| 人とは何で在りましょうや。 人とはどのような存在(モノ)で在りましょう。 きらきらと瑠璃色に輝く硝子球の様なレプリカの世界で、互いに欲し欲されるだけの人とは、何で在りましょうや。 さらさらと流れ行く清流の清きせせらぎが如く、夜の闇に紛れ巣食うて生きる妖の如く、深遠の夜闇に溶け込む事なく 限り無く神に近しいと自負自存する愚かなる生きもの 人ならざる生きものが蔓延る平安の世の中で、闇を支配するが如き人ならざる世界の生き物、作られた生命を持つ存在。 権力を持ち全てを手中に収めんと躍起するかの藤原の一門を始めとした様々な種類のひとが望み欲する、ひとを超越した神と呼ばれる其の全てを持ちながら、唯のひとに憧れる憐れで哀しい存在。 人とは何で在りましょうや。 あぁ、人とは何で在りましょう。 神に作られしこの紛い物の楽園(レプリカエデン)に当たり前の存在のように巣食う人とは、一体なんでありましょう。 ひとにも為れず、神でも在れず為れぬ中途半端な生きものは、誰より儚い命を持つ卑しい生きものに心を憧がらす。 教えてください、我が君、人とは何で在りましょう。 人とは、ひととは、ヒトとは――――――――――――――――――――――――。 レプリカエデン ![]() #00:ニル・アドミラリィの均衡が崩れ去った日 橙の空に猫の爪の形した月が申し訳程度に引っ掛っている。 生暖かい風がふわりと吹き抜け、踝丈に切り揃えられた漆黒の絹髪をだらしなく廊下の縁に流し空を見上げていた彰子は、カツンと続けざまに響く硬質な物音を聞いた。疑問符を浮かべながら、空を見上げる。 其処にあるのは先刻と何等変化の無い情景。気の所為だろうか。再び空を見上げれば、 ―――――――カツン。 (?) 踏みしめた靴の裏で、小さく砂が鳴く物音。 次いで、一陣の風が故意的に作り上げられた様に舞い、其れが白磁の頬に触れた途端、彰子の背を冷えたものが駆けずり落ちるような不快感を得る。 姿無き何かを手で拭い去りたくなる様な強烈な嫌悪感が競り上がり、彰子は妙齢の貌を歪ませた。薄く開いた唇は心無し、乾いている様に見える。 「…何、かしら?」 音も無くふわりと唐衣を翻らせ立ち上がると、眼を眇める様に薄紫に染まり始めた空を見詰めた。 彰子には、かの安倍晴明をも唸らせる程の見鬼の才が在る。遥か遠くに鎮座する都の不浄な空気でさえも朧に見る事が可能だ。 だが、見詰めた先、鬼妖の類どころか、鴉の姿一匹さえ捕える事は出来なかった。 在るのは暁に似た色した空と、くすみ始めた色彩の棚引き雲。其の奥に薄ら翳る様に、不変の象徴のような平安の都が在る。 自分の既知せぬ何か、が在ったのだろうか。都の方で何か良からぬ事でもあったのだろうか。 若しかしたら、都に遣いに行った昌浩の身に何か在ったのでは。 自然と曇る眼。そう思案した矢先、玄関先から当人の拍子抜けする程明るい声が聞こえてきた。 「ただいま〜彰子、居る?ちょっと話があるんだけど…」 都に遣いに行っていた昌浩は、気怠るそうに歩く紅蓮―――基い、もののけのもっくんを引きつれ、縁側から玄関へ足を運んでいた彰子と座敷の前で鉢合わせた。 ふわりと微笑んで見せた彰子に、昌浩の表情も芳しい。多忙を極める身であっても、笑顔で出迎える妻の姿を視界に入れれば、疲れなど吹っ飛ぶものよ、そう得意げに言った長兄の話も頷ける。 「おかえりなさい、昌浩、もっくん。どうしたの、今日は凄く早いのね」 「想像よりも簡単な仕事だったんだ。だから急いで帰って来たんだけど……」 夏と言うには気が早く、春というには暑過ぎる微妙な温度に為るこの季節。 襖を開け放った室内に入り込む生暖かい風の所為で、湿度が異様に上がった室内を見渡し、昌浩は小さく顔を曇らせた。 昨晩の夜警(と言っても、昌浩の独断で勝手に家を飛び出しているだけなのだが)で帰宅が遅れた夜半過ぎ、流石に疲労が躰を蝕んだか、今朝方は再三の露樹の声で漸く褥から跳ね上がった。 夜警の前は頼まれ毎の護符を書く為に硯で墨を刷っていた事も序に思い出し、片付けた記憶は彼方へと飛んでいた。 …つまり、昨晩昌浩は、陰陽師に欠く事の出来ない重宝な硯と筆を放置した侭、夜警へ出掛け其の侭都に遣いに出た事に為る。 「またじい様に怒られるな。硯を出したままで出掛けちゃったから。」 「あら、硯なら晴明さまが先刻借りられて行きましたよ?」 「げ…っ!じい様が!?きっと、『またこんなところに大事な硯を置いたまま出掛けおって!万物に生命が宿っているという事を何度言ったら理解してくれるん じゃろうか、昌浩は。じい様は悲しゅうて悲しゅうて…(以下略)』とか言ってただろ!?」 顔面蒼白で縋るよう声を振り絞って晴明の声真似をしながら早口で言った昌浩の言葉に、彰子は微笑みを絶やさぬ侭ゆっくりと「いいえ、何か急いでいたみたい で、借りるとだけ仰ってました」と答えれば、昌浩は廊下に突っ立った侭暫し考え込む様に腕組みをする。 可笑しい、如何も可笑しい。 昌浩の硯を借りていったと云うのなら、晴明は昌浩の部屋に侵入した事に為る。為らば、墨をたっぷりと含んだ硯と筆を放置した侭都へ出た事も熟知している事だろう。 …と為ると、何時もなら此処で、お決まりのパターンの如く、晴明の式である白い鳥が飛んできてもおかしくないのだ。 其れが飛んでこないと為ると、晴明は『硯一つ片付けずに鉄砲玉の様に飛んでいく昌浩』よりも更に面白い……否、厄介な事にでも巻き込まれているのだろうか。 そう言えば、普段晴明に控えている太裳の神気も感じられない。益々以って厭な予感だけが競り上がる。 「…彰子、じい様は部屋に?」 「それが…直衣を羽織る様に着た侭慌てて家を飛び出されたの。二刻前のことよ。」 「可笑しいな、昌浩。晴明が突然姿を晦ます事なんて指折数える程しか無いぞ?」 彰子の返答に、もっくん…基い、紅蓮も小さな体を器用に使い両の足で立ち上がって腕組みをする。 嘗ての記憶でも辿っているのだろう。紅蓮の知る晴明の消失癖は、昌浩の知る其れよりも培われた年月も策略も方法も熟知したものだ。 だが其のどれを辿ってみても、今回の様に誰も行方を知らぬ侭にぷっつりと行方を眩ませる事は珍しい。安倍家の危機と言っても過言ではない。 いや、安倍家の危機と云うよりも、不甲斐無い神将の面子が更に丸潰れに為ってしまったと明瞭に為ったようなものだ。 仮にも己が使える主たる晴明がふっつりと行方を晦まして仕舞う等、況して其れを見す見す見逃すなど在って良い訳が無い。 …と、紅蓮が連綿と思考している傍で、晴明の傍に仕える神将の気配が消えていない事に彼等は漸く気が付いた。 だが、普段晴明の傍に仕えている筈の青龍の気が感じられない。普段青龍はストーカーか何かの様にぴたりと晴明に寄り添っているだけに、昌浩・彰子・紅蓮の心臓に握り潰された様な冷えた感覚が走る。 「ま、まさか晴明………!」 と、紅蓮が元の姿に顕現し、憤りを露にした瞬間、ぴりぴりとした空気を根底からぶち壊す安穏とした声が玄関から響いた。 「おぉ〜い、帰ったぞ〜い」 ずるり、と滑りそうな気の抜けた間抜な声色に、眉間に幾つもの憤慨の色を織り交ぜた紅蓮が我先に、と玄関先に飛び出してく。 普段の物の怪の姿ならば未だ可愛げもあるだろうが、身の丈昌浩よりも頭一つ分以上は在る上に背中から覇気を存分に出している紅蓮を見守る昌浩と彰子は、此れから繰広げられる惨劇に似た事態に思わず顔を引き攣らせていた。 …紅蓮の焔が舞い広がる!!! 其れは冗談でも言葉遊びでも何でもなく、紅蓮の身体から迸る凄まじい怒気に、暗黙の内胸の中で十字を切る。 昌浩も昌浩で、彰子も彰子で間に入って紅蓮の怒りを静めようとするも、火に油…無いだろうが、ガソリンでもぶちまけてしまいそうな雰囲気を醸し出している修羅場に、誰が身を投じよう。 昌浩と彰子は同時に、息苦しさに眉根を寄せた。出来る事なら、今この場に立ち合わせた事を全て忘れ、踵を返して夕餉に在り付きたい位なのだ。 くわばらくわばら、、、陰陽師でありながら陰陽師に有るまじき科白を口走りそうになる昌浩は、為るべく遠目から見守ろうと一歩後ろに後づさる。 刹那、昌浩の良く見知った、だがこの場に現れる事は一生涯を通じて無いだろうと信じきっていた存在に酷く似た気配が、安倍家に降り立った。 清冽で凄惨な神気。貴船の祭神、高淤に非常に似通っては居るが、其れ以上に怖気を奮う程に高められた膨大な量の霊力。 「…姫、此れから起こることに呑まれては為りません。我等も手を尽くしますが、神気にやられぬ様、御気を確かに。」 抑揚の乏しい太裳の声が彰子の鼓膜を振るわせた。 見れば、彰子を庇うように太裳が彰子と昌浩の間に立ち、天一が彰子を護るように白い靄掛かった防護膜を作り出している。 一体何が、起こるんだ。昌浩がそう口に出そうとした瞬間、怒気を孕んで爆発寸前だった紅蓮の神気が通常の二割増しに拡大し、面と向って怒声を放ちかけていた口を噤んで晴明を護る様に踵を返す。 見詰めるは、今まで感じた事も無いような世界の秩序を破壊する様な神気が感じられる、安倍家の屋根の上。 相変わらずの晴明は、飄々とした表情で安倍家の天井を見上げ、 「今夜中に修理せんと、露樹さんに怒られてしまうのぉ…」 「…修理?じい様、屋根は何処も壊れて居りませんが?」 少々気が早いが、歳の所為で呆けてしまったのだろうか。若しくは、著しい視力低下が齎す影響で、晴明にだけ、天井が消えて宵の闇が見える、とか。 此れはあれか、稀代の大陰陽師安倍晴明もついには痴呆に勝てずに…とか云うオチでは無いのか? 「じい様、その…何処を如何見たらウチの屋根が、」 「お?そうじゃったの、昌浩は安易な予知一つも出来んかったの」 「………其れは如何云う厭味ですか、真面目に星見でもしろってことですか!!?」 握り締めた拳をぷるぷると震わせ、眉間に皺寄せ青筋まで立たせる勢いの昌浩は、もう一言二言は言っておかないと気が済まないとばかり一歩足を踏み出す。 だが、昌浩の行動を留めたのは、暴発しそうな霊力漂う神気に当てられて尚、妙に嬉々とした紅蓮の声。 「違う、昌浩。俺達は【知っている】んだ。あと……そうだな、3分後に丁度真上の天井が木っ端微塵になるのを」 「へ?紅蓮、どういうこと?」 「――――――――――――懐かしいのぉ、まさか生きている内にもう一度逢う事に為ろうとは」 「生きているうちにもう一度逢う?木っ端微塵?え、なに?」 紅蓮の簡素な説明を聞いても、晴明の科白から物事を想像して見ても、一向に何が起きるのか皆目検討の付かない昌浩は胡乱気な声を出す。 此れから三分後に何が起こるのかは定かではないが、安倍家の屋根が三分後に吹っ飛んで何かが現れる事だけは確かなのだろう。 太裳が弓を構えるまでは無くとも彰子の前に立ちはだかり、外界から隔絶する様に天一が結界を張っている位だ、平々凡々な妖魔如きがおっこってくるような間抜けた事態では無いだろう。 為らば此方も、と昌浩は気を引き締める。 ……………が、よくよく考えても見れば、その【なにか】が【安倍家の屋根をぶっ壊して落ちてくる】までに、後二分と三十五秒ある。 為らば、一体【なに】が【安倍家の屋根をぶっ壊して落ちてくる】かの一筋でも聞く時間はあるということだ。 先手必勝、と云う言葉もある位だ。此れから安倍家で一戦交えるのならば、其の前に相手の素性くらいは既知しておいた方が得策だ。有り難い事に、紅蓮を初めとした神将も晴明も、一度この馬鹿みたいに強烈な霊力に出遭っているらしい。 其れに今から対峙するのか、と昌浩は何時に無く真剣に、鋭く眼を細めた。 「じい様、此れから迎い討つ相手は一体どんな妖で?」 「……妖?はて、何時ワシが妖が降りてくると言ったかの。」 「え、でしたら何でみんな神気全開フル稼動で迎えようとしているのですか?」 晴明の言葉に拍子抜けした昌浩は、為らば、と紅蓮を見遣った。 きっと彰子もこの会話には付いて来れて居ない。意味不明の会話。紅蓮が神気を迸らせると同時、異界に居た筈の、勾陳、六合、太陰、天后、白虎、朱雀、玄武、天津さえ滅多に姿を見せない天空までもが一つの廊下に総動員している。 青龍の姿だけは見えないが、其れは昌浩にだけ見えないだけで、気配を頑なに消し去って隠形して居るのだろう。何故青龍だけが…、と昌浩が疑問を口にしようとした矢先。 飄々としていた晴明が表情を厳しく戒め天井を見上げたまま、ぴたりと動きを止める。 居あいぬきの剣士が、敵を間合いに収めたかのように。 そして突然、空気が、変わる。 「降りてくるのは【神】、だ。俺達がこうしてるのは、天一が彰子を護っているのは、膨大な霊力と神気に吹っ飛ばされない為に、だ」 「か、神!?神ってあの高淤の神と同じ神!?」 「もっと性質が悪いぞぃ、口も悪いがのぉ。誰もお前を護る暇なんて無いから、お前は自分で自分を護りなさい」 「ま、護るって言ったってじい様、神が本気…を出さなくても攻撃してきたら打つ手なんて無いじゃないか!!」 「あぁもう煩いのぉ、黙って見て居れ、口煩い男は嫌われるぞ、昌浩」 「…口、うるさい…?」 晴明の言葉に、昌浩の堪忍袋の尾が何本か切れた音が盛大に響いた。 誰が口煩いか、人を巻き込んで意味不明の会話を繰広げた挙句、自分の知らない誰か、あぁ神と言っていたか、高淤の神よりも性質が悪いと言ったら相当極悪モノのその神が安倍家の屋根をぶち壊して顕現してくるというのに、彰子は護って俺は野放しか。 そうかそうか、背筋が凍り付き地面に足が張付くほどの霊気と神気が迸る其の中心部分に俺が居て、みんなが誰を迎えうつのかさえ判らなかったが、一つだけ理解できた事がある。 あの十二神将が総動員で晴明を護ろうとしている程、恐ろしい事があと数十秒後に起こるというのに、晴明は自分の身は自分で護れと公言した。 冗談じゃない、冗談ではない、笑っている場合じゃない、クソ爺―――――――――――――!!! 俺を殺す気か、と。此れから捨て身覚悟であの恐ろしい霊気と神気を纏う者を迎え入れるだけの準備が独りだけ整っていないこの状況。出来るならば一秒でも早く此処から逃げ出さねば、と決心する。 幸い、彰子は天一と太裳が護ってくれる。安心だ。逃げるなら、今…、と思った矢先。 タイムオーバーを告げる爆風が安倍家の屋根を意図も容易く吹っ飛ばした。 例えるならばそうだな、平安京が其の侭安倍家に落城してきた様な衝撃波。 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッッ、バキン、ドカン、ズドン、とあらゆる擬態語を駆使した衝撃音と屋根が吹っ飛ぶ崩壊音が鳴り響き、昌浩は大きく開いた双眸と口を閉じれぬ侭ポカンと見上げた。 本当に屋根一つ、丸々剥ぎ取って打ち棄てた様な光景、次いで徐々に和らいで行く凄絶な霊気と神気に、心がすっと和らいでいくのを感じた。 「一体何が起きるのかと思ったけど、屋根が一つ飛んだだけ………」 だが、次の瞬間、昌浩は問答無用で吹き飛ばされた屋根では無く別の理由で息を呑んで言葉を途切れさせ、大きく眼を見開いた。 ――――――――――――――――! 屋根を見上げていた昌浩の視界の隅に、何の気配も介さずに、一人の人影が陽炎の様に立ち昇っていた。 星が幾つか瞬いているだけの暗灰色の空の下、暇無く寄せては返す瓦礫と化した"元・屋根"の崩壊の残響だけが連なり、木霊している。 だが其の音を除けば静謐で澄んだ空気が流れ落ちる安倍家の庭先に、酷く穏やかな、しかし孤高の濃青色の外套を纏った存在が立っていた。 月影に照らし出されるは、透けるように白い肌に背まで垂れて揺れる漆黒の絹髪。怖気を奮うほどに整った顔立ちの中央には、太陽に似た黄金の双眸。 死神が大鎌を持って佇むような、暗鬱で清冽な絵画の光景が昌浩の視界の端から全面に広がる。 吹き込んできた風に靡く夜の帳の髪が、闇を巣食う妖の様に蠢き、少女は冷たい瞳を此方へ向けた。 見るものの魂を奪い、気力を根こそぎ剥ぎ取る様な、世界の時間が全て静止した様なこの光景。 だが確かに、あの凄絶で酷薄な霊気と神気の残滓が、彰子と同じ歳くらいか一つ上位にしか見えない少女から立ち上る。 床冷えのする瞳が、真直ぐに昌浩を初めとした彼等に向けられる。 昌浩は其の視線に射竦められて、言葉を失った。真面目に此れが神だと言うのなら、こんな存在と一発戦おう何て事を考えた自分が本当に惨めで情けなくなってくる。 こんなものに、勝てる訳が無い。残滓でも判る、此れは高淤の神を超える位置に座する神だ。 呆然と見上げる昌浩の視界の中、薄っすらと桃が散る唇が僅かに開く様が見えた。 真言…じゃ無かった、言霊、いや神なんだからきっと意味不明な呪文のような言葉でも詠唱するのか、と昌浩の相貌が険しくなり、懐に忍ばせてある呪札に手を伸ばし掛けたとき 眼の前の少女の口から発せられた言葉に、何を言っているのか、いや、何が始まるのか皆目検討が付かなくなって思考することを諦めた。 目見良い美貌の少女は、ささやかな風に外套と髪を嬲らせ、薄く開いた唇から、こう吐き出した。 「あんのクソ親父―――――――――!今度逢ったら山の様にピーマン食べさせてやるから覚えてろ…!!!」 ご丁寧に息も切らせ、吐き出す様に吼えた少女は不機嫌も不機嫌、超絶ご立腹とばかり秀麗な貌に幾つも青筋を立てている。 「…………………………………………」 ど、何処にでもクソ親父だのクソ爺の類は居る者だ。世の中善人ばかりが犇き合って居る訳ではない。だが、仮にも神と呼ばれる位置に座する者が、『クソ親父』とは。 いや待て、あの儚げな美少女とでも揶揄すべき少女の可愛らしい口から『クソ親父』とは。 言葉を喪失して呆然と少女を見上げる昌浩。何処か楽しそうな表情を浮かべつつも黙した侭の晴明以下、12人。 彰子は昌浩以上に何が起きたのか理解できずに大きな瞳をぱちくりとさせている。 だがそのどれにも視線を向けぬ侭、厳しい表情で虚空を見上げる秀麗な美貌の少女。 此れが、後に大問題を引き起こしてくれる正真正銘の神様と呼ばれる位置に居る少女と昌浩の出逢いであり、晴明を初めとした十二神将との再会であり、この先遭遇してゆく全ての出来事との、忌まわしくも運命付けられた最初の出逢いだった。 [ home ][ next ] (C) 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/8/10 |