大きくなっていく孤独に侵食されて、気づけば自分が消えていた as Load Voldmort

人が言葉を発するのは、自分の思いを誰かへと届けたいと願うからであって、誰しもが独り言をつらつらと吐き出す為だけに音を紡ぐ訳ではない。


時折ふとした瞬間に、若しかして、と考えて仕舞う事がある。
孤独という存在が余りにも永く続けば、それは血肉と成り果てた末に、気付かないまま自己と化してしまうのではないだろうか。
一生を孤独に独りで生きるということは、まるで永遠に消えぬ呪いを結びつけられたかのような寂寞感と自己嫌悪感へと発展し、想像の産物でしかないそれらが 現実に為ることを唯恐れてしまう。
長い長い、生涯。其れを独りで孤独に生きなければ為らないのだとすれば、だから私は永遠の闇を生きる事を決めた彼の傍に居る事を望んでいるのではないか、と。


何時も通り、マグルとマグルへ加担しヴォルデモート卿の邪魔と為る相手を殲滅させた帰り、蓄積した疲労が根こそぎ噴出して来たかのように眠りに襲われて ベットに入ったのが二時間ほど前。
ふ、と眼を覚ました私は、隣で眠る彼の頬に手を添えて、


「私は一体、貴方の何処がそんなに好きなんだろう?」
「……そんな下らない事を聞くために私を起こしたのか、眠れぬなら無理矢理眠らせても良いんだが。」

さらりと流れ落ちてくる髪の毛を邪魔そうにかき上げ、身体を横たえていたヴォルデモート卿は上半身を起こす。
別に起きてくれなくても良かったのに、と言い掛けた言葉は、「何か悪い夢でも見たのか」と問うた彼の科白に掻き消され、私は小さく首を振る。
別に何か有った訳じゃない。だからこそこうして言葉に出しているのだが、彼には私が告げた言葉の真意を的確には受け取ってくれてない様子だ。


「ねぇ、気に為らないの?」
「……何が」
「私が如何して貴方の傍に居て、貴方の何に惹かれて、貴方の何を好きになったのかとか、」
「………下らん」


言葉を遮るのは低く、暗闇の底から放ったような声。
何だそんな単純な事も判らないのか、と一蹴される予感がしなくも無かったが、「下らない」と言われた事に少なからずは傷付いた。

が先程無意識のうちに吐き出した言葉は、紛れない自問自答から来るヴォルデモートへの問いだった。
は、ヴォルデモートの何処を好きになったのか、判らない。
世間では、闇の帝王や名前を言ってはいけないあの人、と恐れられ、死喰い人からはマイ・ロードと慕われる彼と出逢ったのは、15歳の少女に普通に恋が芽生 えるような単純な出逢いとは程遠いものだった。
彼女を除く全ての人間が眼の前で殺され、紅い色が果てなく続く台地の上で見初められたに、ヴォルデモートを拒絶すると云う選択肢は無かった。

だから彼が望むままこうして根城まで遣って来て、死喰い人となり、やがては恋人と為った訳だが、は未だに自分がヴォルデモートの何処が好きなのかが判 らない。
嫌いでは無いから一緒に居るのだろうし、厭ではないから彼の隣に立っているのだと、そう思い続けていた。


だから逆に、ヴォルデモートが自分のどこを愛しているのか、其れもまたには分からない。
だが不思議と、愛情が無いなんて思ったことも無いし、愛されていないと思った事も無い。
自分にしたってヴォルデモートの何処を愛しているのかなんて分からないのだから、それでいいのだと思っていたのだが、ふと、ヴォルデモートは如何なんだろ うと云う些細な疑問が生まれてきた。


「じゃあ私の何処が好き?」
「さぁな、私には判らぬ」


呆気無く言われ、寧ろ、今は納得すらした気がする。
自分を必要としたヴォルデモートですら、のどこを好きなのか分からないと言う。
ヴォルデモート本人すら答えを持っていないのに、そのヴォルデモートを好きな自分が、彼の何処を好きかなんて理解するなど不可能なのだ。


「……だが、」
「だが?」
「私とお前が出会ってもう何年になる?」
「えーと…もうじき2年半?多分其の位だと思うけど…」
「私は其の間、お前以外の女を抱いた事も無ければ、欲しいと思った事すらない」
「………お言葉を返すようですが、其れは私も同じなんだけど」


ぽつりと呆れた様に独りごちれば、漸く振り返った紅蓮の双眸がを見上げた。
だから何?と言いかけるも、ヴォルデモートは自嘲気味に薄く微笑を湛えたまま何も答えない。代わりに、ゆったりとの傍へと近付くと、腕の差し伸ばして囲う。


「其れが、答えだ、
「……答え?何が?」


私がお前を好きな理由だ、と掠れた吐息が刹那に零れる。
矢張り、はヴォルデモートのことなんて、結局何一つ分かっていない。
何故マグルに固執しマグルを排除しようと躍起になるのか、世界の闇の帝王に座したいのか、其れすらも判らないままだが、其れ以上に判らないのが此れだ。

足がつくことなど一生ない泥沼を泳いでいるように、どうしようもない暗闇を抱えるヴォルデモート。
が自分を愛しているとか好きだとか、大方本気で理解する事も無いような年齢のうちに植え込んだ『愛』は、に『愛』と云う名の幸せと共に、いつか訪れるのではないかと云う『孤独』も同時に染み込ませた。

だからいつか訪れるだろう孤独に向き合うことを恐れた弱い自分から目をそらし、絶えず自分を愛してくれるヴォルデモートに縋って、寄り掛かる様にして此処に居る。
だのに、ヴォルデモートは、分かっていてもなおを愛してしまった。


「もう寝ろ、子どもが起きていて良い時間じゃない」
「……その子どもに手を出したのは何処の誰よ」
「あぁ、だから将来の責任くらいは取ってやる」


苦笑を噛み殺したような顔でそんなことを呟きながら、深い口付けをしてくる。その唇も、拒めないあたり、自分もヴォルデモートを愛しているのだろう、と納得する。


例え、混沌と血と狂気の悲鳴に満ちた未来であったとしても、独りでなければ其れで良い。

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Written & Title by Saika Kijyo