元を過ってインク壷を引っ繰 り返し、慌てて魔法を掛けようと杖を握れど、其れはハーマイオニーの杖ではなくの杖。
あからさまな動揺を目の当たりにして、思わず苦い笑いを堪え切れないに、ハーマイオニーは更に困った様に笑った。

しかし、其れが途中から哀しみと憂いを帯びた笑いに代わった。


ハーマイオニーの人生に於いて、教学の上で不明確と云う単語は存在させては為らなかった。今まで調べて判らなかった事は当然無かったし、納言草とて今 が持っている情報よりは一歩進んだ情報を保持している。
知らない、ということがハーマイオニーの中では恐怖の対象だった。特にこの、純血が犇き合っているホグワーツの中に於いては絶対的に。
いつもはキレイに噛み合わさるはずの歯車が、上手く合わずに軋んだ音をたてている。ズキズキと、其れは涙が出そうなほど嫌な音。自分で自分が情無くなり、 如何し様も出来ない不甲斐なさに塞ぎ込みたい衝動に駆られる。


「 …、閲覧禁止の棚、見る方法が一つだけ有るって云ったら? 」
「 そうね、貴方に擽りの魔法を掛けて死ぬ程笑って貰いながら教えて貰うわ。 」


ハーマイオニーの言葉に古書から視線を上げて屈託無く笑い、また古書へと視線を戻すは大方ハーマイオニーの言った事など冗談か気休めか其の程度のもの だと思ったのだろう。
誰しも閲覧禁止の棚を見たいと思うこそすれ、叶える方法等無いのだと知っていて、視線だけを送ってはあの奥に何が隠されているのだろうかと想像力を大いに 働かせる。
閲覧禁止の棚に置かれた古書を読めるからと、ホグワーツの教員を志願する者さえ居るという程なのだから、閲覧禁止の棚に生徒が純粋に惹かれてしまうのも無 理は無い。
しかし、ホグワーツ魔法魔術学校、教師はともかく生徒に易々と侵入され閲覧禁止の古書を読ませるだけの有り難い配慮等ある筈も無く、フィルチに見付かって 上官に報告され減点と処罰を受けるのが関の山。

聞くまでも無かったね、と最後に言ったの言葉の後、ハーマイオニーは周囲に誰も居ない事を確認するかのようにゆっくりと視線だけを一周させ、小さく息 を吸い込み吐き出すのと同時に言葉を紡いだ。其れも、酷く小さな声で。


「 ……実はね、閲覧禁止の棚の本を読む方法が、一つだけあるの。 」
「 …ハーマイオニー? そんな冗談、幾ら昨日ホグワーツに入学したばかりの私だからって通じないわよ? 」
「 冗談じゃないの。 二年前…ハリーがあの部屋に入ったの。 此れは間違いない事実よ、。 」


胸を突かれた気がした。
直ぐに言葉の意図は理解できたが、如何言葉を返せばいいのか判らなくて、は桜色の唇をもどかしく噛む。
図書館に埋蔵された図書を調べ上げた結果、見付けられた魔法薬学に関する図書は二日間だけで数百冊に登り、けれど其れのどれを探してみても目ぼしい情報は 書き込まれてはいない。
皆一様に揃えたよう、禁書にて記すとのみ書かれていて、一般人が眼にする事は不可能。
閲覧禁止の図書の棚に有るのだから、生徒であるが見る事等不可能、この辺でケリをつけて早々に諦めた方が良いのではないのかとさえ思っていた。
其の、矢先。
ハーマイオニーの口から飛び出してきた事実に、は鬱勃たる気持ちを殺す事が如何しても出来ずにいた。


「 …如何、すれば言いの? 何が必要? 」
「 必要なのは深夜と度胸と…其れに、ハリーよ。 」
「 …ハリー? 如何してハリーが必要なの? 」
「 彼が居なければ閲覧禁止の棚に誰にもバレずに侵入することが不可能だからよ。 」


そう言いながら、ハーマイオニーはの知る事の無いホグワーツ一年生だった頃に起きた出来事を静かに語り始めた。勿論、この話をがハリーに切り出し た処で、ハリーが断る訳が無いと踏んで。

































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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/9/20