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信じられるものが何も無くなってしまった時 一体何に縋って立っていればいいのだろう。







ユメミタアトデ




#000 prologue






叩き吹付けるような粉雪舞いが一斉に身体を包み込んで温度を低下させる。羽織っただけのローブは漂い始めた寒波に遊ばれるように裾を翻らせ、滔滔と空から毀れる雪が銀糸に絡みつくように引っ掛かっては解け落ちて水滴を滴らせる。
一歩足を踏み出せば途端に足元を掬われそうな程凍て付いた路面に、足早に過ぎ去る雑踏音と雪が空から舞い降りるゆっくりとした音だけが響いていた。
空を見上げることも雪を払う事もしないまま、昨日も一昨日も変わらぬ悪天候に苦渋の溜息を吐いたルシウスが、ゆっくりと視線を擡げて蒼青の瞳に曇った冬景色を映し込んだ。
周りは一面の闇に覆われたように薄暗く、行き来する人間の表情も何処か蒼白気味や血色に欠け鋭利な瞳を携える者が多かった。



其れも其の筈、此処はKnockturn Alley。Diagon Alleyと対を成すようにして存在している裏通りであり、闇の魔術に関する品々を揃える店から、闇に携わる魔法使いが贔屓にしている曰く付きの店まで様々な軒並みが揃えられている。
魔法省高官という立場にありながらも、ルシウスは此処に適度の間隔を持って滞在していた。理由は勿論様々有れど、人に簡単に説明できるような生易しくも容易い理由ではなかった。
一目を憚る様に最終目的である店から一歩出たルシウスは、雑踏と人影に紛れ混もう、と足早に踵を返して軒先を出た。
突き刺す寒波に身を凍らせながらも、直に日が暮れると時計に目を落して雪に塗れた煉瓦道に足跡を付ける。





「 ………ヒト、か? 」





歩き出して未だ数メートルも経っていない頃合、最近立てられたのだろうか、新しく名見慣れない店が小脇に在るのを視界に認めた。
酷く簡素な造りの其の屋敷、大方呪いか何かに使用される物品を取り扱っているのだろう、光りを取り込む役目を持たない質素な窓は全面を黒弾幕でキチリと覆われている。傍から見ても暗鬱な興味を引く雰囲気で、もう少しばかり明るく時間的にも余裕があれば、ルシウスも誘惑された様に店内に足を踏み入れていたかもしれない。


其の、見るからにKnockturn Alleyに似合いの雰囲気を醸し出す屋敷の軒先に、ルシウスは異形のモノを認めて視線を送った。
心の中で唱えた疑問符が思わず口から滑り出てしまう程、心に衝撃が走ったといっても過言ではない。尤も、異形等と言ってもルシウスはマルフォイ家当主でも有り、生粋の純血一族の血筋故に魑魅魍魎魔術妖術が絡んだ異形等に衝撃を受ける事は無い。
寧ろ、視界に認めたモノが其れ等であれば良かったのだ。そうすれば興味を惹かれることも無く、視線を投げる事も無く、心に引っかかりを残す事も無かったのだから。
ルシウスが思わず端正な眉を顰めた異形のモノ、其れはホグワーツのローブを纏い薄汚い人形を持った独りの少女だった。




------- 彷徨い子か?其れとも間違って足を踏み入れて戻れなくなったか。何れにしても私には関係無い。





投げた視線は移り変わる景色の様にゆっくりと其れから離れて行った。
興味が削がれた訳ではない。真逆に、無理やり視線を剥がした。
少女の横を通り過ぎる其の瞬間に垣間見た少女の面影は、暗鬱なKnockturn Alleyに愕く程合致していた。
漆黒の黒髪に薄白墨の瞳、粉雪を思わせる真っ白な肌に端麗な顔立ち。年齢は15歳前後だろうか。未だあどけない表情が少しばかり翳り出て、俯き気味の少女の瞳は一瞬だけ真っ直ぐにルシウスの蒼青を捉えた。

瞬間、背筋をつめたい物が一気に競り上がって抜けた。

容姿端麗な其の顔の造りとは裏腹に、少女の表情は悲愴に満ちていた。其ればかりか、至る所に跳ねた土泥の跡が残り、薄っすらと涙跡も認められる。
更に付け加えるならば、少女の手にした一体の人形…、最早人形と呼ぶことさえ忍びなくなる程其れは荒んでいた。術者が呪いか何かに使う様な意味有り気な人形、間違っても少女くらいの年代が好き好んで携える様な品ではなかった。
少女の身に何か、あったと言うのだろうか。
柄にも無くそんな思考を脳内に侍らせながら、其れでも無理やりに視線を剥がすと少女の真横を通り過ぎる。
二度と、振り返らない様に。何故そう思ったかは判らない侭、けれど天性の直感からか、振り返ってはいけないとそう思った。


刹那、真横で何か大きな物が力を伴って破裂する様な音が聞こえた。
鉄筋コンクリートのビルを破壊した様な爆音ではなく、風船の様な気体を体内に含んだ物が膨れ上がって破裂したような、そんな乾音が続け様に何度も何度もリフレインする。
振り返っては、いけない。そう思っていた筈だと言うに、気づいた時には無意識の侭引き寄せられる様にルシウスのローブの裾は風の力を借りずに翻っていた。





「 な……っ… 」





咄嗟の事態、上手く実情を飲み込めずに言葉が満足に口から出ない。
振り返った其の先で、ルシウスが見たのは一言で述べるならば【有り得る事の無い】情景だった。
先程まで荒んだ状態で突っ立った侭に居た少女の影カタチは何処にも見られる事は無く、代わりとでも言うように独りの酷く幼い子供が呆然とした表情で立ち尽くしていた。
大きな瞳をきょろきょろさせながら、小さな手で己の身体や顔を触っては其の表情を悲愴だったものから蒼白に変化させていった。
ポトリと小さな音を立てて、雪上に気味が悪いとしか言えないあの人形が堕ちる。脇には片手で所持していたのだろうか、杖が垂直を保った侭で突き刺さり、傍らには漆黒のローブがバサリと鎮座する。



漆黒の髪に薄白墨の瞳、端麗な其の容姿は変わらぬ侭で在れど、少女は明らかに先程視線を合わせた時とは異なる風体をしていた。
小さな手、大きな瞳、小さな身体に大きな服。たっぷり数秒間、蒼青の瞳と薄白墨の瞳が克ち合って、無言の空気が流れ落ちる。
ルシウスの眼の前で、確かに少女が、子供に為った。





「 きゃぁぁぁぁぁぁっ!! 」





冷空気を劈いた悲鳴は、幼い子供の音程を伴って、桜色の唇から漏れ落ちた。
其の声色にはっと意識を取り戻せば、少し離れた通りからの痛い視線を全身に浴びた。何人かが立ち止まって小さな声で何かを話しながら、此方を伺っている様子が見えた。
一体何なのだ、と視線を子供に落とせば即座に納得する。
其処には蹲って震える独りの子供、しかも傍には身に纏っていた筈のローブが投げ置かれるように置いてあって、辛うじて少女の小さな身体を隠す様に為っている。
脇には乱雑に為った人形に、杖。そして立った侭に少女を上から見下ろすルシウスの存在。
如何考えても傍から見れば、良くて暴漢か人攫いか。魔法省に通達されるのも最早時間の問題と為る程周囲が騒ぎ出している。




「 …Shit! 」




気付けば、杖と人形を拾い上げて少女に放ると、小さな身体にローブを巻き付けて無理やりに少女を抱き上げた。
幸い、この距離為らば見た恰好すら良くは視界に止める事さえ困難、面倒事が起きる前に早くこの場から立ち去りたいと切に思う。
この場に少女だけ置き去りにしても良かった。しかし、少女と余りに長い時間視線を交わし過ぎた為、少女がルシウスを覚えている可能性が拭い切れない。
もしも仮に、少女を置き去りにして其処へ魔法省高官が駆け付け、彼女がルシウスの事を話したら如何なるだろうか。
間違い無く失脚は免れない。此処まで築き上げてきたこの地位と名誉、そう簡単に棄ててなるものかと。如何しても此処に居たという事実を世間に知られる訳には行かなかった。
だから連れて来た、唯其れだけの理由。




「 ちょっと、何するのよこの人攫い! 」

「 煩い、黙ってろ。 」




抱えて歩き出したものの、行く宛等何処にも無かった。まさか家に連れ帰る訳にも行かず、況してや子供に姿を変えたこの少女を其の辺に放って置く訳には行かない。
一番に解決しなければ為らないのは、この少女からルシウスの記憶を一切削除する事唯一つ。
其の目的を果たさぬまでは如何足掻いても無駄骨に終る。記憶を持った侭置き去りにする位ならば、先にあの侭放って置けば良かっただけの話であるのだから。
厄介な面倒事を抱えてしまったと、苦渋の溜息さえ出ない氷点下の空を、子供を抱えたルシウスは只管に歩いた。
抱えた少女は本当に軽く、子供など抱いた験しの無いルシウスは此れが正規の子供の体重なのかは全く認知しない事であれど、伝わる温もりは冷たく圧し掛かる体重は空を舞う雪を思わせた。

如何してこんな事に為ったのだろうか。

呟いた少女の言葉は、ルシウスの心境も其の侭映し出していた。





「 如何云う経緯で子供に為ったか、説明しろ。 」

「 そんなの、私が知りたい位よ。大体、貴方と眼が合ってからこうなったんだから、貴方が何かしたんじゃないの!? 」

「 戯言を。誰が好き好んで貴様の様な子供相手に。 」





足早に路地を抜けながら、お互い殺気だった意志を剥き出しの侭に会話を投げ合った。
知り合って…付け加えるならば、到底マトモとは呼べない出逢い方をしてから未だ5分も経っていない。空気に雪が溶ける様に馴染める環境で出会った訳でも無ければ、現在其の状況に置かれている訳でも無い。
強いて言えば其の逆、しかも最悪な出逢いを果たしてしまったと言えた。
一方はマルフォイ家の未来を担う若き当主ルシウス、方や泥と誇りに塗れた見た目からも素性に察しが付く幼子。
如何頭を捻っても出逢う筈の無い二人が、こうして路地裏で一目を憚る様に歩き連ねていると在れば、心と脳が逆拒否反応を示す事は容易に想像が出来た。


5分ほど歩いて、目の前に古びた掘立小屋の様な建物が見えて来た。
一応屋根際に看板も立っている様では有るが、錆びれて一方が折れ、風にキィキィと軋む音を立てながら揺ら揺らと揺れている。
陽も当に落ちて辺りが薄闇に包まれていると言うに、軒先には燭台さえ燈らずに、薄灰色の扉だけが殺風景に取って付けた様に置かれていた。
其の店の前でピタリと歩みを止めたルシウスは、腕に抱えた少女を下ろすと脇に立たせて仕舞いこんだ杖の先で蹴破るかの様に勢い良く扉を付き押した。
鐘の音すら響かない、古木が軋む音だけを立ててゆっくりと開いた扉の奥には、長い白髪を携えた独りの老人が長椅子に腰を落して新聞を眺めていた。





「 誰かと思えばお前さんかい。何かね、買い忘れかね。 」





穏かな口調の老人は、ゆっくりと新聞から視線をルシウスに映した。
そして、其の隣りの少女を視界に留めると一瞬だけ瞳が鋭利なものに変わって、次の瞬間にはまた先の通りの穏かなモノに変わる。
扉から老人の居る長椅子までは差して距離は無い。
片狭い室内には所狭しとあらゆる物が並べられ、棚という棚に視界にも入れたくない産物が転がっている。其れ等はホルマリンに付けられた蛇だったり、人の首だったり、時には元が何を形成していたのかすら識別困難な物まで置かれていた。
一筋の明かりも射し込まない薄暗闇の室内をぐるりと見渡して、其の気味の悪さに一気に寒気を感じた少女が身を竦めたのと、ルシウスの腕が少女の細い腕を掴んで老人の眼前に引き摺り出したのは略同時だった。





「 悪いねぇマルフォイ。ウチの店は子供は買わない主義なんでね…他所を当たってくれんか。 」

「 勘違いするな、子供を売る為に態々お前の店に来たりはしない。 」





白髪の老人が、ようやっと重い腰を上げて椅子から立ち上がった。
小脇に置いた杖を振って何かを詠唱して椅子を二脚出せば、面倒そうに一方にルシウスが腰を落して足を組む。其れを真似る様に小さな身体の少女も椅子に座ると、正面切って老人と向き合った。
如何して良いのか状況の掴みきれて居ない少女より先に、ルシウスが淡々とした口調で先程の出来事を老人に話して聞かせる。
事件記録や作業内容を棒読みする様に音程の強弱の無い其れは、紙に書いた文章を其の侭詠唱したかのような印象を齎し、ルシウスの冷たい口調と音域が其れを更に強調した。
一通り話し終われば、老人の視線はルシウスではなく、少女に向けられていた。





「 お嬢さん、其の人形、何処で手に入れたのかね? 」

「 え……あ…、此れは両親の形見で…其の、何処で手に入れたのかは良く判りません。 」

「 多分、じゃがのぉ…お嬢さんが小さくなった理由は其の人形かも知れん。 」

「 この人形が…ですか?でもこんな薄気味悪い人形が一体如何して… 」





------ 其れは意志を持った人形でな、生涯に一度だけ、主の心からの願いを聞き入れるものなんじゃよ。





老人の話しはこうだった。
少女の手にした人形は通称【復難の人形】と言われている物で、闇の魔法の道具に使用されているものだという。
唯、数に非常に限りがあり、其の効果効力も桁外れな為に一度生産されて以来全く作られては居ない希少価値の在る品で今は文献に残っている程度しか判って居ないという。
【復難の人形】の其の効果、其れは持った主によって変わるとされているが、世間一般的に言われているのは【主の心からの願いを聞き入れる】という事だという。
人形の持ち主が、何かを心から願った際に人形の体内に封じ込められていた闇の力が放出して其の目的を遂行するに一番近い手段を人形が思考して主に魔法を掛けるという。
其の魔法が切れるのは紛れなく、主の心からの願いが叶った其の瞬間であり、其れが成就されるまでは決して魔法は解けないという。
少女の両親が何時如何なる手段でこの人形を手にしたかは判らないけれど、其れを娘に託したと言うのは明らかな事実だった。





「 …お前は子供に為りたかったのか、莫迦莫迦しい。 」

「 だ、誰もそんなこと望んでないわよ!寧ろ、今直ぐ戻して欲しい位なんだから!! 」



「 【復難の人形】の叶える心からの願い、其れは願った本人ですら認知しとらん心の奥底の願いなんじゃよ。
 だからのぉ…気付く事は不可能かもしれんの。 」





視線が一気に手中の人形に集まった。
勝手に少女の心を盗み見て、勝手に其の願いを叶える為に少女を子供にした人形。
焼き払おうとも棄て去ろうとも、人形は其の役目を遂行し居るまでは決して其の命を経つ事は無いと言う。
誠、厄介な事に為ってしまった。少々難事に首を突っ込みすぎたと思った瞬間、穏かな笑みを湛えた老人の瞳とルシウスの瞳が克ち合った。
さーっと冷たい汗が背を一気に駆け降りて、有無を言わさぬ内に少女に忘却魔法を施して早々にこの場を立ち去ろうとした瞬間、一足先に魔法を詠唱した老人の手によってルシウスの杖が取り上げられた。
此れでは魔法が使えない。





「 のぉ、ルシウス。折角じゃからこのお嬢さんを暫く預かってみては如何かね? 」

「 なっ…だ、誰がこんな小さな子供を!第一世間体と言うモノを考え…っ 」
「 冗談じゃない、何で私がこんなオヤジと…って、誰が子供よ、誰が!私は15歳です!! 」





「 まぁまぁ、二人とも。少し落ち着いては如何だね。
 お嬢さんは年齢が15歳でも見た目と精神は恐らくは6歳程度の子供。 魔法に掛かった侭、頼る身内も居るまい?
 一方マルフォイは未だ二十代じゃし、妻も居なければ子供も居らん。まぁ、恋人位は居るじゃろうが。
 何かの縁じゃ、お互い妥協してみては如何かね? 」


「 簡単にモノを言うな、こんな子供、家に連れて帰って如何説明する? 」

「 なぁに、ブラックマーケットで買ったとでも言えば良い。簡単じゃろう?
 其れにの、今この少女を手放して困るのはお前さんじゃよ、マルフォイ。
 見られているんだろう、ノクターン横丁に居た事全てを。
 …推測じゃが、お嬢さんに忘却魔法を施しても効かぬかもしれぬ。
 何せ、人形に魔法を施したのは闇の魔法使いじゃから…きっと少女に掛かる魔法を跳ね付ける力位はあるじゃろて 」





つまりは、如何足掻いても少女の記憶からルシウスの記憶を抹消する事は現時点では不可能であり、少女が魔法省に垂れ込みをしないようにルシウスが常に見張ると言う妙な名目を負わなくては為らなくなった。
やはり最初にこの少女を見つけた際に振り返る事無く立ち去っていれば良かったのだ。そうすればこんな厄介迷惑事を抱え込まずに済んだ。
如何してあの瞬間に振り返ったのかと、競り上がる自問自答、何とか少女を此処に置き去りに出来ないかと思考を侍らせる。
刹那、脳裏に浮かんできたのは得策でも無ければ救いの手段でもない、初めて少女を見た瞬間に瞳の中に見た悲愴だった。
幼いながらに端正な其の表情は作り物の硝子細工の様で、漆黒の瞳は黒曜石の様に純度が高く綺麗であった。しかし其の瞳の最奥に、全てに絶望した様な陰りがあった。
こんなにも幼い少女の抱える絶望に似た悲愴、其れは何なのかと確かのあの時、瞬間でも考えた。情より何より先に、興味が先に在った。


差し詰め、老人の言った【少女に頼る身寄りが無い】と言うのは聊か本当らしいことが少女の表情から伺えた。
勝気で否定の物腰だった少女が、其の言葉を機にピタリと口を紡いでいる。
慎ましくも大人しいく椅子に座る少女は、傍から見ればほんの5・6歳の子供にしか見えない。
誰よりも大きな不安を抱えているのは、若しかしなくともこの子供なのだと思い知る。知れば後は酷く簡単な事で、大人であるルシウスが妥協しさえすれば、良かった。





「 …名は…? 」

「 …… …、 。 」



、お前が元の姿に戻るまで、私の家に置いて遣る。但し、三つの条件を飲めば、の話だ。
 一つ、私をKnockturn Alleyで見た事は一切公言しないと誓って貰う。
 二つ、幾ら年齢が15であろうと外見は6歳の子供だ。其れなりの言葉と行動を弁え演技しろ。
 三つ、マグルである事は一切明かすな。誰に何を聞かれても純血だと答えることだ。 」

「 判りました、あ…の…名前… 」

「 私はルシウスだ。ルシウス・マルフォイ。呼ぶ時はルシウスで良い。 」

「 これから…、…宜しくお願いします、ルシウス。 」





抱えたくなる頭を如何にか取り繕って、この子供を抱えて如何家臣に説明しようかと悩めば思い切り頭痛がした。
其の傍らで、見た目6歳中身15歳の は子供の生理的欲求から来る自然現象なのか、床に付かない足をプラプラとさせながら自分の思いつく言葉を6歳の子供が使う言葉に変換しようと四苦八苦している。
そうこうして居る間に何処からか子供用の服を持ってきた老人が、奥で着替えるようにと を促した。
確かに、サイズの合わなくなったローブを何時までも羽織っておく訳にも行かず、遅かれ早かれ の服は必要に為る。要らない物では決して無かった。


暫くすると、渡された紙袋に元のローブを入れて回りきらない両腕を一生懸命に駆使して運ぶ が、たどたどしい足取りで戻って来た。
持って帰る気なのだろう、抱えた侭にルシウスの方に歩み寄ろうとしたのを認めた老人が上から のローブやら杖やらの入った紙袋を持ち上げた。
何をするのだろうかと疑問の視線を投げた に老人は、唯一言【元の姿に戻るまで預かっておく】と答えた。
確かに、小さな子供が大人用のローブを持って居るのは客観的に見ても酷く可笑しな図である事は間違い無い。





「 何か判り次第、連絡を遣せ。 」





酷く冷たい口調で老人に向かって言葉を吐いたルシウスは、 の小さな身体を抱き上げると、店に入ってきた時と同じ様に杖で扉を押し開けた。
外は先とは異なり、珍しく灰白色の空に琥珀色の弓張月が鈍く輝いている。
其れを眺めながら、其々の胸中で各々の思考を侍らせながら降り積もった新雪に真新しい雪跡が付けられていった。






此れが、全ての、始まりだった。






























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(C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/8/8