| 蒲公英、知ってる? あ、英語でDandelionかな、兎に角、早咲きの蒲公英見付けたんだ。 下級生には一切関係無いだろう近日中に行われる地獄のような速記試験対策に向け、自室で文献を引っ繰り返しながらレポートを纏めて居た僕の目の前、綺麗に 一列に並んだ金色の花が在る。 「珍しくも成績優秀万能頭脳構築中の監督生様の勉強姿を拝見出来たから、トムは花屋、ね」 「…、もう少し正しい言葉、正しい会話を学んだ方が良いよ、脈略が無さ過ぎるから」 呆れた様に苦い笑いを零しても一向に構う気配無く、は籐籠一杯に溢れ返った金色の蒲公英を一つ、また一つと細い指先で摘み上げては、明らかに僕の邪魔 をし様と目論んでいるとしか思えない位置に置いて行く。 まるで、其の行為に怒っても良いから暫く構って、とでも言うように。 柑子蜜柑の春
![]() 「ねぇトム、私やっと昨日終わったの。だから…ね?」 艶姿一興、艶かしい生成りを見せ付ける様、短く切られたスカートの裾を捲り上げて公衆の面前でもある廊下の一角で僕を誘っているのはレイブンクローの女王 と呼ばれた才色兼備な女性。 普段は暇潰しに、と誘いに乗って上げるんだけど今日はごめんね。耳元で低く甘く囁いて無理矢理に腰に添えられた手を引き剥がして踵を返す。 如何も駄目だ、最近は苛々が耐えない。昨日は昨日で夕食に出たビーンズ入りのパンを半分も食べずに席を立った。 今日は今日で、僕が孤児院時代に食べた物ばかりを列挙した様に並べられ、無意識の内に心の中で拒絶した。 仕方ない、こう云う日は大人しく自室で勉強するに限る。 そう思い立って自室に籠って1時間程した頃だろうか。ノックも無しに開け放たれた扉に、入ってきた主は一人しか居ないと独りごちた。 「如何したの、。僕、今ちょっと忙しいんだけど」 振り返らず、黙々と羊皮紙に羽ペンを走らせれば、背後から澄んだ清流の様な玲瓏たる声が飛んできた。 「蒲公英、知ってる? あ、英語でDandelionかな、兎に角、早咲きの蒲公英見付けたんだ。」 蒲公英? ホグワーツでは時期的に、未だ咲く筈の無い花だ。況して未だ外は滔々と雪が降り続いている。蒲公英どころか蕗の薹すらも生えては居ない筈。そんなものを一 体何処から拾って…、 「、君またフルーパウダー使ってマグルの世界に行ったね?」 下級生には一切関係無いだろう近日中に行われる地獄のような速記試験対策に向け、自室で文献を引っ繰り返しながらレポートを纏めて居た僕の目の前、綺麗に 一列に並んだ金色の花が在る。 眉間に皺を寄せた僕の詰問に答える気は更々無いのか、は弾んだ声で魔法史の文献の上に蒲公英を並べた。 「珍しくも成績優秀万能頭脳構築中の監督生様の勉強姿を拝見出来たから、トムは花屋、ね」 「…、もう少し正しい言葉、正しい会話を学んだ方が良いよ、脈略が無さ過ぎるから」 憤懣は起きない、起きる位なら遠の昔に本性曝け出した侭に怒鳴っていることだろう。 勿論の前で本性を押し隠している訳では無いのだが、自然とこのスーパーマイペースに持って行かれてしまう。気付けば策略に嵌められた後のよう、申し開 きさえも聞き入れられぬ状況下に叩き込まれている。 「何時もは女の腹の上で腰振りに精を出すトム様と、蒲公英売ってる花屋のトム様、さて醜いのはどっちでしょう?」 やたら茎の長い蒲公英をリドルの方に向けて一本、また一本と並べていきながら、普段のからは到底聞き様の無い言葉が耳を掠めていた。 に出逢ってから、努めて居た。我武者羅に暇潰し程度に女を抱かなくなったとか、余興に何人も女と付き合ってみたりしないだとか、飽きた女を塵屑の様に 棄てるだとか。 兎に角、の耳に小汚い噂が入り込まない様に努力はしたつもりだ。所詮つもりで終わっているのかも知れないが、普段は講じない努力を講じていたつもり だ。其れが何処で水の泡に終わったか。 「、僕は…」 「あ、女がリドルの腹の上で腰振ってるって訂正したい?そっかそっか、じゃあ勘違いしたお詫びに此れ、あげる」 「いや、別に僕が腰振ろうと女が腰振ろうと問題の焦点は其処じゃなくてね、って…何、コレ」 籐籠の中、同じ身の丈の蒲公英ばかりを選りすぐった様に10本程度、橙のリボンで茎を縛り付けて無理矢理に花束にした代物を取り出して無理矢理に僕の掌に 載せた。 小さな小さな花束は、其れは其れは僕に不釣合いな事この上なく。暫し巡視、掌の上の花束からへ紅蓮の双眸を眇めてやれば、 「廊下のど真ん中でスカート捲り上げてた彼女へのプレゼントに、どうぞ。花でも贈れば許してくれるかもよ?」 極上の微笑で言われ、矢張り誰かに見られていたのか、と嘆息する。否、見られていた位なら別に問題は無い、誰だ、にご丁寧にも説明してくれた輩は。 刹那、ゆるり、と変貌の音が聞こえるかの如くの面が皮肉げな微笑に浸食される。 僕が棄てた女の機嫌を取る為だけにマグルの世界に花を摘みに行ってたのだとしたら、本当に性質が悪い。 「結構、あれは僕の意思じゃない、だから此れは僕が貰っておくよ。折角が僕に花を贈ってくれたんだから」 其処等の女が見れば卒倒しそうな程に優麗な微笑を湛え、半ば口説き文句に似た科白を吐きながら流れ落ちる柳葉の様な垂直の髪をかき上げれば、非常に厭そう なの表情に出くわした。 例えるなら、食べ物を残した侭三日間放置プレイした後のお弁当箱を開いた時の悪臭に出遭ったような、道端で鼻歌交じりに歩いていた矢先に犬の粗相を踏み潰 して仕舞った瞬間のような。 其の面で、こう吐き棄てる。 「リドルには雑草が似合うよ、絶対」 「…褒め言葉として受け取っておくよ。」 「じゃ、私は此れで!」 本当に蒲公英を渡す為だけに此処に来たのだろうか。蒲公英は渡した、ではさらば!とばかりに踵を返して立ち去ろうとするの腕を掴む。 「待って、」 「はい?」 答える声音が普段よりは幾分優しく感じられるのは、僕の気の所為だろうか。大方、早咲きの蒲公英を見付けて気分が高揚しているのだろう、現に机の上に並べ た蒲公英を律儀にそうして敬意を払う様に一つ一つ摘み上げては籐籠の中に仕舞っていたのだから。 身長差、見下ろす形でその表情を窺えば、穏やかさを湛えて薄紫色の双眸が見返してくる。僕がこの場に留まる事を強要する事に、同意したような、そんな雰囲 気が伺える。 「僕に雑草の花束が似合うのなら、蒲公英の花束は、君に」 慇懃無礼に一礼し、皇女に薔薇の花束でも渡すかの様な流麗な仕草で掌の蒲公英の花束を差し出した。 元は僕が怒らせた女に渡す為にが残してくれた花束を、本人に突っ返す形に為ってしまい、流石に憤慨するかと思いもした。だが、 「有難う」 は一つの小さな謝辞と共に、差し出した花束をか細い指を伸ばして受け取ると、静かに、だが確かに微笑んで背を向けて出て行った。 暫し、沈黙の帳が下りる。突っ返され罵詈雑言を浴びた際に言い返す言の葉なら既に脳内に用意されて居たのだが、受け取って貰った際の科白は考えていなかっ た。だから時計が時を刻む音を鳴らすまで、呆けた様にが消えた扉を唯見詰めていた。 「今度はちゃんと僕が君に花束を贈るよ、両手で抱えきれない程の、愛を添えて」 想いを言葉に変えた科白を吐き出した後、瞠った紅蓮の瞳が瞬き、そして直ぐに柔らかく眇められる。 仄かに蒲公英の香りが残る文献を開き直し、心を落ち着ける様に唯活字を追った。試験明けの週末、ホグズミードで君に似合いの花を買って来ようか。そんな事 を、脳裏に侍らせながら。 [ Back ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/4/3 |