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-------- 人生における一瞬一瞬が精緻精密に重ね合わさって、「今」になる。




時は止まらないと、昔誰かが言っていた。
大衆安ウケしそうな恋愛ドラマの別れのシーンの様な台詞、誰が言ったか読み上げたか、其れすらもう覚えては居なかった。
唯、ただ一瞬は本当に永遠に一瞬で、今は今にしか見えないと言った言葉は良く記憶に残っている。
どれだけ幼かっただろう、ホグワーツに来る前、日本のトレンディドラマか何かで見た覚えが有った。
在り来たりな出逢いと別れ、其れを繰り返して人は成長し、大人になると云う。
別れる為の出逢い、出逢う為の別れ、そんな物はもう、如何でも良くなってしまっていた。





「 別れって、辛いよね。 」





ポツリと言葉が唇から零れ落ちた。
握り締めたのは拳ではなく、先程卒業生全員に配布された卒業の証。
其れを興味価値の無い其の辺の石ころと同じ様な感覚で、同じ様に扱っては無造作に背に放る。
出来れば卒業なんてしたくなかった、其れが本音だけれども決して一番に伝えたいヒトには伝える事が出来ない。
思えば少女は昔から、こうやって不安要素を誰彼に相談する事も無く独り胸のうちに抱え込んでは内部処理を施して来た。
其れはもう、物心が付く前からの慣習であり、唯一厄介とも言える癖。
大人と呼ばれるに相応しい年齢に成長してしまった今、厄介な癖は治る所か益々膨れ上がる一方で精神的にも肉体的にもまいってしまう。
言いたい事を胸の奥に仕舞いこんで鍵を掛け、自分で処理をして何でもない振りをして遣り過す。一見楽そうな其の行為も、行う身にしてみれば気持ちや感情を 伝えられないもどかしさで胸を鷲掴みにして掻き乱したい衝動に駆られる。





「 確かに、別れると言う事は、其れが何であっても辛い事だとは思う。
 …だが、別れを惜しむ余りに、その先に有る出会いを受け入れる気持ちを無くしては いけないと思うのだが?」





舞い降りてきた様な言葉に、一瞬頭の中が真っ白に為った。
でも其れも最早一瞬で、慌てた様に後ろに放った卒業証書に手を伸ばそうとすれば、間髪入れずに漆黒の重たそうな印象を与えるローブから腕が伸びて指先が掴 み上げる。
強く握り締めた訳でも無いけれど、其れでも少しばかり皺の寄ってしまった其れを怪訝そうに眺めては、小さく溜息を吐かれた。
律儀にも魔法で其の皺枯れた部分を直してくれるのかと思いきや、一瞥をくれただけのスネイプは其れを掴み上げた侭に視線を流した。
流された方のとしては、居た堪れない。
独り言の筈が返事が帰ってきて、それどころか自分の考えを真っ向に否定された挙句に、抱え込んだ独り善がりの悩みまでも見透かされた様な心境。
確かに別れを惜しんで出会いを失くす事は、機会を一つ失うのと同等の価値を持つだろう。
しかし今この場において、身を引裂かれそうな痛みと引き換えに為す出逢い等、何の得が有るというだろうか。
何も有りは、しない。





「 スネイプ教授もまた、誰かと出逢いますか? 」

「 お前との別れを切っ掛けに、と言いたいのかね。 」





重い沈黙が流れ落ちた様な気がした。
心の中の不安や思惑を魔法か何かで読取られているかの様な返答振りに圧巻させられる。
先刻まで、確かには心の中で何時も何時までも消えない悩みを抱えていた。
ホグワーツに入学してスネイプに出逢い、そして、恋をした。
想いを伝えるまでには其れは其れは長い月日が掛かったものだが、其れでも晴れて恋人同士に為れたのはもう大分昔の事だった。
過ぎ行く毎日が酷く楽しくて、楽しい故に学年が進む度に縮まる距離に喜びを感じて、何時かは訪れる卒業という別れを忘れて居た。





「 …そう、です。 」

「 …莫迦かね。何時に為れば其の子供染みた考えから卒業できるのだ、お前は。 」

「 どうせ私は莫迦で子どもですよ。 …其れが判っているから、厭なんじゃないですか。 」





如何言葉に表して良いのか判らなかった。
卒業という日を境に訪れるであろう、スネイプとの別れに訪れる孤独感、傍に居ては貰えないと言う寂しさ。
長い夏休みが終って新学期を迎えれば、ホグワーツには新しい学生が入学し、魔法薬学教授であるスネイプと出逢う。
其の新しい出逢いが、自分が傍に居なくなった為に生じる出逢いの中に、スネイプの事を気に掛けない生徒が現れ無いという保証は何処にも無かった。
現に自分が、気付けばスネイプに心を奪われていた時点で其の保障は脆くも崩れ去る。
傍に居てでさえ誰かを繋ぎ止めて置く事は困難を窮めることだと言うに、離れてしまっている状態で繋ぎとめる事は果たして可能なのだろうか。
厭、唯単に繋ぎとめて置けるだけの自信が無かった。其れだけの話。





「 確かに、ホグワーツにはまた小煩いガキ供が入学してくるだろうな。
 だが、其れは何時まで経っても変わる事は無い。入学した者が卒業する事は当たり前の事だ。
 今期入学する生徒も何時かは卒業して行く。其れだけの事だ。 」

「 ……でも、 」

「 其れから…どれだけ多くの入学生を迎え様と、我輩が如何こうなる事は無い。 」





変わる事無く、魔法薬学教授として、スリザリンを贔屓しながらグリフィンドールから減点してくれる。


何時もの意地悪気な自嘲染みた笑みが、久方振りにスネイプの表情に浮かぶ。
出逢ったあの日も、盛大にスネイプはグリフィンドールのから点数を捥ぎ取れるだけ捥ぎ取った。
そして、其れはこれからの日々も変わらないとそう宣言している。
確かに、スリザリン贔屓のしないグリフィンドールから点数を剥奪しないスネイプ等気味が悪いだけの存在に為ってしまうだろう。
其れこそ、其の人が其の人らしく在るべき何かが欠けてしまった様な切ない気持ちに為る。
其れならばいっそ、此の侭で居てくれた方が良いのではないのだろうかと先とは正反対の気持ちに駆られる。
此れでは何時まで経っても、不安要素を抱え込む癖など治りそうも無い。仕方無しに、気を晴らせて午後から始まるであろう茶話会に戻ろうと意気込んで立ち上 がる。
ふわりとローブが風に舞って、芽吹き始めた夏の草花が其れに煽られて微かな葉を落した。
刹那、視界が真っ暗になって、気付いた時には慣れ親しんだ薬草の薫りに包まれていた。





「 人生における一瞬一瞬が精緻精密に重ね合わさって、【今】になる。
 そして、今が積み重なって未来に変わる。
 出逢いがあれば、別れも来る。だがしかし、其れは決して終わりではないのだよ。 」





抱き締めては、言い聞かせる様に呟かれる言葉が、酷く痛々しく胸に響いてきた。
そして、


我輩はお前と終わりにするつもりは毛頭無いのだが?


心の中に抱え込んだ不安が、一気に音を立てて破裂する音を聞いた。
、と呼ばれた独特の音程が酷く心地良い。決して二人きりの時にしか抱き締めてはくれないスネイプが、況してファーストネームを呼ぶことさえ珍しいスネ イプが、ホグワーツの中庭で思いっきり生徒である自分を抱き締め名を呼ぶ。
…既に卒業の証を手にした事で、生徒ではないのだろうがこの際知った事ではない。
誰より人目を気にしていたであろうスネイプが、眼と鼻の先に在校生も多数居る中で…考えるだけで此方が卒倒しそうだった。
現に、一瞬だけ眼が合ったスリザリンの生徒は大きな瞳を更に大きく見開いて、信じられないという表情で隣の生徒のローブを引っ張っているのだから。





「 スネイプ教授…っ、其の、凄い嬉しいんですが…生徒が泡吹きそうな顔で見てますってば! 」

「 だから良いのではないか。 」

「 意味が判りませんっ…!あーあ、フィルチが怒って走ってきますよ。 」


「 在校生の間で噂になるだろう…引見根暗と言われた我輩が、グリフィンドール出身の卒業生の恋人が居ると。
 醜聞のネタであれなんであれ、精々長く噂されれば好都合だ。 」





確かにスネイプはそう言って、彼是大げさな表現を処構わず叫ぶフィルチに舌打ちをさんばかりの勢いで一瞥すると、の身体を離した。
そして、何事も無かった様に漆黒のローブを翻しては、直に始まるであろう茶話会に出席する為に大広間へ向かう。
呆けた侭で居るしかないを第一の被害者に認定したのか、フィルチはを咎める事無く其の侭険しい表情を浮かべて踵を返すスネイプの後を追っ掛けた。
思わず地面にしゃがみこんだの足元に、皺枯れて居た筈の其れが、綺麗に元に戻って置かれていた。
何時の間に直したのだろうか、丁寧に直された其れの他に寄添う様に小さな花籠が一つ。
カード一つ添えられては居ないけれど、卒業祝いだろうか。酷く手の込んだ事を…珍しい事が有るものだとは苦笑しながら持ち上げる。
大きく息を吸い込んで、ゆっくり肺に落とし込み珍獣か何かを見詰める様な眼差しの在校生の居る大広間に向かって一歩歩き出す。



が卒業してからも、スネイプに怪しい女の影がちらつく事は勿論無かった。
良くも悪くも、在校生の間で代々受け継がれる魔法薬学教授の醜聞は、予想以上の効力を為してたと云う。









卒業企画【キミに贈る、言葉】 第三弾

「確かに、別れると言う事は、其れが何であっても辛い事だとは思う。・・・だが、別れを惜しむ余りに、その先に有る出会いを受け入れる気持ちを無くしては いけないと思うのだが?」


新城 ユキさんリクエストによるセブルス・スネイプ夢です。
親世代×子世代、ヒロインは17歳、ヒロインが不安要素を独りで抱え込んでしまう癖が有ると言う設定。

…一応、台詞は手直しを加えずリクエストの侭使わせて頂いております。
うぉう!良く判らない夢になってしまって本当申し訳ないのですが、冒頭の言葉をメインに置いて書いて見ました。
不安要素を抱え込むヒロイン、私とは全く正反対のキャラだったため、物凄く難しかったです。
不安要素を抱え込むとどうなるのか…が判らない時点で、設定が生かせて居ない気がします…ごめんなさい(苦笑)
勿論、ヒロインと教授の仲を知らしめたのはコリン君の写真と双子のお話です(笑)
タイトルは其の侭【ゴシップのネタに為る】です(オイ)

この作品は新城 ユキさんのみお持ち帰り可能です。
文章の著作権以外はご自由にどうぞ。

update 2004/3/14



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