光り射す場所







華が咲いた。
緑の絨毯が敷き詰められた平原に、イロトリドリの咲く筈の無い華たちが一斉に渾身の力を籠めて花開く。
新しい一日の到来を告げる様に柔らかく射し込む陽の光りを引き金に、昨日までは確かに無かった華が存在し、全てのものに祝福をと告げている。
木立を擽る優しい風、凛とした声で囁く小鳥、晴れ渡った紺碧の空には唯一筋の霞雲が横たわって。
けぶる木漏れ日の中で揺れる様に立ち尽くすは、これ等全ての現象に心から息を呑んで感嘆した。


卒業を迎える今日この日、朝早くに届いた一枚のカードには唯一言、此処の場所が記されていた。
純白の紙に銀が映える独特のカードはホグワーツでは見た事も無いような高級な品、一目でイギリスか何処かで手に入れたものなのだと判った。
同時、目に付いたのは表面に同じ銀で箔押しされたCongratulationsの文字。
中を開けば、少し癖のある温か味を持った文字が並んでいた。ホグワーツで闇の魔術に対する防衛術教授をしていた人間。
入れ替わり立ち代りは激しい科目だったうえ、彼が教鞭を取っていた期間は本当に短く、が直接的に彼に其の講義を習った記憶は無かった。
其の彼から、卒業するだけに宛てられたカード。其れが意図するものは唯一つしかない。





「 私の卒業式の時にもね、同じ光景が見れたんだ。 最も、彼等は悪戯の一環で遣った事だったんだけれど。
 あの日咲いたのは一足早い向日葵…其の真ん中で私たちは何時までも笑っていた。 」





気付けばイロトリドリの華の中、柔らかい微笑いを浮かべたリーマスが立っていた。
音も無く、気配も無く、まるで初めから其処に姿が存在って此方が今の今まで気付かなかった様な錯覚に陥る。
リーマスがホグワーツを辞めてから、彼の姿をホグワーツで見かける事は乏しかった。様々な噂が飛び交い、例のアズカバンの脱獄者と一緒に居るとさえ言われ ていた彼の行方、其れを知る人間は極少数だった。
勿論、も其の限られた人間の中に含まれている。
けれど、行方を知るからとはいえ頻繁に逢える訳ではなかった。幾らホグワーツを辞めた人間だからとは言え、元教師と生徒が恋仲に有る等と外部や内部の人間 に知られる訳には行かな い。
だから今日この日、如何なる理由が有ろうとも彼が此処に居ることは驚くべき事であって、納得すべき事ではない。





「 …リーマス、どうし… 」

「 ダンブルドア校長から手紙を貰ってね。 如何しても貰って欲しいものが有るそうだ。 」




君のことだよ、





息を呑んだのは実に二度目だった。
一度目は先に平原一面に咲き誇る華を見た瞬間、二度目の今はリーマスが発した言葉と其の意図に。
勿論、ダンブルドアがひた隠しにして来たリーマスとの恋仲についてお見通しだった事は驚きの一つに入る。
入っているのだが、論点は其処ではない。
が就職も進学も希望しない旨の届を寮監督であるマクゴナガル教授に出した際には、理由等聞き入れる隙さえ無く物凄い勢いで怒られた。
普段冷静温和温厚な人間が怒った場合と普段怒りっぽい人間が怒った場合、厄介なのは前者。
…例えるなら、マクゴナガル教授やダンブルドア校長がキレた瞬間とスネイプ教授がキレた瞬間なら、間違いなく当事者になりたく無いのは前者だ。
は其れを身を持って経験している。
物心付いたときから両親は居らず、小さな孤児院で育ったに取って、育ての親がまさに其のタイプの人間だった。


元々成績も芳しく、願えば何処へでも就職できそうなが、進学も就職もせず何の行方も決めずにホグワーツを卒業すると知って、触れれば切れそうな勢いで マクゴナガルがの腕を引っ張る。
そうして其の侭ダンブルドアの部屋に雪崩込むと、息を吐く間無く堰を切った様に今までの出来事を話し、キワメツケとばかりに数分前に受け取った進路希望の 紙を眼前に広げた。
次の瞬間、さぁ自分の代わりに説得してくれとばかりに期待の眼差しを向けたマクゴナガル教授の瞳が、全く逆の表情を描いて見開かれる。





「まぁ、良いではないのかね。」
「なっ、何が良いのですか!!事の重大さを判っておられますか!?」
「…ミス がそうしたいと言うのなら仕方ないではないか。」
「前途有る生徒を職も持たず行く先も決めぬ侭卒業させるわけには行きません!
 彼女には帰る場所も無いんですよ!?」
「…帰る場所が無い、其れは我々の見方であって、の見方では無いじゃろうに。」
「ですが、校長…!」

「彼女の人生は彼女のものじゃ、好きにさせれば良い。これ以上の論争は時間の無駄じゃよ。
 …其れにのぉ、卒業式に渡すものがあるんじゃが、受け取って貰えるかの。」

「え、あ、はい。」





其の時は未だ、何を卒業と同時に貰えるのかが判らなかった。
実際、リーマスが言葉を紡ぐまで、は其の日の出来事を有耶無耶にしか憶えていなかった。
ダンブルドアが放った言葉に意味は無いと、其の時は思った。何をくれるのかが問題だった訳ではなく、当面の沈着化に務める為にダンブルドアがマクゴナガル を諭す為だけに使った…言わば最初からそんなものは無かったに等しい言葉だと。
其の時大方マクゴナガルも同じ事を思っていたのだろうが、相手にした相手が悪すぎた。
ダンブルドアを言い包められる人間がホグワーツに居ようか。愚問だった。
マクゴナガルが後にダンブルドアの元に行った事が事を沈める第一の原因に為ったとは知らず、酷く後悔することに為るのだが、其の日以来の進路に関して 何かモノを言う人間は独りとしていなかった。


はと言えば、少ない荷を纏め生まれ育った孤児院に戻るつもりだった。
此処まで育ててくれたささやかな礼も籠めて…きっと拒否されるだろうが、其れでも子ども達の為に何か出来ればと食い下がるつもりで。
思えば、帰る場所も無ければ、行く場所なんて初めから無かったのだから。





「 ホグワーツを辞めさせられてよかったかもしれないなぁ……。
 これからは贔屓などしなくても、君だけの傍にいることができるからね 」

「 …贔屓なんてしなかったわよ?ルーピン先生は。 」

「 言ってくれるね、君も。 其れは私に対する当て付けかい? 」

「 まさか。 だって本当の事じゃない? 実際ダンブルドア校長しか私とリーマスの関係を見抜けなかったんだから。 」





悪戯っぽく笑ったに、花弁が寄り添う。
あの話がダンブルドアから出たのは何時だったか、とリーマスは記憶の糸を辿る。に出逢ったのは確かにホグワーツに赴任して来てから。誰にも気付かれて いない自信が有ったと言うに、やはりダンブルドアには全て筒抜けだった。
きっと初めから見通しだったんだな、と小さく苦笑する。
ホグワーツを辞める其の日に、ダンブルドアの部屋で言われた一言に瞳を見開いたのを今でも良く憶えている。



なんじゃがの、…独りなんじゃよ。だから、貰ってやってくれんかの。



傍から聞けば酷く場違いな、血縁も縁も何も無い人間を誰か他の人間に貰ってくれだ等と。
気が少々違ったのかと思われても致し方無い。
沈黙は一瞬、普段の柔らかい笑みを殺す事無く終始言葉を述べたダンブルドアの視線と、琥珀の瞳が克ち合う。
全て知っていると、リーマスは瞬時に悟った。全て知っている上、が取るであろう進路も予想した上で、其れを見越した上でリーマスに頼んでいるのだと。
勿論、頼まれなくともリーマスは其のつもりだったのだが、其れを敢えて此処で言う必要は無かった。
唯、柔らかく温かな微笑みを浮かべながら自慢の髭を撫でるダンブルドアを瞳を見据え、ゆっくりと頭を下げた。
其れはがマクゴナガルに引っ張って来られるよりも大分以前、二人の胸の内に仕舞いこんだ出来事。





「 …、私は此の侭君を貰っていってもいいのかな。 」

「 じゃあリーマス、私は此の侭貴方に連れて行かれてもいいのかな。 」





瞳が克ち合って、両者に笑いが起こる。
誰に聞いても、其の解答等得られ無いと言うのに。自分の道は自分で決める、其れは常々が育ての親に言われて来た事でもあり、ダンブルドアも同じ事を 言っていた。
が決めた道と、リーマスが決めた道、偶々其れが重なっただけに過ぎない。
未来に光りが射した事は一度も無かった。
過去には何時も光りがあって、明日と云う未来を夢見ては、如何か其の日が暗闇に包まれて居無い様にと。
結局のところ、今日という日は昨日という日の未来であって、振り返れば過去の今日という日には何時も光りが射していた。
けれど如何しても、明日は過去になるであろう今日の時点で、此処に光りが射しているのかが判らない。
明後日には過去になるだろう明日が柔らかい光りに包まれているのか、判らない。
其れは多分、明日と云う日に期待し過ぎ期待以下だった時のショックを自分で緩和する為の防御策を張っているから。
そうでもしなければ自我を喪ってしまいそうな孤独の中に居た、幼い頃から自然と身に付いた事が仇となって今も心を蝕む。





、行こうか。 」





やんわりと微笑まれて、手を差し出される。
柔らかい陽の光りを背に受けて、逆光の中本当に軟らかく微笑うリーマスは陽だまりの様だった。
極当たり前の様に、差し出された其の手に自分の手を重ねると、大きな掌でぎゅっと握り返される。酷く温かくて柔らかい陽だまりの様な感覚が身体を突き抜け た。
指なんて、何度も絡めた。
掌で頬を撫ぜられたことも、頭を柔らかく包まれたことも、数えれば数えただけ有るのに。
繋いだ指と指は、初めて触れた時の様な鋭い躍動感を心臓に齎した。
温かい。これ以上の言葉は思い浮かばなかった。陽だまりの温かさ、太陽の薫りがする様な、柔らかい温か味。
繋いだ手から其れと同じ温か味が毀れ出す。
明日から、この陽だまりの中で暮らすのだと実感すれば、思うところは唯一つ。
明日からは未来に光りが射すだろう。とリーマスが歩く、其の場所に、柔らかな光りが射す。




「 リーマスの手、陽だまりみたい。 」

「 そうかい?だったら奇遇だね。君の手も陽だまりの様に温かくて心地良いんだから。 」




二人繋いだ手は、太陽と同じ陽だまりの温かさ。
繋がれた指と指が解かれること無く、二人が存在る場所に、明日も変わらぬけぶる光りが射し込む。









卒業企画【キミに贈る、言葉】 第八弾

「 ホグワーツを辞めさせられてよかったかもしれないなぁ……。
 これからは贔屓などしなくても、君だけの傍にいることができるからね」

梅野 カリンさんリクエストによるリーマス・J・ルーピン夢です。
親世代×子世代、ヒロインは17歳、今まではヒロインが片思いに見えたくらいに、生徒に平等だった先生。

…一応、台詞は手直しを加えずリクエストの侭使わせて頂いております。
ヒロイン、思いっきりモノ扱いされてますが、其処は一つ話の流れ上仕方ないということでご勘弁を(笑)
ヒロインが片思いに見えるくらいに生徒に平等…なトコロを書こうかとも思ったのですが、如何考えても台詞的にヒロインの卒業よりも先にリーマスがホグワー ツを退職しているので…
台詞の中だけでの引用になってしまいました。済みません(汗)
ダンブルドア校長に全て見抜かれているというのはやはり、世の常で(笑)其れでもきっと温かく校長は見守ってくれているのでしょう。
ヒロインは因みに、この後リーマスと幸せに暮らす予定です(笑)

この作品は梅野 カリンさんのみお持ち帰り可能です。
文章の著作権以外はご自由にどうぞ。

update 2004/3/24



[ Back ]
(C) copyright 2004 Saika Kijyo All Rights Reserved.