真綿の様な純白の雪が降る日は良い。息を吐きたくなる程の量が空から零れ落ちてきたとしても、湿度を全く含まぬこの地方特有の気候が齎す雪は powdersnow。さらりと舞い降りてはふわりと風に運ばれる様に軽やかに空を舞うさま、湿潤の無い乾いた雪の感触は零度を下回らずとも結晶が透けて 見える位に透明度が高い。
襟足に添えられる様に付けられたファーと見間違えそうな程に柔らかい感触の雪は、指先に馴染む様に吸い付いて、払われる事無く僅かな体温で溶け落ちた。

「 折角ホグズミードに行けるのに…雨だなんてツイテナイ。 」

ホグワーツから一歩出れば、まるで別世界に紛れ込んだ様な破天荒な空が広がっていた。滔々と雪が降り積もっていたのはホグワーツ、垂直落下する滝の袂を歩 き続けるみたいな豪雨が降り注ぐのはホグズミード。
出来れば雪が良かった、そう思いながらもは手にしたビニール傘の取っ手を持って強く引く。ぱん、と破裂音を伴って透明な皮膜にボタボタと雨粒が落ちて きた。

憂鬱な雨の日、こんな日は早く帰って談話室で歓談しよう。

勢い勇んで一歩踏み出せば見知った顔が其処に在って、は時間を留めた。







Raindrops keep fallin'on my heart









彼を初めて見たのは確か、二年前の組み分け帽子の儀式の折り。純血一族の末子でもあり、 両親共にスリザリン寮所属だったにとって、自分が入るべき寮はスリザリンなのだろう、と自然にそう思っていた。
案の定、帽子を被った瞬間に組み分け帽子に"Slytherin"と声高らかに咆哮され、拍手沸き起こるスリザリン寮生が座るテーブル目指して歩き始めた とき。視 界の端に映りこんで来た秀麗な男子生徒に息を呑んだ。

スリザリン寮主席兼監督生、名を、トム・マールヴォロ・リドルと云う。

スリザリン寮に所属しているから監督生の名くらい知っていて当たり前、そう思われがちだが、の友人でグリフィンドールに所属している子は監督生の名どころか見てくれすら知らないと云う。それどころか、の友人はスリザリン寮監督生で在るリドルの存在を既知していた。
何故にスリザリン寮監督生の存在がスリザリン寮どころか、他の寮の生徒にまで知れ渡っているのか、其れにはやはり其れなりの理由があるからで。


「 …今日は取り巻きの女の子は居ないのかな。 」


色など関係無いと言わんばかり、スリザリン・グリフィンドール・ハッフルパフ・レイブンクロー、其々の色のタイを付けた小奇麗な女子生徒に囲まれ、ホグ ワーツを闊歩するリドルは何時も傍に誰か居た。
男の友人と共に居るところも見掛けるが、大抵は様々な顔をした女性と共に居る。今日ホグズミードに行くと決まった際も大方其の中の誰かと共に行くのだろ う、そう鷹を括っていたは、見知らぬ問屋の軒先で空を仰いで一人溜息零すリドルを見た瞬間に世界が凍った。

漆黒の髪から滴る雫、衰える事の無い雨脚、眇める様に空を見遣る紅蓮の瞳。

気付けば待ち惚けみたいに、雨の中立ち尽くしていた。

--------------------- 傘、持ってないのかな。 魔法で出さないって事は、杖を忘れてきたのかな。 此の侭ずぶ濡れでホグワーツに帰ったら、風邪引かないかな。


意を決した様に面を上げたリドルに、は直感的にそう悟る。
止む事すら無い様な豪雨、真冬に雨に打たれ続けた挙句にあの吹雪に出逢えば、頑丈な人間だって熱位出すだろう。
明日は上級生のみが受けるOWL試験が有ると人伝いに聞いた。こんな事が原因で、リドルを主席から失脚させたくは無かった。


「 よし、都合良く雨も降っている事だし、当って砕けて来よう! 」


何時も遠くから見詰めているだけの恋だった。否、恋だ等と軽々しく言える様なものじゃない、単純なる憧れだったのかもしれない。スリザリンの貴公子、そう 揶揄されるリドルを初めて見たあの日から、消えない焔が心に燈った。
隣に在りたいだ等と場違いな事は思いもしなかった、況して取り巻きの一人に加われる位の勇気も無ければ自信も無かった。唯ただ、同じスリザリン寮、夕食の 際に上級生の横を通り過ぎて自席へと戻る瞬間に聞ける、低くて甘いテノールが心地良かった。あの声で名を呼ばれたら、幸せの青い鳥が舞い降りたとでも云う 様に幸せそうに笑う女子生徒の気持ちが少なからず判る気がする。

縮まる筈なんて無い距離、これ以上関係が下降する訳も無いのだから、一抹の勇気と根性を振り絞って、はリドルの前に歩み寄る。


「 あ、あの…、良かったらこれ、使って下さい。 」

紅蓮の瞳を視界に入れる事なんて到底出来ず、況して"一緒に帰りませんか?"等と気安く言えもしないは、手に持つ二人入るには聊か小さい傘を言葉と共 に差し出した。
軒下の雨樋から垂れ落ちる水がポタポタとのローブを濡らし、結わえる事の無い漆黒の絹髪を一重ずつ染み込ませる様に雨が伝う。

雨に濡れ様が、最早関係無かった。差し出した傘をリドルが受け取った時点で、は猛烈な勢いで走り去る予定が立っているのだから。

「 君が濡れてしまうよ、…もう濡れてしまっているけど。 」

滴ると云うよりも既に雨に打たれていたローブに当る雫が消えた、と思えば、下方を向いて差し出した傘の柄を細い指が掴んでに戻す様に手向けた。驚いた 様、反射的に顔を上げれば、珊瑚に似た綺麗な色の硝子球のような瞳が柔らかく笑んでいた。此れが女生徒を魅了して止まぬ、リドルの優麗な微笑み。

「 私は良いんです、私は大丈夫ですからっ 」

心の奥底から声を絞りだす様に言えば、リドルが困った様に笑んだ。

「 この状況で、大丈夫な訳が無いよ。 此の侭僕に傘を渡せば、君が風邪を引いてしまう。 」
「 私が風邪を引くより、貴方が風邪を引いた方が重大問題です! 」
「 重大問題、、一体、何が ----? 」
「 貴方がずぶ濡れで帰ったら、心配する人が沢山居るでしょう? 」

あぁ、そうか、、

小さく憮然と呟かれた言葉に、仕舞った、と思った矢先。見慣れない紅の瞳に合わせるものが無くて、見慣れない色の瞳を写し込みながら翳りを帯び始めた薄紫 の瞳の中に写し込めば、危惧していた事が伝わってしまったらしい。
誰にでも吐くだろう優し過ぎる言葉と視線に、塑像みたいな笑顔は其の侭で、リドルは苦笑に塗り替えた。

「 僕に傘を渡して君がこの雨の中をずぶ濡れで帰ったら、僕が君を心配するよ。 」

真っ直ぐに魅入られ告白染みた愛の睦言を言われれば、頬が昂揚していくさまが手に取るように判った。同時、リドルの周囲に懲りずに這い蹲る女子生徒の気持 ちが痛いほど理解出来た。
見詰められた侭の至近距離、秀麗な容姿に柔らかな笑みを添えて、息さえ顔に掛かりそうな位に甘く低く囁かれれば、一発で落ちるだろう。

「 …よし、じゃあこうしようか。 君から傘を借りて、僕と一緒に君もスリザリン寮へ帰る。 同じ方向だ、問題無いよね。 」

思いもよらぬリドルの言葉に、の紫紺の瞳は大きく見開いた。一緒に帰ろう、そう言った事はもとより、が所属する寮がスリザリンで有ることを知って いると云う事実に只管吃驚したのだ。接点どころか視線が交わった事すらない、からの一方的な片思いだった筈だ。
もし仮に監督生であるリドルが何らかの魔法を使って、寮生全員を覚えていると言うのなら未だ話は判る、だがしかし其処までする必要が有るだろうか。思考す るだけでも、ありえない。


「 知ってるよ、君が僕を見てる事。 でもごめんね、名前は知らないんだ。 」
…です。 スリザリン寮3年、。 」
「 僕はトム・マールヴォロ・リドル。 スリザリン寮7年生だ。 ----------じゃあ、行こうか、

隣に立つ、よりも頭一つ分以上は高い身長。柔らかに馨香りが鼻腔を擽り、エスコートするように差延べられた掌が誘導する方向へ足を一歩踏み出せば、其 処から別世界が始まる様な気がした。
夢物語を歩きながら見ている様な心地とは、まさにこの事を云うのだろう。スリザリンの貴公子と呼ばれたリドルと会話が出来るどころか、雨の中寄り添いなが ら一つの傘に入り込んで、共にホグワーツに向っている。

「 この雨が上がったら、きっとあの辺りに虹が出来るね。 虹は見たいけど…少し残念だな。 」

ホグワーツに近づくに連れ、雨脚は緩やかに為り始め、灰色掛かった空は僅かに紅くなり始めた。雲間から太陽の僅かな翳りが見え始め、如何やら太陽が日の目 を見ると同時に雨が上がりそうな気配すらする。
緩やかな小高い丘の上、七色の弧を描く綺麗な色の天の架け橋が見えそうな予感に、リドルは小さく嘆息した。

「 如何して、ですか…? 雨が上がれば濡れる事も無くなりますし…歩きやすくも為ります。  」
「 だってとこうして一つの傘に入って…歩く事が出来なくなってしまうから。 」

心底残念そうに告げるリドルに、は掛ける言葉を失くした。如何言えば良いのか、想いはきっともう、露見している。今更ながらにリドルに好きだと告げた ところで、何が変わるというのだろう。悪しき方向に変わるのであれば、いっそ、何も言わぬ侭、僅かに射し込めた太陽に照らされる虹の彼方を見詰めていた い。

「 あ、あの…、 」
「 この雨が止んでも…は僕の隣を歩いてくれる 」


ある雨上がりの空の下。薄い光彩が澄み切った空にゆっくりと掛かり、朧に揺れていた霧が晴れていく様にかたちある虹へと変化する袂へ向かって歩きながら、柔らかな陽の光に包まれる。
傘下で二人手を繋いだ侭、蜃気楼の様に揺らぐ虹を見詰めて、きっともう手放せないのだとリドルは哄笑した。
螺旋の奇跡を紡ぎ合せた様な出逢い、リドルが誰にも何も言わず、の後を追いかける様に雨の中ホグズミードに居た事実を知る者は、誰も居ない。


























後書き

875000HITリクエストドリーム、紀殿さんに捧げる学生リドル夢。
*学生リドル夢。
*ヒロインかリドルの初恋っぽい夢。
*雨をテーマに書いて頂けると嬉しいです。

リドルとヒロインの初恋。稀城的には年の差大歓迎!なので、ここはヒロインの初恋&片思いにしてみました。
学生時代、好きな男性と雨の中相合傘とか憧れたものです。今は客先で上司と相合傘、なんて日常茶飯事化してしまい、今回の夢のような新鮮味はありません(笑)
リドルと相合傘…遣りたいものですね。彼方に虹が見えようものなら、"あの虹の袂まで、一緒に行こうか"なんていわれてみたいです(おい)
ともあれ、今回の夢はヒロインの片思いから始まった訳ですが、結局これが切っ掛けでくっつく…というシナリオを頭の中で侍らせて見てくださいvv
勿論、リドルの取り巻き'sからリドルはヒロインを守るのですよ…(笑)
受け取って頂けるのでした、是非にお持ち帰り下さいませ。
勿論、書き直し等24時間承りますのでお気軽にどうぞv

++++ この作品は 紀殿様のみお持ち帰り可能です ++++


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c 2002-6 The fanfictions are written by Saika Kijyo. update 2006/3/9