*この夢は、
「 Everlasting 」の続編 (←リンク済)に当たります。
 一応話は通じますが…、読んでいない方は一読をお勧めします。
 ルシウスの一人称的ルシウスの微悲恋ですので苦手な方はご注意を!!
 妙な逆ハーになってたりしますね(爆)
 






教会に咲く花








「 あれからもう…三年も経つのだな… 」













切り立った断崖にひっそりと建つ古ぼけた教会を見上げて私は、溜息から出た言葉とも取れる文章を零す。
眼下には広大な湖が広がり、久方ぶりに綺麗な蒼を讃えて喜びを全身で噛み締めている様でもある。
時折聞こえる鳥のさえずりが初めて聞いた日の様に初々しく脳に響く。
何だか久しく聞いていなかったせいだろうか…いつから鳥の声など聞かなくなったのかと自身にさえ問いかける始末で。












「 …言っておくが、貴様に会う為に来た訳ではない 」












ばさりと置かれた真っ白なカスミソウが風に揺れた。
風が緩やかに吹き付けてきて、その風に銀糸が運ばれるように靡く。
それをまとめる事も無くさらさらと流れるばかりの髪を気にする訳でもなく…ルシウスは其処に立ち尽くしたままで。
何も記されてはいない唯の岩の塊のようなその物体に手向けられた花。
瞳に魔力を宿して心を無にして…小さく呪文を詠唱すると…
浮かび上がるように黒曜石に名前が刻まれてきた。












…久しぶり、だな。 」












現れた文字は流れるような美しい筆記体で、黒曜石の岩の中心に細く確かに刻まれている。

− セブルス・スネイプ
  
  彼らの安らかで深き眠りを覚ますこと無かれ −

唯の岩にしか見えないその黒曜石は、立派な墓石である。
その岩が抱きかかえるのは刻まれた名前の二人。
暗黒の闇の中…二人が選んだ道を間接的に如実に指し示す墓石。
特別な魔力が宿っているためか…その岩は寂れることも廃れることも無く其処に建ち続けていた。












「 相変わらずお前は微笑んでいるのか? 」












懐かしむように、愛しむように刻まれたの名前を端正な指でゆっくりとなぞる。
答える筈など無いのだけれど、それでもルシウスは刻まれた名前を見続けた。
事が起きる前に…僅かな時間ではあったけれど過ごした彼女との時間を懐かしむ如く。
恋に堕ちたと自覚したとき既に、他人のものであった愛しい女。
生涯これほど誰かを愛することは無いと胸を焦がされるような想いを植えつけた張本人。
全てを捨てて彼女と共に生きようと思ったあの三年前。
彼女は…ルシウスの後輩を誰よりも深く愛し、彼に深く愛されていた。












奪おうと思えば出来たのかも知れない。
自ら「愛しい人の手で迎える死」を選んだをこの腕で引き止めることも出来ただろう。
生涯と命を懸けて暗黒の中を共に生きる道を選ばせ、スネイプを忘れさせることすら容易かったかも知れぬ。
スネイプが愛した以上に愛を注ぎ、この腕で抱きしめ、変わらぬ忠誠と愛を誓わせ、絶え間無い幸な日々を送らせる事も簡単で。
けれど…ルシウスがそれを望むことは無かった。












欲しいと思ったものは如何なる手段を駆使してでも手に入れてきたルシウス。
地位も名誉も名声も、金も女も全て思いのままに彼は手にすることは出来るしそうしてきた。
自分が上に熨し上がる為ならどんな汚い手段や策略を使っても手に入れる。
自分に不可能なことなど何も無いと自負する位に。
けれど、は唯一ルシウスが手に入れられなかったもの。
無理やりにでも手に入れようと思えば手に入れられた存在。
権力で捻じ伏せて、卑劣な手を使い彼女を傍に置いておくのは簡単だけれど…ルシウスはそれを望まなかった。
彼が生まれて初めて…「何かを諦める」という彼のプライドを傷つける様な行為を自身が強いた出来事で。












を泣かせたら黄泉まで貴様を殺しにいく 」












彼の名前など『ついでに付けられた単なる英字の組み合わせ』程度にしか感じてはいないルシウスはそれだけ告げるとまたの名前を愛しそうに見つめる。
涙こそ浮かばないものの、その瞳は普段の彼から想像も出来ないほどに穏やかであった。
自分の鋭利な瞳を真っ直ぐに見て微笑んでくれた幼い少女。
天使のような笑みを浮かべる少女に一瞬で心を奪われた自分自身が信じられなかったけれど、愛しさこみ上げるその微笑を今となっては見ることすら叶わなくて。












から笑顔を消したくは無い、と自分に言い聞かせてきた三年間。
有り得ない他人至上主義的考えを受け入れて、生きてきた三年間。
自分に微笑んでくれなかったとしても、その微笑が消えることが無いのならばいいと浅はかな夢を唱えた自分。
この腕に抱きしめることが許されなくても、彼女が幸せならば…と願った自分。
彼女の選んだ最期を認めたくは無くても、その先に待つのが幸せであれ、と切に祈った自分。












何もかもが初体験の様で、今となっては良き思い出化している。
実際、が生前愛したカスミソウを手向けに来るなど誰が予想したことだろうかと。
自分ではなく他人と心中した女に愛に来るなどと…自嘲すらしてしまうような行為も相手が彼女だから出来るのではないか。
亡くなった今ですらも自分は此れほどまでに彼女に心を奪われているのだと思い知らされる。












「 私もいつか其処へ行くのだろうな。
 明日か明後日か…数年後か。
 会いに行ったら…お前は私にも微笑んでくれるか? 」












断崖に在る為か一層強く風がルシウスに吹き付ける。
春先になったとはいえ、未だ寒気混じる冷たさに裸の指先が凍てつく。
冷たく冷え切った指先でローブから覗く腕時計を見れば、もう大分此処に居ることになる。
最後にもう一度、の名前を見つめて音には出さずにに向けてこう告げた。












− 私は今でもお前を愛している −












と。
言葉になって薄い唇から発せられることは無かったけれど、その想いは確かに彼女に届いたと信じたい。
教会の横に佇むその黒曜石で形成された墓石を名残惜しそうに見つめてルシウスは重い腰をようやく上げた。
もう一度必ず来る、と心に誓いを立てて。
ルシウスが立ち去った後に、風に揺らめくカスミソウがばさりと音を立てて墓石から横の大地に落ちる。












「 どなたかのお墓ですの? 」
「 こんな寂れた所、居るだけで気分が悪くなる 」








「 黙れ、お前達には関係ない 」












丘を下るルシウスの姿を見つけて、ルシウスの妻と息子が駆け寄ってくる。
問いかけられた発問に、ルシウスは瞳も合わさずに答えると二人の前を通り過ぎる。
遠くから二人が丘の上を見上げるけれど、其処には古ぼけた教会と唯の岩が絶壁に置いてあるだけだった。
アルバスの手によって作られたその墓石を知るものは極小数だという。
の愛したこの世界。
が愛した者と一緒に眠るこの場所を、彼を含めた少数の者が守り続ける。
永遠に目覚めることの無い、ルシウスに愛された幼い少女がそっと去り行くルシウスに微笑を投げかける。
けれど、ルシウスがそれに気づくことは無かった。












一年後。
再びルシウスがこの地を訪れたとき、黒曜石はあふれんばかりのカスミソウに包まれるように建っていた。
誰にも荒らされる事の無いこの場所に、今でも残るルシウスの持ってきたカスミソウを包んできた薄い色の包装紙。
それがカスミソウに埋もれるように横たわっていた。
ルシウスの持ってきたカスミソウが実を付け、地に根を張り、花をつけたのだ。
満足そうにそれを見下ろすルシウスは、少しばかり苦笑交じりに微笑んだような表情を見せた。
それから何年たっても、この教会の満開に咲くカスミソウが絶える事は無かったという。










□ あとがき □

悲恋なのか、これ。
そして、みんなから非難を浴びないのか、これは!!
「 Everlasting 」のままで終わらせたほうが良かった、と一体何人が思うのだろうか。
実は「 Everlasting 」を書いた時点で続きを書きたいと思っていた稀城の勝手なる願望で書きました。
ルシウス…ヒロインを好きだったのね、実は(笑)
ちなみに、花がカスミソウなのは、稀城が桜の次に好きな花だからです(爆)





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