last scene

day-10 : 獅子と蛇の合戦
「 …良い機会だ、ポッター。 どちらがに協力するか…決着を付けようか。 」
「 望む所だ。 」
蒼と緑の瞳が克ち合う其の度に睨み合いが起き、ハリーとドラコの眼の前には人には見えない火花が赤々と燃え盛っていた。
客観的に第三者としてこの言い争いを眺めているだけだったロンは、途端に変わった図書館の空気に身震いする。
ハリーとドラコの双方からどっと溢れ出した憤、冷やかなものを纏ってロンの剥き出しの皮膚を一斉に逆撫で、其の侭虚ろに拡散しながら侵食されていくような
ぞっとするものがあった。
苦笑いさえ浮かべる事が出来ず、己の唾を飲み下す音でさえ酷く煩げな音に聞え、どちらからとも無く抗議の声が上がる気がした。
「 さぁ、何で勝負する? クィディッチか?其れとも学年考査か? 」
「 バカだね、マルフォイ。 クィディッチも学年考査も来週だ。 の課題は今週末…そんな事も知らないのか? 」
其れで協力するだなんて、バカだよ、マルフォイ。
笑って言ったハリーの声は、既に笑いを含んだものではなく、普段ドラコがハリーに浴びせる様な侮蔑を含んだもの。
其れに恐れを為したのは以外にも標的であるドラコ自身ではなく、傍からハラハラと事の成り行きを息を潜めて見守っているロン。
ごくり、と喉を鳴らして唾の塊を飲み落とし、ハリーとドラコ双方を交互に見合えば、今直ぐにでも此処が決闘クラブか何かの催し物会場にでも為ってしまうの
ではないかと厭な予感ばかりが脳を這う。
「 いい加減黙れ、ポッター! グリフィンドールの貴様に何が出来る! はスリザリンだぞ!? 」
「 其れが如何した、傍に居る事しか能が無いくせに。 」
「 貴様だって同じだろう! じゃあ言ってみろ、貴様は何が出来る!? 」
50歩100歩、確かマグル学でそんな事を教授から聞いた気がすると、ロンは不毛な言い争いを続けるドラコとハリーを見ては沸々と諺の意を実感する。
結局、どちらも力に為れる様な特別な策や手段を持ち合わせては居ないという事だろうか。二人の会話からはそうとしか取れない。
「 僕はスネイプに直談判が出来るさ、に出した課題を引き下げてくれって頭だって下げられるよ。
其れに引き換え…マルフォイにそんな事が出来る? スリザリン生がスリザリン寮監に逆らうなんて事がね! 」
「 言ったな、ポッター。 魔法薬学終了時、貴様とを助けたのは僕だったのを忘れたのか! 恩知らずめ。 」
「 はっ、あれ位で恩を着せるなんてスリザリンは恩着せがましいんだな。 あれの何処が助けたって言うんだ! 」
「 煩い、大体貴様がに馴れ馴れしく喋り掛けていたからに課題が出されたんだ!
元はと言えば…貴様の所為だ、ポッター!! 」
蛇と獅子の睨み合い、お互い罵り合う言文が正論であれ無かれ、いずれにしても両者が互いの失点を見つけ出す事に精一杯で何とか自分に加点を…と小さな子ど
もの喧嘩の様。
判った様な顔した人間が言う、恋愛は勝ち負けじゃないなんて、其れは嘘だろうとロンは思った。
心の底を焦がすとまでは行かずとも、況してハリーとドラコの様に稚拙な争いを本気出してまで言い争う程までには至らずとも、恋愛は多少の経験がある。
だからこそ、この不毛と言うか無能と言うか不必要な論争でさえも【恋】をしている彼等にしてみれば正に命を掛けた真っ向勝負。
弱みを多く作った方が負けという言葉こそ、実に真理をついていやしないか。
「 何だって? お前がもっとを庇って遣れば済んだ話だろう!? 責任転嫁するのか? 」
「 責任転嫁? 其れは此方の台詞だ! 講義中に私語をした貴様の方が数倍に悪い! 」
「 私語じゃない、が聞いてきたから答えてたんだ! 」
「 貴様ッ…最後にはの所為にするのか!? 」
「 誰もそんな事を言って無いだろう!! 」
悋気、そう呼ぶには余りに稚拙な言い争いを終始温かく見守っていたロンだったが、時が経つにつれて笑えない事態へと悪化してゆく。
別段、当初に胸をちらつかせていた【血みどろの魔法合戦】には至らない様で有ったが、何時解決するとも知れない罵り合いは次第に声も冷気も怒気も音量さえ
も増す一
方。
に対する惻隠の情は有っても、知り合って数時間、ハリーとドラコにしても知り合って一日足らずの相手に対して弔い合戦の勢いで臨むものだろうか。
否、其れが恋は盲目故に起きてしまうのならば仕方が無いと言えよう。しかし、遣るなら遣るでもう少しばかり場所を考えて欲しいものだ。
二人きりの空間を作り上げて其処で思う存分言葉の投げ合いでも魔法の掛け合いでもしてくれて構わない。
二人とも、白熱しすぎて此処が何処だかを忘れてやしないだろうか。
司書は基い、来週に押し迫った学年考査の試験勉強の為に図書館を利用している生徒の意志を伴ったストレートな視線に慄然とする。
妙に殺気立っていると感じているのは不毛な言い争いを聞きすぎて脳が麻痺したからではないだろう。
飛び交う罵声が慇懃なものならば良かったのだろうか、いやこの際そんな物は有って無いもの同然。
「 あ、あの…二人とも、これ以上此処で言い争ったら、他に迷惑が… 」
「 煩い、黙ってろ! 」
「 ロンは黙ってて! 」
「 …………………… 」
有りっ丈の勇気を持って声を掛ければ、意気投合した様に開口一発目から念入りに打合せしたかの様な和音で返答が返る。其れも、邪魔だと言わんばかりの。
人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて死ぬ…だっただろうか。馬に蹴られる前にドラコとハリーに燃やされると、其ればかりが脳を支配する。
ハーマイオニーがスネイプに対して慷慨するのは判る。大方、ハリーとドラコもそうだろう。少々軌道がずれている気もしなくも無いが。
果てさて如何したもんか。
此の侭放置状態で二人に好き勝手させても良かったのだが、何故か眉根を寄せて明らかに不機嫌な視線を送ってくる周囲の生徒はロンを見る。
酷く、居た堪れない。酷く、憮然。
「 あー…、 」
投げられる言葉も冷やかな視線も判り切っていて、もう一度、切り出そうとした矢先。
端麗な容姿を携えた紫水晶の瞳が和らいだ。其れは絵画を飛び出した嫣然たる様。吐き出そうとした息が、詰まる。
「 ハリー、ドラコ。 ゴメンなさい…気持ちは凄く有り難いんだけれど他の生徒の迷惑になっちゃうから…
図書室の外で…ね? 」
ハーマイオニーと様々な古書を広げ、三年間魔法薬学を学んできたロンですら理解出来ないような難解単語が飛び出す其の最中、視線の克ち合ったはゆっく
りと立ち上がってそう言った。
ロンが言えば速攻でぎら付いた瞳で睨み付けて来たものを、が微笑みと共にそう言えば、ドラコとハリーの頬に明らかな朱が走る。
この違いは何か、相手が恋情する人間だと投げ掛けられた言葉も愛の囁きに聞えるのだろうか、情けない。
が、しかし、ロンとて二人の気持ちが判らない訳でも無かった。
今日のは昨日の服装と代わり、豊かな夜色の髪を唐輪に結い上げ、華奢な肢体を柔らかな色彩のストールに包んで居た。
ホグワーツに居る事を忘れさせそうな異世界の服装をしたの後には、邪魔に為ったのか丁寧に折り畳まれたローブが置かれ、其の上に山の様に古書が置かれ
ている。
傍から見れば、古書愛好家が泥の付いた靴で歩き回る床に大切な愛蔵品を置きたくないが為にしている様にも見て取れる。
この場にスネイプが現れたとし、膨大且つ重要な図書の扱われている様を注意しに来た所で、この状況ならば良い口実になるだろう。怜悧透徹なのは如何やら見
た目だけでも無いらしい。
流れ落ちて来た後れ毛を自然にほっそりとした指先で掬い上げる其の様でさえ、酷く優美だ。
「 な、なぁ、もうこんなヤツと言い争わないから、だから… 」
「 僕だって好き好んでマルフォイなんかと…!! 」
口を開けばお互いの罵り合いしかしないドラコとハリーを交互に見て、は困った様に笑った。
「 そうね…じゃあ、一つお願いしても大丈夫? 」
「 勿論、何でも言って、僕に出来ることなら何でもするよ! 」
「 抜け駆けだぞ、ポッター!! 、頼み毎なら何でも僕に言ってくれ。 」
---------- スプラウト教授とビンス教授に、図書の貸し出し許可を貰ってきて欲しいの。
つまりは、問答無用で図書館から出て行けと言わんばかりの内容、大方事の重大さを誰よりも示唆したハーマイオニーからの助言からだろう。
先程のハーマイオニーとスネイプの会話の内容から察するに、薬草学と歴史学に関して洗い直しても無駄足では無いだろう。
スネイプから言い渡されたあの捨て台詞に似た残酷な言葉を、図書館に着いてからハーマイオニーは一度もには告げていない。勿論、ロンの耳に届か
ぬ様に耳打ちでもしていればまた話しは別に為るのだが、ハーマイオニーが其処までするとは如何しても思えなかった。
大方、伝えることさえ悩んだことだろう。誰よりも優しき心を持つハーマイオニーの事だから。
だから、画策しようと試みたのだろう。
自ら調べ、結論に至れば少しは精神的衝撃も和らぐとの計らいで。
「 あの…、僕は如何すれば? 」
僕が先だ、貴様はあっちへ行け、仲良くそんな言葉を吐きながら我先にと図書館の出口を目指して駆け出して振り返ることすらしない蛇と獅子を見送りながらロ
ンは二人に問いかける。
ハリーとドラコのこと。
大方言い争いながらお互い同じ教授の元へ向って開口一番に同じ台詞を吐き、其処でもまた一揉めするのだろう。
「 僕が先に聞いたんだ! 下がってろよ、マルフォイ! 」
「 貴様の眼は節穴か!? 僕が声を掛けて振り返ったんだ、僕に聞く権利が有る!! 」
別々に手分けすれば早い事だろうに、今日の彼等はそこまで頭が回らないらしい。
恋は本当に、盲目だ。
「 そうね、談話室から【中世南仏に生息した魔法異種混合薬草と薬学】の本を持ってきてくれない? 」
忘れてきちゃったんだよね。
と同じ様、申し訳無さそうに少しはにかんで言ったハーマイオニーの言葉に、ロンに拒絶の言葉が出せる筈が無かった。
女はつくづく擬態する生き物だと思う。マルフォイに向ける態度とも、ハリーに対する態度とも異なる其の態度をロンは疑問に思った事は一度も無い。
男の好む態度を作ろうとする媚も甘えも、嫌いではなかった。判って居ながら其れに乗ってやるのは、お互いが暗黙の内だろう。
二つ返事をして、ロンは踵を返す。目指すはグリフィンドール寮の談話室。言い渡されたのが使いっぱしりだとしても、其れでも談話室へ向うロンの足取りは思
いの外、軽い。
Love is blind...其れは、未来永劫に解答の出ない問題。
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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2004/9/16