この恋が終わる瞬間を as Load Voldmort

屍骸と成果てた人が放つ冷え冷えとした冷厳な空気が、先程までマグルや魔法使いの活気で満ち溢れていたクィディッチワールドカップ闘技場に立ち込める。
沸立つ歓声と温もり持つ人間から発せられた昼間の熱気は嘘のように冷め、空には黒煙で形成された印と宵闇が無数の星を纏って大地を覆っていた。阿鼻叫喚の 様に劈く悲鳴があがる中、ヴォルデモートは音も無く静かに立ち尽くす。
まるでこの情景を生涯忘るる事の無い景色とする様に、遠くを見詰め想いを馳せる様に佇めば木立ちの影に立つかの後姿を視界に認め、苦笑した。


「如何した、後悔しているような風体だな、


背後から投げた声に弾かれる様に漆黒の髪が舞い、柔かな薄紫の宝玉は具に緊張を孕んだが、声を掛けた人物がヴォルデモートであることにすぐに気付き、ゆっ くりと和らげられた。


「お散歩ですか、マイ・ロード」
「いや、お前の姿が見えないとセブルスが心配していた。もう戻れ」
「あら、良いのですか?私は貴方からの質問に答えて居りませんが。」

「お前の口から"後悔している"と言われたら、私はもう如何すれば良いのか判らない」


何もかも見透かして仕舞いそうな薄幸な横顔、僅かに血が香る生暖かい風に靡く髪がの小さな顔を覆い隠す様に彩り、衝動的に後方から咄嗟に腕を引いて抱 き寄せた。
片腕で回り切る薄い肩、力を籠めれば身体の中から折れそうな程に細い腰、片手で囲い切れそうな華奢な首。
最早、硝子製の人形の様に写り込むの首元に顔を寄せれば、彼女は拒絶する訳でも無く受け入れる訳でもなく、唯変わらずに空と大地を見詰めていた。

全身全霊で拒絶するような態度に、もう一緒には居れないのだと悟ってから、一体何日経っただろう。



、如何して私を選ばない?後に世界が私に跪く、全ての民が私の名を恐れ私の従者を賞美し、私を選ばなかった事をあの世で後悔する日が来るのだ」

愛の睦言に似た言葉にが腕の中で振り向き、吐息さえも掛かる様な距離に、傍から見れば見詰め合って抱き合う恋人同士の逢瀬のよう。せめて形だけでも見 えれば、と一瞬本気で思う彼の脳は恋情と云う病に犯されていた。
どれだけ求め魔力と地位にモノを言わせても、彼女の心だけは決してヴォルデモートのものには為らなかった。
そう、ヴォルデモートの腕に抱かれているこの瞬間でさえ、がその薄紫の目を逸らさずに真っ直ぐヴォルデモートを見詰めている時でさえ、彼女の心はセブ ルス・スネイプ唯独りのものだった。

昼間の熱を忘れたよう、混沌が支配し始めた世界を涼風が通り抜けた頃、静かにが口を開いた。


「セブルスが貴方を選らんだから、私は貴方を選んだのです。」


二人分の漆黒の髪も、同じ様に黒で覆いつくされたローブの裾も、湿気を含んだ夏の風のに吹かれ緩やかに舞った。
とても耳に良く馴染む――――そう、聞き飽きる程馴染みすぎた科白で、思わず浮んだ自嘲的な笑みは隠せなかった。忌々しいぐらいに眼に焼きつく『の瞳 に映り込むセブルス・スネイプ』が憤懣する程にも嫌で、姿を見ずとも分かる其れに胸焼けがする。

「…では、セブルスが私を選ばない日が来たら、お前は如何する?」

出来れば聞きたくは無いだろう種類の質問を投げ掛けながら、ヴォルデモートは愈々本気で腕に力を籠める。抱き殺すと云う言葉があるなら、其れも良いだろ う。殺せば私のものになるのか、浮かんだ稚拙な考えに酷く惨めで無様な気分に為る。

「――――――――私は、」

きっと本当は心の何処かで諦めが付き、如何屋っても手に入れられぬ事等判りきっているんだろう、答えは聞かずとも、『スネイプがヴォルデモートを裏切れ ば、其の後にも続く』だろう展開、けれど容易には頷けない自分が居た。
永遠に得られることの無い存在を腕に抱きながら、止め処ない無い内容に酷く心が醒め行くのを感じ取れた。

「よい、もう行け、セブルスが心配していた。お前が私のものになるなど、有り得ないと言うに」
「……セブルスが私を選ばない日が来たら…」

優しい声色がその場の空気を繊細に震わせた。言い掛けた言葉の先、次の瞬間には綺麗な微笑みに覆い隠されて、彼女はヴォルデモートの腕の中から擦り抜け、 艶やかに弧を描く唇が、自分ではない者の名を紡ぐ。

「セブルス」
「何処に居た、これ以上の心配を掛けるな。……私達は此処で失礼します、マイ・ロード」

怯む事の無い二対の視線が絡み合い、互いの存在を浮き彫りにしてもなおその冷たい表情は変わらない侭。何時からか、絶対の忠誠とは云えぬ態度を示し始めて きたセブルスの根源がに在ると、ヴォルデモートは気付いていた。
自分の玩具を他人に盗られると言った稚拙な焦燥感ではない。もっと性質の悪い馬鹿げた感情だ。

「其れでもお前の心は私のものにはなるまい。」


あとどれだけ願ったら、私は君を諦める事を、知るのだろうか。
あとどれだけ経てば、私はこの恋が終わる瞬間を知るのだろうか。

私がどれだけ傍に居て欲しいと願っても、きっと彼が去れば君は行くのだろう。遠く無い日を思い、恐艶とした凍えるその微笑みは、遠く去り行く二つの影を見 詰めていた。
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Written by Saika Kijyo Title by Rachael