言えない筈の Affection








「 それじゃあ、此処に飾っておきますね 」











純真無垢な笑顔を我輩に向けた少女は、微笑んだまま、作業の手を休めず顔一つ上げない我輩にそう言った。
壁際に置かれたのは真っ白な鈴蘭。
薄暗い地下室内、ホルマリン漬けに埋め尽くされているといっても過言では無いこの部屋に、それは酷く不釣合いで。
黒で覆い尽くした我輩に、純真な笑顔を向けるこの少女を如実に現しているようだ、と眉を顰めた。
相反する世界で生きているようなそんな存在のこの少女、どれだけ厄介払いをしても屈することなく我輩の部屋にやってくる。











、スリザリン寮所属の二年生。
魔法界でも名の知れ渡った家の一人娘で、母親譲りの気品漂う美しさ、父親譲りの気高さと明晰な頭脳を所持する。
我輩の監督する寮生とも有って、接する機会が多くなり、今日に至る。
が態々定期的に我輩の部屋に訪れ、こうして花を持ってきたり菓子を持って来るには訳が有るという事くらい、我輩にも判っていた。
ホグワーツに入学し、我輩の始めての講義を受けてから、彼女は足蹴く此処に通うようになった。
花を摘んできたと言っては花束にして届けに来、花が枯れる頃にはまた別の花束を持って来て、古い花束をドライフラワーに作り変える。

”スネイプ教授の地下室は湿度と温度バランスが凄くいいですね。
 日光も当たらないので、ドライフラワーを作るには最適です ”

そう笑って言ったは、花を飾っては取って、取っては飾ってを繰り返してゆく。
それはほぼ週一回のペースで行われ、我輩にもが来る時期や時間も否応なしに把握できた。











「 用事が無いならもう行き給え 」



「 …はい、失礼しました、スネイプ教授 」











礼儀正しく礼をして、は軽く微笑むとそのまま重い扉を引いて部屋を後にした。
バタンと短く音を立てて閉まる扉を確認した我輩は、ようやく羽ペンを机上に置き、溜息を吐く。
視線を上げれば、丁度その位置にはの飾った鈴蘭の花。
穢れた感情を抱く我輩の心を浄化してくれそうな程に白い清楚な花は、真っ直ぐに此方を見ている。
幼さゆえに、”好きだ”という気持ちを言葉にせずとも全面に押し出す彼女に、次第に心を奪われた我輩は、彼女よりも幼いだろうか。











が毎週この部屋の扉をノックするたびに、我輩の心は引き裂かれそうに揺らぐ。
来ないで欲しい。
それは引き止めない自信が無いから。
来て欲しい。
愛しいと思い始めた彼女との時間を共有できるから。
そんな馬鹿げた感情に左右されながらも、結局我輩は前者ではなく後者を選択するしか余地は無い。
日に日に増す一方の恋愛感情という名の楔は、我輩の心に深く突き刺さって。
毎回引き止るような言葉を口にしてしまいそうな己に激を飛ばす。

我輩は、ホグワーツの教師であり、は、ホグワーツの生徒なのだ、と。











「 …夕食の時刻か… 」











鈴蘭の掛けられた壁の直ぐ上、見上げれば柱時計は夕食の時刻を指し示していた。
面倒に思いながらも、掛け置いたローブを羽織って地下室を出る。
少しばかり遅れてしまった為か、生徒すら通っていない大広間への階段をゆっくりと降りて行く。
気まぐれな階段も、我輩が全面に不機嫌オーラを出している所為か、大人しい。
それを横目で見つつ、広間へ続く廊下を渡ろうとした矢先、近くで懐かしくも嫌悪する声が聞こえた。











…まさかこの様な場所で会えるとは… 」



「 お久しぶりです Mr.Malfoy 」











軽く会釈をした少女に、男は軽く腰を屈めると手の甲にキスを落とす。
それを偶然にも見てしまったスネイプは、拳を握り締めて怒りを凌ぐ。
Mr.Malfoy…否、ルシウス・マルフォイは言わずと知れたドラコの父親である。
と同期のドラコの父親マルフォイと、の父親は古くからの友人であることは魔法界の人間ならば誰でも知っている事実。
幼い頃より親しかった両家は互いに行き来をしていたけれど、最近はめっきり親同士の交流になってしまった、とは零していた。
物心ついた頃から既にルシウスやドラコに逢っていないと言っていたは、ドラコに逢った時、酷く嬉しそうに微笑んだ。
そして、同じ表情を眼前の男にも向けている。
我輩が誰一人として向けて欲しくない微笑を、ルシウスなぞに。











「 綺麗になったものだな、
 既に添い遂げを決めた者でも居るのか 」



「 まさか、叔父様。気が早すぎです 」











他愛ない会話を一通りこなした後に、ルシウスはその薄蒼の瞳でを見つめた。
感嘆の溜息を吐くようにそう言葉を紡ぐルシウスの瞳は、を口説かんばかりの甘い瞳と化し。
すっと一歩前へ近づくと、絹の様に美しいそのの頬を指先で触れる。
何かと首を傾げたに、ルシウスは言う。
そして、この言葉が我輩の錆付いた楔を勢い良く抜き去った。











「 私の娘に為れ、
 ドラコの嫁なぞには勿体無いが、手放すには惜しすぎる 」



「 い、いえ…あの、叔父様… 」









!!先程のあのレポートの出来は何かね、
 今直ぐに書き直して提出せねば再提出は認めん! 」











困った様な表情を浮かべたに、甘い瞳を揺るがさないルシウス。
我慢の限界を十に超えた我輩は、言葉の思いつくままにそう言い放つと、について来いと顎をしゃくった。
馬鹿丁寧にルシウスに一礼するとはパタパタと駆け寄って来、それを見送るルシウスは怪訝そうに眉を顰めた。
それを鼻で笑いながら、今来た道を逆に辿る。
食べる筈であった食事等構うことは無い。
それよりも、憤りを越し過ぎた憤慨感情を如何してくれようかとそればかりが浮かんでは消え。
知らず知らずの内に早足になるそのスピードに、は駆け足で付いてくる。











「 あ、あの、スネイプ教授…私レポートの課題が出ていた記憶が無いのですが… 」



「 我輩も出した記憶等無いがね 」



「 で、でしたらさっきの台詞は… 」



「 判らないのかね!?
 お前をルシウスなんぞの娘にさせて堪るか!! 」











怒りに身を任せてそう言った瞬間、ぴたりとの足音が止まる。
同時に、我輩も混乱した頭の中ででも何が起こったのかを理解した。
一瞬で思い返せるほどの短い時間の出来事というのは、時間の少なさの割りに気付くまでに時間が掛かる。
そして、その出来事が重要であればあっただけ、後悔と言う名の自責の念に襲われることは言うまでも無く。
止まった足音の方にゆっくりと振り返れば、立ち止まったが俯いたまま地面を見つめていた。
ポタリと静かに床に落ちるのは、透明な雫。
嗚咽を殺した様に泣くの細い肩は、僅かながらに震えていて。











「 馬鹿者。何を泣く?恥辱で泣きたいのは我輩のほうだ 」



「 だって…私、教授に嫌われていると…っ… 」



「 好きでも無い人間を毎週の様に部屋に入れたりはしない 」











その言葉に、は兎の様に赤い瞳を擡げた。
驚いた様な表情を浮かべたその瞳に未だ滲む雫をそっと指先で拭ってやる。
そうしてそのまま、ルシウスが撫でた頬を手の甲で柔らかく撫で。
初めて触れたの頬は、愕くほどに柔らかく、温かかった。
嬉し涙か悲し涙か、止まることの無いその涙は暫くの間止むことは無かった。
それは多分、二年間も我輩を思い続けたの感情の分だけの重みと時間なのだろう、と勝手に自負する。
夕食も終わりを告げ、生徒たちが戻ってこようという時間が刻一刻と押し迫り、何時までも此処で二人立っている訳にも行かず。
寧ろ、瞳に涙を溜めたの姿を他の輩に見せる訳には行かない。











「 軽い夕食なら作れるが…如何かね 」



「 是非、ご一緒させて下さい 」











ふわりと微笑んだのその瞳に、もう涙は無い。
雫を拭ってやるべき我輩の指先も必要無い。
代わりに、嬉しそうに微笑ったが控えめに差し出した掌にそっと重ねてやるだけ。













■ あとがき ■


70000hitリクエストドリーム、 綾瀬 まりあ様へ捧げますv
リクエスト内容は…

 ・二年生のヒロインは入学した頃からずっとスネイプ先生が好きなんです。
 ・でも両思いになれる可能性は無いし、辛くて諦めようとするんです。
 ・でも実はスネイプ先生もヒロインのことが好きなんです。
 ・でも教師という立場上言えないのです。
 ・そんなとき偶然ルシウスに会うのです。ルシウスもヒロインを気に入って声をかけるのです。
 ・それを見たスネイプ先生が自分の気持ちを勢いで言ってしまう…というお話。
 
すみません(泣)!!!!!!見事にリクを踏み外してます、、私(笑)!
まりあさんのおっしゃるリクだと多分、ヒロインの一人称ですよね…
あぁぁぁ、済みません、頑張ったんですが駄目だったんですよ、ヒロインの一人称…(泣)
書き直し、リクのし直し等承りますので、お気に召さない場合はお申し付け下さいませ。

ルシウス思いっきり犯罪者並みに口説いてますが(笑)、一応ドラコのお父様です。
ヒロインとはじめての出会いにしようと思ったのですが、非常に長くなってしまうので、申し訳ありませんがこういった関係に…(汗)
個人的には、教授の一人称は余り書かないので、書けて嬉しかったですv
ヒロインも久しぶりに純情律儀なヒロインでしたし(笑)

因みに、題名の 言えない筈の Affection とは、言えない筈の愛情、という意味です(笑)
食わず嫌いみたいなものだったのでしょうかね…って、こういうとかなりロマンス度が下がりますね(汗)




++++ この作品は綾瀬 まりあ 様のみお持ち帰り可能です ++++





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